第51話 魔族の国のゴーレム屋
資金力に物を言わせた大衆浴場は約1ヶ月で完成した。それ程大きな建物ではないが、1階には一度に20人程入れる湯船が男湯と女湯に有り、2階には休憩所と食堂が有る立派な建物が出来上がった。そしてお風呂屋さんの従業員には怪我や高齢で引退した冒険者を雇い、食堂の従業員はこれまた寡婦と成った冒険者の奥さんを雇って商売を始めた。引退した冒険者や寡婦と成った冒険者の奥さんを雇ったので、冒険者ギルドは大いに喜んで、俺の食堂やお風呂を冒険者ギルドでも宣伝してくれたお陰で開店初日から大いに賑わった。
自分的には結構な偽善って感じがするのだが、やらない偽善よりやる偽善、これで喜ぶ人が居るなら良い事だと思うのだ。俺の店の評判も上がり、雇われる人も安定した収入を得ることが出来るから。
「ふ~、いい風呂だったにゃ~」
「うむ、満足だ。食堂の食物も安くて美味かった」
出来上がった風呂やの風呂に一番最初に入り、一番最初に食堂で食事をする。勿論ちゃんと2人分の料金は払う。売上を上げて安定した経営をする為には経営者と言えどもケジメが必要なのだ、ここで俺達がタダ飯を食ったり、タダで風呂に入ったりすれば従業員達の気持ちが緩んでロクでもない店に成ってしまうのだ。会社や社会って奴は上から腐って行くっていう法則が有るのだな、つまり社会がロクでもない場合は社会の舵取りをしている連中が腐っているって事だ。
「一番風呂は最高だにゃ、幸せだにゃ~」
「お湯が綺麗なのは気分が良い、造った甲斐が有るってもんだな」
ダンジョンでゴーレム屋を始めて僅か3ヶ月で店を出す、そしてそこで寛ぐゴンとココア、風呂の2階に造った休憩所でのんびりしていた。そしてあまりの居心地の良さにダンジョンに潜らず毎日の様に風呂場に入り浸る2人、ココアは飯を食って休んで風呂に使って昼寝、ゴンも似たようなものだが、こちらは暇になったのか新型ゴーレムの作成を始めたようだ、暇になると手を動かしたくなるのが貧乏性のモデラーの習性なのだ。
「社長~、冒険者ギルドの方が見えてます」
「何の用かな? 最近は冒険してないんだけど」
風呂屋の2階でノンビリと新型ゴーレムの完成予想図などを書いてまったりと過ごしていた所に、冒険者ギルドの人間がやって来た様だ。最近は風呂に入り浸って居るので、冒険者ギルドに顔を出していないのだが、何か用でも有るのかな?
「ゴンさん、ダンジョンに潜って下さい! お願いします」
「え~! 何だよイキナリ」
「ダンジョンの探索者から強い要望が出ているのです、ゴーレム屋が無いと困るので商売をして欲しいそうです」
風呂屋の2階で妄想力全開の【僕の考えた最強のゴーレム】完成予想図で最高に盛り上がっていた俺のテンションは現実に引き戻されてしまった。ダンジョンに潜る冒険者達は俺達が想像していた以上に俺達を必要としていたらしい。俺達がゴーレム屋を休んで居る最中は冒険者の怪我人が増えたり、40階層の突破者が居なくなったりして冒険者ギルドも頭を抱えているのだそうだ。
「仕方無いにゃ、そこまで必要とされてるなら行くしか無いにゃ~」
「へ~、結構役に立ってたんだな俺達。そこにビックリした」
ギルドの職員や冒険者達に泣きつかれたのででは仕方無い、俺達は毎週ダンジョン39階層に潜って再び焼きそば屋を開店する事にした。39階層にたどり着くのに1日半、帰りも1日半掛かるので39階層で商売をするのは2日間。そして帰ってきてから2日間はお風呂屋さんでゆっくり過ごす日々が始まった。週休2日は絶対に譲れない、何故か俺の異世界の知識がそう言うのだ。
他人に必要とされる仕事って言う奴はやっていて気分が良い、ココアの後輩指導なんかも評判が良くて、それに風呂屋も食堂も良心価格でやっているので、俺達はこの街で完全に受け入れられていた。もうこのまま一生ここで暮らしても良いかな~等と思い始めた頃、事件は起きた。
「大変ですゴンさん! ギルドの緊急依頼です!」
