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コソバユイ会話

 その日の昼過ぎには、シキブとなずなが病室にやってきてくれた。


 「シキブ!!それに九行先輩も、どうも、俺が未熟だったばかりに迷惑かけて……」


 だがそれ以上の言葉は、胸に飛びこんできたシキブによって紡ぐ事が出来なかった。




 まるで昨日のアイリスを思い出させるような仕草にちょっと似た所を感じながら、シキブの頭に手を乗せて撫でる。


 「本当に、本当にごめんなさい!私のせいでフェイトは酷い傷を負って、もしかしたら、死んじゃってたかもしれなくて……本当に、本当にごめんなさい!!」


 シキブを縛っていた鎖は、きっとフェイトなのだろう。

 この年上の女の子であるシキブが、こんなにも泣いているなんて、そしてこんなにも苦しそうに言葉を出すなんて----


 もう、シキブを苦しめる怪物はいないのに、自分は契約したお姫様を悲しませてしまった。


 「私からも、本当に申し訳なかった。フェイトをそもそも巻き込んでしまったのは私だし、どうお詫びをしていいやら……」


 なずなに関してもかなりヘビーだ。

 二人共に責任感があってとてもいいものなのだが、復帰したばかりのフェイトにはちょっと重すぎる感情でもある。




 「とりあえず二人共落ち着いて、……俺は誰も恨んでいないし、何よりシキブと九行先輩が無事で良かったって思っているんだ。

 二人に謝られちゃうと俺の立つ瀬がないんだ、二人共謝るのはこれで終わり」


 ちょっと強引だが、こう言って話を打ち切ろうとしたが全く終わる気配が無かった。


 「ううん、謝らせて、ごめんなさい、本当にごめんなさい!!」


 「本当にすまなかった」



 

 (……えーっと、どうしよう?)


 フェイトは考えた末、二人を黙らせる方法を見つけた。


 「それじゃ命令!俺に本当に謝りたいなら、今後この件で俺に謝らない事!!この約束破ったらその時こそ許さないからな」


 

 ちょっとだけ怒った風に言うと、二人共に押し黙った。


 (よしよし、これでいいな)


 等と一人で納得していると、


 「分かった、私今からフェイトの召使いになるから」




「ブッーーーーーーーーーーー!!!!」



 フェイトは思わずせき込む程に盛大にむせてしまった。


 「なんでそうなるんだよ!?話飛躍しすぎだろ!?」


 フェイトはすぐ側にあるシキブの顔を見つめながら聞くと、対するシキブは決意を持って答えてきた。


 「私達今各地を回って伝承について調べて回っているの。

 でも、その間もやっぱりフェイトの事考え続けてて……どうやってお詫びをすればいいか、どうやってお礼を言えばいいかずっと考えてた」


 「…………で?」


 続きを促すフェイトの眼には、若干だが冷ややかなものが混じっていたに違いない。


 「それで、私の命を救ってくれたフェイトには、私の命を持って奉仕していこうと決めたの」


 「なんでだよ!?」


 そこが飛躍していた。……なんでこうなる。


 「私の命はフェイトがいなかったら、今ここには無い物なの。なら私の命の所有権はフェイトのものなのよ」



 あ、頭痛い。誰か助けて


 「だから今後はフェイトの好きなように私を使って!何でもするから」


 困り果てたフェイトはなずなの方に救いを求めた視線を送ると、


 「この子本気なんだ。フェイトが王子様だって思いこんじゃったみたいでな。

 恋愛を一度も知らずに育ってきた天然記念物だから、暴走するのも多目に見てやってくれ」



 ヘルプミー。



 「今関わってる案件が終わったらすぐ戻ってくるからね。大丈夫、フェイトの恋愛は勿論自由だから」


 なんだろうなー。

 シキブのあのツンツンした感じでの受け答え、ちょっと好きだったのに、今は突き抜け過ぎてデレデレを通り越して従順ですか。


 「フェイト、でも本当に良かった。……これから、よろしくね」



 そう言い残してフェイトの頬にキスを残して去って行ったシキブ。

 そんな様子を生温かく見守っていたなずな。


 一人病室に取り残されたフェイトは、無性に叫びたくなった。


 「一体この二ヶ月の間に何があったーーー!!!!」





 翌々日


 フェイトは退院手続きを済ませた後、騎士学校へと足を運んでいた。


 「しばらく振りだよな~」


 なんて考えながら学校に着くと、そこには二ヶ月前と変わらず在る学校に少しだけホッとした。


 「さてと」


 気を取り直して自分の教室の扉を久しぶりに潜れば--


 「待ってたぜ!!」


 と言ってイキナリ飛びかかってくるゲイト。



 「なにおうー!」


 そんなゲイトをヒラリとかわすと、続け様に飛んできたのは黒板消しだった。

 

