小さな挑戦者
九郎がエクテリア王国を統治し初めてから数日、今日は勇者一行とともに城下町の視察に来ていた。
「九郎、今度はあっちの方行ってみようぜ」
最初は九郎様と呼んでいたが九郎が普通に呼んでくれと言ったことで勇者と戦士は九郎のことを呼び捨てしていた。
「うむ、あっちの方は民家が集合しているな。今まで通ってきたのは市場だったから活気があったが住宅地はどうなんだろう」
「住宅地も似たようなものだとは思うけど若干貧しい人とかがいて暗い感じもするなー」
魔法使いのブレンダが言う。
「なるほど、経済についてもこの国は改善が必要なのだな。人々は思った以上に今の俺の統治に順応しているようで驚いたが今はまだ法は今までのものをとりあえず続行しているだけだからな」
「あー、そりゃ前の王は結構ひどかったからなー。政権を武力で勝ち取った九郎は期待もされてるだろ。だがまだあれを支持しているやつらもいるし暗殺なんかにゃ注意しなきゃいけねぇと思うぜ?」
「ゼクシアさんの言う通りですね。まぁ九郎さんなら大丈夫だと思いますけど」
巫女のシリアが言う。ゼクシアとは戦士のことだ。
「まぁな。別に死んでも生き返れるし」
「回復役泣かせですよその能力は。と、言っても見せてもらったことはないですが」
シリアが言っているのは九郎の能力の1つ永久成長のことだ。絶命時にその少し前の時間に記憶を持ち越して生き返ることができる能力だ。
住宅地に入ると道に立っていた人々は九郎にひれ伏す。
「俺の前では立っていていいぞ。人間と違って礼儀などあまり気にはしないからな」
これは市場でも言ったことだ。おそらくは前の王が城下町に来た時の習慣を九郎に当てはめているのだ。
小道から小さな影が飛び出してくる。その影は手に握った木の棒で勇者、レオを殴りつける。
「なんでこんなやつの言うこと聞いてんだよ!お前は勇者だろ!!」
泣き叫びレオを殴るそれは10才くらいの子供だった。
「やめなさい!...どうか、お許しを」
怯えきった表情で子供を制止しながら許しを乞うのは彼の母親だろう。
「どうだ、レオ?お前は許してもいいと思うか」
「別に痛くも何ともないからな。許していいと思うが」
「では許そう。だがな小僧、レオには謝れよ?痛くないといってもお前はレオを殴ったんだ」
「何でお前の言うことを聞かなきゃいけないんだよ」
「今まで国を守ってくれたレオを殴るなんて恩知らずな真似をしたんだ。謝って当然だろう」
「大魔王様の言う通りだよ。ほら謝りなさい」
「ごめんなさい、勇者様」
母親に促されて少年は頭を下げる。
「ふむ、やはり俺に敵意を持たれているようだな。しかし話を聞くかぎりあの王はそんなに支持されるような人物には思えないのだが、どうしてだろうか」
「人柄はクズだったけど表向きはいい王を演出してたからね。ただ裏で圧力かけられた人も多いからそれで九郎さんが王になったとき喜んだ人もいたんだよ。」
無事にその日の視察は終わった。