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Cinderella story  作者: Alan Smithee
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04

彼女が始めた方法は、小規模では有るが大きく分けて3つ。 農業改革、教育改革、それと職業の斡旋で有る。


彼女はこの地域に群生する食物と、この地域の書物、人々からのヒアリングを重ね、徹底的に調べあげジャガイモを軸に、4種類の野菜を育てる、4毛作農法と、科学的に有機農法を行う、有機化学農法。さらに、鶏を使った畜産と、農業と畜産の組織化、効率化、マニュアル化を行った。


農業には5大要素があり、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムであり、これらを使って野菜は育つのだが、それらを補充しなければ農業が維持できない。4毛作農法をする事でそれらの不足分をバランスよく補う事が理論上可能で有る。


鶏はメジャーな家畜の中で、場所をとらず、手間もそこまでかからず、何よりも卵が安定的に手に入る。卵の殻はカルシウムで出来ており、将来、卵を使った加工品を製造、販売し、その殻を肥料として使う、生産から加工、販売まで行ういわゆる農業の6次産業化である。


エレノアは次の一手、将来を見据えて今、この時点で畜産を初めて、経験を蓄積しなければならないと感じたからだ。


この頃には、孤児院は、表向きは最年長の子供達が中心になってシスターの代わりに、別の形の、彼女にとって有益な孤児院として形を変える。


又、それと同時に彼女は孤児たちに教育を始めた。基礎として全ての孤児に読み書き算数を徹底させた。ここだけは適性のない子供だろうと容赦なくあらゆる手を駆使して徹底的に叩き込んだ、いわゆる軍隊教育で有る。


さらに、彼女は孤児を三つのグループに分けた。要領が良い、裁縫とか、料理などの何かに対して強い執着を持っている子供達、勉学が出来る等のグループA


タレントなど、適性も無く、勉学もそんなに出来ないが、努力する層、低きに流れない自分を律っする事ができる層のグループB


最後に、何の適性も無く、ストレス耐性の低い、努力もしない層のグループC


の三種類で有る。主にグループAから指導者、テストケース、チームリーダーなどを輩出し、グループBとの奇数で最高9人の混合チームを作らせ、エレノアの右腕や、子供達の教育や、農業、畜産、雑務、新しいやり方や、地域への人材の斡旋などのテストケースの実験などに当てる。


そして、ついてこれない奴や、エレノアへの反発者など、彼女の根気強い説得にも応じない子供たち(グループC)には緩やかに退場を強いた。


優れたスタートアップが粗必ず起こす失態。それは性急に人材を集めすぎたことによる。人材のミスマッチである。彼女の思想に共感出来ぬ人材、仕事の出来ない人材を彼女は事務的に切り捨てる。彼女は慈善家では無い。そしてこの場所はもう今までの孤児院では無く。彼女一人では全ての孤児を救う事など出来ないし、するつもりも毛頭無い。


彼女達の沢山の失敗を糧にしたトライ&エラーの繰り返しや小さな問題や失敗は頻繁に起ったが、それでも幸いなことに、農業に着手した1年目は、天候に恵まれ、4毛作農法が上手く機能し、大量の食料の備蓄と、育てた野菜などを使った加工品の開発、販売網を作るため、地域の商店への売り込み、その人々からのヒアリング、そこで手に入れた、不便や問題の解消、孤児たちの斡旋を行なった。又、徹底した合理化、マニュアル化、雇用で手に入れた情報の蓄積に精を出した。


エレノアの孤児たちは彼女の軍隊トレーニングと、働きや、努力に応じたインセンティブのお影でその時代に合わぬほど恐ろしく勤勉で、人柄も良く読み書きの上、掛け算割り算まで出来るので、帳簿をつける事ができる。これが大変重宝された。


こうして彼女は雇用を創出し、農業の生産、加工販売、人材の教育、提供を行う事で、1年目にして、ある程度の食料備蓄とインカム、地域の信頼を手に入れたので有る。


有る程度、余裕が出来た彼女は自身の備蓄を使い。外のストリートチルドレンのリクルートを始めた。彼女は食事の提供を餌に、開墾への肉体労働、教育の無償提供、又、勉学に適正のある子供上位10%には肉体労働の免除。さらには、住居の提供など、食料と提供できる住居の範囲内で徹底した実力主義とインセンティブを与えた。


それと、原始仏教を教えて見たがこれは失敗に終わる。自身の内面との対話など、いわゆる瞑想を中心とした自らを律する、シャツの襟を正すやり方はグループB以降には受けが悪かった。