 「危ねっ!?メッチャ粉付いてたぞ!?」


 それすらもかろうじてかわすと、ようやく落ち着いた。


 「手荒過ぎんだろ、ゲイト、ピア」


 「いやっははは、お前の腕が鈍ってないか見たかっただけだよ」


 「そうよ、二カ月振りに体を動かしているんだからブランクがあるでしょうに。結構手加減して投げたんだから避けられて当然なのよ」


 「はぁ……」





 親友二人の熱い歓迎には参ったものだ。

 とはいえ復帰そうそう賑やかなのはいいものだ。

 自分だけ置いていかれているという感覚が、多少なりとも薄れた。


 「うっし、ゲイトまだ時間あるな?校庭に出て勝負しようじゃあないか」


 「おっ?乗り気じゃねえか、いいぜ」


 まだHR開始まで20分あるし、そんなに長引かないだろうと思い早速約束を果たす事にした。


 「じゃあ私姉さん呼んでくるね」


 と言ってピアが先に教室から出て行くが、男子だけになった場合のフルスロットルは時に凄まじいものがある。


 「時間が勿体ない、こっから飛び降りるぞ」


 「おうさ!!」


 等と校舎二階から躊躇なく飛び降りるフェイトとゲイト。


 「うっらあ!!」


 そして待ち切れなかったのか、飛び降りてる最中には既に撃ち合いが始まっていた。





 先手はフェイトで、剣を小細工なしに振り下ろす。

 一方のゲイトは左手に構えた盾でフェイトの剣を弾く。


 (なるほど、それが新しいスタイルって訳か)


 ゲイトが選んだ戦闘スタイルは、アマリリスに良く似たパラディンタイプであった。

 打たれ強さや防御に優れた面を活かして、パーティー戦にて盾となる役目を背負う覚悟であった。



 正直な話、以外ではあった。

 確かにこの戦闘スタイルは重戦車並に防御力が上がるが、代わりに機動力を大幅にダウンさせる。

 ゲイトの体力から言っても防御だけに回すのは少し勿体ない気がするし、こんなに急に変えなくても良かったのでは?と思ってしまう。





 しかし、ゲイトはゲイトなりに考えた結論であった。

 校内大会が始まる前にアマリリスより助言された言葉を自分で考え、噛み砕き、解釈し、自分のものにした。

 その結果ゲイトは誰かを守る事に特化したくなったのであろう。

 騎士王のような騎士を目指す自分であれば、機動力を落とす事は出来ないが、騎士団として誰かを守るためならばゲイトのこういった戦闘スタイルは重宝されている。

 何せ進んで引き受けたがる人が少ないからだ。



 誰だって地味な役割よりも、派手な舞台を渇望する。

 だが、舞台を作る土台となるべき重要さを知っている者は確かに必要である。

 だからこそ、誰かに任せるのではなく自らその意味と大切さを知って引き受けたゲイトは、フェイトにも負けない位立派な志であった。





 そんな訳で、空中で落ちながら戦っていてもラチが空かない。

 こちらの剣は全部盾に弾かれるように誘導され、代わりに穿つランスがこちらを捉えようと走る。

 最もフェイトは身のこなしでランスを避け続ける。

 ゲイトも訓練を積んだとはいえ、新しいスタイルになって日が浅いため型通りの攻撃しか出来ず、非常に読み易かったからだ。




 着地と同時に二人で駆けだしながら剣とランスを合わせる。

 数合打ち合ってみると、ゲイトのランスが軽いことに気付く。


 (まあそりゃそっか、盾抱えて片手でランスなら重量を落とさないとな)


