9.婚約式
結婚は、家と家の繋がりを深めるためのもの。
それ故、嫁に入るものはまず婚約して家に入り、嫁に相応しいかをジャッジされる。
それは王家であっても同じだ。
麗香と清華はまた着飾られていた。しかし、先日の見合いとは違い、清楚な格好だ。
本日は婚約式。初めて両家が揃う日でもある。
いつもと違い、二人はおとなしい。
さすがに今日は緊張している。
麗香と清華は、整えられたお互いを見つめ合う。
「……綺麗よ、清華」
「……姉様こそ」
それだけ言って黙り込む。
普段とのあまりの違いにメイド達の間でも動揺が起きた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
一番年嵩のメイドが心配そうに顔を覗き込む。
彼女は麗香が赤ん坊の頃から面倒を見ていたベテランだ。三姉弟の乳母に近い。
「ええ。……あなたとも、しばらく会えなくなるわね」
「お嬢様……!」
メイドの目頭が熱くなった。
自分の子供のように可愛がっていたお嬢様達の旅立ち。
頭を悩ませられたことも多々あったが、それでも可愛いお嬢様だった。
「たまには里帰りしてくださいませね……!」
「ええ、もちろん。……ふふっ、そんなに泣かないで」
「ふふふ、本当に泣きすぎですわ」
麗香と清華は今日初めての笑みを浮かべた。しかし目には涙が光っていた。
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婚約式は、さすがに合同ではなかった。
しかし連続で行われるため、華公爵家は式場に居続けることになる。
まずは銀雪と麗香の婚約式だ。
部屋の右手に銀雪の家族が、左手に華公爵家が座る。
王家側の真ん中に座る銀雪が立ち上がった。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。雪王家の銀雪と申します。よろしくお願いいたします」
渋く良い声だ。
聞き惚れそうになるが、麗香は震える足に叱咤し自分もゆっくり立ち上がる。
「華公爵家の麗香と申します。よろしくお願い申し上げます」
声が震えてしまったのを誤魔化すように深々と頭を下げた。
主役が挨拶をした後には、男性側の親族の紹介だ。
「こちらが母の百合です」
「銀雪の母の百合でございます。末永くよろしくお願いいたします」
まず紹介されたのは、笑顔の素敵な赤茶の髪の女性だった。
一見、銀雪とは似ていないが、顔のパーツは全て酷似している。中身が違うと外見も変わる良い例だ。
しかし、名前が百合。女性も好きなのだろうか。(※ガールズラブを百合と言います)
彼女も王女であるから、成人してから名付けられた名前だ。それで百合とは、疑うなと言う方が無理がある。
少し興奮した麗香と清華はしかし、次の瞬間狂喜した。
「こちらが姉の紅薔薇です」
薔薇さん来たーー!!(※ボーイズラブを薔薇と言います)
「姉の紅薔薇でございます。こちらは息子の五二です」
小さな男の子を抱えながら彼女は立ち上がる。
なるほど、紅薔薇と名付けられるのも納得の、美しい赤髪だ。その美貌も薔薇のようと例えられるのも分かる。
だが、裏の意味を疑ってしまう。
母娘でこの名前は、どう考えても狙っている。誰だ付けた人。
五二王子はきょとんとしているが、騒がず静かにしている。とても可愛い。ふわふわの赤髪は母親譲りだろう。
その後、無難な華公爵家の紹介や婚約の品の交換も終わり、銀雪と麗香の婚約式はつつがなく終わった。
問題は次だった。
銀雪家族が席を立ち、入れ替わりに入って来たのは若い男性だ。
彼は優しい顔で紅薔薇から五二王子を受け取り抱き上げる。
と、華公爵をギッと睨んだ。
華公爵は一瞬驚くも、にこりと向き合う。
さらに男性は睨み付ける。
どう見ても華公爵の方が余裕の様子だ。
純は苦笑した。
こうなることは分かっていたのだ。
自分の紹介もそこそこに、彼を紹介する。
「兄の麻貴です」
彼は名前の通りの浅黄色の瞳を細める。
「純の兄の麻貴と息子の五二だ。少しでも純を不幸にしてみろ。この俺が」
「ちちうえ、こわい……」
「……っ!わ、悪かった……」
脅しを二歳児に止められ情けない顔をする彼に、華公爵家の面々は生暖かい目を向けた。
なんだかんだ、優しそうな人である。可愛らしい。
麗香と清華は口元に力を入れすぎて変な形になっていた。
しかし力を入れないと上がってしまうのだ、口角が。
ニヤニヤが止まらなくなりそう。
ビバ!兄弟愛!!
弟大好きな目付きの悪い兄なんて最高だ!
次の新刊のネタにさせてもらおう!
麻貴はそして、華公爵家の家族紹介を全く聞かずに五二王子をあやしに掛かる。
純の家族は彼らだけなので目立つというのに、とても自由な人である。
華公爵家で彼が子供なブラコンと印象付けられてしまったのは、仕方のないことであった。
百合と紅薔薇は本当に狙っていませんでした。本当です。
腐女子の嫁を貰うと決まる前から姉は紅薔薇で、その名前を忘れた状態で女性は花の名前が良いかなー百合かなーと何も考えず付けたのが母の名前でした。
その瞬間、姉の名前を思い出し、ネタにした次第です。
本当なんです。信じてください。