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響く心とその言葉

作者: やなせ

第一節 彼女の旋律

 普段どおりに過ぎる。これはいつもの事だから気にせずに時間が過ぎている。だけど、今は普段、普通という時間とはまた別の時間が流れている。私は少なくてもそう感じた瞬間。

第一楽章 セッション

第一節 彼女の旋律

 普段どおりに過ぎる。これはいつもの事だから気にせずに時間が過ぎている。だけど、今は普段、普通という時間とはまた別の時間が流れている。私は少なくてもそう感じた瞬間。


 学校が終わる。部活が終わる。一緒に帰っていた友達とも途中から道が分かれたから、今は一人で家に向かって帰っている。さすがに日が落ちているから住宅街は暗くて、女の子一人で歩くには本当に心もとないかもしれない・・・

 後数分で家に着く・・・けど、えっと・・・何かこの後ろに感じる人の気配は・・・

 100mぐらい歩いても同じ方向。家が見えてきた。走る。後ろに感じる気配も一緒に走る。

 恐い・・・怖い・・・

 走りながら、家の鍵を鞄から探す。・・・どうしよう、見つからない・・・。後ろの気配が近づいてくる・・・。家を通り過ぎて、近くにある友達の家に向かう・・・。

 何とか、友達の家に入れた・・・。後ろの気配は・・・


第二節 彼の鼓動

 いつも通りに終わる仕事。定時に出勤。定時に退社。これが普段の俺の行動パターン。決まった日常は慣れれば苦にはならないが、刺激があれば、それはそれで良いかもしれない。


 家に向かう、駅から家まではさほど遠くない。実家から近いからという理由で選んだ今の会社。以前は自分の情動に任せたままに就職したが、天職と適職は必ずしも等号にはならない、今の会社は平均的に良い。バランスが取れているとも言えるかもしれない。

 今の時間なら母親と妹がいるだろう、今日も夕食の準備をさせられるだろうが、朝食を作っている母親、昼の弁当を考える妹となっているのだから、必然的に俺が夕食になるだろう。父親は帰りが遅いから有無言わずに除外される。冷蔵庫の中身を思い出しながら歩く。

ふと耳に何かが落ちた音が聞こえた。音がする方に目を向けてみる。ここからだと多少遠いが多分、携帯電話だと思う。しかし、オプションが沢山ついていてどちらが本体なのか分からなくなりそうな勢いはある。落とした主は気づかずに歩いている。良く見ると、妹の友達だった。近所のため色々と会う機会があったから覚えていた。携帯の所まで着くと彼女は自身の家の近くになっていた。携帯を拾い、後を追う。最近の高校生には携帯は必需品と言われているぐらいだから、無くしたと思ったら可哀想だ。

急いで後を追うと、彼女が突然走り出し、自身の家を通り過ぎた。俺も携帯を届けようと追いかける。すると、彼女は俺の家に駆け込むように入った。


第二楽章 連弾

第一節 混迷の音色

 友達が変な顔をして私をみている。けれども、私は怖くて後ろを見られなかった。けれど、次の友達の一言で私の緊張の糸が切れた。

「どうしたの? 二人して息きらして?」

 恐る恐る後ろを振り返ってみる。そこには友達のお兄さんがいた。けれども、どうして私はこの人に追われていたのだろう・・・


第二節 洗礼されし音色

 妹の言葉があるまで、彼女は怖がっているようだった。俺が何か悪いことをした感じがしてしまい、無言で拾った携帯を差し出した。

「あ・・・」

 彼女は事態を把握するのに時間がかかったが、理解すると直ぐに納得した顔になった。

 とりあえず、俺は珍しく良いことをしたのだが、その道のりが誤解の宝庫だった事を彼女が帰った後の夕食時に妹から言われた。

「兄さんは口数を極端に減らすからな~」

 その言葉には多少心が痛んだ。俺自身、好きで口数が少ないわけではないと自負している。それは、口を開けば極端に口数が増えて、相手の話が聞けないから、極力口数を減らして相手の話を聞こうと努力しているのだ。つまり、社会に入って学んだ事の一つである。

食事が終わり、食器を洗いながら妹が追い討ちをかける。要点をまとめて言うと緊張した時の俺はどうにも口数が減り、顔が強張ってしまい勿体無いそうだ。妹からは世辞だろうが格好が良いと言われるが俺自身は平均以下の容姿だと思っている。実際のところ、自分の評価と他人の評価とでは相反することは良くあることだろう。

食器の片付けも終わり、自室で趣味の推理小説を読んでいた時に何故か先ほどの妹の友達の事を思っていた。

「あの子……俺のことをどう思ったんだろうな……」


第三節 色づく音色

 まさか友達のお兄さんだとは思わなかった。だけど、他の誰でもなく彼だったからか良く分からない安堵感がある。他の人が拾っていたら?そう考えるとゾッとしてしまい、湯船に頭まで浸かってしまう。

 よく、友達の家には遊びにいく。家が近かったから友達とは友達というよりも幼馴染と言っても良いかもしれない。だた、お兄さんは年が離れすぎているから、あまり話した事がなかった。だけど、見かけた横顔や後ろ姿はどうしてか目で追ってしまう。気があるとは私自身思ってないが、不意に目が合ってしまうと勢い良く目を逸らし顔が熱くなってしまう。ここ最近はお兄さんも転職したせいか良く見かけるようになった。そこから余計に意識してしまうのかな。

お風呂から上がり後は寝るばかりになったときに一つだけ忘れていた事があった。

「お兄さんに……お礼していない……」

 あの時は勢いで携帯を返してもらって家に帰ってしまったことを今になって後悔した……


第三楽章 協奏

これまで、二人の独奏で語っていた。兄と幼馴染の友人の事。翌日に二人は改めて再会。誤解を解きあう。そのまま……って事は無かったが、これがきっかけで二人は二人だけの協奏曲を奏でて行くことになる。正直、私を置き去りにして……っと思われますが、それはまた別の話。ただ、二人の奏で方次第では愉快な曲や切ない曲と様々ですが、それは先が分からないからこその奏で方。奏で終わった時に良い協奏曲だったかは二人だけが知るところでしょう。


Fin

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