第31話 自由都市に到着
「おじちゃん、これ美味しいね~」
「そうだろう、そうだろう、おじちゃんは焼きそばを焼く名人になったのだ」
2人旅から4人旅に成った俺達、今日は晩御飯に俺の得意の焼きそばを焼いている。モモ子とその母親は焼きそばを初めて食べるらしく感動していた。ココアも隣でゴーレムの冷蔵庫から取り出した海老や貝を焼いてご満悦の表情だった。俺達の旅は大貴族に負けない位快適で豪華なのだ。
「これも食べてみるにゃ、美味しいにゃ」
「ありがとう、お姉さん」
ココアが珍しく食物を与えていた、監禁されて痩せて居たので可哀想に思ったのだろう、ココアは強くて優しい女なのだ。
今回は再びナビ子が旅に加わった事により、道に迷わずに済んだ。お陰で悪意の村から僅か3日で自由都市グレートフリーデンに到着だ、俺とココアなら1ヶ月以内に着けばラッキーと言う感じだったので大いに助かった。
「おお! 大きな街だにゃ! 噂どおりだにゃ」
「うむ、ここは交易で栄えている街なのだそうだ。色々な物が売っているので楽しいぞ」
何時もの様に街の出入り口に並ぶ、昼過ぎなので何時もの様に混雑していた。俺達の前には何十人もの人達が並んでいる、この辺りで一番大きく、そして一番物資が豊富に有る街なので近隣の人々が大勢集まって来るのだ。この街に入る人が払う入場料金だけでも凄い収入だと思う。この街には良くして貰ったので大人しく列に並んで待っていると、門番の兵士が走って来た。何か用かな?
「ゴン殿! お久しぶりです!」
「どちら様でしょう?」
「嫌だなあ~私ですよ! 私! 一緒に領主様をお守りしたでは有りませんか!」
「おお! あの時の守備隊の方でしたか。お久しぶりです」
以前領主暗殺を阻止した事件で、領主様の守備隊に居た兵士だった様だ。あの時の守備隊は20人程居たので全員の顔を覚えて居なかったが、暗殺者の殆どをゴーレムを使って始末した俺は守備隊の隊員全員に顔を覚えられていた。そして守備隊の全員が俺とゴーレムの事を覚えて居た結果と言えば。
「こちらへどうぞゴン殿! ゴン殿に審査など不要で有ります」
「え~、でも並んでいる皆に悪いし~」
「さあ!さあ! 早く、早く!」
強引な警備隊の人に手を引かれて並んでいる人の横を通り抜けて城門へと連れて来られた、そして何故か整列している城門の兵隊さん達。
「自由騎士ゴン殿に敬礼~!!!!」
「ウヒャー! 小っ恥ずかしい~!」
整列して剣を目の前に捧げて居る兵士達の前をトコトコと進んでいく、周り中の人たちに見られ、更に連れの女性3人から見られて凄く恥ずかしい。俺は怖がられたり嫌われたりするのには慣れているのだが、褒められるのには慣れていないので恥ずかしいのだ。
「おじちゃん! スゴ~い!」
「ゴンがカッコ良く見えるにゃ!」
「ゴン様って偉かったんですね!」
「ウヒャー! 頼むから言わないでくれ! 見なかった事にしてくれ!」
どうも居心地が悪い、他人から罵倒される事には慣れきっている俺だが、褒められると気持ちが動揺してしまう。成程俺って小心者だったようだ、この小心な所が冒険をしないって言う慎重さを産んでいるのだな、俺は又一つ賢くなった様だ。
とても恥ずかしい思いをしながら街の中に入った俺達は領主様の屋敷へと向かってゆく。流石の俺も屋台で買い食いをする気力が残って居なかった、普段あれだけ図太い性格をしているのが嘘の様に大人しくしているゴンであった。
「不味いよな~」
「何でにゃ? ウチは誇らしいにゃ!」
「おじちゃん、かっこ良いよ~!」
俺は兵士達の歓迎や敬礼をあまり喜んで居なかった、素直に喜んだり誇ったりすれば良さそうだがそうは行かない事情って物が有るのだ。
「うへぇ~! またかよ!」
領主様の屋敷に来たら、またもや兵士が並んでいる。オマケに領主様まで満面の笑みで立って居るではないか。物凄く気まずい、だんだん胃が痛くなって来たようだ。もう何だか吐きそう。
「自由騎士ゴン殿に敬礼~!」
