コンド会う時は
「んじゃレイ、四番目の案で提出してくれ」
翌日早々に持ちかけてきたのは、昨日の件だった。
「分かった、でも本当にいいの?手配とか要るなら今じゃないと間に合わないわよ?」
結局教えてくれないフェイトに対し、レイは不安から一応確認をしてみるが……
「それを確認してきたんだって、大丈夫、任せて!」
そう笑顔で言い切られては信じる他ない。
何せ、今回の隠し事は後ろめたさではなく、とっておきの悪戯でレイを驚かせようとしていることがアリアリと透けて取れるからだ。
「はぁ……分かったわよ、それじゃお昼休みに提出するからフェイトも一緒に来てね」
「OK」
騎士学校での訓練は、今日も平和に進行している。
「ところでフェイト、ディーバにはもう連絡した?」
そう尋ねたのは、フェイトがそこまで気を回しているとは思えなかったレイからの忠告だったのだが、案の定。
「うっ……忘れてた」
この始末である。一体この男子はどこまで気が回らないのだろうか?
「ディーバずっと待ってたわよ、というより私がフェイトが目を覚ましたとか、退院したとかディーバに教えても、フェイト連絡取ってないんじゃないの?」
グサッ
そんな擬音でナイフが胸に突き刺さったかのように、表情まで凍らせるフェイトにはさすがのレイも呆れるばかりだ。
「いーい、ディーバずっと待ってたわよ?フェイトから電話こないかな、電話こないかな、って私に愚痴を溢してた位だから、相当お冠だってことは覚悟した方がいいわね」
さすがに今回は助け舟を出してあげようとは思えなかった、正に自業自得である。
「うーん、それじゃやっぱ放課後先輩の所に行く前に電話するか」
「そうしなさい、夜だと公演が入ってたりするし、案外夕方の方がディーバ控室にいたりするし繋がるわよ」
普段連絡を取っている間柄として、ディーバの忙しい時間帯は大体把握している。
ディーバは昼公演は滅多に行わないので、昼はリハーサルで潰しているし、夕方は共演者といることもあるが大体は一人で集中していたりする。
もっとも、この集中している時に電話を掛けて許されるのは恐らく世界でフェイトだけだろうが。
レイであっても、夕方に掛ければ迷惑そうな声で返される事は想像に易い。
「んじゃそうしよっと」
相変わらずお気楽に構えているフェイトに対し、レイはほんの少しだけため息をついた。
昼に提出した文化祭案は、ディーバが了承するならば、という条件付きで通った。
勿論フェイトは教師にすらどうやって人員を運ぶのかは明かしていない。
もっとも、フェイトの無茶はこの半年で前代未聞な程伝説を作り上げているため、教師としても手に負えないというのが現状かもしれないが……
アルト王、ユキ姫と知り合い騎士の称号を授かる、歌姫ディーバの騎士となる、教師を打ち負かす1年生、校内大会においては騎士姫とも伝手を持ち、最後には八岐大蛇をほぼ一人で葬り去るというのだから、真似できるもの等この世界にはいない気がしてくる。
そんな伝説ばかり作るフェイトでも、レイ達といる時はやんちゃな同い年の友達、と見えるのだから不思議なものだ。
そして巻き込まれる人々は、不思議とフェイトの魅力に魅かれて自分からフェイトの側に居たくなる。
もし彼が魔法を持たないただの騎士であっても、この本質だけは変わらないのかもしれない。
とはいえ、女の子に関しての扱いはお世辞にも上手いとは言えず、一週間経つのにも関わらずレイと二人きりでデートに行こう、と提案してこなかったのはレイに取って悩みのタネであった。
女の子の扱いに関してだけいうのならば、ゲイトの方が数段上、いや手慣れていると思わざるを得ない。
ピアに関しても男子と付き合うのは初めてだったのだが、気心が普段から知れていただけの仲の良さではなく、既に恋人としての雰囲気を作っている。
あのピアが、とレイですら思うがそれも一重にゲイトのおかげであろう。
