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異世界学園生活

 翌日。無事に登校できたものの、困った事態になった。

 

 どうやら俺はアホになっている。

 


「木戸君、どうしたんですか?簡単な問題ですよ。合成関数の微分法を使うのです」


「いや……あの……。なんでしたっけそれ?」



 黒板の前で、怪訝な顔の数学教師に睨まれながら呆然と立ちすくむ。どういうわけか問題の意味がサッパリ分からない。教科書も、それどころか自分が書いたノートですら意味が分からなくなっている。



「ですから対数関数を微分する場合はですね……」



 数学教師の解説が、さっぱり理解できない。



 一昨日までは、毎日6時間の学習を欠かさず、成績順位で常時トップを維持するほど学力を保持していた。全国的にもかなりの好成績だった。特に数学は得意であった。


 なのにこの初等問題が分からんとは何故?


 代わりにキノコトマト昆布の植生とかどうでもいいことばかり思い出してしまう。


 

──前世の記憶を取り戻したことによって、今の記憶の一部を失ってしまったようだ。


 

「……九九までは覚えてるんですけど」

 


 クスクスと笑い声が聞こえてくる。クラスメート達はどいつもこいつもお勉強のできるお金持ちのお坊っちゃんお嬢様であり、俺の発言をギャグだと思っている様子だ。分かってくれ。マジだぜ!



「木戸君は、先生をからかってるようだな。豪気な奴だ」


「あのような問題では、むしろ木戸に失礼だからなぁ」



──やめてくれ。俺を追い込むんじゃないバカ!



 しかし事情を知る文華だけは違っている。



──やっぱり木戸様の様子がおかしい。頭を打ってしまわれたせいだわ。



 絶賛赤っ恥中の俺を、心配そうに見つめている。



「木戸君は後で復習しておいてください。では……代わりに大久保さん」


「はい」



 数学の教師は諦めて俺を席に戻し、今度は彼女を教壇にあげた。文華はスラスラと問題を解いていく。



「正解です。席に戻ってください」



 俺の席の傍を通っていく文華に、こっそり囁いた。



「すげー文華。頭いいな」


「模試で数学全国トップ10の木戸様にそう言われるなんて光栄です」



 彼女は下をぺろっと出して、ニッコリと微笑んだ。



※※※



 現世の記憶の幾ばくかを失っているのは大問題だった。特にクラスメートの記憶が曖昧になってしまっているので往生する。


 無用なトラブルを避けるために、俺は昼食を1人寂しく中庭で食べるハメになっていた。考えてみればスタックワルドでもそんな生活だった。転生しても逃れられない運命なのか。



──やっぱ頭を打っていいことなんてあるわけない。


 激しく後悔しながら弁当のフォアグラを食べていると、見知らぬ男が横柄な態度で絡んでくる。



「めずらしいな木戸。あんな簡単な問題も解けないようじゃ成績は最下位だ。今後の勝負は見えたな」



 遠くで女子達がキャーキャー騒いでいる。こいつは学校に侵入した不審者だろうか?



「そもそもお前などには大久保さんの許嫁など務まらない。彼女にはもっとふさわしい男がいる。そのことで話がある。ちょっとツラ貸せ」



 男の顔をまじまじと見つめるが心当たりはない。



「お前、誰だ?」


 

 その言葉に男は絶句して固まっている。気の毒なぐらい呆然としているので、こっちが同情した。



「あ〜!思い出した。お前、2組の吉本和桜よしもとかずおじゃないか。なかなか名前が出てこなかったけど悪く思わないでくれ。俺は最近物忘れが激しいんだ、ヨッシー」


吉本和桜よしもとかずおって誰だそいつ!存在しない生徒をでっちあげるな」



 男は頭をかきむしって怒る。



「なんで名前を忘れてんだ木戸!同じクラスの西郷だろ」



 西郷……そう言えばいたっけな。思い出した思い出した。

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