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Cinderella story  作者: Alan Smithee
5/8

05

ミンストリアーナ生花店、昼間の太陽が真正面から差し込む、繁華街に建てられたセンスの良い構の店から心地よい声が聞こえる。


「いらっしゃい!」


そう言って、化粧っ気の無い40代だろうか?昔はそこそこ美人だったであろう女将が笑顔で客に花を包んでいる。坂の上、南区に位置するこの場所は北区の貧民街とは正反対の、金持ちが住む地区であり、店は小さい構えながらも人の手がよく行き届いた作りをしている。ここは街でも評判の花屋だ。ジョニーのチームの調べだと普段は若い女性、多分この女将の娘夫婦が店を切り盛りしているとの事。


「はい!花束1セットで54F(フローラ)だよ!ジョリルさんいつもありがとうね!明日は奥さんとの結婚記念日だったね。奥さんの好きなアイビーを沢山入れておいたからね!奥さん大事にしなよ!」


私は近くで女将の会話を聞き、その顔を覗き込んだ時、昂揚を隠しきれず思わず口元が緩みそうになる…


(なんてこった、当たりも当たり、大当たりじゃないか!!!)


鼓動が高鳴るのを感じる。身体中の血液が心臓から一気に脳に注がれる、背筋がゾワっとする。まるで宝くじが当たった時のような、好きな人からプロポーズされた時の少女のような胸の高鳴りを感じる。(これって恋かしら?)先走る心臓を宥めるように鼻から深く深呼吸する。


(落ち着け、何度も何度も繰り返しイメージの中で訓練した通りにやるんだ…)


(この ”当たり” だったら想定の中で最高の奴でいい….絶対食いつく!)


喉がカラカラになるのを感じる。声がちゃんと出るか?声が浮つかないか心配になる。


「...すみません、おねいさん…”お花”が欲しいん…ですが…」


「おねいさんなんてよしてくれよっ!お嬢ちゃんこのあたりでは見ない顔だね?お母さんのお使いかな?」


「いえ、両親はいません… 私どうしても、”北の方に咲いてる” おかみさんが育ててたお花が欲しくて…」


「ん?お嬢ちゃん、私は花屋だよ!花を売ってるだけで育ててるわけじゃないんだ。それに北の方って言われてもそれだけじゃなんの花の事かわからないよ。お花は誰にあげるのかな?お友達?それともお世話になってる人へのプレゼントかな?」


(食いついた!)


「いえ、私、お花好きで…それで…」


「そうかい?お花の名前さえ教えてくれたら今度探しといてあげるよ!」


屈託の無い笑顔を浮かべて答える。


「っえ!本当ですか!? 」


(あと少し…焦るな…)


「でも…大丈夫かなぁ…」


年相応に幼くおどけてみせるエレノア


「大丈夫だよ!ウチの店はね、誠実が売りなんだよ!娘にもそう言い聞かせてる。もしかしたら見つからないかもしれないけど、可愛らしいお嬢ちゃんのお願いだからね。探してみるよ!」


「…私が欲しいのは、北に咲いてる”バスタード”ってお花なんです、ジュリアーノさん…」


ほんの一瞬、本当にほんの一瞬、注意深く観察していなければ感じ取れない程の一瞬である。空気が静まり返った。背筋がざわつく。


(当たりだ…ここからだ…一歩も間違えるなよ…)


「… お嬢ちゃん!ウチはミンストリアーナ生花店だよ!それに私は親切誠実がモットーのミンストリアーナって名前さ! 探してる花の事は見つけれらるかわからないけど、探しといてあげるから!またおいで!」


「お願いします!ミンストリアーナさん!私、どうしても”バスタード”が欲しいんです!”サンパローに旅行に行ってる娘さん”の事もそのご家族の事も知りません!今日の事もミンストリアーナ生花店の事も何も知りません!一度だけ、中でお話しさせて下さい!」


しばらくの沈黙の後、観念したかの様に”ミンストリアーナさん”が口を開く


「…クソガキが… 今の今まで、2年間誰にも、仲間にすら見つからなかったのに…それをこのションベンくさいハナタレのガキに見つかるとは…しかも一端にこのアタシに脅しまでかけてきやがるとはね…私も耄碌したのかね…」


(入れた!)


口の中は砂漠のようにカラカラ、背中は冷や汗でびっしょり。膝はガクガクである。それを悟られぬ様に至って平然に、ポーカーフェイスを決め続ける。


「…いえ、本当にたまたまですよ」


そういって満面の笑みを”ミンストリアーナさん”に浮かべる。



ーーミンストリアーナ生花店準備中ーー


店先を閉め、店の中に私を招き入れ、ミンストリアーナさんが店の奥の椅子に斜めに腰掛け膝を組み斜に構えながらこちらを値踏みする。そしてまくし立てる様に質問をぶつけてくる。


「あんた、誰の差し金だい?デリウスかい?それとも、アントリニアーノファミリーの所のお坊ちゃんあたりかね?どうやって私を見つけた?目的は何だい!?」


「…いえいえ、私は誰の差し金でもありませんよ。それに、こうしてあのマダムジュリアーノさんとお話し出来てとても光栄でございます。」


「っは!似合わないお世辞は辞めとくれ!それに私はもう引退したんだ。マダムジュリアーノは死んだのさ! それで、どうやって私を見つけたんだい?あんたの前でこんな事言うのはあれだがね、花屋なんかしてたら、同業者や知り合いだってウチに来る事もあるのさ、そんな奴らですら私に気づかなかったよ!それをあんたはどうやって見つけたのさ!?」


