(9)
俺たちは、やっと別れ々々になっていたサンダーと、再開することができた。
サンダーに連れられて、ヒョウタン湖での戦闘から撤退すると、俺たちは湖から十キロほど離れた地点で野営をすることにした。
「サンダー、無事だったんだね。また会えて、ボク、嬉しいよ」
「サンダーに会えて、わたくしも嬉しゅうございます」
「サンダーさん、うち、また助けてもろたな。おおきにな」
「サンダーの旦那、再開できて、おいらも嬉しいっす」
皆、サンダーに再開できたことを喜んでいた。
「サンダー、こんな傷だらけになって……。苦労かけたっす。さ、早く修理とメンテをしてもらうっす」
俺は、サンダーにブレイブ・ローダーで修理することを促した。
「勇者殿、かたじけない」
サンダーは、ブレイブ・ローダーのメンテナンスユニットに近づくと、ビークルモードに変形した。ローダーの側面が開いて、各種のマニピュレータが手を伸ばす。そして、サンダーの外壁に触れたり、部品を運んだりと、修理作業が始まった。
「サンダー、修理しながらでいいから、分かっていることだけでも、ボクたちに教えてくれないかな。どうやって、あの水人間からボクたちを助けたのかを」
ミドリちゃんは、俺たちが攻略できなかった水人間を、サンダーが『どうやって切り抜けたか』を知りたがっているようだった。
「そんなん、修理が終わってからでもええやん」
万事が出たとこ勝負のシノブちゃんは、エロい水着姿のまま、そう言っていた。
「そうかも知れないけど……。ボクらには、重要な情報だよ。水中探査機のデータを見るときに、分かっていることは多いに越したことはない」
対する白のマイクロビキニ姿も、負けてはいない。ミドリちゃんは、理論派だからな。
「魔法師殿の言う通りでござる。音声回路の修理に入る前に、拙者も伝えておかなくては、と思っていたところでござる」
サンダーも、ミドリちゃんと同じ意見のようだった。
「分かったっす。無理はしなくていいから、できるところだけ、話して欲しいっす」
「心得た。あの水人間は、前に遭遇した空に浮かんでいた『クラゲ状魔獣』の端末なのでござる」
「端末? いったい、どういうことだい、サンダー?」
ミドリちゃんが、詳しいことを訊き出そうとした。
「あの『クラゲ魔獣』の触手が延びて、その先端が人間の形となったモノが水人間なのでござる。水人間と『クラゲ魔獣』は、触手を通じて繋がっているのでござる。その繋がりを断たぬ限り、水人間はどんなダメージを負っても、触手を通じて水を補給されて、何度でも甦るのでござる」
「て言うことは……。えーと、その繋がっとる触手っちゅうもんを切り離せば、ええってことかいな?」
シノブちゃんは、思いついた弱点について、問い正した。
「くの一殿の仰る通りでござる。拙者は、先程の戦いで、水人間に繋がっている触手を切り離したのでござる。その為、勇者殿たちを包み込んでいた水人間は、コントロールを失って、元の水の塊に戻ったのでござる。しかし、これも一時的なものでござる。『クラゲ魔獣』が生きていて、水が充分に有りさえすれば、触手の先端から、水人間はいくらでも発生されるのでござるよ。思うに、これまで戦ってきた相手の中では、特に厄介な相手でござるな」
それが、サンダーの説明する水人間の正体だった。
「そうか、根本的には、湖の中の本体を倒す必要があるんだな」
俺は、攻略方法を悟った。
「勇者殿の仰る通りでござる」
「じゃぁ、『クラゲ魔獣』を倒すには……。やっぱりこの間の時みたいに、中心核を壊せばいいんだね」
ミドリちゃんも、前回のことを思い出したかのように、そう言った。
「そうだと思うでござる」
そうだったのか。初めて水人間と遭遇したときも、上空の『クラゲ魔獣』が触手を伸ばして水人間を操っていたのか。
「サンダー、ありがとうっす。それくらい分かれば、後は探査機の送ってきたデータで、確認できるっす。サンダー、無理を言って、済まなかったっす。後は俺たちに任せて、ゆっくり修理してて欲しいっす」
「かたじけない」
サンダーは、そう返事をすると、マニピュレーターが再び<ガチャガチャ>と動き始めた。
俺は振り返ると、残っている皆に号令をかけた。
「じゃあ、俺たちはブレイブ・ローダーで、探査機のデータ解析をするっす」
「分かったよ、勇者クン」
「勇者様、機械の操作はお任せ下さいぃ」
「分かったで。じゃあ、サンダーさんは、ゆっくり修理をしてなはれ。おい、流星。何かあった時のために、お前はサンダーさんの側についててや」
「分かったぜ、姐御」
そうして、俺たちは、サンダーと流星号を外に残すと、ブレイブ・ローダーに乗り込んだ。
そして、俺たちは、水中探査機から送られてきたデータとにらめっこをしていた。
「勇者様。やはり、サンダーの言った通りです。岸辺近くの水中に、『クラゲ魔獣』の映像が映っています」
巫女ちゃんが、探査機から送られてきた映像を再生して見せてくれた。
「勇者様、探査機のセンサーには、『クラゲ状魔獣』と同等のエコーが、四つも確認されていますわ」
