中林家に集う容疑者たち 3
木原は三人の男たちの身分を聞いていく。
「まずは黒いスーツを着たあなたから」
「深海卯吉。美術商です。中林敦氏が死んだと聞いてパリから飛んできました。彼の所有する絵画を全て買い取るチャンスだと思ってね」
「あなたと中林敦さんとはどのようにして出会ったのですか。敦氏と言っていましたから友達ではありませんよね」
「ただの客ですよ。珍しい絵画を安く売っているのです。まあ貴重な絵画を買い取る為の資金援助をしてもらうという契約でしたが」
次に彼は小太りの男の話を聞く。
「富山栄一郎。東都中学に勤務する美術教師さ。敦君と正巳君は高校の同級生でね、よく美術館に行ったよ。それで卒業式の日に死んだらコレクションを全て譲るという約束をした」
神津は気になることを聞く。
「中林敦はなぜそのような約束をしたのだ」
「深刻な病気を抱えていたらしい。まあその病気は十年前の手術で完治したがね」
「では昨日の午後十二時から午後一時の間どこで何をしていましたか」
「授業中だよ」
最後に白ひげの男に話を聞いた。
「わしは今岡正巳。東都美術館の館長じゃ。先ほど栄一郎君から話は聞いたと思うがわしも同級生じゃ」
「四代天使はいつ売約したのでしょう」
「二年前じゃよ。深海卯吉の店に四代天使が入ったと聞いて行ったら既に売約された後だったのじゃ。それで売約したのが敦君だと知って譲ってくれと頼みに行った。就職に苦労していた息子の正輝を学芸員として就職させるという条件で売約した。二億円を払って受け取るのは死んだあとという条件も追加して。おかげで妻には逃げられる始末じゃ」
「では昨日の午後十二時から午後一時の間どこでなにをしていましたか」
「別の美術館におったよ。絵画の展示方法を学ぶために」