03
記憶の靄が晴れてきた、言葉をほんのり覚え出した時、私は母と思われる女に売られた。
その時の衝撃が引き金となり、私はその時の事、今までの事、それより前の事、ほぼ全ての記憶の靄が晴れ、現在の自分の立場、事態の深刻さ、これからするべき事、しなければならない事に私の若く新しい脳は活性化した。
私は、その女から母親らしい行為を受けた記憶が何一つ無い。母親であろうその女の不在をついて身振り手振りを使い、拙い言葉を文字通り必死に駆使して町外れの教会に駆け込んだ。
(…言語が追いつかない…語彙が足りない… この国の言葉が足りない…)
町外れで教会、母親の追跡を逃れ、尚且つ耕作に適した環境。これが私が無い頭と情報を駆使して導き出した必須条件だった。ここまでの道のり私は沢山の浮浪児達を確認した。この情報だけで教会が飽和状態なのは容易に想像できる。私は文字通りの必死を再度使い、女で、幼く(多分2歳か3歳だと思う)売られ、知らない場所で怖いおじさんに乱暴されそうな所を必死に逃げてきたと精一杯訴え何とか神の門戸を運良く開く事に成功した。
(頑張れ私、どんなに辛くても、糞でも誰も私のことなど見てないし、誰も手を差し伸べてくれない…)
それからも必死だった。
朝、掃除を手伝いシスターの仕事を肩代わりし、スコップを使って開墾を始めた。それが出来るようになると手の空いているシスターに文字と言葉を教わり6ヶ月かけてこの国の言語をマスターした。
(人間は孤独、ひと(他人)は打算。だから頑張れ、今私が立たないと、誰も私を救わない。)
彼女は元来ずぼらで怠惰を好む性分である。そんな彼女が、毎日早起きし、やりたくも無い雑務をこなし、痛々しい位に媚び諂い、言語を学び、ダレそうになる自分を毎日、必死が当たり前になるまで必死にこなし、当たり前をさらに必死に足掻いた。
クズでずぼらで馬鹿で貧弱。その上感情と共感性を持たずに生まれ落ちたいわゆるサイコパスの彼女にとって、感情を理解し、共感し、空気を読む、いわゆる忖度をする事ができない底辺の中でもさらに最底辺。その上半分異国の交ざり物の彼女にとって先ず、当たり前をする事、出来る様になる事。馬鹿で要領が悪く頭の悪い彼女が、人と同じように勉強し、忖度している程度では人並みにすらたどり着けない。例えもし仮に、彼女が大人と同じ精神年齢と知識を持ってたと仮定しても彼女は聖人君主でも神でも大人でも無い。彼女はずぼらでクズで貧弱な最底辺の中の最底辺な糞餓鬼に過ぎないのだ。
だから彼女は一日28時間働き、いちばん簡単に削れる寝る間を惜しみ、人3倍努力し、いくら痛々しいくらい必死に一生懸命やった所で幾度となく、食器を割ったり、掃除や清掃の雑務を人並みにこなせず、幾度と無く共同生活している孤児たちに空気が読めずストレスのはけ口にされようともうつむく自分を彼女は何度も何度も励まし続けた。
(頑張れ私。頑張れエレノア、自分が自分である為に。大嫌いな自分に成り下がらないように…)
健全な精神は健康な体力から生まれる。精神が落ちている時は体力を回復させるのが一番良い。体力の無い状態だと精神はどんどん疲弊し、ネガディブな感情に人の精神はより強く引きづられる。だから睡眠は大事なのだが、馬鹿でクズで要領の悪いエレノアは一番手っ取り早く削れる睡眠時間を削って遅れを取り戻そうと争い続けている為常に気力、体力ともにギリギリの所で不安定な感情を、魂を削って殴り飛ばして抗い続けている。