とりあえず、夕方になってフェイトが電話を掛けてくる、と言った時には少しだけ安堵したものだ。
これをキレイサッパリ忘れているようであれば、少なくともレイはため息で許すつもりはなかった。(物理的な意味で)
「ハロー、ディーバ?今大丈夫?」
フェイトがまず無難に電話を掛けると、電話越しに返ってきたのはいかにも不機嫌そうなディーバの声だった。
「ハロー、フェイト、一体何日待たせたのかしら?」
一も二も無く、ディーバは早速フェイトに責任の追及を始めた。
「あーーー、ごめん。本当に悪かった、ちょっと色々重なり過ぎてて、というよりレイが連絡するってことで納得しちゃってたというか」
もっとも、シキブに関しては確かに連絡するなと言われたが、ディーバに関してまで制限したつもりはレイには毛先程もない。
「それで、フェイト様はどんなご用件でしょうか?私今公演まで1時間切ってて忙しいんだけど?」
非常にトゲトゲしい反応に心が折れそうになるが、フェイトは電話を切らずに応対することを決めた。
「ごめん!!ディーバ!!本当に悪かった!!」
さっきよりも言葉に力を込めた謝罪に、少しだけ沈黙するとディーバは先を促す。
「それで?」
ディーバをずっと見てきたフェイトに取っては、これだけでも十分に分かった。
今のディーバは、「不機嫌な声を」造っている。
だからこれからの会話はあくまでポーズなのだ。
「俺本当に悪かったって思ってるよ、だから今度のディーバを呼ぶ文化祭で取っておきにビックリするような企画を考えたんだ」
その言葉にピクッ、と反応する様子が電話越しでも分かる程ディーバは簡単に引っかかっていた。
「それで?」
さっきよりも不機嫌さをトーンダウンさせた声は、もっと聞きたいとせがむ子供のようでもあった。
「そうそう、文化祭なんだけど日中はディーバにも文化祭を回ってもらって、夕方からのライブを予定してるんだけど、場所、海に決定した」
「海……?」
声を造る余裕も無かったのか、素で聞き返してしまったディーバに対してフェイトは言葉を続ける。
「そう、海!どう?誰も真似したことのない、学校初のイベントだよ!どう?」
どう、とそんなに聞かれても呆気に取られてディーバは聞き返すのがやっとであった。
「……なんで海?いや、確かにフェイトなら予想の斜め上をジャンプする位やるとは思ってたけど、突然過ぎじゃない?」
その問いには、フェイトは返す言葉を決めていた。
「俺そこの海に小さい頃に行ったんだけどさ、夕方に、っていうか夕暮れにディーバに見せたいものがあるんだ」
……ズルイ。
そんな事を言われれば、フェイトの事が好きなディーバは断ることが出来なかった。
「分かった、詳細は聞かない。でもフェイトがそこまで言うんだから----期待してる」
初めの棘は一体どこへ行ったやら、ディーバは柔らかくなった口調でフェイトの肩にもたれかかるよう、リラックスした声をしている。
「任せて!……それと本当にごめんね、悪気あった訳じゃなくてさ」
そんな最後まで謝って言い訳するフェイトに、ディーバは軽く微笑む。
「ふふっ、分かってる。ちょっと意地悪しただけなんだから。フェイト?女の子を待たせるのはマナー違反だよ?」
もうすっかりお姉さん振るのが得意になったディーバは、フェイトに教える立場を獲得していた。
「分かった、今度また何か決まったらまたすぐ電話するよ」
「楽しみにしてる、別に何もなくても電話してくれていいんだからね?」
「ありがと、じゃまたね」
こうしてディーバに報告と機嫌取りを済ませ、フェイトは放課後の特訓へと足を運んだ。
それからというもののフェイトは文化祭のライブでの会場について案をまとめること、そして鈍った腕を何とかして戻そうとする日々が続いた。
会場については「リアロード海岸」を使用することになり、手続きを済ませた。
他にも会場だが、音響やステージ等はフェイトに取って畑違いであったため、文化祭において舞台を担当しているバイアス・セブン先生を頼った。