 新たな発見ではあったが、この場合は悪い方に作用する。


 「ぜあっ!!!」


 フェイトが踏み込み、剣を捻じ込む様に下からすくいあげると、ゲイトのランスは衝撃の重さに耐えきれず宙へと舞ったのだ。

 これで決着がついた----



 と思いきや、


 盾が自分の方向けて繰り出されていることに気付いた。




 (げっ、実戦訓練想定か)


 普通であれば、ランスが飛ばされた時点で勝負アリなのだが、ゲイトとしては盾を攻撃にも使えるのでそのまま攻撃に転じたのであろう。

 ランスを弾くのに全力を使っていたフェイトにこれを止める術はなく----


 (あーーもーー!!)


 大人しく盾の攻撃を喰らってKOされた。





 「いったたたた」


 「何やってんのよ、もう」


 決着が着いてしばらく後、レイとピアがやってきたのだが二人して呆れかえっていた。


 「全く、姉さん呼びに行くってちゃんと言ったでしょ?」


 少々怒り気味なのがピアで、


 「それよりもフェイト、復帰早々に無茶しないで」


 とお冠モードなのがレイだった。


 『ごめんなさい』


 男二人揃って姉妹に敷かれてしまい、この勝ち気な姉妹をコイビトに持つフェイト達の今後が簡単に見て取れるようでもあった。






 結局朝の内はゲイトとしか対戦出来ず、ピア、レイ、アマリリスとは放課後に持ち越しになった。

 今は普段のカリキュラムに沿って、以前と同じ様にレイと一緒にトレーニングを受けている。


 「フェイト、あんなに簡単に負けてるなんて本当に勘が鈍ってるんじゃないの?」


 「うっ……」


 確かにレイの指摘通りだった。

 新しい戦闘スタイルに慣れ切っていないゲイトに対して、ああも見事にカウンターを喰らって負けたのであれば、それは自分のせいであろう。


 「全く、私との勝負はもうちょっと後でいいわよ。勘を取り戻していないんじゃ次のピアとやっても負けるのが目に見えてるから」


 「そんなことないさ」


 ちょっと悔しくて反論してみるが、レイに見つめられ続け結局こちらがギブアップした。


 「はあ、時間かかるかな?」


 なんてついつい弱気な事を口にしてしまったフェイトに、


 「フェイト。アマリリス先輩だっているし、心配いらない。

 ……なにより、私が訓練とか付き合ってやるから、……そんな簡単に諦めるな」


 レイは後半ゴニョゴニョした声になっていたが、それでも言葉が聞こえないなんてことはない。

 フェイトはニッコリと微笑むと、レイにお礼を言う。


 「ありがと、さっすがレイ」


 レイは少しだけ頬を赤らめていたが、フェイトの笑顔に毒気を抜かれたのか、しばらくすると普段通りの顔で笑ってくれた。





 そして放課後になってすぐに、ピアとアマリリスの自室にて対決することになった。


 「それじゃあ私が見てるから----用意、始め!!」


 フェイトはブレイヴフェニックスを下段に構えピアの突進に備える。

 一方のピアは両の手共に順手で双剣を構えており、速効を掛ける様子はないようだ。


 「ならこっちからいくぞ!!」


 フェイトは下段に構えていた剣を正眼に構え直し、そのまま走りだす。

 どちらも奇策は用いていない、単純に競りあった時の反応速度が勝敗を別つ。





 初めに仕掛けたのは勿論リーチのあるフェイト。

 素早い横薙ぎの一閃をピアが目を逸らす事無く受け止めると、流れるように剣を振り下ろす。

 だが当然ピアの双剣の前ではガードを崩す程のものではなく、単なる様子見程度の二撃でしかない。

 そこにフェイトはすかさず足払いを掛ける。

 基本の揺さぶりで、中、上、下と視線や態勢を激しく揺さぶるのは効果的である。

 だが、ピアはフェイトの足払いをヒョイと避けると同時、一歩踏み込んだ。



 (しまった!)


