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(8)

 今日、俺たちは、次の攻略ポイントである、ヒョウタン湖の北湖に向かっていた。


「北湖は、魔獣が出るとのことで、湖岸から二キロの範囲は立ち入り禁止で、バリケードで囲んであるっす。たまに警備員も巡回しているらしいっすから、慎重にしないとならないっすね」

「バリケードくらい、このブレイブ・ローダーで、踏み潰して行ったらええねん」

 シノブちゃんがそう言った。この人は、何でいつも物事を乱暴な方向へ向けようとするんだ。

「シノブちゃん、さすがにそれは乱暴すぎるっすよ。見つかったら、警備がますます厳しくなるっすよ」

「そうだよ、くの一くん。ブレイブ・ローダーは飛べるんだから、空から入り込めばいいだけだろう」

 いや、ミドリちゃん。それはそれで、大騒ぎになるよね。まぁ、そう簡単に事が進めば、誰も苦労はしないんだけど。

「取り敢えず、リゾート地の南湖から出来るだけ離れた場所に行って、湖の偵察をするっす」

 俺たちは、ブレイブ・ローダーを湖の北端へ向け進路をとった。



「全然人気の無いところっすねぇ」

「仕方ないよ。魔獣・妖獣の闊歩する異世界(・・・)でも、例外的に厳しい立ち入り禁止の地区なんだ。ただ腕試しをしたいだけのヤカラなら、もっと南湖に近い場所を選ぶだろうしね」

 ミドリちゃんが、そう解説してくれた。

「じゃあ、巫女(みこ)ちゃん、水中探査機を射出して欲しいっす」

「わかりました。探査機、射出します」

 ポンと音がして、射出された水中探査機が、眼前の湖に放り込まれた。

「さて、せっかくここまで来たんやから、うちらは湖岸の偵察でもしてこようかいな」

 シノブちゃんがそう言ったので、俺は後ろを振り向いた。

 ローダーから出ようとしているシノブちゃんとミドリちゃんは、水着にパーカーを羽織っただけの姿だった。

「何で、水着なの?」

「だって、敵は水棲だよ。水中戦になったら濡れちゃうじゃないか」

「せやせや。魔法師さんのゆう通りやで」

 全く、この人たちと言ったら、いつもこうなんだから。仕方がない、俺も出るか。もちろん、小竜の鱗の鎧と勇者の木刀を身に付ける。そして忘れちゃいけない、ボロ布──じゃなくって魔法のローブ。

「巫女ちゃん、俺も出るっす。巫女ちゃんは、ブレイブ・ローダーに残って探査を続けて欲しいっす」

「分かりました。勇者様、お気をつけを」

「おい、流星、お前も来い。いざという時は、頼りにしとるからな」

「がってんだ、姐御」

 こうして、俺たちは巫女ちゃんをローダーに残して、湖岸の探索に出た。

「思ったより寒くないね。むしろ、こっちの方が日射しが強いくらいだよ」

 ミドリちゃんは、そう言って羽織っていたパーカーをパタパタひらめかした。日射しはお肌の大敵なんだぞ。


 俺たちが岸辺に近づいて行くと、周りを妙な気配が取り巻いているような気がした。

「ちょっと変やないか」

 シノブちゃんが、何か気がついたらしい。野生の勘か?

