第2話 ゴーレム使いのゴン
薬草採取で5000ゴールド稼いだ俺は今晩の寝床を探していた。安い宿には泊まれるが金が減るから泊まりたく無い、それに人が多いところは苦手だったりするのだ。枕が変わると寝られないって言う体質にも問題が有るかも知れない。屋台で適当な食物を買って再び街から出て行く、目的地は街の壁の外側だ、街に近いほど魔物が少ないので比較的安全なのだ、少なくとも街のスラム街よりは100倍位安全な場所だった。
「さてこの辺りで良いだろう。ちょいとゴメンナサイヨ」
俺と同じく貧乏で宿に泊まれない人達が集まっている場所に毛布を広げて座り込む。ここらで野宿している人達は顔見知りなので割と安全に寝ることが出来るのだが、たまに襲われて金を取られたりするのだ、しか~し、 俺は平気だった。俺にはゴーレムが居るのだ、ゴーレムは寝ないし疲れない、そして命令には非常に忠実なのだ、人間みたいに裏切る事は無いのだな。
「ゴーレム頼むぞ! 何か有ったら起こしてくれ」
「・・・・・・」
これで何か有ったらゴーレムが俺を蹴飛ばして起こしてくれるハズ、安心して寝れるってもんだ。それに大して金も持ってない駆け出し冒険者の俺をワザワザ襲う盗賊は居なかった。俺は役立たずで直ぐに冒険者チームをクビになるゴーレム使いとして有名なのだ。どうだい? 有名ってとっても素敵な事だと思わないか?
「お姉さん、薬草採取のクエスト下さい」
「はいはい、毎日暑いのに良く続きますねゴンさん」
「ハハハハ、モデラーなので単純作業は得意です。何なら一生薬草採取でも良いと思っています」
「・・・・・・もう少し上昇思考が有っても良いのでは? まだ若いですし」
「ふふふふ、冒険など馬鹿のすることです。冒険者は冒険してはいけないのです」
上昇思考など全く無い俺は薬草採取を毎日やっていた、そして幾ら稼いでも宿に泊まらず金を溜め込むのだ。貯金こそ人生、金さえあれば世の中何とか成るのだ。まあ本当は金は使わなければ嵩張るだけで邪魔なのだが、金が無いと精神に余裕が無くなるので溜め込んでいるのだ。
「行くぞゴーレム!」
「コク コク」
最近ゴーレムのクビに関節を追加したので頷ける様になった、又俺のゴーレムが一歩人間に近づいたって訳だ。その他にも各部関節をボールジョイントに変更したので身振り手振りでかなりコミュニケーションがとれる様に成って来た、さすがは天災モデラーの俺様だけの事は有ると思う。だがボールジョイントは強度が不足しがちなので更に力が弱くなってきたのは皆には内緒なのだ。
「ゴーレムよ、今日はお前がメインなのだ。宜しく頼むぞ」
「コクコク シュチャ!」
最近ゴーレムも芸が細かく成って来た、最初は頷くだけだったのが最近は変なポーズも取れるようになってきたのだ。もしかして自意識が・・・・・・な~んてね。自意識が有ったらAIを遥かに超える現象だしね、唯のモデラーの俺が神の領域に達する訳無いよね。
さて今日のミッションは薬草採取の中でも難易度がやや高いミッションなのだ、何故なら今日集めるのは毒草なのだ、不用意に触れると肌がカブれたり体に毒が回って最悪死んじゃうのだ、だから俺は今日は現場監督、作業はゴーレムにやってもらうのだ。どうよゴーレムの有能な事! 毒などものともしないし、寝ない、食わない、疲れないと言う最強の従者がゴーレムなのだ。ふふふふ、自分の才能が怖いぜ。
半日程ゴーレムが毒草を集めているのを見守っていたら嫌な連中がやって来た。この世界特有の生物である魔物って奴だ。
「グギャ! ギュギュギャ!」
「うへ~嫌な奴が来やがったな」
この辺は割と安全地帯なのだが、ゴブリンと呼ばれる雑魚はやたら数だけ多いので何処にでも現れるのだ。ただしゴブリンは小型の魔物で弱いので普通は大人は襲わない、自分たちよりも小さくて弱い子供や老人を襲う魔物だった、それ故に魔物の中でもダントツで嫌われているのだ。
「何で?」
俺はハッキリ言って体格が良い、モデラーと言えばモヤシだと思うかも知れないが、ゴーレムを造るための粘土を捏ねたり木を切ったり、石を割って加工したりするので筋肉ムキムキなのだ、そこらの冒険者の重騎士並の力は有るし、精密な作業まで出来る万能戦士でもあるのだ。なので、ゴブリンは俺を襲って来る事は無いはずなのだが。
「「「グギャ~!!!」」」
「うわ! やめろお前ら~!」
ゴブリンが襲いかかったのは俺の大事なゴーレム、小型で子供にしか見えないので襲いかかったのだ。そして俺のゴーレムは小型でとても脆いのだ、ゴブリン3匹に襲われてバラバラにされてしまった。ゴーレムとのリンクが切れてしまったので俺は自分のゴーレムが死んでしまった事に気がついた。そしてそれは俺に猛烈な喪失感を抱かせる。それと同時に長い時間を掛けて造った俺の貴重な労力や今まで伴に過ごして来た日々を蘇らせる・・・・・・そこから生まれるのは強烈な怒りだった。
「お前ら~! 許さんぞ!」
「「「ギャ! ギャ!」」」
底光りする眼光、世の中全てを破壊する強烈な意思。およそ人間が抱けるとは思えない純粋な殺意と悪意を見てゴブリンは怯えていた。だがゴーレムを殺された俺に慈悲など全く無い、敵は殲滅するべし! 死んだ敵だけが良い敵なのだ。
腰に下げていた棍棒を振るとゴブリンが吹き飛び、頭を殴られたゴブリンは頭が爆散する。ゴーレムを殺された俺は普通でも強いのに怒りでバーサク状態になり通常の3倍の力が出ているのだ。いまなら上級の魔物のオーガとも素手で殴り合える状態なのだ。
ゴブリン3匹を秒殺した俺は、相棒のゴーレムの元へと跪く。今はゴーレムとのリンクが切れているので、俺の造ったゴーレムは完全に死んでしまった様だった。冒険者チームから追い出されても傍に居てくれて俺と冒険してくれていたゴーレムは死んだ。そしてそれがとても悲しかった、器用さよりも戦闘に特化したゴーレムにしておけば死ななかったかも知れないのだ、全ては俺の責任だった。
「ごめんよ、ゴーレム・・・・・・」
そして俺は相棒を穴に埋めてお墓を造った、俺の甘さと我儘のせいで死んだゴーレムのお墓だ。もう2度と悲しい思いをしないように強いゴーレムを造るのだ、俺はゴーレムの墓に誓った。