第54話 それゆけゴーレム! その3
お嬢様に自分の有益性を知らしめた俺は、次は商売の話をする事にした。自分の領地から逃げ出した俺達はスッカリ財産も地位も無くなってしまったので、少々困っていたのだ。早い話が金が欲しい、ついでに偉い人と知り合いに成りたい。この世界は貴族の権力が強いので、出来るだけ偉い人に後ろ盾に成ってもらいたいのだ。お嬢様は魔王の長女、王位継承権で言えば兄2人の次になるので継承権3位、偉さで言えば魔族の国で4番目に偉い人なのだ。
「へへへ、お嬢様。あっしは役に立ちますぜ!」
「なんでそんニャ変な喋り方してるにゃ?」
俺は元々貧民上がりなので、偉い人には卑屈になる習性があったりする。大して偉くない貴族や弱い連中相手なら普通なのだが、目の前に居る様な真の貴族、生まれた時から偉い連中って奴は身にまとって居るオーラって奴が違うのだ、言って見れば強者のオーラって奴だ。逆らうと物凄い厄介事が襲って来るから怖いのだ。
「なかなかやりおるな、あんな小さなゴーレムなのに中々強いではないか」
俺のゴーレムも結構なサイズが有り、重さも1・5トン程有るのだが、お嬢様から見ると小さなゴーレムらしい。しかし、大きさや重さだけを基準にしているからケンタウロス達の速度に負けて勝てないのだ、そもそもゴーレムを白兵戦にしか使わないのが間違っている、兵器は相手を破壊するのが使命なので外見はどうでも良いって事から学ばなくてはお嬢様の成長は無い。
「ではお嬢様、地上に帰りましょう。俺達はお迎えに上がった冒険者って奴です」
「ダメじゃ! 60階層を突破しなくては帰れないのじゃ」
「59回層を突破出来ない人が60階層を突破できるはず無いニャ」
「む・・・・・・」
気を悪くしたようだが正論だ、今回はウチの嫁の方が正しい。負けないけれど勝てないでは意味が無い、格闘技で亀の様にガードして何時も判定で負ける選手の様に、そもそも勝つ気がない選手等は存在価値がまるでない。
「失礼ですが、お嬢様のゴーレムでは無理では無いでしょうか? 動きが遅すぎて相手の動きについて行けない様ですが」
「分かっておる! 分かってはいるが、引けない事情が有るのじゃ。妾は何としても、60階層を突破せねばならぬのじゃ」
姫様が60階層を突破したい理由。それはSクラス冒険者の称号を取りたいのだそうだ、そして兄2人はそのランクを持っているのだと言う。つまり姫様は兄2人に並びたいらしい、理由はと言えば、何でもこのままでは政略結婚をさせられそうなのだそうだ。
「ふ~む、それでは嫌いな相手と結婚したくないって理由でSクラス冒険者に成りたいって訳ですか?」
「うむ、その通りじゃ」
「バカも~ん!!!」
バシ! バシ!