生活指導も担当しているこの女性先生はとてもではないが言い表せない程、スタイルが良い。
特にスリーサイズでB100超えは、男子生徒に取って同級生が軽く霞む程に目を釘付けにする。
しかし、この先生にはそこまで男子から人気がないという側面もまた持っている。
何せバイアス先生は、男子嫌い、女子好きと周知徹底しているのだ。
男子には闇騎士フェイス先生以上の厳しい課題を突きつけてくる癖に、女子には甘いのだ。
一部には女子を恋愛対象としてみているのでは?という噂も流れ、半ば公然とした事実として流布されているが、本人も事実だと認める辺り始末に困る。
とはいえ、優秀な先生の一人でもあるので差別さえなければ頼れる先生なのだが----
「レイちゃんが来ない限り私が手伝うことはないわ、筋肉でも頼ったら?」
頼みに行った矢先、素気無く断られた。
ちなみに筋肉とは、ギルバード先生の事でもある。
「先生?でもディーバに頼まれてるのは俺でして……」
「レイちゃんもあなたが居ない時に実行委員になってるわ、だからあなたじゃなきゃ駄目って理由はないの」
無下に断られて、氷柱のような視線に耐えきれずフェイトは職員室を後にした。
「というわけで、レイ頼む」
事情を説明すると、レイも嫌そうな顔をした。
「私もあの人苦手なのに……」
レイにしては珍しく困った顔をしているが、こちらでは話すら聞いてもらえないのだから仕方があるまい。
「ここは俺のためっていうより、ディーバのためと思ってお願い!!」
フェイトが頭を下げると、レイは嫌々ながらも引き受けることとした。
勿論、すぐに取り組んでもらえたのは語るまでもない。
ただし、レイはその日以降余計にバイアス先生に近寄らなくなったという。
■■■■■■
そんな中、一番フェイトを困らせる人物が帰国した。
「フェイト!」
事前に連絡をもらっていたので、空港に迎えに行ったのだが周りからみれば勘違いされること請け合いの、ジャンプ抱きつきで抱擁するはめになってしまった。
「シキブ、いきなり飛んでくるな、今一瞬息が止まった」
えーっ、と唇を軽く尖らせるが聞いてはいなかった。
「私ね、フェイトのものになるために一生懸命頑張って来たの!だから、これ位は多目にみてくれないかな?」
なんでだろう?フェイトは目を覚まして以降、女難の相が出ているのではと疑いたくなってきた。
レイに始まり、ディーバにシキブと女性から言い寄られる機会が圧倒的に増えた。
その前は0だったため、三人は圧倒的に多いとフェイトの中で分類している。
「分かった分かった、だから学校休んで迎えに来てるだろ?」
ちなみに今日は平日、学校は午前中休みを取っている。
単位という制度や出席日数で成績を決めるのではないため、現実休み続けても問題はないが、授業を受けない回数分他の生徒と差が付く事は覚悟しなくてはならない。
「それでね、フェイト?私フェイトの家でお世話になりたいんだけど……」
「却下!!」
即答だった、いや当然だ。
「家にはこれ以上人を置く余裕はない!第一雇う金もなければ、婚約者でもないシキブが住み込むのは健全な学生として反対だ!」
シュンとするシキブを見て、フェイトは言い過ぎたかと後悔するが、そこでようやく助け舟が入った。
「シキブ、フェイトをあまり困らせるな。シキブの気持ちも分かるが、押し付けは駄目だぞ?」
そう優しく諭し、方向転換を図ってくれたのは勿論なずなだ。
「そうだぞシキブ、九行先輩の言う事の方が正しい。何も俺がお前が嫌いって言ってる訳じゃないんだ。
押し付け過ぎるのがちょっと対応しきれないって言ってるだけで----」
「それじゃフェイト!毎朝お弁当作って届けるね!!」
……神様、勘弁して下さい。
こうして、フェイトには毎朝弁当を届けてくれる女の子が出来た。
----余談だが、意外に美味しかったためフェイトは会う度にお礼を言うようになっていったという。
慌ただしい毎日の中、ようやく、ようやく!
