芽吹き
氷草は翌日には枯れてしまっていた。
日の光が直接当たってしまっていたのが原因なのかしらと、彼女は唇に指を当てながら萎れてしまった花を残念に思いながら眺めている。
「失敗は成功の母、だったかしら?」
どこで聞いたのか良く分からない言葉を呟きながら、彼女は気分を入れ替えて、また新しい種を植えてみることにした。
今度は、他の色の種で氷草と同じように力ある言葉を唱えた場合に、どんなものが育つのかを見たいと思い、赤と黄の種を創りだす。
そうして、今回は日陰に植えた赤と黄の種は、色の違う氷草へと育ったのを見て、彼女は顔をほころばせた。
「赤はイチゴ。黄はレモン♪」
日陰に植えたおかげか、何とかカキ氷の体裁を保てているそれは、やはり手に取ると融けてしまう。
それに構わず味見をすると、それぞれ違った風味と甘みで冷たいソレは彼女を喜ばす。
彼女はそれを集めるために、食料の木の実の蓋を使うことにした。
手で受けると、その熱で薄い氷は溶けてしまう。
昼間は暑いから、きっと冷たいソレは大層美味しいに違いないと、彼女は期待に胸を高鳴らせた。
自分以外に、生き物の姿が見えないこの場所で、彼女にとって唯一の楽しみといるのは『食べること』だけなのだ。
とはいえ、カキ氷が器に溜まるまでにはずいぶんな時間がかかりそうであるため、彼女は別のことをして気を紛らわすことにする。
水の大樹を植えてから、からからに乾いていた大地がしっとりと水気を含むようになっており、彼の木の近くでならば言葉の力に頼らなくても何かが芽吹きそうな予感があった。
彼女は、腰の袋から黄色い種を取り出すと、そのまま大地にしゃがみこみ一粒一粒丁寧に植えていく。
「元気に元気に、おおきくなぁれ。」
水の大樹の方から湿気を含んだ風が吹き、彼女の髪を優しく揺らす。
その種が芽吹き、彼女が手をたたいて喜ぶのはそれから数日後の話。
数週後には、大小様々な赤・青・黄色の花がそこを彩る様になる。