幾度となく世界から見放され、絶望と自身の愚かさ、無力さに何度も心を砕かれ続け全てにおいて常にとっくにマイナス、精神も肉体も何もかも疲労骨折。そんな中彼女は祟った無理が一気に吹き出し、当たり前のように病気にかかり、誰も自分の代わりに仕事をしてくれる事も、弱った彼女に誰も手を差し伸べてくれず、孤独で体はダルく、朦朧とした意識のせいで食事を地面に落としてしまい、残飯になったその餌を無理やり口に押し込み、そのせいで追い打ちをかけるかの様にお腹を壊し、熱と腹痛で意識は気絶寸前になり、どんなに頑張っても、どんなに努力しても誰も評価しない、彼女を気にかけない、クズが必死に人並み以下の事したところで誰も助けないし興味もない。そんな中、霞む意識の中でなんとか教会から委託されていた彼女が引き受けている雑務を必死にこなし、その出来が悪いと罵られ、熱と腹痛でヘロヘロの体に人々が追い打ちをかける。
(頑張れエレノア、頑張れ…)
雑務をこなした後の帰路の途中、だるい体を引きずる様に、普段だったら20分もかからない様な道を寒空の下たっぷり1時間かけて帰宅している中、石畳に足を地面にうつ伏せに倒れ落ちてしまう、人もまばらに通り彼女の方を見る気配はあるものの誰も彼女の事を気に掛けない。無情な歩行者の足音を聞きながら、冷たく凍りついた、痛いほどの冷たさの石畳を肌で感じ、もはや性もこんも尽き果てて、彼女が今まで必死に抑えて来た立ち上がれない程の挫折と絶望に彼女の感情が散散に食い荒らされ左目から頬に暖かい涙の雫が溢れ落ちる。
感情の理解できない私にも感情というものが少しは存在していたのかと発見でき少しおかしくなる。
それでも誰も彼女を助けない。これは御都合主義の甘い甘いフィクションではないから…
現実は、世の中はどんなに必死に努力しても、誰も君たちの事を見ていないし、理解もしない。誰も君たちの頑張りや努力など評価しない。どんなに辛くて、きつくて人生を呪う程絶望しても、死んだ方がマシな精神状態に追い込まれても、立ち上がる体力、気力が失くなり、力無く立ち崩れたとしても、その時におとぎ話の様に、良く有るフィクションなんかの様にかわいい女の子が手を差し伸べて、膝枕をして疲弊した魂を優しく撫でてくれる事など絶対ない。断言する、絶対にない。必死の努力も、頑張りも、力無く倒れたとしても、誰も君たちを助けない。誰も君に興味が無い。君は孤独だ。
クズで馬鹿で覚えと要領が悪くサイコパスの交ざり物は幾度となく立ち上がれない程の絶望に苛まれた。その都度彼女は自分で自分を鼓舞し
(頑張れエレノア、死ぬのが嫌なら今頑張れ!)
自分の死すら担保に入れ
(頑張れエレノア、今頑張るか、今死ね!)
死んだ方がましだと思える位、現実より死ぬ事の方がマシな精神状態で死を担保にした自分自身の励ましを安売りしすぎて全く機能せず、自分自身への励ましがほとんど全く使い物にならなくなり、幾度と無く立ち上がれなくなっても彼女は魂すら差し出し
(頑張れエレノア、頑張れ私…お前は孤独だ!お前がお前を救うんだ!絶望するな、頭を俯かせるな、そんな事しても1Fにもならない。死ぬなら立ち上がって死ね!今立ち上がれたのなら明日死なせやる!死んだら好きなだけ気絶できる(寝れる)だから立って死ね!)
ベンチャー企業の社長がベンチャー出来る奴は、死ぬ程の絶望、苦労で立ち上がれなくなって、絶対越えられない用に見えるハードルを飛び越えて、その後もう一度それ以上のハードルを飛び越える体力が必要だ。と言いい、そんな事が当たり前のに日常茶判事である糞馬鹿の彼女の境遇において、彼女は熱で感覚が麻痺した、正常ならその冷たく凍った痛い位の石畳を頬に心地良く感じながらも、何度も何度も魂を削り、燃えカスすら残ってない自分の胚をかき集めて、何度も何度も心の中で必死にその使い切った魂のカスに火を付ける行為を心で繰り返し
(立てゴミクズ!!!立ち上がれ!!!立って死ね!)