その通り。ジョニーのチームに3週間も貼らせても彼女が”当たり”だと確証が持てるまでには至らなかった。しかし、さっきのお客との会話を聞いて私は”当たり”だと思った。理論では無く違和感の蓄積が、”匂い”が彼女は当たりだと私の背中を押したのである。


「…まさか、まさかねぇ…いや、そんなハズは… あんた、あのアバズレのクリスティーナの所の娘じゃないだろうね?」


(おいおい、ここまでとは…)


「…はい、ご明察の通り、アバズレクリスティーナの娘のエレノアでございます。」


しばしの沈黙の後、ジュリアーノが大声で笑いだす。


「あっはっはっは!まさか、あの、あのアバズレのクリスティーナの娘が!...思い出したよ。あんた確か5年前かそこらにあのアバズレが私の店に引っ張って来た様な気がするなぁ… あのアバズレ、自分の子供を、しかもまだ5歳にも満たないガキに客を取らせようなんて、あの女は器量はピカイチだったけど、中身は相当のクズだよ…おっと失礼…」


「いえいえ、私も同意見でございます。」


「言われてみれば、あんた頭巾なんか被ってるけど、顔はクリスティーナそっくりだね。確か、あの後娘は死んだって聞いたけど、こうして生き延びてるとはね。あの時のあのクリスティーナの悔しそうな顔ったらなかったよ。そっか、逃げたのかい…」


「はい、お陰様であのアバズレの元から逃げ延びたお陰で今日まで生き延びる事が出来ました。」


「まさか、まさかねぇ、あんた、たった一回で、しかも五年前のあの一回で…まさかね…」


その通り、私はこの人と面識がある。そのたった一度である。その時、私はまだ自分の記憶に靄がかかっており、また突然の事に脳が追いついていなかった。それが幸いしたのである。人はショックな事は強く記憶に焼きつくものである。あのアバズレのクリスティーナには何一つ思う事は無いが唯一あのビッチに感謝するべき事はこのマダムの所で働いてた事、そして私を私利私欲の為にマダムの所に連れて行った事であろう。


「いえいえ、実は失礼ながら、マダムの事はこの何ヶ月かずっと調べてまして、私、マダムのファンでして、どうしてもマダムに会いたくて、ミンストリアーナさんがマダムだったらいいなぁと思って…今日、勇気を出して失礼を承知で声をかけました!」


自分のたった一度の記憶を頼りに、5回の冬をまたぎチームを作り、1年間北区の娼館を虱潰しに当たらせ、少ない手がかり、断片をつなぎ合わせる様にして南区の商店と言う所までたどり着いた。そこからは彼女の性格から自分のテリトリーの近くで情報収集できる商売を選ぶ可能性が高い。だから”花屋”(娼婦に入れ込む客は花を買う)に当たりを付け調べさせた。そしてめぼしい花屋を何軒か当たっているうちに、彼女の店の帳簿を覗いて彼女にアタリをつけた。


この時代花は高級である。花屋の顧客は限られてくる。彼女の顧客は私が調べた娼婦の顧客データの中で、品が良く、小銭を稼ぎ、娼婦を嗜む、そんな太客を見事がっちり掴んでいたのである。


にもかかわらず、表向きは娼婦が好みそうな色が派手で臭いの強い花ではなく、おしとやかで上品な、南区にふさわしい商品が並んでいる。とても違和感を感じる。又、花屋の女将にしては動きが上品すぎる。艶っぽい。手もあかぎれで汚れておらず、全体的に違和感を感じる。この微妙な違和感の蓄積が彼女だと私に汽笛を鳴らす。”彼女が当たり”だと。


ーー明日は奥さんとの結婚記念日だったね。奥さんの好きなアイビーを沢山入れておいたからね!奥さん大事にしなよ!ーー


ジョリルさんが今入れ込んでるバスタードのミシェルちゃんの好きな花は確かアイビー。彼女は本当に優秀だ。自分の所の客と”商品”の好みを把握し、その中から、南区に見合う花を仕入れておく。あとはそこはかとなく客と花屋を繋げるだけ。これで娘のミンストリアーナ夫婦も将来安泰だろう。彼女は優秀だと確信していた。だからこそ”花屋”に当たりをつけられたのだ。


「いえ、実は…」


私は、彼女にどうやって彼女にたどり着いたか説明した。


「…時代かね…10歳やそこらのガキがね…」


「私、どうしてもあの”バスタード”が必要なんです。お願いします。私にバスタードを譲ってください!」


「誰も見つけられなかった私を繋げたんだ、あんたの力量はわかった、だがね娼館なんてガキがするもんじゃない。あんたはあのアバズレに似ず聡い子だ。もっと他の真っ当な商売をしな!」


しかしここで引き下がるわけにはいかない。宝クジは人生で1度しか当たらないだろう。その当たるかもしれない宝くじがあとちょっとの所まで、手を伸ばせば届く所まで来てるのである。私はどうしても今すぐ、彼女と娼館が必要なのである。もう時間的余裕はそんなに残っていない。いつ暴発してもおかしく無い…


「実は、あなたの店の支配人のデリウスさんなのですが…アントリニアーノの所のお坊ちゃんに鞍替えしようとしてますよ…」


これは本当の話。


「…デリウスは、あいつはハナタレのガキの頃から私が面倒見た奴だよ、あいつが私から鞍替えする事なんて無いね。」


「これは私が掴んだ情報なんですが、どうやらデリウスさんは…」


私は、デリウスが何故鞍替えしようとしてるのか、その詳細を彼女に語った。

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