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ハロー、アナザーワールド  作者: 紫陽花@くろいの
1/1

全ての始まり

体の周りの景色が歪む。無音の空間の筈なのにバリバリとしたノイズの音が聞こえる。自分の部屋と知らない洞窟の景色が見え隠れしている。どうして、どうしてこんな事に?


―――――――――――――――――――


『―――次のニュースです。東京都内で新たに行方不明者が出ており――』


夕方頃のスクランブル交差点の巨大スクリーンでは、東京都内で行方不明者が新たに出た事を報道していた。

スマートフォンを片手にそれを見上げるサラリーマン2人が、最近多いですねえと話している。

…まぁ、かくいう私もスマートフォン片手にスクリーンを見上げている訳なのだが。

スポッという聞き心地の良い音を立て、メッセージアプリから友人の庵が新しいメッセージを送って来た、と知らせてくる。


『ねーねー!あの噂、今日確かめるのー!?』


そういえば、今日はそんな予定があった。

…噂、どんな内容だったっけ?

ド忘れした…

自身の手元にあるスマートフォンに指を滑らせて操作し、こちらからメッセージを送る。


『そういえば今日の約束だったね。噂ってどんな内容だったっけ?()』


庵は所謂オカルト女子というものなのだが、そう言う話は聞いていて面白い。最初の頃は嫌々という感じだったが、今ではなんだかんだ楽しんでいる。


『えっ忘れたの?しょーがないなぁ茉莉ちゃんはー!もっかい説明するよー?

適当な紙に魔法陣書いて「ハロー、アナザーワールド」って言うだけ!簡単でしょ!?』


あぁ、そういえばそんな内容だったな。

メッセージを見て、噂話を思い出している体を、ひゅうと音を立てて冬の風が通り抜けていく。寒い。

二月ともなれば風も冷たくなる物で、外に長居すれば指先から感覚が奪われていく事だろう。そうならない内に、急いで家に帰ることにした。


*


深夜2時。草木も眠る丑三つ時といえば深夜3時なのだが、その手前の時刻に私達は起きていた。

勿論、件の噂話を確かめる為に。


『茉莉ちゃんは準備おっけー?』


足元に置いた携帯から庵の声が聞こえてくる。どうやら向こうは既に準備が終わっているらしい。


「あたしの方も準備オッケーだよ。じゃ、やろっか」


確か、魔方陣の書かれた小さな紙を持って…


『「ハロー、アナザーワールド」』。



……


………


…なんも起きないじゃん。

まぁそうだよね…最初っから期待してなかったし。

無駄に張りつめていた緊張の糸が途切れ、自分の部屋の床に倒れ込む。

向こうでも何も起きなかったのか、庵が携帯越しにそっちは何かあった?と聞いてくる。


「んー…いーや、全然。まぁ噂話なんてこんなもんでしょー。明日テストだしもう寝るよー?」


えー。という庵のすごい残念そうな声が聞こえるが、無視して電話を切る。

学生の本文は結局勉強なのだ、それは変えようが無い。

そのまま慣れた手つきで部屋の電気を消し、ベッドに寝転がって、いつもの様に眠――――ろうとしていた、その時だった。

雷が真隣に落ちた様な轟音と共に、自身の体の周りの空間が歪み始める。音楽は流していないはずなのにバリバリとしたノイズ音が聞こえ、自分の部屋ではない、暗い空間がチラつく。段々と、段々と意識が薄くなって…。


床が冷たくて、硬い。

苔のような柔らかな感覚もする。

辺りから焚き火のような木の爆ぜる音が聞こえる。

目を覚まして体を起こして周りを見る。

…気付けば、私は暗くて苔むした洞窟の中に居た。

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