 足払いを掛けたにも関わらず空を切ったフェイトは態勢を崩しており、逆にかわして一歩踏み込んだピアは態勢が十分だ。


 「はっ!!」


 こちらは踏み込みの効かないまま剣で剣を弾くに対し、ピアは一振り毎に踏み込み力を入れて振るので僅か六合の打ち合いでフェイトの剣が弾き飛ばされてしまった。




■■■■■■




 「フェイト、どうやら本当に勘が鈍っているらしいな」


 そう断言したのは、アマリリスであった。


 「……ハイ」


 それを為すすべなく首肯せざるを得ないのは、辛かった。

 それは対戦相手をしてきたゲイト、ピアも同じ気持ちであろう。

 自分達が強くなったのではなく、フェイトが落ちたのだ。

 友人としてその状況を手放しで喜んだならば、友人ではないだろう。



 「……少しイメージトレーニングを加えようか、ゲイト君、ピア君は実際に戦ってみた感想をフェイトに伝えてあげてくれ」


 そうアマリリスがいうと、


 「そうだな、フェイト頭で考え過ぎてる気がする。

 前から作戦立案とか上手いのは分かってたけど、実戦の最中に体の感覚を一切アテにしないで知識だけ、って感じだったな」


 ゲイトからの痛烈な一言に続き、ピアからも容赦ない言葉が続く。


 「そうね、考え過ぎて逆に戦闘が単調になってる。だから私は読みやすいしフェイトの読みは外れる」






 「むう」


 言われてみれば納得するが、直すには一日二日では直らないだろう。


 「仕方がない、今日は基礎を止めてひたすら実戦にしよう。

 フェイトは私達四人をローテーションでひたすら実戦、勘を少しでも実戦に近づけてもらうぞ」

 

 と、やっぱりスパルタ訓練を言いだしたのもアマリリスであった。

 とはいえ、皆が強力してくれるしフェイトに取っても悪いことではない。


 「皆、よろしくな!」


 そしてフェイトの復帰初日は皆に付き合ってもらう形で、一日を終えた。






 それから一週間が経ち


 「フェイトもようやく戻ったな」


 とレイが訓練中に声を掛けてきた。


 「良かった、やっぱ実戦って大事だよな~離れてたらこんなにも勝手が違うなんて思わなかったよ」


 苦笑交じりのフェイトだが、レイはおぼろげながら理解している。

 一日毎に強さを取り戻していくフェイトは、決して学校で皆に付き合ってもらっていただけでは取り戻せない。

 鈍った勘を取り戻すため、家に帰っても剣を振るう事を厳しく課していたに違いなかった。




 「っとそうだフェイト、ディーバに言われていた文化祭、そろそろ決めないと不味いぞ」


 そういえばそうだ、というより既に一ヶ月切っている----


 「嘘っ!?間に合うかな?」


 既に間に合わないような気がして、必死にレイにすがりつくように視線を走らせる。


 「落ちつけ、準備なら私が実行を務めて進んでいるから。フェイトは最後どんな舞台にするかだけ考えていてくれればいい」


 「どんな舞台、か」


 しかし安心した。--本当にレイには世話になりっぱなしだ。


 「でもさレイ、そんなにたくさんの事引き受けてて大丈夫?見舞いだって来てくれてたんでしょ?」


 そう不安混じりの目で聞くフェイトだが、返されたのは苦笑であった。


 「私が受け持っていたのはディーバに関することだけだ。

 最もそれが一番の目玉であるからプレッシャーはあるが、友人のための舞台だ、張り切らずにどうする?」


 少しだけ勝ち気な瞳に映ったのは、確かな感情であった。





 (そっか、レイもディーバとは友達だもんな)


 自分だけがディーバの知り合いという訳ではない、皆がディーバと友達だからこそ、ディーバはこの国を好きでいてくれるのだ。


 「んじゃそうだな、レイが出してきた案見せてよ」


 そうフェイトが提案すると、レイはニッコリ笑った。


 「そう言うと思ってた。午後の授業はギルバード先生に頼んで抜けさせてもらおう、ついでに空き教室を借りて、そこで今日中に纏めてしまおう」


 レイの提案と行動力に、フェイトはただ頷くばかりであった。





 「なるほど、四つか」


 レイが出していた案は四つだった。


 一つ目は、野外ライブ。

 小細工なしで、集客重視のライブだ。


 二つ目は、ホールコンサート。

 チケット等で入場制限が掛かってしまうが、安定した音を届けられるディーバのメインスタイルだ。


 三つめは、ミュージカル。

 ホールで行うのは同じだが、舞台を見せるこれもディーバのメインに近いものになる。


 四つ目は、特別会場設置。

 具体案(未定)


