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ボス戦



 二人の大男は、地面に倒れ伏せ、しゅうしゅうと煙をあげ魔物の姿へと変わっていく。変身魔法で人間の姿に化けていたのだ。大男たちの頭から徐々に二本の角が、尻からは尻尾が生え、つま先は蹄へと変わっていく。ミノタウロスか。そりゃあ、蹄があるのだから靴をはく習慣はないだろうさ。

 

 しかし、こいつらいつかの倉庫で出会った連中じゃなかろうな。いや、俺に魔物の顔は見分けられないし、仮にそうだとしても再会を喜び合う関係ではない。


 倉庫の中には、信じられないほどの大きさの大樽が並んでいる。大樽からは、俺の腕の太さほどもある配管が無数に生えている。なんだこれは、ただのラムランナーの拠点とは到底思えない。どうやら、ここはただの密造酒の保管場所というわけでは無く、何か別の目的を持った施設なのかもしれない。


 倉庫の最奥には、中二階になっているところが見える。そこには、倉庫の中だというのに更に小さな建物がぽつんと立っていた。一先ず、あそこを目指してみよう。



「そりゃあそうだよな」



 俺の行く手を、大勢の男たちがふさいでいた。入り口での物音を聞きつけてきたのだろう、その手には、斧やこん棒といった武器が握られている。彼らは、俺の背後に倒れている二頭のミノタウロスの姿を見ると、野太い雄たけびをあげて突撃してきた。



 男たちは一歩進むごとに、その姿を魔物へと変貌させていった。顔が膨れ上がり、腕はさらに太く、足は更にたくましく。ミノタウロスはもちろん、オークにオーガまでいる。まるで魔物の見本市だ。


 対する俺も、歩を進める。少しずつ歩幅を広げ、最後には駆け足で魔物たちへと突撃する。今の俺の姿は、傍から見れば雪崩につっこむ小石の一つに過ぎないだろう。だが、そうはならない。


 俺と魔物たちとがぶつかると、その衝撃が爆発のように倉庫に広がった。俺は、速度を落とすことなく剣をふるう。対する魔物たちも、同様だ。俺は、その身をもって彼らの攻撃を受ける。避ける必要など一切ない、彼らの斧が俺の肌を切り裂くことはないし、そのこん棒で血が流れることもない。だが魔物たちは別だ、俺が剣を振るごとにその巨体が崩れ落ち、吹き飛び、うめき声をあげる。とても美しいとは思わないが、俺が与えられた耐性の力を最も効率的に使える戦い方だ。


 大雪崩を抜け切ると、俺は踵を返し再び魔物たちの群れへと突っ込んでいく。それを繰り返すたびに、立っている魔物の数は減っていった。息が上がるが疲労感はない。極度の興奮状態で、神経がマヒしているのだろう。着ている服もズタズタにされているが、見た目ほど俺にはダメージはない。


 

 魔物たちの第二陣がやってきて、俺を取り囲んだ。先ほどの、俺の戦いぶりをみて単なる力押しでは勝てないと踏んだのだろう。しかし、しばしの膠着状態はそう長くは続かなかった。



「勇者め! ついにこんなところまで来たか!」



 その声は、倉庫の中二階から聞こえてきた。見ると、赤い褐色肌のオーガが立っている。その姿、誰が忘れようか炎魔将軍。


 あいつは、遊び人の顔に傷をつけた糞野郎だ。「手加減は抜きだ」と、剣を鞘から抜こうとしたその時、突然背中に激痛が走った。俺の体は宙に浮き、前方へと逆九の字で吹き飛ばされる。



「だめだ、やっばり刃が通らない」



 受け身を取って、振り返ると片目に眼帯をしたミノタウロスがいた。ミノタウロスは、自身の斧を不思議そうに眺めている。しゃがれた声に、他のミノタウロスより一回り大きい身体。魔物の顔は見分けられないといったが、こいつは覚えてる。



「あの時のやつか……っ!」



 ミノタウロスは、今度は俺のほうを不思議そうに見つめてきた。



「なんで、勇者はまだ剣を抜いでいないんだぁ?」



「答える必要はないっ!」



 俺は、僅かに風を切る音を頭上に感じ、慌てて前転して避ける。中二階から飛び降りてきた炎魔将軍が、先ほどまで俺がいた地面を炎の刃で切り裂いていた。炎魔将軍がチッと舌打ちをする。



「そんな腑抜けた攻撃があたるかよ」



 憎き炎魔将軍を鼻で笑ったつもりだったが、奴は気にもかけず口角をあげた。



「いや、確かによく避けたものだ。魔王様の片腕を斬りおとしただけのことはある。しかし避けたということは、私の剣なら貴様も切り裂けるということではないのか?」



「だったら試してみろ……っ!」



 ボス戦の始まりだ。

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