二話 エル・リンフィールドという主
おっさんが去ってから約一週間が経過した。おっさんがどうなったかは、一応この牢屋の中に支給される新聞で確認できた。どうやらおっさんを乗せた馬車が盗賊の襲撃にあって何名かの奴隷が脱出したらしい。脱走奴隷の名簿の中におっさんの名前も混じっていた。
それを見て一安心した俺は、自分が何をできるのか、できる範囲で確認する作業に入った。一週間かけて調べた結果、自分がどれだけチートかが思い知らされた。
まず一つ目、おっさんから貰ったスキルについてだ。スキル名は【神眼】初めてこのスキル名を見た時は黒歴史が顔を覗かして数時間悶えた。名前から明らかにヤバいスキルだとすぐに察した。
その予想は当たりランクはUNKNOWNつまり不明、効果はとてつもないものだった。まず一つ目、インベルスに存在する全ての魔眼、心眼、天眼系スキルをMPを代償に使用することができる。だが、消費MPは全て30以上で、今の俺では使えなかった。二つ目は【神眼】というこのスキルの名称にもなっているスキルが使用できるというものだ。こちらはMPの消費もゼロで今すぐ使えると思ったが、今は【観察者の瞳】しか解放できていないらしく、他の【神眼】は使用不可能だった。そして、この【観察者の瞳】だが、これがとてもチートだった。まず、他人のステータス+自分の視界に映る全ての物の本質を知ることができる。例えば俺の手足についている枷に視線を合わせると
「能力封じの枷」
耐久力100/110
付与スキル【封印LV1】
備考:RANK2(レア)までの能力を封じる効果を持つ枷。これでも高級品。
こういうものが表示される。自分の体を見ると
霧瀬両人 LV1
HP10
ATK10
DEF10
AGI10
INT37
MP13
SKILL:【我流術】【神眼】
というふうに表示される。もうちょっと詳しく調べようとすると
出身地:UNKNOWN
年齢:16
備考:“#$&‘(!)&%#()!’)
こんなものになる。備考は異世界人の為か文字化けしてしまっている。
多少制約があるものの大分チートだった。
そして、二つ目は自分のステータスに元からあったスキル【我流術】だ。これは、俺がこの世界に飛ばされる前に趣味で作っていた武術をスキル化させたものらしい。元の世界では俺はアニメ流武術と呼んでいた。その名の通り、アニメの中の戦闘シーンの技を現実で再現できる限界まで再現したものだ。だが、現実世界で、尚且つ武術の経験もないので大分苦戦した。一通りできるまで10歳からずっと努力を続け、最近になってやっと実用性が出てきた武術である。それが、技名を唱えるだけで使えるのだから、今までの努力は何だったんだと少し落胆したのは苦い思い出だ。ちなみに、このスキルのランクはユニークで消費MPは0である。
今更だがかなりチートだ。ここまでチートな奴隷が他にいるだろうか?と思ってしまう。そもそも、ここまでチートなら脱走できそうだが、脱走したところで俺はこの世界の常識やらルールは知らない。多分直ぐに何らかのトラブルに巻き込まれる。そんなことなら奴隷である程度生きて常識を学び、最悪な主人なら脱走すればいい。
今の自分のスペックを再確認した俺は今日も暇だなと窓の外の青い空を眺める。
「おっさん生き延びてるかな・・・」
そんな事を考えていると、通路の方から話し声が聞こえてきた。
「明後日だよな?例のリンフィールド家のお嬢様が、成人の祝いにここに奴隷を見に来るっていうのは」
「ああ、間違いない。リンフィールド家の奴隷になったら主人を怒らせない限り将来は安定だぞ。何とかしてチャンスを掴まねば」
どうやら明後日リンフィールド家という多分貴族のお嬢様がここに来るらしい。俺はあまり興味もなく、貴族というものに少し嫌な予感を覚えたので、頭から追い出し我関せずを貫くことに決めた。
二日後、朝起きると周りが少々ざわついているのに気が付いた。気になったので、格子から通路側を覗いてみると豪華な服を着た猫耳の少女とガーディアンらしき黒服の集団が目に入る。おっさんを連れて行った人が接待しているので、たぶんあれが例のお嬢様なのだろう。見れる範囲の他の奴隷を見ると皆が皆自分を売り込んでいる。俺はあまり興味がないので、少女の観察に移る。貴族は常に偉そうにしているというイメージがあったが、彼女は無表情でキョロキョロしている。ステータスを見てみると
エル・リンフィールド LV5
HP75
ATK35
DEF17
AGI59
INT39
MP0
SKILL:【加速】【スキルウォッチャー】
