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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
少年騎士、生誕
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コンコルチェの町

 あれから数日、妹のアイリスの方は洗礼という荒行事もなくつつがなく授業をこなしているようだった。

 

 学校に泊まり込んだ夜は、教師から親に連絡が行っていたようで、普通にお帰りと言われてしまった。


 もっともその後どんな事があったのか、という武勇伝はご飯の間には語りつくせない位多かったため、アイリスには食事後も色々と話してやった。


 他にも洗礼後の午前中の訓練は、うちのクラス1-Gは全員やり遂げ全員で昼飯を食べた。


 もっともナイト・ファブレ御一行とは会話もしていないので、クラス一丸と言っていいのか疑問は残るが。


 しかし、他のクラスは朝になっても疲労が取れず、それなのに無茶な訓練をさせられることを不満に思い、退学した生徒も決して少なくないとか。


 ……良かった、うちのクラス、目の前にいる奴だけでも救えて。




 ちなみに、最優秀だったレイ・ハルトは誰より早く訓練を終えた上に自主訓練までこなしたそうだ。


 もはや人間のなせる技ではないと語り草だ。




 そして筋肉痛も治ってきて、訓練は個別プログラムに移行した。


 具体的に説明するなら、ピアはその技術に瞠るものがあるが、筋力、体力に難ありと認知されそちらをメインにトレーニングが組まれている。

 

 逆にゲイトは有り余る体力は長所だが、戦闘訓練によっての技術習得や、ランスを扱う際必要となる体裁きなどがトレーニングだ。


 一方の俺は----


 「なんで最優秀のレイ・ハルトさんと同じメニューなんですかね?」


 「私の方こそ聞きたい。フェイトはデータ上平均値グループだろう?」


 そう、レイとは魔法抜きでぶつかれば恐らく負ける程強い。それはデータ上もそうだし、自分でもそう思っている。


 だからこそおかしいのだ。自分は平均グループに属するはずが、天才型グループに入れられているのだ。


 そしてこの教師同士がもはや目も当てられない程相性が悪い。




 筋肉ガッチリのいかにもギルド上がりの教師、ギルバードが俺を天才型グループに推薦し、ねじ込んできたのだ。


 それを闇騎士と現役時代に呼ばれたまま引退した教師、フェイスが最優秀のレイを受け持っているのだからとにかく相性が悪い。


 ちなみに、闇騎士とは堕ちた騎士ではなく、騎士であるのに国のため国の暗部へと対峙した尊き騎士の称号だ。


 普通華やかな騎士にまでなれて暗部を受け持ちたいと思う者は殆どいない。皆晴れやかな舞台を望み、光を望む。


 だが、誰かがやらねばならない事を理解し、日の光よりも国を大事に思い、守ってきた騎士は偉大だ。


 だからこそ闇騎士とは揶揄ではなく、れっきとした称号なのだ。


 引退の際だけに授けられる王からの全ての感謝の念、人生でただの一度だけ日の光を浴びれる瞬間。闇騎士として責務を全うした者が全ての責務から解き放たれ、ようやく騎士と名乗れる儚い希望の光。




 とは言っても今目の前にいる闇騎士フェイスは暗部にいるうちに少しだけ、いや、かなり性格がねじ曲がってしまったのだろう。


 過程には微塵も興味がないらしく、訓練メニューに休憩は本当に最低限だ。


 一方ギルバードは熱血な指導を得意とし、意外にもメニューはスパルタだがまだ常識の範囲内で休憩やカリキュラムを組んでいるため、訓練メニューのすり合わせが本当に目も当てられない。


 幸い、レイは常識人だし俺にも気を使ってくれる等、友人として付き合いたい程いい奴だったので、目下の悩みはこの教師陣の対立である。


 「ハァ、本当はギルバード教官のメニューじゃぬるいんだけど、それならフェイトと話せる機会が増えるからね」


 レイが気にしているのはピアだけであり、個別メニューに入ってからピアともゲイトともロクに会えない日が続くと、レイは本来の性格であろう優しく面倒見のよい姉の顔を見せるようになっていた。


