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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
少年騎士、生誕
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生命<エデン>

 東ゲート前、アルト・アヴァロン、ユキ・アヴァロン暗殺を目論むとある国家が仕向けた兵隊によって占拠されていた個所だが、つい数秒前までは突如として現れた騎士学校の女生徒により隊列を崩されるという劇的な活躍が見られた。


 しかし、その女生徒の奮闘むなしく、およそ10秒程でその若き命を散らしてしまった。



 ----誰もがそう思った瞬間だった。


 少女へと降りしきる銃弾を全て紅き槍にて撃ち払い、その颯爽とした身のこなしにおいて少女を戦闘区域より脱出させる男の姿が見られた。


 そのあまりの早業に見る事しか出来なかった町の住民、そして少女に銃を撃っていた兵達ですら誰もが呆気にとられていた。


 迫りくる弾幕のような銃弾の雨霰でさえ彼を打ち取ることは適わず、少女を抱きかかえ尚建物の屋上へと軽々跳躍する様は騎士ではなく、槍を極めし流浪の旅人。--何よりもそう想わせる装束を彼は身に纏っていた。


 そして、その誰もが活目した寸劇の間を惜しみ、時間を稼いでくれた少女の意志を継ぎ、今ここに魔法を完成させた少女がいた。


 「我が呼び掛けに答え、立ちはだかる愚かな者に正義の鎚を!アースクエイク!!」


 瞬間、ゲート付近の地面は突如重力に逆らい、まるで意思をもったかのごとく捲れ上がり、隣のアスファルトも土砂にも手を繋ぐかの如く次々と肥大化し敵を飲み込む。


 敵兵にとってこの魔法は既に避けられる範囲ではなく、よしんば避けられる範囲にいたとしても寸先までの少女騎士との戦闘、謎の男の乱入によって統制を失っていたため為す術なく土砂流へと飲みこまれ、押し潰され、そして引き裂かれた。




 ついに東ゲート前のバリケードは破られた。


 まるで激しい爆撃を受けたかの如く地面は捲られ、大きな陥没痕を残していたがそれよりもまずはこのゲートが開いたという事が大事だった。


 自分が見せた魔法に酔いしれる事もなく、リードは淡々と声を出す。


 「皆、逃げて」


 それまで騎士と魔法師の活躍により金縛りのように観客と化していた町の住民が、また息吹を吹き返したかのように皆一様にゲートから外を目指した。


 「レイ、どこ?」


 だが、リードは避難するでもなくレイを探す。


 先ほどまで自分を信じ守り抜いてくれたパートナーを見捨てて逃げる事は、リードには出来ない。


 それにレイは死んだ訳でもないのだ。誰だか分からなかったが、とにかくレイは助けてもらっている。


 だから後は自分が探すだけ----と、思っていたら。


 「おや、お譲ちゃんがさっきの魔法を使ったのか」


 そう背後から呼びかけられた。




 突如として沸き上がった気配にリードは驚き、急ぎ振り返るが、そこには果たして探し求めていた人物がいた。


 「あなたね?さっき、レイを、助けて、くれたのは。どうもありがとう」


 ペコリとお人形のようにお辞儀をし、旅人装束の男に礼をいう。


 「なーに、間に合ってよかったぜ。南ゲートは既に解放しておいたし、そんで順に東、北、西って回ってただけだ。それでも格好良かったぜ?騎士を目指している女の子の凛々しさはよ」


