氷草
黄色の種から実った、食料の木にすっかり味をしめた彼女は他の色の種からはどんな食べ物が出てくるのかと胸を高鳴らせつつ同じ様に種を作ることにした。
「ごはん、ごはん。暖かく美味しい力の源。この地に沢山実りなさい。」
赤い種は、黄色い種と同じ様に子供の拳ほどの大きさの種に変化して彼女を喜ばせる。
ところが、青い種は何度やっても種に変化は現れない。
しまいに彼女は癇癪をおこして乱暴に言い放つ。
「青い種、青い種。なんでもいいから、食べられる物を実らせなさい!」
すると今度はどういった訳か、種に変化が現れた。
青く、向こう側が透けて見える楕円形に変化した種は、少しひんやりとしていて、赤い種と黄色い種から作った『食べ物の木の種』とはまた違う物が出来るのに違いないと彼女を喜ばせる。
「大地よ大地。命育むその力、新たな命に分け与えよ。」
早速、適当そうな場所に移動すると赤いホカホカの種を植え、植物を育てる言葉を唱えた。
すくすくとあっという間に育ったその木は、最初に植えた黄色い食料の木と良く似ている。
見上げる程の高さのソレを見上げると、彼女はため息を吐いた。
「これじゃ、やっぱり上の方は採れないわ。」
きっと、もう少し小ぶりな木を想像すれば良かったのだと気が付いたものの、既に後の祭りと言う物で一瞬肩を落とした彼女はすぐに気を取り直すと、手に届く場所の実を収穫する。
「やっぱり熱いのね。」
落とさないように気をつけながら、右手から左手へと持ち替えて火傷をしないように地面に置いて行くと、3つの実が収穫できた。
中には何が入っているのだろうと期待に胸を膨らませながら、丸い実を開けていく。
中に入っていたのは、赤い根菜のきんぴらにミートソーススパゲティそれから鳥のトマト煮。
どれも美味しそうに見えて、思わず彼女の顔も綻ぶ。
「そういえば、何でこの食べ物の名前が分かるのかしら?」
ふと、それを不思議に思ったものの、彼女はすぐに気にしない事にした。
知っているのだから分かるのだ。
何故知っているのかは、考えても分からなかったので気にしない。
気にしたところで、答えが出るものではない様に感じたから。
そんな事はさておいて、と、手元にもう一つある青い種に視線を落とす。
透明感のあるその種は、彼女の手の中で太陽の光を受けてキラキラと輝く。
「宝石みたいに綺麗。」
人差し指と親指で摘まんで目よりも少し高い位置に掲げると、より美しく輝くその種を眺めて暫くの間うっとりと見とれる。
「これはどんな物が生るのかしら。」
いつまでも見惚れていても仕方がないと、それを地面にそっとその美しい種を置くと、改めて地からある言葉を唱えた。
今度は、そう、膝くらいの高さの草が良いかもしれない。
食料の木は両方とも大き過ぎたから。
「大地よ大地。命育むその力、新たな命に分け与えよ。」
言葉に応じて、種から芽がでてスルスルと膝の高さまで育つと、種と同じ色のキラキラと輝く美しい花びらを微かに地面の方に向けて開いて行く。
咲いた花から、淡い青みがかった液体がポトリと落ちると地面に吸い込まれて行った。
そっと、花に向かって手を伸ばすと、花弁から涼気を感じる。
ポツンと落ちてきた青い雫を舐めてみると、甘い、どこか人工的な味がした。
夜になると、この草の正体が分かった。
昼間は暑過ぎて融けてしまっていたそれは、かき氷。
夜の涼気の中、ソレは溶けずに山となり涼しげな音を奏でている。
「夜は寒いから、かき氷は食べれないわね……。」
彼女はそれを見詰めながら、残念そうに眉を下げた。