1
テスト明けのテンションのままにガーデンパーティーに参加してみたら、婚約者が美女と……二人は動揺してその場を去ろうとするのですが。
テスト明け。それは学生にとっては、甘美な響きである。
偏差値はそんなに高くはないが、名家・良家のご令嬢が通っている我が校、要するに富裕層のお嬢様学校として世間に知られている我が名門女子高も例外なく野暮ったい、テストなんて習慣があるのだ。
したがって、昨夜まで普段あまりしない勉強なんてものを必死にしてテスト勉強に明け暮れていた。
朝も夜も関係なく、教科書とにらめっこをし食事も皆とは別に簡単に食べられるものにしてもらう。
なにせ、家族と一緒だと作法に厳しい、祖母の目があるので急いで食べることは不可である。
テスト期間中だけは、泣き落として特別な許可をもらった。おにぎりやサンドイッチを中心にした、素早く手軽に食べられる食事をして少しの時間でも勉強をした。
おかげさまで、今回のテストは我ながら、満足できる出来栄えだと自負している。
両親はそんなに無理することないのに、とは言ってくれるが我が家は親友レイナの家みたいな大富豪ではない。と、いうことは高校を卒業したら私は進学か就職するかを選ばざるを得ない。
進学するにしても、就職するにしても良い成績を残しておくのに越したことはないはず。
そう、言い切った私に、母がくれたのは、どこか生暖かいような複雑そうな眼差し。
母が、何を言いたいのかをかなり正確にわかるようになったのは、最近のこと。
就職は多分、できない。あの草食系に見せかけて、実は腹黒系の猛獣が婚約者になった時から。
では、進学はどうかといったら、これも婚約者の介入が入るだろうとの考え。
これを、どちらも母ははっきりとした言葉ではないのだが、私に伝えてきたのである。
母がすごいのか。わかってしまった私もすごいのか。
わかっていても何かせずにはいられない自分は小物だなとは理解している。
そして、テスト明けである。この開放感はたまらない。明日からは連休に入るので、ずっと読みたかった本を読むのもよいし、親友のレイナと一緒にケーキ・バイキングで憂さを晴らすのも一興。
正直、私は浮かれていた。だが、それはクラスの全員が同じだった。先生もホームルームの時間に簡単にあまりハメを外さないようにと注意すると終了にしてくれた。
その瞬間は、本当にクラスが一心同体になった気がする。
「「「はい、先生。私達一同は我が校の名誉と気品に恥じぬ行動をとることを心がけます。ごきげんよう」」」
まあ、キレイに声もそろって大合唱のようになったのは偶然か必然か。
とにかく、先生の苦笑いとともにクラスメイト達はさっそく、これからの時間をどう過ごすかを相談するために動き出す。
「セリ~~万里香嬢の家で皆で遊ばないかって。どうする~~」
レイナは、どうすると言いながらもすでに万里香嬢の家に行く気が見え見えだった。
万里香嬢は、大女優の母と有名な映画監督の父を持つ、学校でもベスト3に入る美少女である。
富裕層のお嬢様は、見た目も重要だとの教えのとおり、自分磨きを忘れない。
したがって、この学校では、可愛い子や美少女がやたら多い。その学校でのトップの三人に入れられるということは、超絶美少女だ。
しかも、美少女であることを鼻にかけることもなく、気さくでおおらかなので友人がやたら多く、何かあるとパーティーを開く。テスト明けにパーティーを開くことは、クラス中に知れ渡っている。
母親や父親の仕事関係で知り合った芸能界とも交流があり、パーティーにはよく、今をときめくアイドルや俳優などもきたりする。
万里香嬢の開く、パーティーはいつも人気が高い。本人の魅力に加えて人気の高い芸能人と知り合えるかもという理由で。
正直に言うと、参加したかったが、婚約者殿との約束を破るのが怖かった。
婚約者である、恭太郎との参加するパーティーならば時間制限はない。
だが、恭太郎のいない場所でのパーティーならば、門限はなんと、六時である。
そんなパーティーはありえない。そして、レイナも確か……。
「あら、セリってば、不参加なの?え?時間?ああ、それなら大丈夫。今日のパーティーは昼間にやるガーデンパーティーなのよ!」と、万里香嬢までやってきて誘ってくれたのだが。
