自称勇者
九郎が配下の魔物を使い、自分で破壊した城を造り直した頃だった。九郎へ挑戦したいという者が現れた。
「俺は勇者ファルッサだ。大魔王九郎を倒しにきた」
「勇者だぁ?この俺を差し置いて勇者とはいい度胸じゃねぇか。九郎が出るまでもない。この俺が相手してやろう」
ファルッサは黒いベストとスラックスを着ていて見た目は全くもって勇者という感じではなかった。
対するレオは青の鎧にサークレットというまさに勇者という見た目だ。
「んじゃ、私が審判やるよ。殺しちゃダメだからねー、レオ」
ブレンダがそう言い勇者と自称勇者は戦闘の準備を始める。
「準備はいい?始めっ!!」
レオが駆け出し剣を振り被る。ファルッサは棒立ちで薄ら笑いを浮かべている。
レオの剣が当たる瞬間ファルッサの姿が消えた。
「どういうことだ?」
ファルッサは最初にレオが立っていた位置にいる。
「空間魔法さ。勇者なんだからこんくらい使えても当然だろ?」
「なるほど、なかなか面白いじゃねぇか」
「勇気の輝き」
レオは眩い光を纏い身体能力を底上げする。
「それなら俺も使えるぜ」
ファルッサも全く同じことをする。そしてどこからか取り出した紙製のカード、つまりはトランプのようなものを投げる。
レオは間一髪でそれを避ける。
「飛び道具かよ。とことん厄介だな。それに自分は空間魔法で逃げ放題って・・・はぁ」
「もう俺に勝てる気がしなくなったか?じゃあとっとと終わらせてやろう」
両手に合計50枚以上のカードを持ち一気に投げる。さらに空間魔法を駆使し全方位からカードを投げ続ける。
「そりゃねぇよ。ま、無事だがな」
「どうやった?」
「全部斬った。ただそれだけさ、お前が何者かは知らんが本物の勇者を舐めない方がいい」
「俺はお前が勇者だと知っているがお前は俺が何者か知らんだろう?舐めない方がいいというのはこちらのセリフだ」
レオの首から頭が離れた。
「え・・・?レオさん?」
勇者一行の顔が恐怖に染まる。
「安心しろ。あれは空間を斬っただけだ。血が出てないだろう。元に戻すことはできるぞ。普通にはめるだけで元通りだ。それにしてもレオを負かすとはそれなりのようだ。俺がやろう」
「お前は討伐対象だから命を取りに行くぞ」
「やってみろ。あとみんな離れておけ」
言い終えると徐にしゃがみこむ。
「へぇ、察知して避けるか。やるじゃん」
「む、誉められるような技術ではないんだがな。間合いに入ってきてもらえないか?攻撃できそうにない」
「そう言われて入ると思うか?とっとと終わらせてやるぜ!!」
「全く、貴様は俺を角切りにでもするつもりか?全方位からあれだけ空間を切り裂くとは」
「で、なんでお前は切れてないんだ?」
九郎の周りには薄くオーラの幕が張られている。闘気武装、オーラを鎧のように固め防御に使うだけでなくあらゆる異能を無効化するという九郎の能力の1つだ。これが九郎が大魔王たる所以でもある。
「無効化しただけだ。能力に頼っていては俺には勝てん。まだ続けるか?」
「いや、いい。俺は去るよ。殺されるのが怖いからな」
「殺す気はないが去りたいならそうするといい。エクテリア王国で暮らしてくれても構わんのだぞ」
「いや、いいって」
こうして自称勇者のファルッサは去っていったが結局彼がどうして勇者の力を使えたのかは謎のままだ。