 とはいえ、同い年でもあるし、家に帰れば手のかかる妹がいる兄として言わせてもらえば姉として振舞われても戸惑ってしまう。


 こちらも一番上として育ってきたので接し方の距離感が掴みにくいのだ。それはレイも理解しているようで、無理に追いかけてはこない。


 ちなみに呼び方はお互い名前で呼ぼう、とレイから提案されたものだ。


 「いい奴なんだけどな~」


 本日の訓練メニューである大岩相手に、連撃を繰り出し確実に岩面を削りながらフェイトはぼんやり呟いた。





 そして夕方、ようやく1日の訓練から解放された時レイから声を掛けられた。


 「フェイト、この後時間ある?」


 一緒に訓練してから初めての放課後のお誘いだった。


 「あるけど、どうしたの?レイ?」


 別段男女として意識することはあまりないが、放課後に誘われたのであれば男女として意識してしまうのは困ったものだ。


 「実は町に出てみたくてね。寮ばかりでは毎日が味気ない、それにフェイトはこの辺り詳しいんでしょ?」


 実際町に出たことは数える程だが、女の子にここまで言われては詳しくないとは言えない。


 「任せとけ!」


 そう見栄を張ってしまう。……だって男の子なんだもん。


 「じゃあシャワーを浴びたら校門で待ち合わせよう、手早く15分位で集まってくれると嬉しい」


 そう言い残し、レイはさっさとトレーニングルームから出て行ってしまう。


 「15分って……移動時間とか含めたらメッチャ急がなきゃじゃん」


 とはいえ、女の子を待たせる訳にもいかないので、フェイトも駆け足でトレーニングルームを後にした。





 「お待たせ!」


 校門について1~2分もしたら、レイが走ってこちらにやってきた。


 あ、シャンプーのいい香りがする。レイはピアと違って凛々しい感じがするし、今まで女の子らしさを感じたことが無かったから、これは不意打ちでドキドキしてしまう。


 「ごめん、待った?」


 うわっ、反則だろ!?こんなの言われたら意識してなくてもデートとか思っちゃうじゃん!


 こう、急に無防備な顔を見せるのは反則だーー!


 「いや、俺も今来たとこ。んじゃレイ、行こっか」


 何自然と振舞ってんの!?決して慣れてるわけじゃなく、むしろデートとか人生初だし。


 ってかこれデートじゃないし……


 と多少混乱してると、レイがクスクスとこちらに笑いかけてきた。


 「大丈夫、そんな緊張しなくても。フェイトデートとか初めて?なら私がリードしてあげるから」


 そうとびっきりの笑顔で迫られるとクラクラしてくる。うわっ本当に同い年?!レイ可愛い----



 と思っていると、レイの耳が赤い気がする。いくら夕方とはいえこの色合いは違うと思うし、なら、


 「レイ?レイこそ初デートじゃないの?緊張してない?」


 そう切り返してみると、とびっきりの笑顔から一転、非常に驚いた顔に早変わりした。


 「……なんでバレちゃったかなぁ、ちょっと最初の言葉からしてワザとらしすぎた?」


 どうやら最初の方は計画通りだったようだ。……意外と策士だな。でもなんで?