(やはり救済だったり、11人のバージンなどの手っ取り早い答えだったりご褒美の餌をぶらつかせるやり方じゃないと大衆にはウケが良くない…)


又、地域の信頼と、提供している孤児たちの情報から、彼女はあらかじめその地域のリーダー格の孤児の情報に目をかけていたので、その情報を元に、リーダー格の懐柔をする事でその地域の孤児たちを効率的に吸収、合併する事が出来た。いわゆるM&A(合併と買収)である。


ある日、無敵で無敗、向かう所敵なしのエレノアが、ボロ雑巾になって帰ってきた事がある。

彼女は誰よりも自分に厳しく、日々のトレーニングをシスター達が亡くなったその日から毎日殆ど欠かした事が無かった。又、何故か彼女は人間を効率的に打ち倒す技術(武術)を身につけていたので、素人の子供など容易く打ちのめす事が可能なのだ。


彼女は自身の体格と性別が不利なことは理解していた、だからこそ、基礎体力の向上と、抗争になりそうな人物の情報収集、性格から予測されうるあらゆる行動パターンの想像とそれに対する対策、そして、不利にならない時間、場所の選定から、交渉に対して提供できる、恐喝できるあらゆる角度から検討したカードの準備など、ありとあらゆる自身が想像し得る万全の準備を行うのである。彼女が今まで負け無しなのはそういった準備の積み重ねによって、勝てる時に勝てる勝負しかしなかったからである。


そんな彼女がたった一度だけボロ雑巾になって戻ってきた事があった。彼女をここまで追い詰めた相手の名は悪童ジョリアン。褐色の、体格に恵まれた少年であり、主に盗みと恐喝を生業に薄汚れた北区を寝床にしている大人ですら返り討ちに合う誰も手出しの出来ぬ獣である。


彼女は彼との交渉には人一倍気を使ったつもりだが、ミスを二回も犯してしまった、彼の地雷を踏んだのだ。


「やぁ、お初にお目にかかる、私の名はエレノア、ジョリアン君、話が有ってきたのだが…」


「お前が、エレノアか、仲間達から噂は聞いてるよ。悪いが、お前の軍門の降る事はしない。オレ達は俺たちの好きにやらせてもらう。」


北部訛りの、噂とは大違いの話せる態度、知的な容姿、仲間の掌握の仕方、彼女はそれを機敏に感じ取り態度をやや軟化させた。


会話は終始、平行線をたどりお互いの譲歩が引き出せぬまま時間だけが浪費され、彼女はなんとか譲歩を引き出そうと彼の妹の話を切り出した。


彼には女性の存在、それも妹らしき人物の影を感じていた、不確定だがそういった情報を優秀な彼女は感じ取っていた。彼女は優秀すぎたのだ。


それが彼女の一つ目の失敗。


「君の妹さんのことなのだが…」


それは、一向に進展しないこの交渉の流れを変える、話のきっかけでありブラフ。この後の彼の反応や返答から新しい情報や交渉の糸口を見出すきっかけに使った彼女にとっては軽いブラフ。だがそれは、彼にとっては触れてはならぬ繊細な地雷だったのである。


これが2つ目の彼女の失態。


「お前…それをどこで!?」


その刹那、話せるはずの少年が突如、獣になり、彼女に襲いかかる。


本能剥き出しに襲いかかってくるその獣の如く猛攻に人に対する彼女の武術はうまくハマらず、予測不可能なその攻撃に彼女は手酷い痛手を追う。


「…な!?」


この経験が彼女を武術の飛躍と、獣とのトレーニングやそれの対応策など、彼女の武術家として大きい実り、発展になるのだがそれほどにこの経験は彼女の人生に大きな一石を投じた。


攻防はその少年の独断場であった。恵まれた体格を使い素早く重い獣の如き手足の振り回し、そして理論を超越したその行動。


彼女や武術の達人が素人よりも有利に立ち回れるのは、経験と訓練による、反応と予測の蓄積である。


よって恵まれた体格を生かし、本能で行動する人間が彼女が最も苦手とするタイプの相手なのである。


(左、右、ひだ…)


「…っかは!」(頭突きだと!?)


(糞!これじゃジリ貧だ…削り取られる…)


(多少のダメージは覚悟して、組みついての一本背負いに 賭けるしか…)


そう決めて、顔だけを両手で庇い、腹や、下半身の攻撃の対する防御を捨て、悶絶必至のボディなどを死ぬ気で飲み込み、ひたすら彼の懐が開くのを待った。


(今だ!頼む、死なないでくれよ!)


