6.悪くない
「き、清華っ!」
麗香はコラッと清華を睨む。
それを受けても、清華は何が悪いの?という顔だ。
「はっきり申し上げた方が良いでしょう?」
「そうかもしれないけれど、ご本人よ?」
「本性がバレてしまったのですから、今さら取り繕うのは無理ですわ」
「う……」
言い合う姉妹を見ながら、銀雪は苦い笑みを浮かべた。
彼女達の言に嘘はないだろう。
それなら納得できるからだ。
「パーティーで何度か二人からの視線を感じていたんだが……」
姉妹はパッと頬に朱を滲ませた。
「……だって、パーティーでしかお見かけできませんでしたもの」
「パーティーでもずっとお二人は一緒にいらっしゃるじゃないですか」
「妄想しろと言っているようなものですわ」
「わ、分かった分かった」
どんどん饒舌になっていく。
もはやすごい。
「なるほどな。男に興味がないと言うのも、見ているだけが良いからか」
「その通りです!」
「銀雪様と純様が微笑んでいらっしゃるのを近くで見られただけで冥土の土産!」
「お二人の仲を壊すつもりはさらさらないのですわ!」
「待て待て」
銀雪は慌てて止める。
確かに銀雪と純は仲が良い。だがそれは、兄弟や友人の域を越えないのだ。断じて。
だんだん疲れてきた銀雪の横から、冷えた声が聞こえた。
「……あなた方は、僕達に何を望んでいるの?」
銀雪が振り返ると、純の顔に表情がなくなっていた。
純はあまり悪感情を抱かない。良い方向に良い方向にと考える。
だが、彼にも琴線がある。
私欲のためだけに大事な人や物を傷付ける行為だ。
この声は、先代の王が自分の名声のために内戦を起こそうとした時と同じ。
彼は守ろうとしている。この王家、ひいてはこの国を。
麗香は口を止めたが、清華は滑らかに宣った。
「お二人に末永く幸せでいていただきとうございます」
純の心が、少し凪いだ。
予想と全然違う。
自分ではなく、銀雪と純が主体で、しかも望むのは幸せ?
「……それだけしか望まないの?」
純は清華のエメラルドの瞳をじっと見つめた。
見透かすような瞳に、だいたいの人間は目を逸らすが、清華は見つめ返した。
「ええ。欲を言えば、その様子を見ていたいですわ」
「そ……っか」
純はそっと微笑んだ。
欲を言っても、見るだけ。とても慎ましい。
純は決めた。
彼女にしよう。自分の妻は。
彼女なら、王家を壊さない。そんな確信を持てたから。