 「違うよ、耳。赤くなってる。結構無理してたんじゃない?」


 そう言われレイは自分の耳に手を付け覆い隠すようにしている。


 「見ちゃダメー!全く、ちょっとからかってみようと思ったのに、とんだカウンターだったわ……」


 今度はそっぽを向いている。ちょっとワザとらしい感が残っているのは、きっと何かの本を読んで覚えた仕草だからだろう。


 変な所まで勉強家のレイの意外な一面が見れた事が、少し可笑しかったし嬉しかった。


 「あんまバカやってないで行こう、日が暮れちゃうって」



■■■■■■




 学校から歩くこと15分、繁華街と呼べる場所までやってきた俺達。


 道中くだらない話ばかりしていたが、意外にも退屈も話題が途切れることもなく話が続いていたのはひとえにレイのおかげだろう。


 話題を振ればドンドン話を膨らませてくれるし、逆に話の途切れ目にはちゃんと次の話題を用意してくれたりと本当に上手だ。


 だが、道中町についたら何をするか?という事は2人とも会話に出さなかった。


 それは暗黙の了解だったのか分からないが、レイは実際に町を見てから見て回りたいもの、やりたいことを決めるつもりだと感じていたからだ。


 さて、町についた俺達が向かった先は--


 「見てみて!この装飾のついた剣、綺麗!」


 武器屋だった。いや、別に色のある話を期待してたわけじゃないんだけどね。


 レイも勿論愛剣と呼べる剣は持っているが、それでも魅かれる剣があれば欲しいと考えてしまうのが剣士の性でもあろう。


 実際自分もそう乗り気ではなかったが、レイと一緒に見て回るうちに好みの剣を見つけていたのだから見事に同類であろう。


 「そういえばフェイト自分の剣まだ持ってきてないよね?代替品でもいいから持ち歩きなさいよ、騎士としていざというとき困らない?」




 もしかしたら、これが今日の目的なのかもしれない、と思いつつも既に気分が乗り気であるため悪い気はしない。


 レイとしても折角一緒のクラスになったのだから、フェイトにも騎士らしくしていて欲しいのだろう。


 「んじゃ俺これにするわ、えーっとこういう時のためのカードっと」


 両親から一応預かっているキャッシュカードだが、実際に使ったのは今日が初めてだ。


 裕福な方ではないが、元来物を欲しがらない性格と両親の物づくりの好きさに高じてから、完成品を買うことは非常に少ない。


 実際我が家も父親が建てたというから驚きだ。ちなみに職業は科学者である、決して大工ではない。


 そんなわけで初めてのカードでの買い物に少しドキドキしながらも買い物を済ませると、意外にもレイも武器を買っていた。


 「あれ?それってダガー?」


 そう、店内あれだけ剣を見てはしゃぎまわっていたにも関わらず、買ったのは剣ではなくダガーだった。


 「そうよ、騎士とはいえ剣1本で戦場には立てないからいつか買おうと思っていたの。思ったよりいい買い物が出来たわ。--フェイトは騎士剣?」


 ちなみに俺は『ホークル』という騎士剣を買った。




 使っている鉄鉱石が魔力を貯蔵するタイプだったので買ったのだが、実際の強度や切れ味等は他の騎士剣に劣るため結構安く買えた。


 「あぁ、デザインと重さでこれに決めた」


 本当の理由を話せば好奇の視線は避けられないため、無難な答えでレイを撒く。


 「ま、好みならいいけどね。さてじゃあこの後は遊ぶ?それともお茶でもする?」


 今日はついているかもしれない。レイは連れて歩くには勿体ないほどの美少女なのだ。ちょっと胸周りが……とはいえ他はパーフェクトに近い美少女とデートみたいなものが出来る俺は、今日限りなくついている!


 そう思いながらレイの選択に贅沢にも迷っていると、ふと視界に入る見知ったような少女。


 あの金の髪、それに制服は……


 「あっ!」


 思い出した瞬間走りだしていた。


 「えっ?なによ、フェイトどうしたの」


 レイもフェイトの後を追うが、フェイトがどこに向かっているのか分からない以上、フェイトについていくしかなかった。




「おーい、リード」


 フェイトに呼び掛けられ、振り向く金のストレートロングヘアーの少女。


 「こんにちは、フェイト。今日は、普通に走って、くるんだ、ね」


 と、いきなりこちらを牽制するのだから困ったものだ。おそらくこの少女なりのコミュニケーションなのだろうが、誰かに聞かれでもしたら困るようなことを引き合いにだすのは止めて欲しい。