非力で低身長の彼女が与えられる粗唯一の技、一本背負いと呼ばれる組み打ち術を運良くかけ、その獣を頭から地面に叩きつけて、やっとその獣は動きを止めた。


「ハァハァ…糞…」


地面に力なく座り込み、エレノアは少年の口元に手を当てる。


「ハァハァ…」(息はある…良かった、死んではいない。)


(命を気にする余裕が無かった…)


少しでも手心を加えて背中から地面に叩きつけていたら、最後、地面に寝転がっていたのは彼女であろう。それほど彼は強大であった。


呼吸を整え、何が駄目だったのかを考える。


彼女は今後もこの問題と長く付き合うことになるのだが、彼女の失敗は二つ。


優秀すぎる事


それと


感情を理解できない事である。


交渉では、同じスタートラインに立ち同じ速度で歩むのが理想である、だが彼女は優秀であるが故に、スタートラインは同じでも彼女だけはどんどん先に進んで行ってしまう。

人はそんなに努力しない。努力する人間ですら人並みの努力しかしない。だが彼女は人3倍努力し、改善しマグロのように前に泳ぎ続ける。自転車とロケットが同じ場所に立ってたとしても、時間が経てば差は広がるだけである。彼女にとって死ぬほど辛い事など辛いと言う分類にすら入らぬ。日々強烈なストレスに苛まれていた彼女はストレスに対して麻痺している状態なのだ。故に彼女にはその広がった距離感が把握できないのである。


もう一つは、人には譲れない何かや、触れられたくないスネの傷がある。だが彼女にはそれが無い。この歳でもう彼女は差し出せるものは全部差し出してしまったし、彼女のスネは傷だらけでボロボロである。傷だらけで何も持たぬ存在、ゆえに怖いもの知らずで最強なのだが、その代償として彼女は人の感情が学習は出来るが理解出来ないのである。


暫くして、悪童ジョリアンが意識を取り戻す。


「……」


ぼんやりと両脇をビルで囲まれた薄暗い路地にて、大の字に寝そべっているであろう体と背中に地面の冷たさを感じつつ青い空を見上げる。頭がジーンと痺れる。手足が思う用に動かない。


隣に目をやるとボロ雑巾にしてやったハズの少女が片膝を抱え、横目で様子を伺っている。


「やぁ、改めてごきげんよう。私の名はエレノア…」


(俺は、負けたのか?)


これが無敵の悪童ジョリアンの初めての敗北であった。


その後、エレノアは病弱なジョリアンの腹違いの妹を教会で手厚く保護した。


大分後だがのちに、ジョリアンはある屋敷の使用人として働いており、その時に、領主の娘(妹)の世話を任されていたが屋敷が事業に失敗し消滅、その時に領主から、自分の生い立ちを知り、自分が領主の種から生まれた事、母親はどこかの異国の娼婦である事を知り、又、借金のカタに色物の資産家の妾として、妹が犠牲になる事を知った彼は妹を連れて逃げ延び、今に至ると教えてくれた。


彼の仲間は皆優秀で、彼を慕っており、仲間は皆彼の妹の存在を隠していた。それを何処かのメスの仔馬の骨がハッタリとは言え暴いたのである。


彼女は感情や人間に対してほんの少しだが理解を深めた。


ジョリアンの加入以降、街の浮浪児たちのリクルートが加速度的に進む事となる。彼は機敏にエレノアの意図を理解し、彼女の手足として実に有効に機能した。彼のおかげで新たな隙間が出来た彼女は金持ちや権力者が好んで居住する南区のそれらの子息たちをリクルートする為に行動を開始する。


たった一人の優秀な人材が加入がきっかけで彼女の計画が飛躍的に進んだのだ。


これにより彼女は、優秀だがはぐれ者の研究者や学者のリクルート、他国の情報収集と他国の浮浪児たちのM&A(吸収と合併)。階級では無く実力主義のエリートの為の孤児院の運営と援助。大規模農業の着手に手をつけ始める。


とりわけ彼女が集中して行った投資が、通信技術、食料品の長期保存技術、予防医療技術、それと膨大な土地などに関する情報収集である。


沢山の失敗と改善を繰り返し彼女が学んだ事は、文句だけをいう奴は沢山いるが問題を自ら考えその課題に取り組む奴が全体の1%しか存在しない事だ。


だからこそ、予算を各孤児院にある程度自由にさせ、問題とその問題を解決する解決案を提供する人材の発掘と支援、新しい商売などを自由にさせたのである。


こうして、課題解決型の人材が動きやすい、頭角を表しやすい組織とシステムを構築し始める。

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