一話 神眼の継承
二話目です。
俺が目を覚ますと、そこは牢屋の中だった。あれ?なんで、俺って牢屋にいるんだ?一回深呼吸をして、思い出す。
やっべえ。もしかしてここ、もうテーネビリス大陸?
慌てて窓の外を見るとそこには、いつもと変わらない青い空が広がっていた。
う~ん。ここが何所だか全くと言っていいほど分からん現状を把握するには情報が足りないな。
現在地を確認することを断念した俺は、今度は牢屋には何があるのかを確認した。周りにはトイレと二段ベッド(但しマットや掛布団は無い)があるだけだった。
二段ベッド?誰か他にいるのか?
チラッとベッドの方を見ると、人が寝転がっていた。
「おいーす、新入り。お前は何をやらかした?人殺し?強盗殺人?」
笑いながら語りかけてきた。容姿は見たところ60代前後。右眼に眼帯を付けている。
「俺は何もしてねえよ。ただ召喚されただけだ」
そう、苦笑いしながら答える。それを聞いた途端、血相を変えて俺に掴みかかってくる。
「おい!今の話、本当か!?」
めちゃくちゃ唾が飛んでくるので凄く汚い。
「あぁ、本当だ」
そう言うと、何かを考え始めた。一体何なんだ。感じから察するに面倒な事に巻き込まれた感じだが。
「ちょい、どういうことだ?俺にはさっぱり意味が分からないのだが」
あまりにも唐突過ぎて待ったをかける。
「ああ、すまん。説明しないと異世界人のお前には分からないか」
少し恥ずかしそうにしながら、彼は説明した。
「まず、この世界はどんな世界か説明しないとな。この世界は"インベルス"と呼ばれている。インベルスでは女神が信仰されていて、お前を召喚した王国はかなり狂信的で周りの国は距離を置いて
いたりするんだ。表向きには信仰深い国で落ち着いているが裏では、『女神の為なら何でもする狂った国』『女神信仰を言い訳に様々な横暴をする国』などいろいろ言われている。まあ、要はいろ
いろ好き勝手やってる国ってことだ。まあ、裏ではいろいろと証拠も出てきてるので黒確定だ。」
「ちょっと待った、なんでそんな国を放置してるんだ」
ここまで聞いた俺は堪らず質問する。
「裏で調べたから表立って糾弾できないんだよ。いろいろ裏の方法や秘密の方法使ってるからな、他国にばれたら洒落にならん」
どうやら元の世界でいうところの特殊組織みたいなものを動かしたらしい。そりゃばれたら駄目だな、手の内は晒せないってことか。納得し、それが自分と何の関係があるのか聞く。
「簡単な話だ、実は王国では結構前から"異世界兵"計画等言うのがあった。通称"我々の勇者"」
その話を聞いた途端俺は自分の体に電流のようなものが奔ったような錯覚を覚えた。
「!?それって・・・・・・まさか・・・・・・俺達っていうことか・・・」
「そういうことだ。お前等は確か第5代目だったはずだ」
その言葉にも、俺は衝撃を受けた。まさか自分より前に4回も召喚していたとは。
まさか拉致を5回繰り返しているなんて、罪悪感は感じないのだろうかと考えながら
「これから俺は、どうしていけばいいんだ」
と、独り言を言う。すると
「まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。お前さんにはこの世界で生き抜く力をやろう。どうせ俺はもうじき死ぬしな」
そんな事を言いながら彼は自分の右眼に手を当てる。
「は?力?それよりももうじき死ぬってどういうことだよ?」
ついさっき知り合った人がいきなり自分はもうすぐ死ぬと告白してきたので動揺する。
「俺の場合もう買い手が大体予想ついていてな、助かる見込み零なんだ。だからどうせなら死ぬ間際に自分の力を残すというどっかの物語みたいなのをやってみようかと」
彼がそう言った瞬間彼を中心に巨大な魔法陣が展開される。見たところ10m~15m位はありそうだ。黄金色の光を放ちながら回転し、見たこともない文字が魔法陣のあちこちに浮かび上がる。
「俺はこの力のせいで様々なものを見た。他人の悪意、害意、敵意、恨み、嫉妬、裏切り。この力は見るだけではなく、様々な"力"を授ける。感情に呑まれるなよ、少年」
次の瞬間光が爆発し、視界を白く染め上げた。それと同時に右眼に何かが入り込む感覚に襲われる。
「使い方は自ずとわかるだろう」
その声が聞こえたかと思うと右眼に何かを付けられる。
「この眼帯は強大な力を抑え込むことができる。全力で戦いたい時は毟りとるなりなんなりしてくれ」
光が収まると目の前に眼帯を取ったおっさんが立っていた。自分の右眼付近に触れると布の感触があるが視界が制限されていないという状況に若干の違和感を感じる。
「ん?なあ、これは視界を遮らないような素材でできてるのか?」
若干の違和感がすぐに膨らみ、大きな違和感になったので、毟り取りかけるが、おっさんが慌てて止める。
「ちょ、ストップ。耐えろって。」
必死に止めてくるので、今は耐えることにした。そんな事をやっていると
「おい、クリス・フィーゼル・アーティ。買い手が決まった、出て来い」
牢屋の鍵を開け、おっさんを連れていく。
「さあて、短い時間だったが、ここでお別れだ。」
彼は俺に頑張れよと言い残し去っていった。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
次回は1月13日を予定しています。