 どことなく人を喰ってかかるような性格のようだが、腕は確かなようだ。


 見た感じダークブラウンの髪がツンツンに立っており、その性格が髪に反映されているようで少し面白い。


 だが恐らくは、この東ゲートとそう警備の質は変わらない南ゲートをたった1人で解放してきたのだ。


 それに何より、レイをあの危機的状況から救い出せたのだから実力の程は疑いようもない。


 「レイとは、いっっぱい、約束してた、から。それで、レイは?」


 リードが小さく小首を傾げると、その方面に興味がある人間からすれば、まさにお人形のようにしか見えない程可愛い。


 トーンがゆっくりしていることも相まって、男は脱力させながら答える。


 「あのお嬢さんなら、ほら、俺の背中でぐっすり」


 男の軽口の内、ぐっすりというのは気絶していることなのだが、それはこの際言及しない。


 丁寧にレイを下ろし、リードは地面に座らされたレイの手をギュッと握りしめる。




 「何があっても離すなよ?命を懸けて結ばれるパートナーなんざ、この世界にだって数える程しかいない。そんな巡り合わせに感謝して、何があってもその手は離すなよ?」


 そう、とても寂しげにリードに語りかける男のサファイヤブルーの目には透明な雫が奥に隠されていそうだった。


 今という名の孤独を背負う槍使いの旅人は、そんな姿を見せたくないのか直ぐに後ろを向いて顔を背けてしまう。


 「縁があったらまた会おうな、出来ればお譲ちゃん達がとびきり素敵なレディになった時位にな。んじゃな」


 それだけいい残すと槍使いの旅人は、建物の屋上へと飛び移り、屋根と屋根を道にするかの如く跳躍を重ね北ゲートを目指していった。


 「行っちゃった。孤独な、旅人さん、また、会おうね」


 色々な事が重なり、レイを失うかとまで思ったが、2人は無事に町を脱出することに成功する----



■■■■■■




 一方裏通りでは----


 「今、間違っていると、そう言ったか?」


 アルトが作戦を断定し、そして自身が生涯を懸けて守り抜くと決めた姫を一時的にとはいえ託すと決めた騎士から出てきた言葉は、反発だった。


 「言いました、貴方は間違っている」


 既に召喚獣ヘカントケイルが顕臨し、一刻の猶予もないというのにこの少年騎士は異論を挟んできた。


 「フェイト、今の言動見逃してもらえると思うな。答え次第では諸君を切り捨てねばならない」


 アルトが放つのは殺気に等しい。重濃なプレッシャーはこちらを射るように棘があり、その鋭さと重みは、とても間違った答えや冗談では済まされないだろう。


 だが、フェイトはそれだけのプレッシャーにも全く怯むことなくアルトへと吼える。


 「俺が知っているアルト・アヴァロンという騎士王は、どんな状況でも誓いを立てた姫を守り抜き、どんな困難でも乗り越えてきた騎士の鑑だ!!ならばこの場での最善策は、『フェイト・セーブが囮となり、アルト・アヴァロン、及びユキ・アヴァロンの撤退の援助』が至上のはずだ!!」




 そう、本来であればこれが最上。いかに召喚獣とはいえ飛行魔法を使いこなす騎士、となればよほどその辺の魔法師や騎士よりも役に立つと考える。それに飛行魔法が使えるのならば、時間を稼ぐ役目も十分に果たせるであろう。


 しかし、アルトは自分の手傷を計算にいれ、飛行魔法はユキをこの死地から逃がすための手段とし、愛し守ると誓ったユキを手放し、自らは死地に殉じると言っているのだ。


 フェイトにはそれが許せなかった。


 「……確かにもっともでもある、だが私は君の能力を知らないし知る時間もない。なればこそ安全策を取るべきだ。少なくとも私ならばあの召喚獣にも対抗出来よう」


 だが、アルトの結論は覆らなかった。フェイトの正論すらアルトには届かない、フェイトの力はアルトに及ばないまでもそこいらの魔法師よりも、騎士よりもあるというのに言葉すら届かないジレンマ。