 俺たちが歩みを止めて辺りを見渡していると、岸辺のあちらこちらで土が盛り上がって、何者かが這い出てきた。そいつは、土や砂をまとった人型をしたモノだった。

「何や? ゾンビかいな」

「いや、ゾンビじゃないようっす。額のところに何か文字のようなモノが書いてあるっす。こいつら、土のゴーレムっす!」

 俺は腰の木刀を抜いて、臨戦状態に入った。

「へ、へへへへ。土のゴーレムとは、このくの一のシノブさんも舐められたなぁ。おい、流星、うちらで粉々にしてやろか」

「がってんだ、姐御」

 俺が待ったをかける暇もなく、シノブちゃんはロボモードの流星号と一緒に、ゴーレムの群れの中に突っ込んで行った。

「うりゃぁ、くの一 メガトンパンチ!」

 シノブちゃんの拳で、ゴーレムの一体が上半身を粉微塵に吹き飛ばされた。流星号も負けていない。高くジャンプすると、必殺の蹴りを繰り出す。

「とう、流星キーック!」

 また、一体のゴーレムが粉々になる。

「どや、うちらの必殺技は」

 うんうん、スゴいよ。でも、普通の人にはしないでね。

「この調子でガンガン行くかぁ、……何ぃ」

 シノブちゃんが驚いたのも無理はない。さっき、シノブちゃんと流星号に壊されたゴーレムが、回りの土を集めて、見る間に元の姿を取り戻したからだ。

「こりゃ厄介やなぁ。倒しても蘇るんかい」

「姐御、どうしやす?」

 今さら言っても、二人ともゴーレムの群れの真っ只中である。しかし、彼女の口調は、如何にも楽しそうに聞こえた。

「くの一くん、こいつらがゴーレムだったら、額の『魔法文字』を壊せば倒せるはずだよ。食らえ、「インパクター」」

 ミドリちゃんの衝撃魔法が、手近なゴーレムの額を吹き飛ばした。すると、たちまち人型の土は、元の土の山と代わり果てた。

「わかった。額やな」

「弱点さえ分かれば、こっちのもんすよ。来たぜ、姐御」

「よし、行くで流星」

 シノブちゃんと流星号は、再びゴーレムに挑んでいった。

「必殺、くの一 空手チョップ」

 シノブちゃんの手刀で、土のゴーレムの額が頭ごと身体にめり込んだ。<グッシャ>とこちらまで音が聞こえるような気がしたが、次の瞬間には、ゴーレムは土に還っていた。

 事、力技となったら、シノブちゃんの右に出る者はいない。見ている俺は、ゴーレムの方が哀れに思えるくらいだった。

 俺も負けずに戦ったのだが、やっとこさ三体を土に戻したくらいだった。ミドリちゃんでさえ、せいぜい五体ほど。それくらい、シノブちゃんと流星号の格闘能力は高かったということである。


「は、はは、ははは、ははははははぁ。もう、うちと戦えるモンはおらんのかい。もっと出てこいや。いくらでも潰してやるさかい」


 これを見ていた俺は、「この人の敵でなくて良かった」と、心底思った。それと、「この人はちゃんと飼っておかないといけない」と言うことを肝に銘じた。絶対に野生に戻してはいけない、歩く凶器である。

 俺がそう思っていると、今度はさっきとは違う気配が近づくのを感じた。どこから? 下からだ。だが、地下ではない。ならば、湖底からか?


 俺たちは、気がつくと、湖面に目を向けていた。

 どのくらい、そうしていたろうか。しばらくすると、水面に頭のようなモノが何個も浮かび上がってきた。そして、それは見る間に人の形となって、湖岸を目指して押し寄せて来たのである。

「なんや、新手かぁ。いっくらでも来いやぁ。うちが粉微塵にしてやるさかいに」

 シノブちゃんは闘争本能に火がついて、もうどうにもならない状態である。今なら、巨人ゴーレムでも倒せるかもしれない。

 最初の一体が岸辺に上がった。それを待っていたというように、シノブちゃんが襲いかかる。だが、今度は土のゴーレムのようにはいかなかった。シノブちゃんに砕かれた上半身は、ブヨブヨとした下半身から生えるように再生されていった。

「なんやこいつ、全然手応えがないやんか」

 その言葉で、俺はサンダーの言ってた事を思い出した。


──手応えがない、水人間。


「水人間だ。くの一くん、一旦下がろう」

 ミドリちゃんが、慌てて叫んだ。だが、それも一足遅かった。シノブちゃんは、水人間に抱え込まれると、その体内に吸い込まれて行った。

 もし水人間が、その名の通り水でできているとしたら……。取り込まれたら息ができない。まずいぞこれは。

「姐御ぉ!」

 流星号は、シノブちゃんを水人間の中から強引に引っ張り出すと、彼女を抱いて湖岸から遠ざかった。

「姐御、大丈夫っすか」

「流星か。助かったで。おおきに」

 今度のヤツは、力づくでは何とかならないのか。

「ボクがやってみる。「フレアバーン」」

 水人間の一体が、ミドリちゃんの火炎攻撃で全身を蒸気にされた。しかし、その個体も、みるみるうちに何処かから水を補給されて元の姿を取り戻した。

「くそっ。これならどうだ。「モルブレン」、分子分解だ」

 しかし、分子にまで分解されても、水人間は、またどこからか水を得て再生されるのである。

「ならば「ブリーザ」、冷凍したらどうだ」

 ミドリちゃんの冷凍魔法が水人間を氷付けにした。その()人間は、そのままひび割れて粉々になった。しかし、またどこからともなく水を補給されて、元の姿を取り戻すのである。