フェイトはレイをデートに誘った。
とは言っても場所は以前デートもどきで訪れた時と同じ、コンコルチェの町だ。
休日、学校前で待ち合わせた二人は最初こそ待ち合わせという行為にドキドキしていたが、その後が問題だったのかもしれない。
「うーん、あの時フェイトが選んだ理由って剣の材料だったの?」
「そうそう、ホークルは特殊な石で造られててさ。当時ブレイヴフェニックスが無かった俺としては、魔力を流し込んでも壊れない剣が無かったから手ぶらで学校に行ってたわけよ」
「そうよね、今でこそ馴染み過ぎたフェイトの魔法も、最初の事件が無かったらずっと隠してた訳だしね」
そう、二人はまた武器屋に来ていたのだ。
校門前で待ち合わせた二人は、早速と言わんばかりに飛行魔法を使って町に来ていた。
一番最初デートのように感じたのは、道中歩きながら会話をしていたからであり、飛行魔法であっという間に着いてしまえば雰囲気も何もあったものではなかった。
これもお互いを知り過ぎた故の弊害であろう。
加えて、お互い恋人がいた経験もないので知識としてはどんなことなのか、ぼんやりと理解しているだけだったことも災いした。
ウィンドウショッピングになぞらえて武器屋で同じ事を実践したのだが、武器屋では既にデートとしてかけ離れていた。
結局そのまま会話自体は盛り上がったものの、一向に恋人同士らしい会話が一切無かったフェイト達。
だが、フェイトもレイも気にする訳でもなく次に進んでいた。
「あ、本屋に寄っていい?確か今日発売の月刊武器大全が騎士剣特集だったから」
「へえ、いいな。俺も見たい」
どこまでも純粋で、どこまでも友達のような二人であった。
「お、レイこれ見てみなよ。ギルドの討伐モンスターリスト」
「ふーん、やっぱフェイトはそういうの好きなのね。私はモンスターはどっちかっていうとパスなのよね」
「そうなの?」
ちょっと意外な事を聞いた気がする。
「私が目指しているのはギルドじゃなくて、王宮騎士だからね。騎士としての任で当たるならともかく、ギルドに所属してまでモンスター退治しようとは思わないわ」
「なるほどね~。っとすいません」
通路を少し塞いでいたせいか、後ろを通ろうとする人を避ける時にふとレイの手と自分の手が触れた。
「あっ……」
ほんのちょこっと触れただけだったが、一旦意識すると二人共に止まらなかった。
朝のドキドキしていた感覚が少し甦ってきて、フェイトもまた心臓が鳴る。
(レイと……手を繋ぐ?)
恋人同士であれば手を繋いで歩くのは普通だ、むしろ自然とも言える。
だが、今までそんな意識をしていなかったのはなんで?
その答えは、フェイトが考える前に頭から消えた。
「えっ……」
レイが、もの凄く顔を赤くしてこちらに視線を合わせないようにしているが、それでも手だけはしっかりと握っていた。
横顔だけで伺うには全部は分からないが、サラサラの金の髪で隠れている耳も恐らく真っ赤であることは容易に推測出来る。
女の子にここまでされて、引き下がるほどフェイトも女々しくは無かったため、フェイトは声を掛けて立ち上がる。
「レ、レイ?あ、あのさ。え、えっと、この後、お茶でもしない?いや、お昼ご飯か?」
時刻としては午前11時少し過ぎなため、お茶でもいいが少し早いランチでも十分な時間だ。
「そ、そうね!そ、それじゃお昼にしましょっ、か?」
二人は大分しどろもどろになりながらも、繋いだ手は離さずに手近な店に入ってランチにすることにした。
店内で他のお客さんが二人を見たならば、初デートだと見抜く人が大半であったと思う程二人は緊張していた。
普段から学食で一緒に食べる仲であったにも関わらず、こうして意識して二人きりでデートのランチを食べるのでは全くと言っていい程勝手が違った。
とりあえずメニューを決める所までは良かったものの、注文の品が来るまでの間の緊張からくる空気の気まずさに、二人とも口を重くしていた。
(なんか話さなきゃ、えーとなんか話題あったっけ?)