「何やそれ! ほな、あんな質の悪いのが、四体もおるんかいな。厄介やでぇ、これは」
シノブちゃんは、水人間に散々な目にあったので、『クラゲ魔獣』には閉口しているようだった。
「勇者様、それよりも問題なのは、こっちの映像です。不鮮明ですが、竜型の魔獣の影が映っています」
俺は、切り替わった画面を見て、首を傾げた。
「巫女ちゃん、拡大して、画像をイメージング処理して鮮明にして欲しいっす」
「分かりましたわ、勇者様」
巫女ちゃんの操作で、さっきよりも魔獣の画像が鮮明になった。
「『三首の竜』のように見えるっすね」
「勇者君の持っていた「異世界魔獣大全」によると、水棲で首が三つもある竜型魔獣は、一つしか載っていない。『ハイドラ』と名付けられているけど、三つの首からそれぞれ、火炎、氷雪、衝撃波を吐くらしいね。大きさも、体長約七十メートルと、巨大サイズだ。多分、こいつが、ここのラスボスだと思うよ」
ミドリちゃんは、手にした魔獣大全を読みながら教えてくれた。
「たとえ、『ハイドラ』が本命でも、まずは前衛の『クラゲ魔獣』を何とかしないと、島へ渡ることも出来ないっすね。それに、島に渡れたとしても、回りから集中攻撃されるっす。これは、作戦を立てるのもかなり厄介っすね」
俺は腕を組んで考え込んでしまった。
「取り敢えず、『クラゲ魔獣』の攻略は、ボクに任せてくれないかな。水系の攻撃魔法で、試してみたいのがあるんだ。それに、ボクなら泡の魔法で水中戦も出来るからね」
ミドリちゃんは、対策に自信があるようだったが、俺は逆に心配になった。
「いくらミドリちゃんでも、一人に任せるのは危険すぎるっす。水中でもサポート出来る人員が必要っすよ」
「でも、他には水中戦が出来る人員が、いないじゃないか」
ミドリちゃんが反論したとき、突然にスピーカーから声が聞こえた。
<魔法師の姐御。おいらと姐御のコンビで、水中戦のサポートをさせて欲しいっす。おいら、今、サンダーの旦那の助言で、改造をしてるところっす。姐御が水中で活動できる、アクアラングのような装備を追加してるっす>
「ほんまか、流星。でかした! そんなら、うちらもさっきの雪辱戦がでけるな。ほんま、頼りにしてるわぁ」
<任せてくれ、姐御。もう、姐御に恥かかせるような真似は、させねぇぜ>
「これで『クラゲ魔獣』対策は、魔法師さんとうちらでやれるな」
それはそうだが、果たしてぶっつけ本番で大丈夫なんだろうか……。
「ナルホドね。これで、勇者クンも安心だろ。お願いだから、ボクらに任せてくれないかい」
ミドリちゃんも、水人間に自分の攻撃魔法が通じなかったのを、気にしているのかも知れない。
「その代わり、勇者クンには、ゴーレムの相手や水人間の注意を逸らすのをやって欲しいんだけど……」
四体の魔獣で手一杯になるのだろう。ミドリちゃんは、済まなさそうに俺にお願いしてきた。
「そのくらいは良いっすが……、二人だけで『クラゲ魔獣』四体を相手に出来るっすか? 一人当たり二体の魔獣を受け持つことになるっすよ。それに、何時『ハイドラ』が出てくるかも分からないんすよ」
チェックまでの道筋がたったとしても、チェックメイトではない。ラスボスを倒さなくちゃならないんだ。
「それはそれで考えてあるよ。ブレイブ・ローダーのプラズマアローは水中じゃ使えないから、『ハイドラ』は、湖から引きずり出して戦うのがベストだね。巫女くんには、『ハイドラ』をブレイブ・ローダーで引っ張り出す操作をして欲しいな」
「分かりました、魔法師様。それから、今、水中探査機を余分に製造しています。魔獣たちの位置情報は、わたくしがお知らせしますね」
「頼んだよ巫女クン。頼りにしてるからね」
「はいっ」
巫女ちゃんは、魔法力が無くなって、自分に出来ることが少なくなってきたから、返って頼りにされるのが嬉しいらしい。
まあ、ミドリちゃんもシノブちゃんも、言い出したら俺の言うことなんて聞かないよね。今更とやかく言っても、しようがない。
「それじゃあ、『クラゲ魔獣』との水中戦は、ミドリちゃんとシノブちゃんに任すっす。でも、危ないと思ったら、すぐに水中から出るっすよ。これは、俺からの命令でもあるっすからね」
「分かってるよ、リーダー。その代わり、陸上と『ハイドラ』の始末は任せたからね」
「了解っす。サンダー、修理は、どのくらいかかりそうっすか?」
俺は、サンダーに修復状況を確認した。
<まだ、しばらくはかかりそうでござる。しかし、明日の朝までには、何としても間に合わせるでござる>
「無理をして、調整不良のまま出るのは良くないっす。サンダーは、俺たちの切り札っす。充分に時間をかけて、しっかり修理しておいて欲しいっす」
<心得たでござる>
「じゃあ、作戦開始は、明日の正午にするっすよ。それまでは、各自待機っす」
「分かったで、勇者さん。さて、うちは流星と、コンビネーションの相談でもしてこよか」
そう言ってシノブちゃんは、ブレイブ・ローダーから飛び出していった。
さて、俺も外で素振りでもするか。どっちにしても、明日は雪辱戦だ。ちょっと、緊張してきたっすが、頑張るぞ。