何度も何度も立ち上がろうと心に火をつける。とっく使い切って、もう燃えカスすら残っていない彼女の魂を、かき集める事すら困難なその塵芥を必死にかき集め
(立てゴミカス!立って死ね!立ったら今死なせてやるエレェノア!!!)
何度も何度も、何度も!立ち上がろうとし、何度も立ち上がれず頭から崩れ落ちる。それでも何度も何度も魂に火の粉をかけ、痛々しいまでの醜態をさらけ出し恥も世間もとっくに捨て去り、醜態を、己をさらけ出し
(今死ぬんだ…立てば死ねる…この一回だけ、最後の一回でいいから立てエレノア…)
数時間かけて立ち上がり、必死が当たり前の彼女が彼女に出せる全てを身体中のあらゆる穴とゆう穴から出し尽くし、鼻水とよだれ、汗と糞尿まみれので背中からどっと嫌な冷たい汗が噴き出てる中、彼女は自身の記憶からここから一番近くの酪農をしている農家の場所を思い出し、糞尿まみれの冷え切った体を引きずりなからその牛小屋にたどり着き、朦朧とした意識の中その酪農家が作っているチーズを何個か小屋から盗み、廃棄物の牛のホエイ(牛などの乳からチーズ等を作った時に生まれる牛乳の絞りかす、この時代にとってゴミだが栄養満点)を小屋に落ちてた桶に並々汲んで、牛小屋に行き、子牛を見つけだし、牛小屋の藁をかき集め、子牛と自分を小屋の奥側の柱に自分の服をロープ代わりにくくりつけ、口に盗んだチーズを無理やりホエイでねじ込み、牛の糞尿と自分の糞尿まみれのその藁に子牛と一緒に体を突っ込んだ後気絶した。
もしかしたらたまたまなのかもしれない。彼女が動物に一切臆さない、敵意の感じさせない性格からなのかもしれない。動物は本能的に弱った動物に寄り添うのかもしれない。その真意はわからないがその子牛は驚くほど大人しく、弱った彼女に寄り添い続けていた。
子牛の熱と、栄養満点のチーズ(盗品)、ホエイ(盗品)のおかげで彼女は27時間程気絶し、目が覚め、少しだけ体調を取り戻した彼女は体を引きずり、胃の中の内容物を一気に全てゲロとして吐き出し、子牛と自身の糞尿とゲロを処理し残っているチーズ(盗品)を再度ホエイ(盗品)で流し込み、今度はやっと死んだように眠りにつけた。
牛小屋に入っておおよそ2日が経ち、何とか峠を越えた彼女はその子牛に感謝し又、ベンチャーブラック企業の社長のように、マグロの様に努力し続ける孤独で報われない、無意味な糞ったれの日常に戻った。
愚かで馬鹿で貧弱、サイコパスで交ざり物の可哀想なエレノアは思う
人間は、私は、怠惰で愚かで度し難い。自分の現実の範囲の中でしが努力せず、低く低く流れ落ちて行く。そして口々にこう言うのだ。
ー“一生懸命やったけど”ダメでした。運が、生まれが悪かった。持ってたカードが豚だった。ー
我々はほとんど最低最悪の底辺から始まるのである。種の解らぬ娼婦の家に生まれ、育児放棄され、言葉を満足に話せぬ内に無一文で外に出ざるおえない状況に追い込まれた。
(水と人間は低きに流れる)
だからこそ自分の愚かさを知ってる奴は、現実の範囲を超えて努力出来る気力が有る限り私は抗い続ける事にしている。己を知り言い訳せず抗い続ける事。たったこれだけが落ちる人間と踏み止まる人間の差だと私は思う。何とか人並みの行動ができるようになり、痛々しいまでの必死さ、感情というものを相変わらず理解は出来ないが学習できるようになり初め、同じ孤児達やシスター達の評価を少しずつだが何とか勝ち取り初め彼女に本当に一瞬の、たったひと息の平穏が訪れた時に、運命という奴はいつも予測を簡単に飛び越え無常と理不尽を突然躊躇なく押し付けてくる。
2度目の冬を越え、新しい年が始まったその日、シスター達は殺された。
