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(5)

 俺たちは、夜中に急襲してきた機械魔獣の撃退に成功した。


 しかしこのままで、果たしてヒョウタン湖に無事にたどり着けるのだろうか。

「ボクの考えなんだけど……、これからは、当直を設けないといけないかも知れないね」

 ミドリちゃんは、そう提案した。

「『邪の者』は本気だ。こんな風に、敵の夜襲にも備えないといけない。当番制で、見張りを立てないとならないかも知れないよ」

 確かにそうかも知れない。今回は、運良く目が覚めたが、そうじゃなかったら、どうだったか。

「心配し過ぎやて、魔法師さん。そんなん、うちの流星号に任しときゃええねん。あいつ、特に寝なくてもええようやから」

 そうだった。シノブちゃんの流星号も、勇気で駆動するロボだったっけ。

「そんなのに任せておいて、大丈夫なのか? 今日の機械魔獣の襲来にしたって、全然反応してなかったぞ」

 自慢げなシノブちゃんに、ミドリちゃんが、痛いところをついた。途端に、半裸の美女が怒りを露わにした。

「そうなんか、流星! あんなこと言われて、悔しいないんか。何か言い返してみんかい!」

 怒鳴るシノブちゃんに、極細ボディの流星号は、メカの頭を掻きながら応えた。

「いやぁ、おいら、一日に三十時間くらい眠らないと、調子出ない方なんでさぁ」

「アホンダラ! お前、ロボットと違うんか。うちの面目、丸潰れやないか」

 と言う言葉が出るよりも前に、シノブちゃんの拳が流星号を殴り倒していた。

「あ、姐御、す、すんません……」

「はぁ。やっぱり、当直は必要なようだね。まぁ、さすがに今夜はもう無いと思うけど」

 ミドリちゃんは、ヤレヤレという感じで、肩をすくめていた。その隣では、パジャマの巫女(みこ)ちゃんが、苦笑いをしていた。

「そういうことでしたら、、明日の朝までは、わたくしが起きて監視をしていましょう」

 見張りの件については、彼女が立候補をした。

「でも、それじゃぁ巫女ちゃんが大変じゃないっすか」

 俺がそう言うと、巫女ちゃんは、

「わたくしは異世界の人間(・・・・・・)ですので、睡眠は短くても大丈夫なのですよ。それに、皆さんは、先程の戦闘でお疲れでしょうし」

 そ、そうなのか。異世界人、恐るべし。

「そうすか。なら、今夜は巫女ちゃんに任すとして、明日から、順番で当直をするようにしようと思うっす。それで良いっすか?」

 明日からの事を、俺から再度提案し直した。

「それが良いと、ボクも思うよ」

「せやないなぁ。流星! こら、このボロバイク。ちゃんと見張りでけへんと、今度サンダーさんに逢った時に顔向けでけへんぞ。分かっとんのか」

「す、済まねぇ、姐御。おいら、サンダーの旦那が戻るまで、頑張るっす」

 こと当直に限っては、流星号は頼りにならないようだが、人数には入れておくか。

 まぁ、今回は、しかたがない。取り敢えず、今夜は巫女ちゃんに頼むことにしよう。

「じゃぁ、済まないっすが、今夜の当直は巫女ちゃんに任すっす。申し訳ないけど、朝まで見張りをお願いするっす」

 俺は、彼女の淹れてくれたお茶をすすると、そう頼んだ。

「わたくしなら、大丈夫ですよ。皆さんはゆっくり眠って、戦いの疲れを癒してください」

 ああ、巫女ちゃん。なんて良い()なんだ。彼女が仲間で良かったぁ。俺は、彼女の善意に甘えることにした。

「済まないっす、巫女ちゃん。じゃぁ、他の皆は、よく眠ること。寝不足で、昼間に力が出ないなんてことが無いようにするっすよ」

「了解。じゃあ、お言葉に甘えて、ボクは眠らせてもらうよ。おやすみ」

 ゆったりしたシャツを羽織った魔法師が立ち上がった。裾からブルーの布地が見え隠れする。

「ほな、うちも。ホンマは流星号にお仕置きしときたいとこやが……、寝不足になってもつまらんからな。すまんな、巫女さん」

 そう言って、くの一が立ち上がった。薄いタンクトップの胸元が、タプンと揺れる。

