表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

(6)

 二日後、俺たちは、ヒョウタン湖の南側の小さな町に到着していた。

 途中、二回ほどラプトルタイプの魔獣の攻撃を受けたが、俺たちは辛くもこれを退けていた。


 俺たちは、ブレイブ・ローダーを町に隣接する駐車場に駐めると、手荷物だけを持って宿をとった。急な宿泊と駐車料金で、結構な出費だが……。まぁ、金ならいっぱいある。気にしてはいけない。

 こんな時にサンダーが居れば、町のネットに接続してチョチョイのチョイなんだが……。流星号の処理能力では、無理なんだって。シノブちゃんにはナイショだよ。という事で、流星号はバイクになってもらって、ブレイブ・ローダーの見張り番をしてもらうことにした。


 宿の大部屋──じゃなくって女子部屋に集まった俺たちは、これからの相談をしていた。目的の遺跡のあるのは、北湖の中央の小島だ。俺は、ゴムボートや救命胴衣なんかが要るなと思っていた。


「勇者くん、買い物! 買い物行こう」

「せやせや。折角町に着いたんやから、はよ見に行こ。ショッピングや、ショッピング」

 いつになくはしゃいでいるのは、ミドリちゃんとシノブちゃんである。まぁ、リゾート地に着いたんだから、当然の反応ではあるけれど。しかも、金持ってるし。


「ほら、巫女(みこ)くんも行こうよ。ボクが可愛い水着、選んであげるからさぁ」

 リゾートの意味がよく分からない巫女ちゃんを、ミドリちゃんが誘惑しようとしていた。

「いや、ここはセクシーに決めなあかんところやで。巫女さんは魔法師さんとちごうて、立派なもん付いてんやから。ホンマ、勿体ないでぇ」

 異を唱えたのはシノブちゃんだった。

「む、貧乳で悪かったな。ものには、バランスというものがあるんだぞ。そうだよな、勇者くん」

「え? へ……」

 いきなりお鉢が回ってきて、俺は狼狽えた。

「う、うん。まぁ、形は大事ってことっすね」

 俺は、取り敢えず、そう返事をしておいた。しかし、コレがまずかった。


「ほら見ろ、勇者くんもああ言ってるぞ」

 ミドリちゃんはこれ見よがしの態度で、シノブちゃんに意見した。対してシノブちゃんは、

「そうはゆうても、やっぱりオッパイは大きい方がええよな。なあ、勇者さん」

 そう言われて、俺も反射的に、

「まあ、小さいよりも大きい方が良いけれど」

 と、つい反応してしまった。それが、ミドリちゃんの怒りを買ってしまったのだ。

「勇者くん、いったい、キミはどっちの味方なんだい」

「あ、うう……」

 俺は言葉に詰まった。

「い、い、い、い、いや、男と女の関係は、む、胸の大きさだけじゃないから。いや、こうゆーことは、本人同士のフィーリング、ってのが大事じゃないかなって……」

「ムゥ」

 ミドリちゃんは、立ち上がると、あからさまに俺を見下したように見ていた。そのまま、俺の手を取って立ち上がらせると、出入り口まで引っ張っていかれた。そして、そこから廊下に追い出されると、

「ボクたちが出てくるまで、入ってくるんじゃないぞ」

 と念を押すと、目の前で<バタン>とドアを締めてしまった。


(うわっ、とうとう追い出されちまった。ど、どうなるんだろう)


 廊下に一人取り残された俺は、不安になってきた。悪いとは思ったが、ドアに耳を押し当てて、なんとか中の様子を探ろうとしていた。

 しばらくして聞こえてきたのは、シノブちゃんの悲鳴だった。

「な、な、こんなことがあってええのか。この大きさで、この張り。形も完璧やないかい。負けた。かんっぺきに負けた。さすが異世界人。巫女さん、どないしたら、こんな大きくて立派なオッパイになるんや。うちは、この極意を教えて欲しい」

