勇者よ眠れ……
ゴゴゴゴゴゴゴ------
ローウェン国より遥か西方に位置するアヴァロン国。
そこを治める国王アルトと、王妃ユキ達は激しい地鳴りを感じていた。
「これは……」
焦るアルト王の反応は当然のものだった。
地盤の関係上、滅多に地震が起きない国であるにも関わらず今の地震は久しく感じていなかった大きな揺れだった。
「……なんとか収まったか」
元々地震が起きることを想定した国ではないので、町にも被害が出ていることだろう。
「すぐに調査班を送れ!それと同時に住民の避難誘導と、安否の確認。被害状況によっては物資を送るための準備をする。急げ!!」
すぐさま指示を飛ばすと、アルト王は玉座に着く。
「アルト、今の地震……」
現在王の間には二人しかいないため、ユキも口調を幾分砕けたもので話しかけてくる。
「ああ……地ではなく、世界が揺れたな」
単に地震と呼ぶべきものではないと、アルトもユキも理解していた。
「あれほどの運命を揺るがすなんて--誰だったんでしょう」
その言葉に混じる不安をアルトは見抜いていた。--だからこそ、最愛の妻だからこそアルトは優しく言葉を掛ける。
「大丈夫さ、あの少年ならばきっと心配はいらない。--あの子は、運命に愛された子供なのだから」
アルトは、部下が戻るまでの間ユキを優しく抱き止めた。
----願わくば、どうか無事であることを祈って----
ゴゴゴゴゴゴゴ------
ここはアヴァロン国より南方に位置する砂漠、別段資源が取れるわけでもなく、主要国への連絡路でもない、まさにもの好きしか通らないような砂漠に佇む男の影があった。
「……誰だ、運命を揺らがすなんてバカな事をした奴は」
そんな砂漠においても、世界を揺らす地震は伝わっていた。
熱砂がどこまでも続く灼熱地獄の中、旅人装束を身に纏った槍使いは足を止めた。
「彼のアルト王ですら持たなかった<エデン>を背負うなんて、よほど運命に愛されているんだろうが」
彼の言葉は誰にも届かない。
隣に人がいるわけでもなく、中間地点のオアシスがある村ですらまだまだ先だ。
それなのに彼は言葉を紡ぐ、それは彼にしか見えない者に言い聞かせるような仕草でもあった。
「全く、震源地は……遥か東方か。--もしかしてあの国だったか?」
以前たまたま旅の途中立ち寄った町で、彼は騒乱に巻き込まれた。
そして彼の地でアルト王とも邂逅を果たし、色んな意味で彼に取っても縁がある国だと言える。
「様子を見にいくか?……いや、この程度でくたばるようならそれまでの奴さ」
男は止めた足を再び動かし始め、東を見る事はとうとうしなかった。
「今日中にオアシスまで行かないと水がないんでな、寄り道出来ないのさ」
誰と話しているのか?それはきっと彼しか知らない事であり、その答えを得られる者はこの世界に限りなく少なかった----
ここは騎士学校、ナイツォブラウンドの学生寮。
平素騎士を目指す少年少女のために設けられた、破格の寮である。
ナイツォブラウンドは広大な敷地、学費の安さ、充実したカリキュラムと優れた教員など、騎士を目指す者に取っては理想とも言える待遇を示している。
その寮に住む1年生の女子、レイ・ハルトは深夜にも関わらず轟く轟音に対して目を覚まし、音の方向へと急いで目を向けた。
「……何あれ?」
それは夜空に焼きついた不死鳥、恐らく現地までは距離があるはずなのにあれだけはっきりと不死鳥が見えるのは、その焼けた夜空が想像を超える程大きなものだったからに違いない。
--トクン
不意に心臓がギュッと掴まれたように苦しくなった。
そして頭の中には警鐘が鳴り響き、とてもうるさい。
あの不死鳥の姿を見てから、自分の身体が自分のものではなくなったかのように、熱い。
「……フェイト」
無意識に喉から滑り落ちた言葉は、一番親しい同級生、いつも一緒に訓練をこなす男子の名前だった。
「……フェイト?」
一度言葉に出ると、堰が決壊したかのように感情が溢れることが止められなかった。
なんで自分がフェイトと口に出したのかは分からない。
でも、それは必然だったのかもしれない。
フェイトがここ二ヶ月の間ずっと隠し事をしていたから?
不死鳥の姿がフェイトのブレイヴフェニックスと連想したから?
それとも、単純に虫の知らせという第六感?