「そうなの!ね!!昼間なら門限に引っかかることなしに楽しむことが出来るでしょ」
なるほど、私と同様の時間制限を設けられているレイナがその気になるわけよね。
「そうそ。今日のゲストは、お父様の映画に出演することになった、新垣大輔なのよ!セリ!!ファンでしょ」
「行かせていただくわっ!!」
少し声が上ずってしまった。恥ずかしいが大がつくほどのファンである。
新垣大輔は最近になって、人気急上昇中の若手俳優だ。正統派の美形ではなく、どちらかというとクセがある色男かも。
最も、私がファンになったのは顔ではない。
こんなに人気が出る前に主人公の幼馴染みという役で出ていた時のこと。新垣大輔は、幼馴染みが夢に敗れて挫折しそうになり、号泣しているところを慰める役だった。
私には泣き崩れ、号泣している主人公よりも新垣大輔の背中に目を奪われる。
それくらい色っぽい背中だったのだ。多分そう感じたのは私だけではなく、だからこそ人気が急上昇なのだろう。
「じゃあ、二時頃に私の家にいらっしゃってね」
レイナと私は興奮も冷めやらぬうちに、着ていく服の相談に入る。
「ガーデンパーティーって、どんなもの着て行けば良いの?」
「ウチのママならそういうことに詳しく知っていると思うんだ。だからセリ、ウチで相談しながら決めない?」
「ええっレイナの家へっ!だってあそこには恐怖の大魔王がっ!!」
「ぷっ!それって恭太郎兄さんのこと?ピッタリ~~アハハ」
レイナが面白そうに笑ってくれたけど、私には笑い事じゃあなかった。あの日以来、レイナの家には行ってもいないし。恭太郎にも会っていない。
「ああ、大丈夫。恭太郎兄さんと雅文さんね、最近忙しそうであんまり帰ってこないのよね~~」
ね、だから鬼の居ぬ間のなんとやらで楽しむことにしようよと言われてしまうと、私も楽しいことや面白いことが大好きなのでその気になっちゃった。
「そうなんだ。忙しいんだ……恭太郎と雅文さん」雅文さんは、レイナの婚約者だ。あの鬼畜な恭太郎の親友にして幼馴染みらしい。
ふ~~ん、忙しいんだ。恭太郎……体、大丈夫かな。
レイナの家は、以前と同じく、豪華にして勇壮な佇まいだった。
ここの敷地面積って、一体……。考えるのは、よそう。庶民には関係ないし、よくわからない。
レイナのお母様の紹子様は、元華族という家柄の令嬢でパーティーは、結婚前からかなりの数をこなしている。
どんな場所のどんなパーティーも経験済み。ガーデンパーティーに相応しい服装も知っているに違いない。
「え、ガーデンパーティー?どんな服装を……。そうねえ、お昼のパーティーってことだし」と言いながらも、すでにパーティー専用のクローゼットに入っていきながら、何点か選んでくれた。
レイナと私に選んでくれたのは、いかにも外でのパーティーに相応しく、明るい色合いのドレス。
レイナには、明るめのピンクの地に白でパイピングされた可愛らしく爽やかなドレス。私用には、オレンジ色のシフォンの生地を重ねてふわりとしたドレープがキレイなラインを作っているドレス。
どちらもそれぞれ優雅で素敵なデザイン。
おそらくは、おばさまの以前着ていたものだろうけど、古臭さもなくて手入れをきちんとしていたのもわかる。
さすがは、天下の大富豪。使用人のスペックも半端ない。
靴も、レイナと同じサイズの私は、借りることができる。
「あら、二人共、とても素敵よ。でも恭太郎と雅文さんはこのこと知っているの?」
レイナママが気になることを言ってくれたが、振り切って万里香嬢の家に行った。
万里香嬢の家の庭は、薔薇とハーブが綺麗に咲き誇っていて一見の価値がある。
それがクラスメイトの一致した意見だった。私もそう思う。
レイナと二人で薔薇の鑑賞をしていたら、とんでもない人物を見かけた気がした。
「レイナ、私……寝不足のせいかしら?恭太郎が……」
「セリ、それ多分、幻とかじゃあないと思う。私はどうやら雅文さんを見つけちゃった……」
レイナのどことなく自信なさげな声を聞いているウチに私も自信がなくなってきた。
だって、どっちの男性も婚約者をほっといてこんな所で妙齢の美女とイチャついているんだもの。
これって浮気?浮気なの?浮気されてるの?
呆然としながら二人を見ていた。




