第13話 旅路
元の街から逃げ出したゴン達、この世界の事は全く知らないので何処へ行けば良いのかサッパリ分からない。いきなり逃げ出したので地図も持っていない、それに世の中に全く興味のない男ゴン、食うのがやっとの女2人、誰もこの世界のことを調べていなかったのだ。
「どっちに行くのゴン?」
「左」
「何で?」
「曲がりやすいから」
「・・・・・・」
車を運転すれば分かるが、右折はメンドくさい、だから左折をするのが異世界人の作法なのだ。まあ、左折ばかりだと目的地につかなかったりするがそれは当然の事だった。
「全然次の街が無いわね」
「異世界だから人が少ないのでしょうか?」
「うむ、そうかもしれんな」
俺は薄々気づいていた、俺が左ばかりに曲がるので次の街に辿り着かないのではないだろうか、と言う事に。だがそれを認める度胸は俺には無いのだな、だって俺は心が狭いのだモデラーのボッチだしね、仕方ないよね世の中が悪いんだもん、俺はチッとも悪く無いのだ。
「しかし、ゴン。あんたどれだけ食料貯めてたのよ」
「素晴らしいです、1週間旅を続けてますけど、まだ食料の備蓄が有ります」
「うむ、俺は常に備えているからな。非常時にも困らない様に常に食料や日用品は備蓄してあるのだ」
ボッチで出不精のゴンは街に出かけるのがメンドくさい、だから常に買い物は大人買いである。そしてモデラーとは何故か物凄く色々な物を溜め込む習性が有るのだ。真のモデラーとは押入れだけでは飽き足らず家中に造っていないプラモが積まれているのだ、そう、ゴンは真性の積んどくモデラーだったのだ。
「何か体がダルイ・・・・・・」
「ゴン、顔色が悪いわよ」
「何時ものフテブテしさが無いです」
街を逃げ出してから何だか体が重いのだ、朝は元気なのだが昼過ぎから疲れてきて、夕方ぐらいで限界が来る。俺は何かの病気なのだろうか? このまま死んでしまうのかな?
「ねえゴン、このゴーレムって何で動いているの? エンジンも燃料も無しで動くって変じゃない?」
「これは俺の魔力で動いているのだ、だからゴーレムは飲まず食わずで平気なのだな。他のゴーレム使いのゴーレムも同じらしい、魔力が切れると元の土や石に戻るそうだ」
「もしかして・・・・・・ゴンさんの疲れって魔力切れなんじゃ・・・・・・」
「・・・・・・そう言われて見れば・・・・・・そうかも」
幾ら軽量に造ってあるとは言え、ゴーレムハウスと2体のゴーレムを合わせれば1トン近い重量が有る、それを魔力で一日中動かしているのだから魔力が切れても不思議は無い。むしろ一日動かせる方が不思議な位だな、どれだけ魔力をもってるんだって話だった。
「な~んだ、病気じゃ無いのか。安心した、俺はまだ死なない様だな」
「死なれると困るわよ」
「こんな所で死なないで下さい」
それからは適度に休憩を挟む事にした、もう逃げ出して1週間以上経ったから先を急がなくても捕まらないだろう。それに、端金の為に大金を掛けて包囲網なんてする訳ないよね、俺の全財産なんて大した額じゃ無いしね。
俺の魔力が無くなってゴーレムが動かなくと困るので、それからは半日だけ移動する旅が始まった。最も半日でも2体の疲れ知らずのゴーレムのお陰で普通の馬車と同じ位の距離は稼げる所が凄い所だが、本人達は気がついて居ないのだ。
「もしかして、俺は輸送業をすれば儲かるのでは無いだろうか」
「ゴーレムは水も飲まないし、ご飯も食べないから儲かるわね」
「それに魔物に襲われても、防衛出来るから護衛もいりませんしね」
時速5~6キロで移動しているので非常に暇だ、する事が無いので3人で世間話をするしか無い状態だった。とりとめも無く話をしたり歌を歌ったりしてノンビリ歩く、無職なので時間を自由に使えるのだな、腹が減った時には其処ら辺で狩りをして獲物が採れたら食べて、捕れなければ保存食と言う毎日だった。まあ自然に帰った様な生活だ、何か有れば即詰んでしまう生活なのだが何故か非常に贅沢に感じたのは昔の記憶がウッスラとあるせいなのかな。
「おっと、道が広くなった」
「やっとか~」
「長かったです」
迷いに迷った3人はやっとの事で広い道に出てきた。道が広いって事は利用者が多いって事なので、何処かに街が有るに違いない、それにその内、通行人に出会うハズだ、幾らなんでも異世界にも逃げ出した街しか無いって事は無いだろう。
「早く、街を見つけなくっちゃね、食料がもう殆ど無いわよ」
「でもなあ、良い事ばかりでも無いんだよね。賑やかな所ってさ」
「うわ~、フラグですか!」
今までは無人地帯を通って来たので、障害らしきものは希に魔物が出るくらいだったが。街が近くに有って人通りが多いと、それを狙って動く連中も集まって来る。これは何処の世界でも時代が変わっても変わらないのだな。世に盗人の尽きる日は無しって昔の有名な人も言っているしね。
「やっぱり出るんですかね?」
「出るだろうな、それもプロの連中が」
