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川の行方

 どうどうと大きな音を立てて、川から水が落ちていく。

勢いよく流れだした水が、その勢いを増しながら飛沫をあげ、ソレをスクリーン代わりに、日の光が虹色の輪をいくつも描き出すのがとても美しい。

地の果てを求めて彼女が水の大樹の元を旅立ってから、一体どれくらいの時間が流れたのかは分からないが、彼女達は今その場所に辿り着き、自然が作り出した芸術品()に見惚れている。


「結局、地の果てまで歩いても誰もいなかったわね……。」


 虹が消えるまで飽きもせず、観賞していた彼女は虹が見えなくなるとぽつりと呟く。

彼女としては、大地を端まで歩いてみれば、どこかに自分と同じような存在が居るのではないかと期待していたのだ。

お友達と歌を歌ったり、踊ったり、音楽を奏でるのは楽しかったけれども、言葉を交わせる相手が欲しい。

この場所に辿り着くまでの間、みんなで地道に種をまいて歩いたお陰で、彼女たちの歩んできた道のりは緑あふれる土地になったけれども、彼女の心はどこかに穴が開いている様な淋しさがある。

それを最初に感じたのは、彼等が声を掛け合っているのを見た時からだ。

彼女には意味を成さない「ピピー」とか、「ピュイー」とか言う声は、彼等の間ではきちんと言葉として成立していて、その事に気が付いた時に疎外感を感じたのが始まり。

どうにか会話に混じりたくて彼らの会話に耳を澄ませたけれど、結局、彼女には同じ音の連続にしか聞こえなかった。

それでも、『あなた達と言葉が交わせればいいのに。』とはとても口に出来ないのは、それを彼等に言ってしまったら、悲しい思いをさせてしまうと分かっているからだ。



――ただの我儘だわ。

  この子達が居るのに淋しいなんて。



 意気消沈した彼女を慰めるように身を寄せる彼等に、彼女は微笑み返す。

彼等は、順繰りに彼女の頭を撫でて囀りかける。

心配げな彼らを安心させるために微笑を浮かべながら、彼女は心の中でため息を吐いた。






 深夜。

疲れ切った彼女は、赤字に白の水玉模様の傘を持つキノコのお家で深い眠りに就く。

水の大樹からの旅行で、随分と体力が付いた彼女だったが、旅に出る前よりも眠りに就く時間は早くなっていて、今では日が暮れるのとほぼ同時に夢の中だ。

キノコのお家の中には家具と呼べるものはなにもない。

大人が三人ほど手を伸ばして転がれるほどの空洞になっているだけだ。

床は、白くふわふわしたもので覆われているから、とても心地よく眠ることが出来る。

出入り用の扉と、小さな灯り取りと通気口を兼ねた窓が開いているだけで、その中はとても暗い。

彼女はその中で、『お友達』に囲まれて眠るのが日課だ。


 皆が眠りに就く中、『お友達』の一人がもそりと起き上がり、大きくため息を吐く。

窓から差し込む青白い光が、彼女の頬にある滴に反射しているのを目に留めると、そっとソレを小さな手で拭いとる。

彼女が求めている物が分かっていても、彼にはそれを与える勇気が出ない。

その気になれば、いつでも与える事ができるのに。

与えたその後に起こる事を考えてしまうのだ。


「ねぇ、レフィ? 優しいお友達が変わって行く事に、君は耐えられる……?」


 小さく呟かれた言葉は闇に溶ける様に消えていく。

返ってくるのは、規則正しい呼吸の音だけ。

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