アトリエ
木原と神津は松原雲彩のアトリエにいた。アトリエは山の中にある。松原は警察が来ているにも関わらず絵画を描いている。
「松原雲彩先生。美術商の深海卯吉さんをご存じですか」
松原は黙々と絵画を描きながら答える。
「よくわしの絵を買いにきていた男だろう。まああんな若造に売る絵画はないと追い払っていたがね。そいつがどうした」
「殺されましたよ。中林敦さんを殺した犯人と同一犯であると思い捜査しています。それで今日の午前十一時頃どこで何をしていましたか」
松原は筆を止める。
「このアトリエに籠っておった」
神津は質問をする。
「深海卯吉さんを恨んでいませんか」
松原は首を横に振る。
「いいや。あんな若造に恨みを抱いた筋合いはない」
動機はないかと木原は思った。すると松原はある証言を始める。
「思い出したことがあった。四日前中林敦がこのアトリエを訪ねて来た。また描きたくなったから木炭をくれと言っておった。理由は聞かずにやった」
木原はこの証言を聞き質問をする。
「ではその木炭はありますか」
「ある。机の上に八百屋五十六の段ボールがあるだろう。あの中にある」
神津は段ボールを開ける。そこには確かに木炭があった。
「ではしばらくこの木炭を預からせていただいてもよろしいですか」
「構わん」