 「ああ、ってリードは相変わらず猫と遊んでる最中か」


 言われた通り、リードは通りの脇で黒猫と遊ぶようにしゃがみこんでいるため、非常に目立っていた。


 「フェイト?その子知り合い?」


 レイが追いついてきて、こちらに問いかけと回答を促す。


 「ああ、入学式の日にたまたま知り合ったんだ。紹介するよ、こちら魔法学校多分制服的に『エンシェントスペル』の1年生リード・ロード。逆にこっちが俺と同じ騎士学校の同じく1年、レイ・ハルトだ。2人とも仲良くな」


 「初めまして、フェイトから紹介された通り1年生のレイ・ハルトよ。あなたはリードさんでいいのね?」


 「うん、リードで、いいよ。その代わり、私も、レイ、って呼んでいい?」


 「勿論」


 「よろしく~」


 さすが、女子同士はコミュニケーションが早いな。


 リードって人見知りな感じがするけど、案外そんなことないのかな?


 「ところでリードは何してるの?」


 そう聞かれリードはちょっと考えた後、こう答えてきた。


 「猫語の、解読。猫の言葉、が分かる魔法、が欲しく、て」




 その答えを聞いて俺達は絶句するしかなかった。


 動物だろうがモンスターだろうが竜だろうが、人語を解せないもの達との意志疎通は何年も連れ添ってそれで何となく分かる、と言った程度のハズだ。


 それなのに、猫限定とはいえ猫の言葉が魔法で分かるようになるならば……天才的発見となる。


 それをきっかけに他の動物やモンスターとの意思疎通の研究に及ぶことは容易く理解できるし、何より需要がすごいだろう。


 一般人ですら、飼い猫や飼い犬と話してみたい、と考えた人は過去も今も数多にいるはずだ。


 とはいえ、魔法学校の1年生がそんなことをやり遂げてしまったならば、世界中の研究者の9割は裸足で逃げて謝らなくてはならない事態になるだろう。


 「今はまだ、4割位しか、完成してない、けど、2年以内には、完成させたいし」


 ……やばい、本気だ。っていうか天才だったのか。というか飛び級してもおかしくないぞ。


 レイがこちらを肘でつついてくる。説明を求めているようだが、むしろ俺が知りたい。


 レイという騎士の天才少女に、リードという魔法師の天才少女、なんという人との縁だ。


 これはもう一生分の縁の力を使ったと言っても過言じゃない気がしてきた。


 「な、なあリード?お前って1年生だよな?なんで1年生なんだ?」


 至極当然の疑問だが、口から突いて出てしまった。


 するとリードは不思議そうに首を傾けながら答える。


 「1年生だから、でしょ?同い年じゃ、ないの?」


 ……負けた、本当に負けた。これが天才ってやつか、恐るべし!


 「……まあいいじゃない、もし良かったらこの後時間ある?一緒におしゃべりとか遊んだりとか----」




 ドゴォーーン!!!



 そんな平和なやり取りは近くから聞こえた爆音によって、一瞬でかき消されてしまった。


 俺達も、通りの人達もこの平和な町で何が起きたのか理解するのに数秒以上かかってしまった。


 だが、それが間違いだった。


 ドオーーン!!


 更に続く爆撃、考えたくない最悪な予感が頭を横切る。


 レイもその可能性に気付いたのか、こちらに不安が隠せていない瞳で訴えかけている。


 「「テロ?」」


 そして嫌な想像は現実となってしまった。


 ガン!ガン!パラララララ----銃声が響き、そして


 「きゃあ!」「うわあああ!!」「がっ……!た、助けてくれっ!!」



 町は突然の侵攻により未曽有のパニックへと陥った----

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