 さて、俺も眠らせてもらうか。

「巫女ちゃん、眠くなったら、俺を起こしてくれていいっすからね。無理をしちゃ、ダメっすよ」

 彼女にそう言い聞かせて、俺も立ち上がった。

「はい、わかりました。勇者様も、ゆっくりお休みになってくださいね」

 ああ、やっぱり良い娘じゃないか。

「じゃぁ、おやすみ、巫女ちゃん」

「おやすみなさい」

 それで、俺達は巫女ちゃんを残して、ベッドへ向かった。シーツに包まる前にチラと覗いたら、シートで湯呑を握っているパジャマ姿が目に入った。朝まで何も起こらないといいな。



 翌朝、俺が目を覚ました時、もう朝食の準備ができていた。

「ふわぁ。お早うっす、巫女ちゃん。昨夜(ゆうべ)は何にも無かったすか?」

 片腕で目をこすりながら声をかけると、

「あ、勇者様。お早うございます。あれから敵も襲って来ませんでしたし、静かな夜でしたよ。夜は星がきれいで、つい外へ出て空に見とれていましたわ」

 そうだったんだ。くそう、俺も一緒に天体観測をすればよかった。

「そうっすか。寒くはなかったすか」

「毛布を持って行ったので、大丈夫でした」

 巫女ちゃんは、そう言ってニッコリと微笑んだ。だけど、目の下に隈ができてる。彼女は、ああ言ったものの、徹夜をさせたのはしんどかったのかも知れない。

 あれ? そう言えば、他の二人はどうしたんだろう。俺が、きょろきょろと周りを探していると、

「くの一様でしたら、大分前に起きて、流星号と組手の稽古をしていましてよ。魔法師様は、少し前に、「この辺りを偵察する」と言って、飛んで行ってしまわれました」

 ということは、俺が一番の寝坊助だったのか。

 慌てて身支度をしてブレイブ・ローダーから外へ出てみると、聞いた通り、シノブちゃんと流星号が組手をしていた。

「おりゃー、くの一スライディング」

「うおお、足元とは油断したぜ」

「ここから、四の字固めに入るんや。よう、覚えとき、流星」

 流星号には、予め必殺のプロレス技──もとい、くの一(・・・)の必殺技が、インプットされていると聞いていた。でも、実際に使うには、コツがあるのだろう。いつも、口では無茶苦茶言って張り倒してるけど、本当は可愛がってんだな。でも、可愛がり方が間違っているような気がしないでもないが。

「うりゃー、くの一バスター。とうりゃぁ」

 バベキという音と共に、流星号の股関節が外れた。

「あ、姐御。これ以上は、勘弁してくだせい。お、おいら、……もう限界だ」

「もう根をあげたんかい。根性なしなやつめ」

 こ、この人は、超金属のロボットを素手でぶっ壊したり、機械魔獣をラリアットで地に這わしたり……。いったい、どんな肉体をしているんだろうか。やることなすことが、人間離れしている。

「お、勇者さんやないかい。よう寝れたかい?」

 呆気にとられている俺を見つけたくの一が、声をかけてきた。

「あ、はい、お陰さんで。シノブちゃんこそ、昨日の今日で、すごい体力していますね」

 思わず丁寧語になってしまう俺。

「ハハハ、仕事がら、身体(からだ)が資本やからな。毎日の鍛練は、欠かせられへんのや。カッカッカッ」

 さすがくの一、完全な体育会系である。

「あーと、巫女ちゃんが、そろそろ朝食だと言ってるっす。それと、ミドリちゃんは、どこに行ったか分かるっすか?」

 俺は、飛んで行ったというミドリちゃんの行き先を訊いた。

「魔法師さんかい? そういや、その辺を飛び回ってたけど。もう、ぼちぼち帰ってきてもええんやがな」

 そうやってシノブちゃんと話していると、(くだん)の魔法使いが空を飛んで帰ってきた。両手にラプトルタイプの魔獣を、合わせて四匹ほどぶら下げている。

「ミドリちゃん、何かあったすか」

 その様子に、俺はそう言って訊いた。

「ああ、勇者クンか。この先を偵察してみたら、案の定こいつら(・・・・)が待ち伏せしてたよ。朝飯前の肩慣らしに、潰して来た。ついでに食料にならないかと、数匹持って帰ってきたんだ」

