第12話 ゴン逃げ出す
新型ゴーレム2体を使ったダンジョン攻略は意外にも上手くいっていた。ゴンとゴーレムだけで20階層の階層主を倒せる様になったのだ。それがどういう事かと言えば、普通は5人くらいでやる仕事を独りでやれるって事、つまり稼ぎを一人占めに出来るのだ。
「ワハハハ~、大儲けだぜ! 笑いが止まらね~!」
やはりボッチは最高だった、一人だけで20階層を攻略すれば階層主の魔石だけでも10万ゴールド以上の儲けになるのだ、そして行き帰りに討伐した魔石も一人占めすれば僅か2日で20万ゴールド程の金に成るのだった。これを5人で分けると一人4万ゴールド、食料や薬品代などの経費を引くと普通は一人辺りの日当は1万5千ゴールド位になり途端に美味しい仕事とは言えなく成ってしまうのだ。
高笑いをしながらゴーレムに跨りダンジョンを進むゴン、完全に異世界の生活を満喫して、更に金持ちへと近づいて行っていた。しかし、こんな美味い話は何処の世界でも長続きしない、ちゃんとハイエナが待っているのだな。
「ワハハハ~! 今日は俺の奢りだ、好きな物頼んでくれ!」
「きゃ~! ゴンがカッコ良く見える!」
「ゴン様、素敵です」
最近羽振りが良くなって来たので、同居人を連れて外食だ。綺麗なお姉さんとご飯を食べると楽しいのだ、毎日ゴーレム造りばかりだと想像力が枯れてきて良い作品が出来なくなって来るから不思議だ。そうこれはデートでは無い、ゴーレム造りに必要な儀式なのだ。
「うひゃひゃひゃは、ウメ~」
「店で食べる焼肉は美味しいわね」
「後片付けをしなくて済むので助かります」
いい気分で食事をしていると、俺の方に身なりの良い男達3人がやって来た。先頭の男は良い服を着ている、そして左右に連れているのは護衛だろうか、剣を腰に差していた。
「冒険者ゴンで良いのか?」
「へえ、俺がゴンですが」
「ちと話が有る、税についてなのだが」
「税?」
早い話が彼は徴税官、俺達が住んでいる場所の領主の部下だった。俺は森に住んでいるので領民とは微妙に違う流民なのだが、最近儲けている様なので税金を払えって事だった。
「へえ、それで幾らぐらい払えば良いのでしょうか?」
「儲けた額の半分と言う所だな、街中に住んで居れば6割なのだが、森に住んでいるらしいので少し割り引いてやろう」
「「ええ! 凄いボッタくりじゃない」」
「何だと! 女、無礼であるぞ!」
まあ領地を支配するのには金が掛かる、だから税金を取るのは当たり前なのだが、俺は冒険者なので魔石や魔物の落としたアイテム等を組合に卸した時に2割程税金を払っているのだ。だからこれは2重取りって奴だ、本来やってはいけない事なのだな、普通の市民にやると問題なのだが、俺は異世界人なので泣き寝入りすると思ってやっているのだろうと思う。勿論俺はそんな事に従うつもりは全く無いのだな。
「へへ~、代官様。直ぐに払わせて頂きます」
「うむ、良い心がけである」
俺は徴税官にペコペコして、直ぐに払う約束をした。こう言う小役人は相手が下手に出れば喜ぶ事を知っていた。
「直ぐにお金を取ってきますので少々お待ち下さいませ」
「「ええ~!!」」
女2人は俺が素直なので驚いていたが、俺は馬鹿では無いので勝てない喧嘩はしないのだ、ここでこいつらをぶちのめしても次の日には兵士が沢山やって来るだけなのだな。
「で? どうするのよ。本当に払うの?」
「意外です」
「払うわけね~だろうが、俺はアイツ等の養分じゃねえからな」
森の家への帰り道、ナナとカヤのんから聞かれたが、勿論俺は金を払わない。街に住んでる連中は家や財産や仕事等が有るから逃げられないのだが、俺には重荷は全く無いので何時でも逃げられるのだ。
「それより、お前らどうするんだ? 俺は逃げて違う街に行くけど」
「連れて行ってよ、ここにいたら結局食べるだけで精一杯、直ぐに娼館行きだもの」
「私もご一緒させて下さい」
「まあ、良いけどな。住むところがタダだから何処へ行っても多分大丈夫だ」