話題ならいくらでもある。さっきの本屋のことでも武器屋のことでも、学校の事でも何でもいい。
それなのに適切に頭の回らないフェイトは、話題を選ぶことすら苦労していた。
それはレイも同じで、フェイト同様話す事も話せる事も多かったのに、話題を選んでいる内にどんどん口が重くなってしまったのだ。
どうにか言葉が出たのは、料理が来てからだった。
どちらもランチセットを頼み、フェイトがハンバーグセット、レイがパスタのセットにしていた。
「へえ、レイのも美味しそう」
「フェイトのだって」
「レイのパスタのってジェノバソースだろ?家じゃなかなか作らないんだよな~一口もらってもいい?」
「いいわよ、それじゃフェイトのも少しもらってもいい?チーズ入りってどうしても女の子の心をくすぐるのよね」
「それじゃレイ、あーん」
と、まさかのフェイトが差し出したフォークから食べるという、罰ゲームさながらの嬉し恥ずかしイベントを仕掛けられて、レイはしどろもどろになる。
「ちょ、ちょっとフェイト!?そ、そんな……恥ずかしい」
顔を真っ赤にして照れるレイを見て、満足したのかフェイトはフォークに乗せたハンバーグは自分で食べてしまう。
「レイが最初から出来るとは思って無かったけどさ、でも可愛い顔見れたし」
そうニコニコするフェイトにレイは、ついに顔をトマトのように赤くしていた。
料理の感想という無難な入り口から入ったのだが、外れのない話題とからかいによりようやくレイが望んでいたようなデートっぽくなった。。
その後も会話を挟みながらも、二人は楽しくランチを済ませた。
「ん~!食べたら眠くなってきたな」
お昼ご飯を満腹食べ、フェイトは体を伸ばしながらレイに話しかけた。
「もう、フェイトったら子供みたい」
そんなフェイトをクスクス笑うレイの表情には、もうさっきのような緊張や照れはない。
いつも通り凛々しくも、勝ち気な紅蓮の瞳を覗かせている。
それでも、それでもフェイトの勘違いかもしれないが、その瞳の奥には優しさみたいなとても暖かい光があったような気がした。
「今日は珍しく天気もいいみたいだし、散歩がてらどうだろ?その辺ちょっと歩いてみない?」
そう提案するフェイトに、レイは笑顔で頷いた。
「いいわよ、じゃドリンク買って歩きながら飲みましょ」
反応もいつもの通り気遣いがよく聞いたものであり、フェイトも笑顔で頷く。
「よし、それじゃあそこの露天で買っていこっか。色んなの売ってそうだし」
「賛成」
フェイト達は露天へ向けて足を運んだ。
「はあーなんだかノンビリねー」
ドリンク片手に街中を散歩している二人は、どこからどう見てもカップルにしか見えなかった。
女の子の方が美少女過ぎる、という点を除けばだが。
「そうだなー学校で夢を目指すってのもさ、将来を考えて立派だけど息抜きも絶対必要だもんな」
フェイトはメロンジュースを片手に、レイはミックスジュースを選択していた。
「この街も結構復興したよな」
アルト王を狙ったテロにより、街全体が被害を受けたが、アヴァロン国より物資や資金、
人が迅速に送られると街はみるみる内に復興を遂げていった。
「そうね……この街には悲しい過去もある。けど、それ以上にこの活気を見ていると前を向くエネルギーがどれだけ大きいか分かるわ」
複雑な言い回しだが、レイも何か考える所があるのかもしれない。
「そうだな、考えてみれば色んな出逢いがこの街にもあったよな。レイがリードと初めて会ったのもこの街だろ?」
「そうね、あんな野良猫みたいな子、会えただけで奇跡に等しいわね」
クスクス笑うレイに、フェイトは何だか安心感を覚える。
「そうだな、またこの街は俺達に出逢いをくれるのかな?」
「うん、……きっと」
二人はドリンクを片手に、二人で色々な場所に視線を巡らせてノンビリした。
けれど、二人の間い繋がれた手は今日が終わるまで決して離されることはなかった----