肴の一のに
「なので! 決して邪な気持ちはなくてですね! あの、ほんと、止むを得ずというか! そんなつもりはなかったというか!」
……要約すると。
昨日の飲み会で、私はどうやら飲み過ぎてしまったらしい。 ふらふらで危なっかしい私は歩いて帰ると言ったという。 しかし、公太くんは心配になり送ろうとしたのだが。 何度聞いても家の場所を吐かず、吐くのは別のものばかりで。 意を決して公太くんは自宅に私を運びこんでくれたらしい。 着ていた服は、私自身が汚したらしい。
あーあ。 年上のメンツ丸潰れだ。 食べ終わった朝食の美味しさで女としても丸潰れだ。いい主夫になるよ、この子は。 貸してくれたぶかぶかのスウェットも、なんか良い香りがする。 30歳で20代前半の子に衣食住整えてもらえるなんて。 そりゃ結婚なんて考えていい段階じゃないよね。
「あー… ごめんね? こんなのの面倒見させて。 どうせならもっと若い子が良かったよね?」
「え、いやそんなことは!」
優しい心の持ち主だ。 こんなめんどくさい女を相手にするなんて、もし自分なら絶対無理だと言うのに。 まだ若いのにしっかりした子だ、将来有望だ。
「あー、そう言えば。 公太くんも今日は有給取ってるんだっけ?」
「あ、はい。 葵さんも、ですよね?」
時計の短針はもうすぐ8の部分に重なろうとしている。 いつもなら家を出る頃だけれど今日はその必要はない。 週初めの月曜から休みをもらって、なんだか気持ちは優越感と罪悪感で半分くらいになってる。
休みならダラダラして過ごすのが私の平常運転だけれど今はそうはいかない。 職場の後輩とはいえ他人の家、いつまでもお邪魔するわけにはいかない。 迷惑かけたみたいだから、尚更。 そう思って立ち上がろうとした。
「お茶とコーヒー、どっちがいいですか?」
「………あー、じゃあお茶を」
…これは仕方ない。うん、これを飲んだら帰ろう。 もてなしを断るのも失礼だからね。
私はそうして、出されたほうじ茶を啜った。