衣の木
水の大樹の周りがさまざまな草木によって賑やかになってくると、二つの月が踊りだす頃合には、そこかしこで小さな光が瞬くのを見かけるようになった。
それが、どこかの世界から彷徨いだしてしまった魂達だと、彼女は何故か知っている。
なぜ知っているのか、とは考えなかった。
ただ、知っているのだ。
そして、その魂達にそっと手を伸ばし、手に乗せた彼らは優しく息を吹きかけると、その性質に相応しい植物へと彼等は宿っていく。
昼は種を植え、夜は彼等と共に踊りながら魂の宿る先を見つけていくうちに、一人きりで暮らしていた荒野はいつしか緑豊かな平原に変わっており、鈴を鳴らすような声に満ちてきていた。
彼らの多くは、草に宿る。
宿る先が小さい彼らは体も小さくとても可愛らしい。
プクプクのほっぺに、ぽっころ膨らんだまん丸お腹がチャームポイントだ。
彼女は、彼らを『小さな友人』と呼ぶことにした。
ところで彼らは、彼女の姿を模したのか総じて女性体であった。
そして、皆、衣服を見につけていない生まれたままの姿であり、ソレが彼女の新たな悩みとなった。
一人で居たときには気にもならなかったのだが、小さな友人達にも衣類を与えてやりたいとそう思ったのだ。
思いついたが吉日とばかりに、いつの間にか出来る様になっていた、別の色の種の組み合わせも一緒に試すことにする。
「種よ種。黄色と赤が一緒になると何の色?」
力ある言葉を唱え、目を開いてみるとそこにはほんのり赤みを帯びた山吹色の種。
もう一度、今度は赤みが強くなるイメージで同じ事をしてみると、先ほどよりも赤みの強い橙色の種がうまれた。
「思い浮かべた色の種ができるのね。」
これでまた、色々楽しめそうだとニッコリすると、他の色の組み合わせも試す事にした。
次に試したのは赤と青。
これらを組み合わせると紫になる。
赤みが濃いと赤紫。
青みが濃いと青紫。
紫系は、どぎつい色合いで彼女の好みではない。
もう少し、優しい色合いになればいいのにと、肩を落としつつもこの色が好きな子が居るかもしれないと思い直す。
最後の組み合わせは、黄色と青。
これらを組み合わせると緑になった。
今、この草原に一番多い色合いでもあるそれは、割と好きな色で彼女の顔にも笑顔が浮かぶ。
黄色を濃くすると若草色。
青みを濃くすると青緑色。
仄かに色味の違うものをたくさん作るのが楽しくて、彼女はそれを小さな友人達に見せて歩く。
「どぉ? この種を使って、貴女達の衣服を用意するからね?」
彼女の言葉に、小さな友人達は嬉しげな笑い声で応え、あたりが鈴を一斉に鳴らしたような甲高い音で一気に賑やかになった。
大歓迎!
と言いたげなソレに笑顔を返し、新しい種を植える為に目をつけていた場所へと向かう。
今回は、自分の身の丈ほどの高さの木にしようと心に決め、少し離れた場所にそれぞれの種を埋めていく。
「種よ種。軽やかにこの身を包む、素敵な衣を実らせよ。」
可愛い服も、スッキリしたシルエットの服も素敵だなと思いながら、彼女は力ある言葉を紡いだ。