こんな感じだった。ステータスは全体的に俺を上回っているが、どうやらMPは0のようだ。そして、何より気になるのは【スキルウォッチャー】だ。どうやらこのスキルは、ランクUNKNOWN以外のスキルを見ることができるらしい。キョロキョロしてるということは、どうやらスキルを見て、どれがいいのか探しているらしい。
なーるほどねえ、確かにスキルは重要だしなあ・・・
そんな事を考えていると、例の少女がこちらを見ているのが分かった。じーっと見つめてくるので見つめ返す。数秒後、彼女は少し微笑み近くにいた男に俺を指さして何かを伝える。
すると、男の人は鍵を取り出し俺の牢を開けて俺を外に連れ出した。
「おい、キリセ・リョウト。買い手が決まった。出て来い」
そう言って俺を外に連れ出す。しばらくすると、応接室みたいな部屋に通された。テーブルを挟んで向こう側に、例の少女が座っている。周りの黒服は見当たらなかった。
「左腕を出せ」
と、言われたので左腕を出す。すると、おっさんを連れて行った人が針を彼女に差し出す。彼女は躊躇いもなく自分の指を傷つけ、左手の甲に彼女が血を垂らす。
「ッ・・・・・・」
瞬間、自分の左手に激痛が奔り、左手の甲に紅く発光する紋様が浮かび上がる。その紋様は、どうやら、鎖をモチーフにしているみたいだった。
「今日からお前の主はそこにいらっしゃるエル・リンフィールド様だ。ほら、挨拶しろ」
そう言われる。敬語、あまりできないんだけどなあ。
「キリセ・リョウトです。特技は・・・・・・」
そういえば戦闘系スキルを持っているが、俺は戦闘できるのか?まあ、たぶんできるだろう。
「一応戦闘です。よろしくお願いします」
とりあえず戦闘ですと言ったが大丈夫だろうか。
軽くだが自己紹介と挨拶を済ませた後、俺は馬車に乗せられアニメとかでよく見る屋敷に連れていかれた。内装はかなり豪華で、中でも絵画がよく目立つ。描かれているものは、片翼の天使、地の底からはい出る7体の悪魔、そしてそれを上から眺める女神。なんかの大戦を描いているのだろうか。
周りを見ると、悪魔を模った像が七体飾られている。かなり迫力がある。そんな事を考えていると、いつの間にか奴隷商の応接室よりも4、5倍くらい広い部屋についた。執務室のような場所で、机の向こう側には髭を生やした猫耳のおじさんが忙しそうに仕事していた。彼は、彼女を見ると頬を緩ませて
「やあ、エル。エルから私の所に訪れるなんて珍しいね」
と、いい笑顔で言った。だが、彼の目元には濃い隈がついている。徹夜したようだ。
「ん、この子が私の初めての配下」
彼女が俺を紹介する。自分が堂々と配下扱いされるのはなんか不思議な感じだな。まあ奴隷に堕ちた時点でこんな感じだろうとは思ってはいたが。
「そうか、彼がか。ふうむ・・・・・・」
そう言って俺の事を見つめてくる。おっさんに見つめられるって誰得だよ。まあいいや、今のうちにステータス確認しておくか。
アルマー・リンフィールド LV49
HP176
ATK10
DEF10
AGI78
INT198
MP276
SKILL:【見極める者】【火属性魔術】
【見極める者】
対象のステータスを確認できる。
なーるほどね、見つめてきたということは俺のステータスを覗いていたということですかい。【我流術】は確実に見られたな。【神眼】はUNKNOWNだから多分見られていないと思うが、絶対は無い。一応警戒しとくか。
「彼がねえ、成程」
うんうんと頷いた後、
「いいんじゃないかな」
とだけ言って仕事に戻った。何がいいのかはよくわからないが認められたということだろう、と勝手に解釈する。彼女は「それじゃあ」とだけ言って、俺を連れて部屋を出て行った。これからどこ行くんだ?まあどこでもいいか特に何かあるわけじゃなさそうだし。
迷路みたいな屋敷を進んでいき一番奥の方にある一つの部屋に通される。
「ここが、あなたの部屋。好きにしていいよ」
どうやら、ここが俺の部屋らしい。約六畳くらいの部屋だ。奴隷用の部屋にしてはかなり広いと思うのは俺だけだろうか?
「奴隷なのにこんなに広くていいのでしょうか?」
と質問してみると
「余ってた部屋だからいい。後、その喋り方やめて。なんか無理して敬語使われても気持ち悪いだけだから」
という予想外の答えが返ってきた。まあ、要は敬語を使わなくていいってことか
「じゃあ、お言葉に甘えて。それで?俺は何をすればいい?」
と、何をすればいいか聞く。
「あなたの役目は、私の身の回りの世話や護衛。明日は8:00には学校に行くから、遅れないで」
とだけ答え、スタスタと迷路みたいな廊下に消えて行ってしまった。時計、無いんですけど・・・
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は20日を予定しています。