 であった。


 「三番目は多分無理かな」


 フェイトが案を見てすぐに言うと、レイも頷いた。


 「そうね、なるべく選択肢の幅を持たせておいただけだから却下は見越してあるわ。フェイトなら絶対にそう言うと思ってたし」


 こんな所まで見抜かれていると気恥ずかしい限りだが、ディーバは今回の舞台は個人で歌うものだと言っていた。

 だからこそ格安なのだし、ミュージカルではその意味がないからだ。


 「この四番目の特別会場ってのは?」


 一際目を引いたのが、四番目であった。

 特別会場、と銘打っているにも関わらず未定。レイにしては珍しい書き方だ。





 「ああ、それはフェイトのためよ」


 そう言われても首を傾げるばかりだが、ちゃんと説明はしてくれるらしい。


 「この案出したのは結構前で、提出期限があったの。かといって私の案以外の余地を残しておかないと、いざフェイトが何か提案しても乗せきれないかもしれない。

 だからその時に考えておいた保険なのよ」


 「なるほどね」


 しかし特別会場か……



 響きがいい。やっぱりホールコンサートは学生っぽくないし、野外ライブはディーバっぽくない。

 そうなると、


 「四番目かな」


 そう言いきるフェイトに対し、レイは苦笑するばかりだ。


 「やっぱりフェイトは普通の案じゃ収まらないのよね」


 と言って呆れかえっていた。





 「んじゃ具体案を詰めると……」


 そこからは話合いだった。

 まず、特別会場、というのをどうするかで話す事になった。

 あーでもない、こーでもないと話している内にフェイトにピン、と閃くものがあった。



 「そうだ!!海辺でコンサートしよう!!」



 その発想に唖然とするレイだった。

 学園際であるにも関わらず、何故か海辺を指定する。

 間違ってもこの学校は海岸近くではない。



 つまり移動せざるを得ないというデメリットしかないような意見を、これしかないと言わんばかりに顔を輝かせている。

 

 「フェイト、どんな理由?」


 一応聞いてみるが、


 「誰も真似したことのない方がいいじゃん」





 頭を抱えたくなったレイだが、それこそがフェイトなんだと思うとなんだかおかしくなってくる。


 「そりゃ誰も真似しないわよ、だって真似したくても海まで相当離れているわよ?」


 単純計算でバスを手配しても、13~4台必要になる。

 移動時間だって、2~3時間掛かってしまうことからディーバのライブを夕方からに設定しても、文化祭を回れる時間は15時位が限界になってしまう。

 けれど、とびっきりの悪戯を思いついたようなフェイトは止まらなかった。



 「バスなんか要らない、ちょっとしたツテで多分なんとかなる」


 「なんとかって……?」


 一応聞いてみることにするが、フェイトは口を割らなかった。


 「秘密ー。でも多分大丈夫だと思うんだ。今日帰ったら確認してみるから、確認して明日提出しよう」


 




 まあ、ディーバもフェイトの意見しか聞かないと思うので結局レイが折れるしかないのだが、一体どうするつもりなのだろう?

 とはいっても、嬉しそうに顔を綻ばせているフェイトを見るとレイは心がポカポカしてくる。


 (こういう所に魅かれたんだろうな)


 破天荒、突拍子もない、言動は多い。

 けれど反面、甘え上手であり、実行力があり、誰よりも楽しさを教えてくれる。


 「……だからフェイトが好きなんだろうなー」


 そうボーっとしていたら、つい言葉が心から洩れてしまい、フェイトが突然固まって赤くなっていった。

 


 「へ、あ、き、聞こえた?」


 その動揺しきった声で聞いてもそれは自分で認めたと同義だと、レイは言った後に気付く。


 「……聞こえた、レイたまに不意打ちするからめっちゃ可愛い」


 とか、ちょっと余裕そうに返してくるフェイトが憎たらしくて、


 「フェイトのバカー!!」



 と結局いつも通りの喧嘩になってしまった----

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