 いったい、あいつらは何をやってるんだ? 廊下にまる聞こえだぞ。

「あのう、特に極意とかぁ、秘伝とかぁ、無いんですけど……」

 巫女ちゃんの困ったような声が聞こえる。そうだよなぁ。俺も、そんなもんは無いと思うが……。

「嘘や。きっと、異世界秘伝の秘密の極意があるに違いあらへん」

「くの一くん、そんなに悲観することは無いよ。ボクだって、初めて見たときの敗北感ていったら……。底知れなかったけどねぇ。は……ははは」

「み、巫女さん。どないしたら、こんな立派なオッパイになるんや。うちは、その真髄を、どうしても知りたいねん」

「え、えと……。本当に、特に極意なんて無いんですけど。思い当たるとしたら、新鮮な食材を新鮮なうちに美味しく食べる事ぐらいでしょうか」

「そんなん普通の事やんか。そうやって、美しい大きなオッパイで、勇者さんを独り占めするつもりなんや~」

「くの一くん、勇者くんはそんなことで、女の子を分け隔てしたりしないよ。あの、優柔不断さからいって、誰にも決められないんじゃないかな」

「そんなん、信じられへんわ。男は皆、オッパイ星人なんやど。犬ころやって、旨い餌の方になびいてくやないか!」


 なんて会話してるんだよ。俺は、その辺の犬と同じなのか……。


「うう、そうかも知れないが……。いや、ここは異世界だ。一夫多妻制が許されるかもしれないよ」

「グスン。そやったら、やっぱり第一夫人は巫女さんやなぁ」

「そうだね。あの勇者くんなら、最終的にそうなるよねぇ」

「いえ、勇者様なら、皆さんを分け隔てなく愛して下さいますわ」

 巫女ちゃんのそれは、「そんな事はあるはずがない」という自信を持った言い方だった。

「そこや! 巫女さんの、その良い子ちゃんなとこが、男の気を引くんや。しかも巫女さんは、それを天然でやってるんや。そんなん、うちらが敵うわけあれへんがな」


 何、この流れ。う~ん、俺って、なんか鬼畜扱いされてないか。それに、いつの間にかハーレムフラグ立ってるし。俺、異世界に来る前は、全然モテなかったのになぁ。これも異世界だから?

 でも、基本的に住人は、異世界に呼び込まれた元勇者だろう。もしかして、過酷な異世界生活と勇者を辞めるような挫折感で、感覚が狂ってきているのか?

 そういや、俺だって、平気で人を切り殺したりしてるよな。相手は悪い盗賊だったけど。わざわざ調べなかったけど、あいつらも元勇者なんだよな。

 冷静に考えたら、俺って、スゴく非道じゃねぇ。勇者だから何でも許される、ってのは変だよね。


 俺が改めて異世界生活の矛盾に悩んでると、ドアが開いた。

 そこから出てきたのは、シノブちゃんだった。肩をがっくりと落としている。

「い、いったい、……何が、あったんすか?」

 大体の流れは分かっていたが、敢えて俺は彼女に尋ねた。

 すると、シノブちゃんは半泣きで俺に抱きついてきた。いや、これは羽交い締めだ。俺の骨格が、ミシミシと悲鳴をあげる。

「勇者さんは……、勇者さんは……、うちのこと、見放したりせんよなぁ」

「ギギャーー、ゆ、許して。見放さないから、許してくださいいぃ」

 更に、俺の背骨が悲鳴を挙げ続ける。

「勇者さんには、いっぱいおるけど、うちには勇者さんだけなんや。「こうやって勇者さんに触れたらあかん」てゆわれたら、どないしたらええんか分からんねん」

「ーーーー」

 俺は、口をパクパクさせながら、瀕死の状態だった。その時、巫女ちゃんとミドリちゃんが駆けつけて来てくれた。

「くの一くん、冷静になれ! 勇者くんが、死んじゃうじゃないか」

「あっ……」

 そうして、俺は、ようやくシノブちゃんの『鯖折り』から解放されたのだった。


「大丈夫かい、勇者くん。ボクは巫女くんほど上手じゃないけど、治癒魔法を施してみよう」

 うつ伏せになって魔法治療を受けている俺の視線の向こうに、泣き崩れるシノブちゃんが居た。

「堪忍、堪忍な。うち、いっつもこうなんや。大事な人ができるたんびに、こうやってその人のこと、傷つけてしまうねん。うちが、住む町を転々としてるんは、大事な人が出来んようにするためやねん」

 何か本筋と台詞が噛み合っていないようで、突っ込みどころが満載なんですが。

 でも、シノブちゃんはシノブちゃんなりに、悩んで傷ついてるんだよなぁ。ただ、そのリアクションが極端なだけで……。

「し、シノブちゃん。俺もう大丈夫だから。そんなんで泣かないでよ」

「勇者さん、ほんまに堪忍な」

 ミドリちゃんの魔法のお陰で、だいぶん痛みも引いてきた。俺は身体を起こすと、

「シノブちゃん。もう泣かないで。俺、皆のこと好きだから。もちろん、シノブちゃんのことも大好きっすよ。だから、早く町に買い物しに行くっす」

「……勇者さん。うちのこと、許してくれるんか? うち、ガサツやし、すぐ物壊したりするし。なぁんも、ええとこ無いんやで。それでも、そう言ってくれるんか?」

「俺っちは、そんな些細なこと気にしないっす。そんな細い神経してたら、この異世界で生きて行けないっすからね」

 俺は、シノブちゃんにそう言って、「ははは」と笑って頭を掻いた。

「くの一様、落ち着きましたか? わたくしに水着を選んでくれるのでしょう。早く町に行かないと、日が落ちてしまいますわ」

「そうだよ、ボクだって、くの一くんと一緒に買い物したいもの」

「やっぱり巫女さんは、誰にでも優しいな。優しすぎて痛いくらいや。おおきにな、巫女さんも、魔法師さんも」

 ようやく、シノブちゃんも落ち着いたようだ。

「それじゃぁ、皆、準備はいいっすか。これから町へ買い出しっすよ」

『オーケイ』


 そうして俺たちは、荷物持ちの流星号を連れて、皆で町にショッピングに行った。俺は、ゴムボートの他に、替えのパンツとサロンパス©、及びバンデリン©を調達したのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