 だからこそフェイトは、


 「アルト王、傷を見せて下さい、何を言っても聞き入れていただけないのならばせめて治癒魔法だけでも掛けてからお臨み下さい」




 これにはアルト、ユキ共に驚いた。


 治癒魔法は飛行魔法と違って才能さえあれば誰でも使えるものだ。しかしその才能こそ希少と呼ばれる類でもある。


 治癒魔法はその根源が違うのだ。


 『生命<エデン>』という種としての運命を背負った、素質ある者にしか治癒は行えない。


 どの四大元素でも治癒を行えないのは人という種族が複雑な体組織、遺伝子という名の魂という存在にまで辿り着いたためだ。


 かろうじて水の魔法系統では肉体の再生という事が出来る、といった報告もあるが『再生』と『治癒』では効果が違うのだ。


 例えば血を流していたとして『再生』ならば傷を塞ぐことができる。確かにそれでも十分に思える。


 だが、『治癒』は傷を塞ぎ、失った血液すら元の状態へと戻し、体力と一般的に認識されている『生命エネルギー<ロア>』そのものも回復させる。


 よって高度なものになれば瀕死の人間を『治癒』することも可能なのだ。




 そして、フェイトは『再生』魔法ではなく『治癒』魔法と言を出した。


 アルトもユキも、もうフェイトを疑うような事はしない。騎士として誇りを懸けているだろう目の前の少年はまず間違いなく、天啓と呼べる程の運命を背負って今ここにて巡り合ったのだと。


 「今度ゆっくり時間を取って話したいものだ。--治癒を頼む」


 そしてアルトは今尚血を流し続けている傷口を、躊躇せずフェイトに託してくれた。


 「お任せ下さい」


 フェイトはすぐに治癒魔法をかけ、あっという間に治癒を終えた。




 「さて、相変わらず時間はない。ヘカントケイルは西ゲートを潰し、後は手辺り次第に破壊の限りを尽くすだろう。そこで、やはり私が奴の討伐を請け負おうと思う」


 結局の所治癒魔法をかけた所でアルトの結論は変わらなかった。いや、結果は変わってくるのかもしれないが。


 治癒魔法により治癒されたアルトは、目に見える程強い<ロア>を纏っていた。


 騎士王と呼ばれ、数多の遠征や討伐を重ねてきたアルトは知らぬ内に<ロア>を消費し続け、回復が追いつかない程限界まで酷使していたのだろう。


 --それが、治癒を受け全身から漲る<ロア>は先程までの衰弱している時の数倍強くなっている。


 召喚されたヘカントケイルは、現在こちらには気づいておらず、ひとまず西ゲートの方に行ったようでアルトが今後の行動まで推測していた。


 「本来ならば君程の騎士がいれば戦力に数えたい所だが、ユキを1人にする訳にはいかない。改めてだがユキを頼む」


 アルトとユキから信頼の眼差しを送られ、フェイトの気持ちはかつてない程高ぶっていた。




 「任せて下さい、召喚獣でもなければ遅れは取りませんよ。----アルト王、ご無事で」


 「うむ」


 「アルト、此度は私と少年2人が帰りを待っているのです。--無事帰ってきて下さい」


 「勿論だ、私は君の、君は私のパートナーなのだから」


 そしてついにパーティーは解散し、アルト王が召喚獣ヘカントケイルの討伐へ、フェイトがグランドプリンセス・ユキを護衛することになった。


 「姫、急ぎましょう。飛行魔法は確かに速いですが、今飛べば我らの居所を相手に教えるだけになります。ご不便をおかけ致しますが、私が前を預かり決して姫には手出しさせませぬ故、急ぎこの場を離れましょう。何卒どうかご安心を」


 クスクスと笑いながらこちらに手を差し出すユキは、まるで少女のように朗らかで、つい見惚れてしまう程でもあった。


 年上の少女、それがユキを表すには最も近い表現だとフェイトは思った。


 「信頼します、アルトが選んだ小さな騎士。あなたにも神の御加護を」





 もしかしたら、とフェイトは少しだけ思った。グランドプリンセスと呼ばれるこのお姫様は、本来もっと快活で少女のような人なのではないか?そう思った。


 この笑顔、小さなと付けた何気ないジョーク、どれもが責務によって少女としての自分を捧げ、抑えつけてこなければ見れたのでは、と思える程に本来の快活な素顔が見えていた。


 「行きましょう、貴女の誉れ高き騎士アルト・アヴァロンを信じて」



 そしてアルトに僅かばかり遅れ、フェイトとユキも路地から飛び出し、町の外へと脱出を試みる----

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