エレノアが教会に用事を終え戻ると、そこには2体の死体とその死体から流れ出たであろう二つの血溜まりが彼女の目の前に写っている。余りの唐突の出来事に彼女の脳はフル回転し、一瞬動きを止めてしまう。その出血量からもう事切れているであろうその死体に一縷の望みをかけて、駆け寄り、必死の応急処置を行なったが徒労に終わってしまう。
血だらけになった両手と衣服を気にも止めず、彼女は焦点の合わない両目でぼーっと窓から陽が差し込み神秘的に輝いている教会の十字架を眺めていた。外から鳥のさえずりが聞こえ、昼下がりの教会はまるでこの惨劇が存在しなかったかのように静かな日常を刻んでいる。血だらけの彼女と2体の死体がだけが異常な空間であり、のどかな日常の演出が彼女達の存在を否定しているかのようにすら思えてくる。
(エレノアちゃんは本当に頑張り屋さんだね…)
(エレノアちゃん、あなたは幼いのだから、無邪気に笑って、泣いて、怒っていれば良いの。世の中の苦労や理不尽や不条理は私たち大人が引き受ける役目なのだから。)
彼女たちの言葉と顔が脳裏に蘇る…
彼女たちは良き人間だった、この時代には過ぎた人だと思う。シスター達の両手は余りにも小さく無力だった為、日々の奔走、手のかかる孤児達の世話に翻弄され全く手のかからない空気のようなエレノアの苦労に寄り添う余裕や、差し出す手が無かった。だが、ほんの少しずつ、徐々に人並みの所まで登ってきたエレノアに、嫌な顔を一切せず(正確には彼女はあまりの理不尽に苛まれ続けた結果、彼女の感情はとっくにロストしているので精巧な人形のようでよく分からなかった)彼女の事を少しずつ気にかけてる感情が芽生えた時、もしそんなものが存在するならシスター達は彼女らの信仰する神のもとに旅立った。
迂闊だった…無力だった… 自分の頭のハエを追い払うのに必死だった… 全く周りが見えてなかった…
血だらけの両手を眺めながら自分の無力さがこみ上げてくる。
私が迂闊で、愚かで、度し難い短絡的な独善主義者だった為に両の手から大事なものがこぼれ落ちてゆく…
犯人は、時々私たちに食料などを寄付してくれた小さな雑貨店の店主マクリードさん。ここ半年姿を見てなかったが、犯罪を犯すような人間では無い。気の小さい臆病な人間である。
事の顛末は実に呆気ない。銀行が彼に融資を持ちかけて彼は融資を受け、商才も無いのに雑貨以外の事業に手を出した。勿論そんな素人経営が上手く行くはず無く、後はお決まりの転落人生。坂から転げ落ちるだけである。
借金を早く返すために更に借金を重ね、妻と子供に逃げられ、店も抵当に入れられ、飲めない酒を煽り、麻薬に手を出し、薬欲しさに更に借金を重ねる日々。
夢も虚ろなその体で外に出、そこに運悪く孤児達が通りかかり、孤児達の幸せそうな顔がムカついた。シスターを殺せばこいつらが消えると思ったそうだ。
シスター達も、その孤児たちも、決して幸せなどでは無い。彼らは強く生きてるだけである。
私はこの糞ったれの大衆、民衆が大嫌いだ。自分を律せず、低きに流され、何一つ自分で考えることも、争うこともしない。それでいて、人一倍愚痴を溢す。
(自らを変える努力もしないくせに…)
私の最初の命がけのギャンブルに対して、門徒を開いてくれ、私は命を拾う事が出来た。
彼女らは、貧困や境遇に屈せず、低きに流されず、自分の事より他人を優先する。恐ろしくお人好しな、捕食される側、馬鹿を見る人達だ。
私は知っていた、知っていたからこそ、回避する事も、予見する事も出来たハズだ。私にはそれが出来たのだ。
だが、私の怠慢が、目の前の小事に心を囚われていたせいでもっと大きな大切なものを取られた。