「ぎゃ! 痛い! 痛い! 何をするのじゃ、いきなり」
俺は腹が立ったので、お嬢様の頭を2発ほど殴ってみた。高貴なオーラを纏っている癖に望みが低い、いや、低すぎる。人間って奴は1番を目指す事に意義がある、最初から2番や3番を目指すやつは絶対に上には上がらない、何故なら常に手を抜くからだ、そして手を抜く理由として1番を目指して居ないって言う理由を付けて自分に逃げ道を造る、つまり卑怯者なのだ。
「能力が無い癖に贅沢を抜かすな! 自分の意思を押し通したいなら一番になれば良い!」
「な・な・な・なんじゃと~! 一番とは魔王のことじゃぞ! 我が父上はSSランク、70階層を突破しておる化物じゃぞ!」
成程、魔王って結構強い様だ、だが俺のゴーレムならば70階層位ならなんとかなる。俺のゴーレムの特徴は砲撃なのだ、大型の大砲と弾薬さえあれば70階層すら狙えるはずだ。現時点では35ミリ砲と弾丸しかないが、お嬢様のゴーレムの馬鹿力なら200ミリの大砲(昔の重巡の主砲クラス)だって運べるハズなのだ、生き物ならばこれで倒せるハズ・・・・・・いや、倒れて下さいお願いします。
「ふふふふ、俺に任せておけば大丈夫・・・・・・力が欲しいか?」
俺は悪い顔をしてお嬢様に手を差し出す、俺の手を取れば契約は成立。なに不十の無い暮らしの大貴族から、魔族の国の王様にとって代わろうという大犯罪人へと変わるのだ。
「良かろう、宜しく頼む」
「えっ、マジっすか!? 魔王を倒すのですが?」
「うむ、必要ならば魔王でも勇者でも踏み潰す。神に会っては神を切り、仏に会っては仏を切る。妾は只今より修羅と化す」
お嬢様はためらいもなく俺の手を取った、悩む素振りも見せないところが恐ろしい。親を殺っちゃうんだけど平気なのかな? 俺でも少しは悩むと思うぞ。
地上に帰るのも60階層の主を倒して転移魔法で帰ったほうが早いので、階層主を倒して帰ることになった。
「60階の階層主はギガントケンタウロス、お主なら楽勝であろう?」
「え~っと、言いにくいのですが。物凄くお金が掛かるのですが、良いですか?」
「金が掛かる? 何故じゃ?」
俺のゴーレムの砲撃は強力なのだが、弾丸の値段が凄いのだ。何せ火薬が無いので高品質な魔石を粉にして火薬替わりに使っている。35ミリ普通弾でも1発作るのにオークの魔石を100個程、つまり3万ゴールド。これは原価なので手間賃と薬莢と弾頭代等を含めると10万ゴールド位になる上に大量生産出来ない、そして敵が強力になると火薬代わりの魔石がオーガの魔石、弾頭が徹甲弾、更に高価な焼夷徹甲弾なんかになると、1発50万とかになるのだ。つまり俺は金貨で相手を殴っているのと同じなのだ。
「成程の~、金が掛かる訳じゃ。因みに60階層のギガントケンタウロスを倒すのに幾ら位掛かるのかのお」
「え~と、多分500万ゴールド位で行けると思いますが・・・・・・お嬢様、持ってますか?」
「何だそんなものか、今は持ち合わせがないが。迷宮から出たら直ぐに払ってやろう、金の心配ならいらんのじゃ」
流石は魔王の娘、大金持ちの様だ。金の心配の無くなった俺は虎の子の35ミリ焼夷徹甲弾を全弾使い60階層のギガントケンタウロスを焼却処分にしてやった。しかしギガントケンタウロスは弱い魔物だった訳では無い。厚さ30ミリの鉄製の盾を持った重さ10トン近く有る、像の様な大きさの4本足で上にジャイアントオーガの上半身が付いた様な強力な魔物だったのだ。重さ10トンの魔物が時速100キロ位で鉄の盾を構えて突進して来るので、普通の冒険者などでは踏み潰されて終わりになるだけなのだが、俺の35ミリ砲は徹甲弾を使えば距離200mで厚さ100ミリの鉄板を打ち抜けるので相手にならなかっただけなのだ。
そして60階層を突破したした事で俺とお嬢様達はSクラスの冒険者に昇格、お嬢様の目的も一応果たすことが出来たのだ。
「うむ、天晴れである! 妾の子分にしてやろう。今日から4天王を名乗るが良い」
「有り難き幸せでございます」
そして何故だか俺はお嬢様の子分の4天王の一人となったのであった。因みに嫁とメイドさん2人も4天王なのだ、はっきり言えばお嬢様の子分は4人しか居ないって言う悲しい現実が有ったりする。