全てが正しいと知った時、レイは感情を抑えきれずに叫んだ。
「フェイトォーーーーーーーー!!!!!!」
レイは居ても立ってもいられず不死鳥の跡地を目指して駆けだしていた。
現在自分は寝巻だが、それすら考えられる余裕はない。
すぐに自分の騎士剣を持ちだすと寮の入り口に向けて走り出す----
と、そこに背後から駆け足の音が聞こえた。
自分以外に駆けだすなんて人間は他には知らない。そう信じてレイは振り返ると--
そこにはやはりゲイトとピアがいた。
ゲイトだけ私服だが、ピアも寝巻のまま走っていたのだ。
二人はすぐに追いつくとレイに話しかける。
「さっきのレイだろ?俺達も行く」
さっきの絶叫が聞かれていたのに少しだけ恥ずかしさを感じながら、レイは頷いて返す。
「姉さん急ぎましょう。……私達もあれを見てたら不安になったの」
三人はすぐに意思疎通を完了させると、寮を飛び出した。
道中やたらと救命車とすれ違ったことに違和感を感じると、レイは立ち止まった。
「……ねえ、もしかしてあれにフェイトが関係していたとしたら。--病院に向かった方が早いかもしれない」
現場は山奥だが、病院は逆方向だ。もし向かった先にフェイトがいないというすれ違いを起こしたのならば、時間が惜しい。
「賛成、特に今の姉さんの勘、信じたいし」
レイだけでなく、ピアもゲイトも虫の知らせという第六感だけで走ってきたのだ。
今はその勘を信じて行動した方が正しいかもしれない、という思いがあった。
「進路を変えるわよ、あれだけの救命車の数、受け入れ先は恐らくコンコルチェの町にある総合病院ね」
決めたとあれば即座に三人は進路を変え、走り出した。
そして病院に着くと----
「何、これ」
道中すれ違った救命車の数からして予想出来たはずだが、そこはまるで戦場のようだった。
次々と運び込まれていく重症の患者は一様に酷い怪我を負っており、その数は100に近いと思える。
それもストレッチャーにて運ばれていく怪我人は鎧を身に付けた騎士と思しき人物が多い。
「まさか、国の騎士団?」
博識のレイは偶然見つけた一人の男性が、騎士団所属の副隊長アレクだと分かったため、予感を確信へと変えた。
「つまり騎士団は何かとんでもない化物とやりあったってか?……100人近いって事は、国の三分の一、大隊一つ出動させてんじゃねえか」
それがどれだけ大掛かりなものか、騎士を目指している少年少女には簡単に察しがついた。
どれだけ強力なモンスターと戦ったのだろう。
だが、今はそんな事を考えている暇は無かった。
レイは戦場のような救命現場に飛び込むと、手近の看護婦を捕まえて大声で聞く。
「ここに!私達位の少年が運ばれてきませんでしたか!?」
今はそれどころではない、といかにも面倒臭そうな表情をされたが、思い出したのかすぐに教えてくれた。
「三階の集中治療室に運ばれたわ、私達忙しいから案内出来ないけど」
「ありがとうございます!邪魔してすみませんでした!!」
頭を下げ、レイは二人に今聞いた事を話すとすぐに三階へと向かった。
そこには----
「リード!?」
集中治療室の前で既に待っていたのは女性三人、その内の一人リードには三人共に面識があったのですぐに駆け寄って事情を聞く。
「リード?何があったの、ねえ、何があったの!!」
思わず声が大きくなったが、レイは構っていられなかった。
すぐにでも状況が知りたい。
フェイトが--フェイトがどうなっているのかを!!