ー 人を傷つけるモノが三つある。悩み、いさかい、空の財布だ。その内、空の財布が最も人を傷つける。 ー
私は、真面目で努力する人間が馬鹿を見る世界が嫌いなのだ。
「殺してやる…」
神に祈るべき神聖な場所で何も救わないひたすら無情で無機物の十字架を見上げながらボソッと口元から言葉が漏れる。世の中は無情であり、死は常に隣り合わせである。私はこの愚かな怠け者を殺す積もりも、恨みの感情も持ち合わせてもいない。なのに口元から感情が溢れたのである。
私はこの糞ったれな怠け者供を駆逐したい。それが叶わぬ事も出来ぬ事も解っている。
(…だが、争う事は出来る。)
これは私のただの子供っぽい八つ当たりだ。意味など無いし、世界に復讐する気も、救う気も、ましてや世界を変えるつもりも、新世界の王になる気も無い。
ただ私は両手を上げて力いっぱい大声で駄駄を捏ねる事にしただけだ。
この日から彼女は諦める事を諦めた。
そうやって体を失った人々が義手義足を付け、その義手義足を元の体と同じ様に使えるように訓練するかのように彼女はその後、修道院の子供達にあの手この手を使い繰り返し信頼を勝ち取る努力と私兵を作る努力を繰り返した。クズの彼女を孤児達の誰もが認めるような優秀な人物であるように彼女は痛々しいまでに必死で抗い続けた。それは体を欠損した人が新しい義体が徐々に馴染み出すかのように、彼女の努力が少しずつ彼女の目の前に立ち込めていたモヤを少しずつ晴らしていくような、この世界を少しずつ知れば知るほど世界の危うさを感じ始める余裕が出てきたからた。彼女はまるで透明ないつ爆発してもおかしく無い火薬庫の上に座っているような居心地の悪さを感じ初めていた。
クズでずぼらで馬鹿で貧弱、その上サイコパスの交ざり物の最底辺が世界を手玉に、たったひとりぼっちの世界魔導大戦がこの日から始まった。
ーーー数ヶ月後ーーー
「エレノアおねい、お話聞かせてー!」
「シェリー、お勉強は済んだのかい?」
「うん、終わりました!」
と両手を腰に添えさも褒めてくれと言わんばかりの態度でこちらを見てる。
「えーとねー、シンデレラ!」
(…又か)
子供達は何故か事の外彼女のシンデレラがお気に入りである。
(昔、おもちゃは何が売れるか誰にも予測出来ないと聞いたことがある。おもちゃ業界全ての人々が、売れないと予想した商品が次の日には爆発的ヒットすることがザラに有る。それ位子供の好みは予測不可能なのである)
エレノアはとある”存在しない”シンデレラの話が嫌いだった。なぜならこの世にかぼちゃの馬車も、何もしなくても世界を薔薇色に塗り替えてくれる魔女も存在しないから…
だから話を変えた。この世界のシンデレラのお話はたった一つ
その内容はみすぼらしい生まれの灰被りの奴隷、シンデレラは3人の女主人に辛辣に扱われていたが、その女主人たちを自らの知略と気力を駆使して打ち倒すというものである。
ある時、話を聞いていた子供の一人がふとエレノアにこんなことを言った。
「エレねぇは、シンデレラだね!」
「えー、どういうことー?」
「だってぇ、エレねぇ、毎日埃と灰まみれで私たちのこと見てくれるじゃん!それにその灰色の髪の毛とってもキレイ!」
それ以来、子供達の間で彼女の事を ”シンねぇ” もしくは ”シンデレラのおねいちゃん” が定着し、この二つ名が子供達と悪童ジョリアンの軽口のせいで外のストリートチルドレン達にも定着してしまったのである。
又、この彼女の創作のシンデレラが事の外ヘルヴェティア共和国の浮浪児達に刺さったらしく、この地方の有名なおとぎ話として定着する事となる。