遊び
「そういや九郎さん、剣球って知ってる?」
ある日の昼下がり、ブレンダがこんなことを言った。
「いや、知らんな。それは何なのだ?」
ゼクシアが答える。
「最近城下町で流行ってる遊びでな、木剣を使って小さな球を打ち合う遊びなんだ。ある程度の広さのあるコートの真ん中にネットを張ってその両側で打ち合うんだが単純だけど結構楽しいって聞くぜ」
「ほう、それは興味が湧くな。うちにそのコートを作ってやってみようではないか」
「楽しそうですね。九郎さんの相手ができるのは多分レオさんだけですね。ゼクシアさんじゃスピードが足りなそうです」
「ちょっ・・・・シリアちゃんの言葉がおっさんの胸にざっくざく刺さるよ」
「ま、基本スペックの差ってやつだな」
「とにかくとっととコートを作るぞ!!」
その日のうちに業者を呼びコート造りは終了した。
そして翌日、
「さぁ、剣球をやるぞ!」
「わぁ~、張り切ってるね~」
「んー、そりゃ大魔王なんだし今まで遊びとかやってこなかったんじゃないかねぇ」
「あんな張り切った九郎の相手しなきゃいけねぇのかよ・・・・。遊びで死ぬかもよ、俺」
剣球は簡単に言ってしまうとテニスを木剣でやるようなものだ。違いといえば球に弾力があることだろうか。
「はぁっ!・・・・は?」
九郎がサーブをした・・・・はずだった。のだが、あまりのスピードに球が切れてしまっていた。木剣ももう1度振ったら壊れてしまいそうだ。
「ふむ、こんな落とし穴があったとはな」
「まさか九郎さんのスペックに道具がついてこられないなんて・・・・」
「んー、これじゃ剣球はできねぇな」
「ならばこうだ」
球と剣が妖しく輝く。
「何やったんだ?」
「俺の魔力を込めてみたのだ。これでちょっとやそっとでは壊れないぞ」
「ちょっとやそっとどころじゃないことに耐えれるだろうな」
「あのー、コートやネットにも同じことをしないといけないと思います」
「シリアの言う通りだな。多分あれを見た感じだとコートがボコボコになっちまうだろ」
コートとネットにも魔力を込めてからやっと剣球がスタートする。
「わぁ、すごいね~。全然見えないよ」
「2人ともどんなスピードで移動してるんでしょうね。レオさんはもう限界まで出してると思うのですが」
「九郎は高笑いしてやがるなー。楽しいのはいいけどあれじゃ本当にレオが死ぬな」
観戦している3人は常識外の激しい球技に驚きを隠せない。2人も球も衝撃波が発生するようなスピードで動いているのだ。当然の反応だろう。
「はぁ・・・・ちょっと、もう無理だって・・・・」
「まだ1点たりとも入っていないではないか。こんなことでバテていてはいつまで経っても俺には勝てんぞぉ!」
そう、開始から4分ほど経ってなお一切点が入ってないのだ。試合が終わるより先にレオが倒れてしまうだろう。
「ハイになってやがるな。だが、こういう技もあるんだぜ」
強打すると見せかけておいてネット間際に球を落とす。ドロップボレーだ。
九郎はそれをいとも簡単に拾いレオのコートに返す。
「はっ!?」
返ってくるとは思っていなかったレオは反応できずに得点を決められる。
「ちょい、シリアいいか?フレッシュ頼むわ」
「フレッシュ」
「あ、足りてないな。ははっ、遊びでここまで消耗するとはなー」
「ハイフレッシュ」
「あの程度でそんなザマか。シリアよ、試合中適宜レオの回復を頼めるか?」
「もちろんですっ!」
次の日レオは全身筋肉痛になったということだ。