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桜消えゆく季節に

作者: 檜慈里 雅

 恋人のところへ向かう道の途中、桜の花が舞っていました。


 暖かな吹雪のなか、早く会いたいと心躍るわたしの自転車を止める車の列。


 幼稚園の門から出てくる人たちで道があふれていました。今日は入園式だったようで、母親のほとんどが新しい制服を着たわが子を抱いています。


 少し不安げな顔の子供たち、いつかのわたしもこんな顔をしていたんだろうか。


 頼りないのは子供だけではないようで、今わたしの行く手を阻んでいるのは切り返しに苦労している若いお母さんの車です。


 申しわけなさそうな顔をした交通整理の先生に頭を下げられたわたしは、こんな希望でいっぱいの場面に出合えたのが嬉しくて、思いきり顔をほころばせていました。


 やっとのことで車は道なりに動き出し、わたしの自転車も坂道を下りはじめました。




 いっときだけ淡い色に染まる景色は流れゆき、心地よく揺れる電車の中、大切な人との時間が近づいてきます。


 少し経てばまた緑に色づいて、人々の心から消える桜。衣は朽ちて晴れ舞台から降りたあとにも、舞を終えてはいないのに。


 これから幾度かの春を生きるであろうわたしに、また舞台へ上がる機会を誰かが用意してくれるなら、その時はどんな表情を見せられるだろう。




 暑いくらいの日差しを受けて、はやる心は歩みを急がせます。


 あの角を曲がれば、恋人の家へと続く長い直線。少し髪を直して、鞄についた花びらを風に乗せるわたし。


 二人の間だけに続く春が途切れることのないように、精一杯の笑顔をしてみました。


 二人はずっと不安なままで、ずっと一緒にいられるような気がしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さらりと読める丁寧な文体。 書き込まれた情景、その情景がありありと目に浮かんできます。 短編ながら長編の一部を読んでいるかのようです。きっとこの二人の恋と言う長編の一部分なのですね。 な…
2020/05/13 08:41 退会済み
管理
[良い点] 読みやすくも、単調になりすぎず描写力のある、そんな文章が魅力だと感じました。 入園式に遭遇する、という展開も、良かったです。
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