「こいつらに弱点は無いのか」

 俺たちは、いつしか焦り始めていた。こちらの攻撃が効かない。いや、効いてはいるのだが、柳に風と受けながされているのだ。これは、圧倒的な力を感じた、巨人ゴーレムを相手にするよりも厄介だ。

 俺たちは、次第に何をされても復活し、ゆるゆると近づいてくる水人間に恐怖を感じていた。精神的に追い込まれている。これはいけない。

「シノブちゃん、ミドリちゃん、一旦引き上げるっす。水人間は今の俺たちじゃ、倒せないっす」

 俺は、リーダーとしての判断を下した。しかし、シノブちゃんは納得がいかなかったようだ。

「うちが……、このうちが、敵に背中を見せられへんわ。絶対、ぶっ潰したる」

 そう言うと、水人間の群れに自ら突っ込んで行ったのだ。

「ダメっす、シノブちゃん。戻るっす」

 俺の言葉も届かないのか、シノブちゃんは水人間に戦いを挑み、再びその体内に囚われてしまった。

「シノブちゃん」

 俺は、囚われたシノブちゃんを助けようと、彼女を取り込んだ水人間に挑んでいった。だが健闘も虚しく、俺もまた水人間の体内に囚われてしまった。ミドリちゃんもだ。

 うぐ、息ができない。これで、俺も……、もうお仕舞いなのか? いや、そんなことはさせない。俺が、この異世界で最後の勇者になると、誓ったじゃないか。


(アマテラスよ、俺に……、俺たちに力を、力を貸してくれ)


 俺は、息の出来ない水人間の中で、アマテラスに祈っていた。だが、新たな力は湧いてこなかった。本当にもうこれまでなのか……。

 俺が絶望しかけたその時、聞き覚えのある声が聞こえた。

「勇者殿ぉぉぉぉ」

 サンダー? 空耳か?

 俺がもう開かないと思っていた目を開けると、そこには、彼方から駆け寄る懐かしい姿があった。


(サ、サンダー。来てくれたのか?)


 俺の意識が遠ざかりそうになるその時、俺たちは水人間から解放された。


「ぐっ、ゲホ、ゴホ」

「勇者殿、大丈夫でござるか?」

 声のした方を見やると、そこには見間違いようのないサンダーの勇姿があった。

「サ、サンダー。無事だったんすか」

 俺は、周りを見て、ミドリちゃんやシノブちゃんが、水人間から脱出できたのを確認すると、再びサンダーを見上げた。

「勇者殿、ご無事で何よりでござる。流星号。くの一殿は、お主に任せるぞ。勇者殿と魔法師殿は、拙者がお連れする」

「さ、サンダーの旦那。来てくれたんすね。がってんだ。ほら、姐御、ここは一時退却っすよ」

 流星号が、シノブちゃんを抱き抱えてブレイブ・ローダーに走っていた。俺とミドリちゃんも、サンダーに抱えられて流星号の後を追った。

「飛べ、ブレイブ・ローダー!」

 サンダーがそう叫ぶと、ブレイブ・ローダーは主翼を開いて飛行モードになると、空中に浮き始めた。サンダーと流星号は、空に浮いたブレイブ・ローダーに飛び乗った。そうして、俺たちは、辛くも水人間の群れから脱出できたのである。



 俺は、朦朧とする意識の中で、サンダーを見上げていた。その身体(ボディー)は、あちこちに傷がつき、装甲の失われた部分さえあった。

「サンダー、やっと会えたっす」

「拙者も再会できて、嬉しいでござる。拙者のいない間、ご苦労をかけて申し訳なかったでござる」

 サンダーはそう言ったが、むしろサンダーの方が苦労したように見えた。

「済まないっす、サンダー。俺の判断ミスで、一人ぼっちにさせて。本当に済まないっす」

「いや、勇者殿。拙者こそ、勇者殿にお仕えして、『邪の者』を倒す使命を授かったのに、危ない目に会わせてしもうた。本当に申し訳ないでござる」

「そんな事は無いよ、サンダー。……いや、もうやめとこう。折角、こうして再開できたのだから。今は、その事を喜ぼう」

「分かったでござる。拙者も再会できて嬉しいでござる。勇者殿が立ち会ったように、水人間は強敵でござる。今回は悔しいながらも、一時撤退でござる。そして、次こそはアマテラス様の祭壇を取り戻すでござる」

「そうだな、サンダー。帰ってきてくれて、本当にありがとう」

 俺はそう言うと、空の上で、サンダーとの再開を喜んだのだった。




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