 もっといたのかよ。魔法が使えるとは言え、肩慣らしでこれである。こちらも負けていない。

「あーっと、巫女ちゃんが、朝食の支度をしてくれたっす。取り敢えず、ブレイブ・ローダーで、朝飯にするっ、ってのはどうすか?」

 二人の女傑に恐れをなした俺は、恐々と提案してみた。

「了解、勇者クン」

 頭の上から返事が聞こえた。

「せやな、勇者さん。ほな、流星。オマエは、しっかりメンテナンスしておきや」

「すまねぇ姐御。しっかし、さすがは姐御だ。ケツだけじゃなく、格闘技もスゴいなんて」

「流星、そのケツケツゆうのは、ええ加減にしとけ。うちが恥ずかしゅうなってくるわ」

「心配は要らねえぜ。姐御のケツは、異世界一でさぁ」

「だから、それを止めろとゆうとんのやろうが。ええ加減にしとき」

「オーケイオーケイ、分かってますぜ」

「ほんまに分かっとんかいな。まぁ、ええわ。朝飯や、朝飯」

 いつもの漫才が終わると、シノブちゃんもローダーの方へ返ってきていた。



 数分後、俺たちは、ブレイブ・ローダーで巫女ちゃんの作ってくれた朝食にかぶりついていた。今日は、イグアナのカツサンド、マカロニサラダ、それからハーブのスープである。

 ミドリちゃんの持って返ったラプトルは、血抜きをしてから捌いて冷凍する。

「ミドリちゃんは、偵察でラプトルを見つけたんすね。これから先の道のりでも、待ち伏せていると思った方がいいすかね?」

 俺は、ミドリちゃんに意見を求めた。

「そう思った方がいいと思うよ。まぁ、この前みたいな『クラゲの化け物』が出てきたとしたら、太刀打ち出来ないんだけどね」

「せやな。あんな水の塊(・・・)みたいなヤツやったら、うちの技は全く効かへんからなぁ」

 シノブちゃんは肉体派だから、力技(ちからわざ)が効かないとなると、苦戦を強いられそうだ。

「クラゲの魔獣は、気象レーダーで接近を確認できるっす。豪雨に閉じ込められる前に、上空の本体を叩けば何とかなるっすよ。それよりも俺っちが心配しているのは、敵があの『石の巨人ゴーレム』を投入してきた時っす。アレに対抗できるのは、ブレイブ・サンダーだけっすからね」

 俺は、これまでの敵を思い出しながら言った。

「巨人ゴーレムって、この前に教えてくれたヤツだよね?」

 早速、ミドリちゃんが興味を示した。

「なんや、そのゴーレムってのは?」

 シノブちゃんも、気になるらしい。

「巨人ゴーレムは、でっかい石の人形を、魔法で動くようにした物っす。大きさ的には、ブレイブ・サンダーとほとんど同じくらいあるっす。サンダー単体の攻撃でも歯がたたなくて、ブレイブ・サンダーに合体できて初めて倒せた敵っす」