「ハイ? 緊急依頼!? もしかしてお約束のダンジョンの暴走って奴か!」
「ニャに~! とうとうウチ達もお約束に巻き込まれて有名になるのかにゃ?」
「違います! ダンジョンは暴走してません! 街は平和です」
「「な~んだ」」
緊張した場を和ませる為にワザワザボケをかましてやったのだが、ギルドの職員は怒っていた。どうやら本当の緊急事態のようだ、しかた無いので真面目にやる事にする。
「要件を言え」
「捜索依頼です、ダンジョン最下層を目指したAランクチームが帰還してません」
「最下層だと! 一体何処を目指していたんだ?」
「60階層突破を目指していました、Sランク狙いの最強パーティーでした」
捜索願いは別段良いのだが、目指していた階層が大問題だ。俺達でも最深部は51階層までしか行ったことは無いのだ、51階層までなら俺達なら楽勝で到達出来るのだがその先は未知の領域なのだ。
「どうする? ココア」
「行けるかにゃ? ゴン」
「無理すれば行けるとは思うが・・・・・・」
俺とココアのチームは普段は危ない橋は渡らない、わざわざ危険な事をしなくても稼げるからだ。それに俺達のチームは雑魚相手にはココアが戦い、攻撃力が必要な場合は砲撃で片付けるスタイルの異色の冒険者なのだ。つまり俺達の強さは砲撃に掛かっている、弾が無くなれば攻撃力が無くなって撤退するシンプルな戦闘スタイルなのだ。
「お願いします! 貴方達しか助けに行けないのです、姫様を助けて下さい!」
「うっ・・・・・・何か嫌な台詞が・・・・・・」
「姫さまって聞こえたニャ!?」
行方不明になっているのは魔族の国の姫様らしい、どうりで冒険者ギルドの職員が必死になるわけだ。自分の処のダンジョンで魔王の娘が死んだら、後で何を言われるか分からない、もしかしたら全員死刑も有り得る事態だ。そしてそれを聞いた俺達が救助を断ったら、後で間違いなく嫌がらせが、いや、激怒した魔王が刺客を送り込んで来るだろう。
「仕方ね~、やるしかね~な、ココア」
「ヤケクソだにゃ、助けて魔王に恩を売るにゃ!」
危険な事はしたくないのだが、断れば間違いなく危険な状態になるのでやるしか無い。魔族全体に恨まれたら多分死ぬまで追い掛けられるのは間違い無い。魔族は脳筋なので、危険だから断った等と言う軟弱な答えでは納得しない、少なくとも助けに行った振りだけはしなくては魔族全体からボコられてしまう、少なくとも俺なら逃げた奴をボコるからな。
「回復薬と解毒薬、それに高位の魔石を寄越せ。ココア、食料と水を買って来い」
「ハイにゃ!」
「分かりました、ギルドに有るやつを好きなだけ持って行って下さい」
ヤルとなったら時間との勝負だ、俺とココアは手分けして必要な物資をかき集め救助に向かう。そして俺はチビチビと蓄えていたカノン砲の弾薬を全部ゴーレムに積み込む、全部で約100発。重さにして200キロ。これだけでも普通の人間には運べない重さなのだ。これに2人分の食料と水、発見した場合に必要となる回復薬や解毒薬等を加えると荷物だけで500キロ程に成る、ダンジョンの奥深くの探索は準備だけでも非常に大変なのだ。
「同行者はどうしますか? 現在BランクとAランクに非常呼集をかけています」
「要らん! 俺達に付いて来れる冒険者は存在しない」
ダンジョンの探索には普通は大勢の冒険者を投入する、しかし今回の様にダンジョンの最深部になると行ける冒険者が限られて来る、50階層を超えられる冒険者以外は邪魔だし、それに例えAランクの冒険者チームでも俺のゴーレムには付いて来れないのだ。騎乗した騎士ならかろうじて付いて来れる可能性は有るが、馬の餌や水を運ぶ余裕はないし、騎士では40階層すら突破出来ないだろう。
こうして、嫌々ではあるが、ゴーレム屋による姫様救出作戦が始まった。ゴンとココアが苦虫を噛み潰した様な表情をしていたが、周りから見れば金色のゴーレムに乗ったAランク冒険者が姫様の救助に厳しい顔をして向かうって言うのは、それはそれはカッコ良く見えたのだった。




