修行2
九郎はアルスから教えられた森に来ていた。魔族である九郎からしてもこの森はなかなかに不気味だ。生い茂る木々の葉に光は遮られ視界は悪く魔物たちの足跡はそこに立つ者の恐怖心を煽るのに十分だ。だからと言ってこの森が九郎にとってでさえ危険であるという訳ではない。普段ならば、だが。
「ん、あれは・・・・」
そこには体中から木の枝の生えた魔物がいた。その魔物の一部というよりはまるで木に寄生されているかのような不自然さがあった。
「あんなことをするやつには心当たりがあるな。さて、あいつが相手だとすればかなり骨が折れるぞ。これはレオたちには相当に努力をしてもらわねばな」
自然とそんな言葉が出る。九郎が想定している敵は倒しても倒しても復活する上にかなりの馬鹿力を誇る兵隊を数多従える男だ。そんな男を相手取れば九郎と言えど苦戦することは必至である。だからこそレオたちに頼ろうという考えが出てきたのだろう。
「そうと決まれば帰るか・・・・いや、あそこにいる魔物程度なら俺1人で十分だな。片付けておくか」
魔物たちは九郎に気付くと牙を剥き、敵意を顕にする。敵はホブゴブリンの亜種だ。ホブゴブリン自体はゴブリンの上位種であり九郎からすれば両手両足を縛られても一瞬で消せるような相手ではあるのだが体中から生えた枝が九郎が警戒しなければいけない理由となる。
「グルァアァアアア!!!」
「黒之波動」
刀も抜かずに得意技で先制する。しかしこれだけでは止まらず突進してくる。それを鮮やかに回避しその背に刀を浴びせる。
それは致命傷となるような深い傷だったが簡単に傷は消えてしまう。
「ガァッ!」
ホブゴブリンが地面を殴りつけるとそこを中心に地面が抉れ衝撃波が発生する。
(・・・・これは明らかにホブゴブリンの力じゃないな。と、いうことはあの枝はやはりそうか)
それを見て九郎は確信する。この歪な魔物の発生の元凶を。九郎が倒すべき敵を。そして目の前の兵隊の倒し方を。
「どのくらい進んでいるかにもよるが・・・・簡単なのは消滅させることか」
「黒之咆哮」
黒之波動の上位互換だ。速度と破壊力が黒之波動とは比べ物にならないほど上昇している。
「やったか・・・・?」
やっていた。
(どうやらまだ完全に定着していたわけではないようだな。もっと進行していればあの程度では倒せなかったはずだ。これは早くに発見されて幸運だったと言うべきだな)
一通り他にも同じような魔物がいないか見回ってから九郎は城に帰った。
「お前ら準備運動は終わったか」
「ああ、終わったぜ・・・・って、これ準備運動かよ」
「そうだぞ?少々目標変更だ。お前ら1週間で俺の5分の1くらいの強さにはなれ」
「はっ!?無理に決まってんだろ。今でも100倍くらいの差があんじゃねーのか」
「これから戦うべき敵は強いぞ。ま、お前らが戦うのはその兵隊だがな」
「よっしゃ!やってやろうじゃねぇか!!」
こうして無茶ぶり修行は始まるのだ。