頭が狂っていて犯罪を犯す人間は何処にでもいるのだが、プロの犯罪者はお金が有る所にしか存在しない、だから街が栄える程プロの犯罪者は多くなるのだ、餌が十分に有ればボウフラが増えるのと同じ理屈なのだな。そしてボウフラが増ると蚊が増えて非常に迷惑する。
「あああ~、やっぱり」
道の先で誰かが争っている音が聞こえる、ここは大きな道だから荷馬車か何かが盗賊に襲われているのだろう。魔物なら魔物の吠え声が聞こえたりするのだが、道の先から聞こえるのは人間の雄叫びと金属音だけなのだ、多分人間同士の争いだな。
「ゴン! 助けなくっちゃ!」
「ゴンさん、急ぎましょう」
「え~、どっちが悪か分からね~よ! どっちを殺れば良いんだよ!」
「「・・・・・・」」
どちらを助けてやれば良いのか全然分からない、だから俺達はのろのろ進んで様子を見ることにした。遠くから見て相手を見極めるのだ、いきなり飛び込んで両方から攻撃されたら酷い目に合うからな。
「・・・・・・」
遠くから様子を伺って見たら、豪華な馬車を10人程の盗賊が襲っていた。豪華な馬車の護衛は戦っているのが3人、倒れているのが2人。盗賊は5人程道に倒れているが、まだ10人程いて、どう見ても護衛が殺られるのは時間の問題・・・・・・って言ってるそばから一人殺られた。
「ゴン!」
「ゴンさん!」
「お前ら此処にいろ、行ってくる!」
ゴーレムハウスから8本足ゴーレムを解き放ち、俺と2体で突撃する事にする。今ならまだ護衛が2人生き残って居るので少しだけ有利だ、全部殺られて10対1に成ると俺だけでは勝てない。
「行くぞゴーレム! 魔力全開!」
ゴーレム2体を全速力で走らせ、俺はゴーレムの後ろを走ってゆく。ゴーレムは金属の装甲をまとっているので後ろに居れば矢や魔法攻撃を受けないのだ。
「ギャア~!!」
「うわぁ~! 何だアレは~!」
盗賊たちは護衛2人を囲って今まさに止めをさそうとしていたのだが、いきなり8本足の漆黒のミノタウロス型の何かに攻撃を受けた。もう直ぐ勝てるハズだと思っていたら、8本足の魔物はいきなり肩から槍を打ち出して、盗賊3人を即死させた。そしてもう1体のミノタウロスは盾と槍を構えて突進して2人の盗賊を串刺しにして走り去ったのだ。続いて、大声でわめき散らすバーサーカーが現れて盗賊達の頭を棍棒で叩き割りながら大笑いしていた。
「ワハハハハ~!! 天誅~!!」
「「「「な・な・な、なんだアレは~!」」」」
いきなりの事で護衛2人と生き残った盗賊2人は呆然としてゴーレムとゴンを見ていた。初めて見る魔物と人間の頭を爆散させて大笑いしている蛮族を見て思考がフリーズしてしまったのだ。まあ、普通の人間には良くある事だな、これをパニックと言うのだ。
「ゴーレム! GO!」
「ゴーレム!?」
盗賊が何故か驚いた顔をしてじっとしていてくれたので、俺はありがたくその隙を利用させて頂いた。俺の方を見ていたので、ゴーレムに後ろから攻撃させたのだ、勿論盗賊の目は後ろには付いていないので全弾命中、哀れな盗賊は毒槍を体に沢山生やして神の元へと旅立って行ったのだった。
「許せとは言わん、せめて生まれ変わったら真面目になるのだぞ! 南無阿弥陀仏」
護衛2人が信じられない物を見たような顔をしていたので、俺はとっさに念仏を唱えて良い人のフリをした。盗賊を神の元に送りだし、更に弔いの言葉まで掛けるとは素晴しい人間性だと思われる事だろう。
「み・・・・・・味方・・・・・・なのか?」
「敵の方が良かったか?」
「「!!!!!!!」」
俺のブラックジョークが通じなかった様で、護衛の2人は剣を構えて青い顔をして震えていた。あれ?何か間違えたのかのかな? でもまあ仕方ない、俺に剣を向けるならば死んでもらうしか無いな。
「チョットごん! 何してるのよ! 殺したら駄目じゃない」
「駄目ですゴンさま、武器を下ろして下さい」
危うく護衛達を殲滅する所だったのだが、ナナとカヤのんが現れた事で殲滅は回避された。俺が護衛達を助けに来たのだと話をしてくれたのだ。俺一人だったら話すのが面倒なのでそのまま殲滅しちゃつたかも知れないので、まあ結果オーライって奴だった。
その後馬車の中に居た良い服を来た裕福そうな人も出てきて、俺に丁寧にお礼を述べてくれた。そして俺はそのまま流れで、馬車の護衛をしながら次の街、自由都市グレートフリーデンを目指す事になったのだ。
「いや~、味方で助かりました。ゴンさんとゴーレムには勝てる気がしませんでしたから」
「さぞかし名のある冒険者なのでしょうな」
「・・・・・・いえ、それ程でも・・・・・・」
税金を踏み倒して、護衛2人を殺って逃げたからある意味高名かも知れないが、これは誰にも知られてはいけない内緒話なのだ。俺は適当に誤魔化しながら馬車を護衛する事にした。まあ、命の恩人だし、そう悪い事には成らないだろう、バレなければ。




