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動揺 2
もう一つのアリバイという言葉に会議室はざわつく。大野は補足をした。
「もう一つのアリバイとは中林巧さんが巻き込まれた交通事故の現場に居合わせたことです。さらに彼は所轄署に通報している。所轄署に記録があるから間違いない。十分間遅刻したと小木さんは言いました。しかしこれで空白の十分間は消滅しました。それ以上に気になるのは中林巧が頭から血を流した状態で乗用車に轢かれたことです。さらに通報した月森は現場から姿を消したことです」
大野は椅子に座る。
「次に神津」
神津は立ち上がる。
「まず中林巧は犯行時刻直前に交通事故に遭い病院に搬送された。美術商の深海卯吉はパリにいた。東都中学校教師富山栄一郎は授業中。明確なアリバイがあるのはこの四人」
神津のこの発言に大野は意義を唱える。
「もう一人明確なアリバイがある人がいますよ。小川麻里子です。彼女と私は一緒に食事をしていましたから」
意外な証人に周囲はざわついた。合田はこのざわつきを鎮める。
「静かに。大野。確かなんだろうな」
「はい。その場でストーカー被害について相談されました」