女2人は俺に着いてくる様だ、結構頼りにされているのか、はたまたタダで住める家を気に入っているのかは本人じゃないので分からないが、旅は道連れ世は情けって言うぐらいだからこれで良いのだろうな、多分。
「ゴーレム、起動! 移動形態に変形」
ゴーレムハウスに魔力を注ぎ込み家の形をかえる。暇を持て余した俺はゴーレムハウスにも大幅に手を加えて魔改造していたのだ。常に備えよって言うのが俺のポリシーなのだよ。
「何これ凄い!」
「ふっふっふ、変形は男のロマンなのだ。どうよ! 移動型ゴーレムハウス! 好きな時に好きな場所に移動して住む事が出来るのだ」
家の下からニョキニョキ車輪が出てきて、左右に10輪の車輪で支える移動型のマイホームとなったゴーレムハウス。一応移動の事を考えているのか、サスペンション付きの車輪で更に不整地でも困らないように幅の広い車輪となっていた。何げに色々と工夫して有る所が小賢しい。
「荷物を家に入れてくれ、直ぐに逃げ出すぞ」
「は~い」
家の外に置いていた椅子やテーブル、その他日用品の諸々を家の中に入れ込んで引越しの準備は終了、実に簡単。後はゴーレム2体を家に繋げば、一見馬車の様に見えるから不思議なものだ。
「それじゃ行くぞ~! まだ見ぬ新天地へ!」
「「チョット待な!」」
「アチャ~! やっぱり来たか・・・・・・」
さていよいよ出発と言う時に嫌な奴が現れた、徴税官の護衛についてた2人組だ。俺が逃げ出さない様に念の為に来たのだろうな。
「物分りが良すぎると思っていたが、やっぱりな。逃がさないぜ」
「そこを何とか見逃してくれないかな?」
「駄目だな、権力者側の仕事は美味しいからな」
「だよね~」
「・・・・・・でもまあ、話によっちゃあ見逃さない事もないがな・・・・・・」
「・・・・・・金? 女?・・・・・・」
ここは異世界、権力者が平民の生存権を自由に出来る。権力者が行うことが正しくて、逆らえば悪なのだ。そして権力者を支えているのは暴力、早い話が強ければ正義なのだな。
「両方よこせ、女と金を渡せば見逃してやろう、お前にとっては良い話だろ?」
「女達には不幸かも知れんがな! ウエッ~ハッハッハ」
2人の男の顔はとても醜悪だった、権力と肩書きに守られて常に悪事を重ねてきた様な顔だ。まあ、性格の悪さが顔に出るほどの悪人だな、これは異世界でも沢山見たので、見間違える事はないだろうな。
「いやよ! あんな臭い男達に渡さないでよ!」
「私もあんな汚いヒゲ顔は嫌です! 死んだほうがマシです!」
「「何だと!!」」
内の姫達がメッチャ男達を煽っている、これはもう話し合いではダメかもしれん。そしてキット戦うのは俺一人で、女達は応援するだけなんだろうな。
「はふ~、あまり馬鹿にしてやるなよ。奴らは領主に雇われて偉くなったと思っている土人なんだからな。彼等は全力で頑張ってやっと領主の犬になれた雑魚なんだから」
「「貴様~!!! 殺す! 殺す! 殺す!」」
「んじゃ、正当防衛ね! ゴーレム!」
8本足のゴーレムは小型なので、大した武装はしていないがゴーレムハウスは俺の秘密基地なので大量の武器を搭載していた。ゴーレムハウスの屋根からガトリングタイプの毒矢が打ち出され、哀れな男達は領主の犬から死んだハリネズミもどきになってしまった。真面目に働かなければ生きていたのに、残念な事だ、やはり仕事とは適度に手を抜くべきだな・・・・・・合掌。
「良し! 悪は滅びた。さっさと逃げ出すぞ! 俺達は多分お尋ね者だ!」
「「何でこんな事に・・・・・・」」
まあこんな事も有るだろう、厄介事って向こうからやって来るからね。だがそれに立ち向かうのが勇者って奴なのだ、俺は負けん! 全ての理不尽を打ちのめし平和に生きるのだ。そしてゴン達はコソコソと次に街へと向かった。ここは異世界、ネットや写真が有る訳でもないので、逃げれば何とかなるだろうと言う高度な戦術である。