「うううう・・・・・・」
「ゴン殿! 良く帰ってきた。歓迎しよう!」
俺が青い顔をして立っていると、領主様がニコヤカに笑いながら手を差し出してくる。この領主様は本当に良い人なのだ、他人を疑うって事を知らない世間知らずがそのまま大人に成った様な感じなのだな。
「領主様お久しぶりでございます、近所を通りがかったのでご挨拶に参りました」
「ハハハハ、ゴン殿なら何時でも歓迎だ。好きなだけ滞在してくれ」
何とか当たり障りの無い挨拶を済ませる事が出来た、が、一番肝心な事が凄く言い出しにくい雰囲気なのだ。なにせ俺は領主様に金を借りに来ているのだ、この旅の目的って領主様に借金するのが目的なのだな。それなのに自由騎士とか正義の味方とか言われては言い出し難い、幾ら俺が厚かましくても流石にイキナリ金貸してって言うのはこの場の雰囲気が許さない感じなのだな。
ここは少し時間を置いて、何とか誤魔化しながら金を借りねば成るまい。こっそり領主様に会えれば、会った瞬間(金貸して)って言えたんだけどね。
「ゴン! 久しぶり!」
「ゴン様、お久しぶり」
「おお! ナナにカヤノンでは無いか、元気にしてたか?」
以前の旅で一緒だった、同郷の異世界人の2人も頑張って居る様だ。メイド服ではなく何だかキャリアウーマンの様な格好をしていた。やつれた様な感じはしないので、領主様の所でそれなりに暮らしていけてる様で安心した。
そして領主様の屋敷で俺の歓迎会が開かれる事になったのだが、金を借りに来た手前あまり領主様に借りを作りたくない俺は、領主様の庭で屋台ゴーレムによる屋台の実演を行って領主様や屋敷の使用人達に上達した俺の腕前と、屋台ゴーレムの底力を見せる事にしたのだった。
「モモ子とお母さんは俺の屋台を手伝って下さい、ついでに焼きそばの焼き方も覚えて下さいね」
「ウチは何時も通りに肉を焼けば良いのかにゃ?」
「うむ、ココアは何時も通りで頼む、食材はここで買えるので大判振る舞いで行こう。今日はついでに酒も出し手盛り上げるぞ。屋台ゴーレムの底力を見せる時がやって来たのだ」
領主様の屋敷の庭で屋台ゴーレムによる屋台の実演。何やら偉く盛り上がって、屋敷の従業員達が歌ったり踊ったり、楽器をかき鳴らしたりして偉い大騒ぎに成って来た。
「ゴン殿! これは中々美味いではないか! 気に入ったぞ!」
「いや~騎士殿にこんな特技が有ったとは驚きましたぞ」
「「益々料理に磨きがかかったわね。ゴン!」
俺がハチマキを巻いて慣れた手つきで焼きそばを焼いて皆に振舞っていると、口々に褒めてくる。この一年の暮らしを支えてきた屋台なので、俺は既にプロの領域に居るのだから当然と言えば当然だな。そしてココアの謎肉の串焼きも大評判で次々に大皿に盛った奴が無くなって行った。うむ、室内で食えば普通でも、外で食べると串焼きはワンランク味が上がるので当然では有るな。
領主様や警備員、それに屋敷の従業員、ナナやカヤノンと話をしながら屋台をするのは結構楽しい。ナナやカヤノンは最初は領主様のメイドをしていたのだが、両人ともに計算が出来るので今では領内の色々な税金などの計算を手伝っているのだそうだ。メイドから専門職に転職したような物でかなり待遇は良くなったのだそうだ。
「そうか、良かったな2人とも。安心したぜ」
「まあね、あんたのお陰だから感謝してるわ」
「有難うございました、ゴン様」
「所で、あんたは何してるの? 焼きそば屋さん?」
モモやカヤノンが俺の仕事に興味を持って居る様だ、大体俺が焼きそばを焼いて大人しく暮らしている訳が無いことを分かっているのだ、もしも俺が本当に焼きそば屋で生活をしていたら2人とも驚く事だろう。
「おお! 私もそれには大いに興味が有りますぞ」
大チャンスがやって来た~、こんなチャンスを逃す俺では無い。折角領主様まで俺の現況に興味を持ってくれているのだ、ここで有る事ない事言って、何とか領主様に金を出させるのだ! 頑張れ俺!




