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水の大樹

 ふと、気が付いたら荒れ果てた荒野の真っただ中に彼女は居た。

ふんわりとしたウェーブのかかった若草色の髪を腰のあたりまで伸ばし、ふんわりとした白いワンピースを纏った色白の華奢な少女だ。

澄み渡った空の様に蒼い瞳が、周囲をおどおどと彷徨う。


なんでこんなところに??


 狼狽しつつ辺りを見回してみる物の、見渡す限りの地平線。

辺りには、彼女以外の生物の気配もない。

いや、それどころか目の届く範囲内には彼女以外に大地の上に影を落とす物が一切存在していない。


私は…そういえばなんだろう?


 そう思ったのは、どれくらいの間呆然とした後だったのか。

自分の名前すらも思い出せない事に途方に暮れながら、取り落としていた持ち物を確認して見る。

小さな布で出来たその巾着袋の中身ははあっという間に確認し終わった。

中身は青・赤・黄色3色の大人の親指ほどの大きさの種の様なものだけだ。

その種を取り出して手の平に載せると、巾着袋が膨らんだ。


「え!?」


 驚きの声を上げつつ中を確認すると、さっき取り出したのと同じ3色の種がまた入っていた。

何度か取り出してみたけれど、中身が無くなる度に種が出てくる。


「これって…。無限種袋??」


 一人っきりでいる心細さから、独り言を呟きながら巾着袋を弄ぶ。

取り敢えず、種が沸いてくる袋と言う認識でいいだろうと思う事にして服のベルト通しに紐を通して腰からぶら下げる。


私のたった一つの持ち物みたいだから、無くさないようにしなくちゃ…。

これがないと、生きていくのに困ってしまう。


 先ほど袋から取り出しては放りだした種は足元に散らばっている。

色とりどりな小石の様にも見えるそれを彼女は丁寧に拾い集めると、再び独り言を言う為に口を開く。


「取り敢えずは、身を隠せる場所と水と食料。最低限それは必要だわ。」


 そう呟くと、青い種を二つ右手に握りこんだ。

自分の事は何一つ分からない彼女だが、その種の使い方だけは何故か手に取っただけで解ったのだ。

早速、それを使う事にして力ある言葉を唱える。


「水、水。大地を潤す水よ。この地を潤しなさい。」


 種を握りこんだ手の中で光が溢れだす。

それを為した本人でさえも驚くほどの光が消えると、彼女の手の中には濡れた様に輝く蒼い種が一つだけあった。

太陽の光を反射して輝くそれは、さっき握りこんだ物とは明らかに異質のものだ。

彼女はそれを確認すると、地面に置いた。


「水、水。大地を潤す水を導く大樹。我が元へ。」


 彼女の声と同時に、地面に置かれた種が芽吹きニョキニョキと育ちだした。

まるで早送りの映像を見ているかのように、芽から苗木に。苗木から若木に。

どんどんと育って行き、最後には見上げる程の青々とした葉を茂らせる大樹になった。

深い蒼の色を宿したその葉の一枚一枚から、大地へと雫が降り注ぎあっという間にあちらこちらに水たまりが出来上がった。

 彼女は降り注ぐ雫の中に嬉しそうな声を上げながら足を踏み入れ、両手で碗の形を作ると雫をそこに集め中に溜った水を飲み干した。


「美味しい…。」


 大樹から降り注いだ雫は甘く爽やかで、彼女の渇いたのどを優しく潤した。

その美味しさに幸せそうににっこりほほ笑むと、大樹の根元の雫が降りかからない場所を見つけてそこに潜り込んだ。


「少し濡れちゃったけど…。これ位なら大丈夫でしょう。」


 そう呟くと口元に手を当てる。

手を当てた途端にあくびが漏れた。

大樹を育てた為かひどく疲れを感じて、彼女はもう一つあくびをするとその場に丸まって眠りに落ちた。


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