表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私がキメラで王子のペット  作者: 三食パスタ
第一章
3/4

3 起きたら異世界

 放課後の教室。文化祭を控えた校舎内は、まだ生徒が活動している。驚くほど作業が進んでいない私たちのクラスも、装飾や組み立てで阿鼻叫喚としている。

 何やら絶叫しているリア充を呪いながら、友達と手を動かす。早く帰りたい。キラキラ☆青春☆文化祭とか、最初から期待してないので。あぁでも友達のコスプレ(注・茶道部)とか男女装コンテストとかは楽しそうだな。ソシャゲ友達のいる演劇部公演もーー。

「明日は来ないよ」

 新手の愚痴かと友達を見ると、

「明日は来ないよ」

ーーーー顔が、真っ黒に塗り潰されている。



「ギャーーーーーーーー!!!」

 誰かが叫んだ。それにびっくりして、私は起き上がる。……あれ、叫んだの、もしかして私?

 なんだか嫌な夢を見た気がする。具体的な内容はあっという間に薄れて消えたけれど、その感触と寝汗は残っている。気持ち悪い。とりあえず着替えようーーというところで気がついた。

 ここ、私の部屋じゃない。

 寝ていたのは私が二人寝られそうな大きいベッド。天蓋付きで、真っ白の布が柱に巻きついている。枕は頭から上半身まであって、フカフカだ。

 夢かな? と思ってもう一度寝たくなるが、この異常事態で完全に目が覚めてしまった。さよならお布団。ベッドから這い出し、きょろきょろする。

 なんだこの豪華さは。

 汚れひとつない白い床。革? で覆われているらしい高価そうなソファ。手前にはガラスのローテーブル。更に奥に、やたらと紙が乗っけられた立派そうな机があった。他にも色々なものが視界に入るが、私はそれよりも重大なものに気がついてしまった。

 ベッドを出て左手にあった、これまた巨大な鏡である。

 そして、そこに映っている私がーー髪が、真っ白になっていたのだった。

「ギャーーーーーーーー!!!」

「気がついたか」

「ウギャーーーーーーー!?!?」

 びっくりした。それはもうびっくりした。

だって想像してみてほしい。男の人の声が聞こえたと思ったら、私の顔の横ににゅっと顔を出してきたのだ。しかも鏡で見てしまった。何その高速移動。ホラーか。ホラーなのか。

 男の人が姿勢を正す。

「……言葉は喋れるか」

 振り返って再確認したその男の人は、デカかった。私は今年の健康診断で一六〇センチを突破した女なのだが、この人、二メートル超えてない? 首が痛いよ? 顔見えないよ? それと服装的にその、どこの軍人さん?

「聞こえているのか?」

「あ、はい、聞こえてます、ごめんなさい!」

「……謝る必要はないのだが」

 そこでバンッ、と奥に見える扉が開いた。

「陛下! 勝手に動かないでくださいよ! さっきから本当どうしたんですか!?」

 ツカツカと男の人に近寄ってきたのも、これまた軍服姿の男の人だった。私よりちょい年上、大学生くらいに見える。

 というか待って。今なんて言いました?

 『陛下』って呼びかけました?

「あと対象、完全に怯えてるじゃないですか! そこのソファで待っててくださいよ、状況説明と診断があるんですから……」

 大男さんを叱ると、男の人はこっちを向いて、

「ごめんなー。このオニーサン、気に入った奴に対しての距離感ぶっ壊れてるんだ。お茶とお菓子あるから、それ食べながらちょっとお話ししよう、な?」

 なんか、子供扱いされた……。



 淹れてもらったお茶は紅茶だった。それもティーバッグじゃなくて、茶葉で。用意されたお菓子は焼き菓子だった。クッキーぽいけど、普段食べるものより倍の大きさだ。

 そして、これらを、なんとメイドさんが用意してくれたのである。

「あ、りがとうございます」

 思わずお礼を言ったら、微笑んでくれた。おねショタとか百合はこんな笑顔から物語が始まるんだろうな。貴族がメイドに一目惚れの身分格差もの……あとでメモしよ。

 そんな現実逃避を交えつつ、改めて周囲を見る。お茶も一口。お、良い香り。

「苦手じゃない? そうか良かった」

 私の隣の椅子には、大学生くらいの年齢に見える男性が座っている。明るい茶髪で、三白眼だけど口元は優しそうに三日月を描いている。気さくな近所のお兄ちゃんポジションだな、これは。あとでその真っ黒の軍服、撮影させてください。

 そして、私の前方にあるソファに腰掛けているのは、『陛下』と呼ばれていた推定身長二メートルの男性。黒髪に切れ長の金色の瞳。そして整った顔。無表情で焼き菓子を口に運ぶ仕草も、どこか優雅だ。

 どこかで見たような気がする。何だろう。覚えがあるってことは、あまり推しではなかったけど隠しルートのために攻略した乙女ゲーのキャラクターに似てるとか? まあ、いっか。

「まずは自己紹介しよう。俺はハロルド・アッカーマン。ハロルドさんとか、お兄ちゃんって呼んでもーー」

「ヴィクトール・シュヴェアハルトだ」

「おいちょっと」

「この国の第一王子でもある」

「待てやヴィクター君」

 どうしよう、漫才が始まってしまいそうな空気だ。ラノベで主人公と取り巻きがよくやるやつ。

 そしていくつか、頭が痛くなりそうなことも分かった。

 ここ、日本じゃない。

 というか、下手したら、地球じゃない。

 王子様って何それ。仮定すら受け入れたくないけど、タイムスリップだとしても納得がいかないのだ。だって綺麗すぎる。世界史を選択した私は、資料集のおまけコーナーやその他諸々による情報で、「中世は意外と物理的に汚い」ということを、まぁざっくりと覚えたのだ。仕方ないよね、水洗トイレとかないもんね。

 あと考えられるとすれば、いや普通ありえないけど、でもアレしかないよね。

「おーい、聞こえてる?」

 とりあえず、行動あるのみ。

「あ、はい、田所晴海(たどころはるみ)と申します。不躾ですが、ここがどこなのか、教えていただけませんか?」

 王子様と恐らくその護衛ーーやっぱり貴族なんだろうなーーは、一瞬互いに顔を見合わせた。

 あ、待てよ、もしかして不敬すぎた? 首チョンパされる?

「……話が早くて助かる」

 でもなんか王子様笑ってるし大丈夫かな? 護衛の人は後頭部をガシガシしてるけど。

「ここはシュヴェアハルト王国の王城だ」

 シュヴェアハルト。うん、聞いたことなかった。覚悟決めよう。

「そして、君は我々に召喚された『異世界人』というわけだ。ようこそ、我が国へ」

 これ、異世界トリップだ。

「タドコロ、とは変わった名前だな」

「あ、いえ、名は晴海で、姓が田所なんです」

「では、ハルミは貴族なのか」

(テンプレの予感……!)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