 俺は、ブレイブ・サンダーの初登場の時を思い出していた。

「機械魔獣以上にデカイやつがおるんかい。そいつも、巨大ロボットみたいなやつなんか? な、な、教えてぇな、勇者さん」

 シノブちゃんは、怖いもの知らずのようだ。逆に「見てみたくて我慢できない」という様子だ。

「機械では、……無いようっすね。完全な石の人形だったっす。そういや、どうやって動いてたんだか? 不思議っすね」

「ボクも、その話は前に聞いたけど。サンダーが居ない今、そいつが出てきたらアウトだね」

 ブレイブ・サンダーが使えないとなれば、残る手段はあれ(・・)しかない。

「俺は、ブレイブ・ローダーの主砲(・・)を使わないといけないかもと思っているっす」

 その言葉で、さすがの魔法師もくの一も驚いた顔を隠せなかった。

「それって……かなりの危険が伴うんじゃあらへんかったか。主砲自体、どんくらいの威力か未知数やし」

「それに、ボクは額の魔法文字を破壊すれば、ゴーレムは動かなくなるって、聞いたぞ」

 異世界の存在自体に危険を及ぼすような『超兵器』の使用は、誰でも躊躇ってしまうものだ。

「まぁ、その通りっすが。数十メートルの高さにある魔法文字を、俺たちだけ(・・・・・)でどうやって破壊できるか? が、問題なんすよねぇ」

 それっきり、俺は黙ってしまった。

「まっ、今さら出てくるかどうか分からんヤツにビビってても、しゃあないやん。出てきたときは……、せやな、出てきたときや」

「相変わらず、くの一くんは無鉄砲だな。キミも、何か大変なことがあって、勇者を辞めたんだろう。だったら、この異世界が一筋縄でいかないくらい、分かっているだろう!」

 ミドリちゃんは、シノブちゃんにくってかかった。

「うちは『勇者みたいな堅苦しいんは、ごめんや』って言って、やって来たその日に辞めたんや。あとは勝手気ままな傭兵生活。うちには、よう似おうとる」

「そーですか。くの一くんらしいね」

「申し訳ありません。わたくしの探知能力があれば、水の魔獣も、ゴーレムも、近づく気配を察知できるのですが……」

 巫女ちゃんが、まるで自分の所為かのように、首を項垂れていた。

「巫女さんの所為じゃあらへん。あんたは、ヒョウタン湖の南側で、ゆっくり静養したらええねん。そいで、能力(ちから)が戻ったら、また頑張ったらええねん」

「シノブちゃんの言う通りっす。巫女ちゃんの所為じゃないっすよ」

 俺は、チームの中に漂い始めた不安を、何とか払拭しようとしていた。ただでさえサンダーが居ないんだ。ここでチームワークを失ったら、マジでヤバい。

「たとえ魔獣たちが襲ってきても、「機械魔獣なら口の中」、「水の魔獣だったら中心の核」、たとえ「ゴーレムでも額の魔法文字」って、弱点は分かっているんだ。皆で力を合わせれば、きっと倒せるっす」

 俺は、皆を元気づけようと、魔獣の弱点を並べた。

「そうだったね。ゴメン、チームの結束を乱すようなことを言って」

「そんなことないで、魔法師さん。魔法師さんはこれからの戦いを分析して、問題を洗い出してくれたんや。どう出てくるか分からん敵を相手にするときに、こっちが妙に不安になって結束が乱れたら、足元すくわれるからな」

 シノブちゃんの一言で、その場の空気が明るくなってきた。

「ヒョウタン湖まで行ったら、まず情報収集するねん。そんためには、ショッピングと探索やなぁ。うち、新しい水着欲しいねん。勇者さん、こうてくれへんか」

「あ、ボクだって湖で泳ぎたい。ボクにも買ってよ。いいよね、勇者クン」

 水着の美女に囲まれてリゾートかぁ。それも、いいかぁ。

「そおっすね。巫女ちゃんも水着は持ってないから、買った方がいいっすね。お金なら、懸賞金とかご褒美とか、いっぱいあるっすからね。それに……」

「それに?」

「い、いや、何でもないっす」

 俺は、三人のエロい水着姿を想像して、ヨダレを垂らしかけていた。慌てて、それを誤魔化す。

「それじゃぁ、朝御飯の片付けが終わったら出発っす。なにはともあれ、ヒョウタン湖まで行かなきゃ話にならないっすからね。じゃぁ、ごちそうさまでした」

『ごちそうさまでした』


 こうして、俺たちは、一路ヒョウタン湖に向け出発した。

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