3.準備
見合い当日。
麗香と清華は、これ以上ない程に着飾らせられていた。
自分の見た目に無頓着な二人はされるがままだ。
「いたたた。引っ張りすぎよ」
「申し訳ございません。ですが編み込みが落ちて来てしまいますので!」
「良いわよ、結ばなくて」
「そうはいきませんわ!」
メイドの気迫に圧され、麗香は大人しくなった。
なにせ、麗香達が嫁げば、メイド達はもう夜な夜な怪しい笑い声を聞かなくて済むのだ!
快適な職場環境を作るため、メイド達は必死だった。
そして、たっぷり時間を使ってヘアメイクは完成した。
「お嬢様、完成ですわ」
「……すごい」
麗香は思わず呟いた。
パーティーですら髪を結わずメイクもナチュラルで行く彼女にとって、それは感動ものだった。
隣の清華を見れば、同じように着飾らせられ、とても美しくなっている。
「清華、すごいわね。可愛いわ」
「姉様こそ、美しいですわ」
二人はそう褒めあうも、次の言葉に困って口をつぐんだ。
ここまで美しくされて、ようやく実感が湧いたのだ。
自分達が、男性に嫁ぐための見合いだと。
二人にとって男性は、見て楽しむものだった。
自分に話し掛けられても、こっちじゃないでしょ、隣の男性でしょ!と思っていた。
だが、縁談となるとそうではない。
自分が相手と組みになるのだ。
「……お父様からお願いした縁談なのよね」
「……そのようですわね」
縁談を依頼した側が断ることは、よっぽどのことがない限り難しい。
ならば断ってもらえるようにすれば良いのかと言えば、父親の顔に泥を塗るようなことは出来ない。
そもそも相手は王と摂政。滅多なことをすれば首が飛ぶ。
完全に、父の作戦勝ちだった。
コンコン
「準備は出来たか?」
ちょうど、父が部屋に入ってきた。
より美しくなった娘達を見て満足そうに頷く。
「うんうん。良いではないか」
「お父様、本当に行くのですか」
往生際の悪い娘に、父は苦笑した。
「当たり前だろう。ああ、だが、失礼のないようにさえすれば良い」
「「はい?」」
気に入られるようにしろ、という言葉を予想していた二人は拍子抜けした。
「実はな、陛下と殿下はお飾りの嫁を欲していらっしゃるのだ。面倒な行事はあるかもしれないが、子供なども考えていないとおっしゃっている」
「……そうなのですか」
「……結婚出来ない方をお好きということでしょうか?」
呆然とした麗香に対し、妄想力を発揮したのは清華だった。
確かに、それなら納得できる!
「そ、そうではないと思うが、結婚する気はなかったそうだ」
「やっぱりそうですよ姉様!」
「ええ!お二人だけで完結しているのね!」
二人は一気に元気になった。
自分達は今と同じように妄想をし、陛下と摂政殿下は仲睦まじく暮らされる。
なんてwin-winな関係かしら!
「あら?でもお世継ぎは?」
「あ、ああ……五二王子がいらっしゃるから問題ないらしい」
「それは気楽でありがたいですわ」
王の子供が王になるとは限らない国だ。
王子、王女の子供であれば、等しく王位継承権が与えられる。
その中で最も王に相応しい者が王になるのだ。
五二王子は、純陛下の兄を父に、銀雪摂政の姉を母に持つ二歳児だ。
血は文句の付けようがない。
五二王子の両親はまだ若いため、第二子、第三子も期待できる。
純陛下と銀雪摂政に、必ず子供を作る義務はないのだ。
麗香と清華は、先ほどの空気が何だったのかと思うほど上機嫌だった。
普通の令嬢であれば怒るところかもしれないが、この二人だ。
お飾りの妻、なんて楽で楽しいポジション!とウキウキしている。
こうして、父公爵の思い通りに、機嫌良く二人は王城へ向かうこととなった。
思い通りにも関わらず顔色が優れない彼は、苦労人。