「私から説明しよう」
と、突然横から入り込んできた女性にレイは軽く警戒心を表わす。
「……あなたは?」
言葉に棘が含まれるが、それすら知った上で飲み込んだ女性が言葉を続ける。
「リードでは時間がかかるかもしれない。私の方が細かく説明出来るからな」
確かに、リードは天才肌だと思うが、コミュニケーションが普通とは言えない。
決して悪い娘ではないと分かっているのだが、詳しい説明に適しているとはお世辞にもいえない。
それに、この女性を改めて見ると騎士学校の制服を着ている。確かに状況説明をしてくれるなら適任かもしれない。
「お願いします」
そしてなずなは三人に向けて、今夜起こった事の一部始終を話始めた----
「……こういうことだ」
話が終わるまで15分も掛かってしまった。--それだけ今夜の内に起きたことが大事で、随分要点を絞ってくれたんだろうとも理解できた。
「それで、事情は分かりましたが、一番聞きたかったのをいい加減教えて下さい。
----フェイトはどうなったんですか?」
それはこの15分の間ずっと語られなかった事だった。
上手に纏めようとしていた話の中に何度もフェイトの話が出てきたにも関わらず、現在の フェイトに関しては一切口にしなかった。
--それが、一層レイを苛立たせる。
「……それは」
口ごもるなずなに対し、レイはそろそろ限界だった。
「私達はフェイトの現在が知りたいんです!!誤魔化さないで!!」
それに答える声は、違う所からもたらされた。
「フェイトは----意識不明の重体です」
ずっと前からいたのに、今初めて意識したその女性はどこか見覚えのある----
そう、話に出ていた巫女姫シキブその人だった。
「どういうことですか--なんでなんですか!?」
怒りの矛先は簡単にシキブへと移り、鋭い視線にはただただ怒りだけが込められている。
それに対しシキブは真っ直ぐ目を逸らさずに答える。
「私が目を覚ましたのも病院についてからですので、詳しい経緯はなずなの方が知っています。
……でも、担当医の方から聞きました。今尚意識不明の重体であると」
レイは今まで意識していなかったが、余程緊張の糸が張りつめていたのだろう。
そこに容赦の欠片もない現実が突き刺さり、足元がついにふらつきその場に倒れ込んでしまう。
「姉さん!」
咄嗟にピアが抱きかかえ、床に倒れ込むようなことこそ無かったが、レイは顔を真っ青にし、唇が震えている。
「レイ、レイ、大丈夫?」
そうちょこんと差し出した手でレイの頭を撫でるのはリードだった。
この場で一番心が強かったのは、リードだったのかもしれない。
誰にも出来ない誰かを慰めるという、優しさを発揮出来たリードの心の強さに、ここにいる一同心底驚いた。
しばらくリードに頭を撫でてもらっていたレイだが、駆け足が聞こえて来た事に気付き立ち上がる。
まだショックでふらつく足元だが、立っていた甲斐はあったのかもしれない。
深夜にも関わらず駆けつけたのは----フェイトの家族だった。
両親、アイリス共に余程急いで来たのだろう。三人共に寝巻姿であったが、それを笑う者はここに誰もいなかった。
もしレイが崩れたままだったら……一番泣きたくて、一番悲しむであろう家族が泣けない状況を作ってしまう所だった。
そして、同じようになずなからフェイトの家族へと今夜起こったことの説明がなされた----
■■■■■■
予想通り、一番に泣き崩れてしまったのはアイリスだった。
レイにも良く分かる、涙を抑えるなんて事は出来ない。ただただ決壊してしまった感情を吐き出すまでこの悲しみも、涙も収まらないのだと。
一方の両親もショックを隠せないようだが、悲痛な顔をするだけに留まっている。
そこにシキブが立ちあがった。
「本当に----本当に申し訳ありませんでした!!!!」
それは、心の底からの謝罪であった。
「フェイトを巻き込んだのは私です、私が--私が悪いんです。本当に、すみません!!」
ただただ頭を下げ続け、頭を上げる事を誰よりも彼女自身が許していなかった。
大切な家族を危険な目に合わせてしまった責任、それは彼女に一生ついて回るものなのだろう。
だが、フェイトの父はしゃがみこんで、シキブの頭を撫でる。
その様子にビックリしたのか、シキブが顔を上げると丁度目が合った。
「……私達にしても不注意だったよ、シンを持たせていたからなんとかなるだろうと甘く見ていた。
子供に対してコミュニケーションを怠ったのは我々親の責任だ、君には君の事情があったし、国の騎士団もいたのにどうして君を責められようか」
言葉をぶつけ、踏みにじり、罵倒し、暴力を振るわれてもいいと思っていた。
----だが、この人は、こんなシキブを、呪われた巫女姫を許してくれた。
「君も辛かったんだろう?----子供が泣くのを我慢するもんじゃない。苦しいこと、吐き出さずにいられるなんて間違っているんだ。
誰に遠慮しているか分からないけれど、遠慮なんていらないんだ。辛かったら辛いと言う、泣きたかったら泣けばいい。
----ただそれだけ、たったそれだけじゃないか」
そして笑ってみせた。
ああ、この人が父親だからこそ、あんなに真っ直ぐで優しいフェイトが生まれたんだ。
そう誰もが納得する中、ようやくシキブは抑えていた少女の心を表に出し、泣く事ができた----
その後は誰もが気まずい沈黙のまま、夜明かしをした。
深夜から早朝にかけても終わらぬ大手術に、誰もが不安を覚えた。
フェイトなら、フェイトなら----
そんな想いは願いでしかなく、現実の前では風に吹かれれば倒れる木の枝程の支えでしかなかった。
階下の様子も収まり、ようやく救命者の搬送や手当が終わったのだろうと思った矢先、ついに手術室の扉が開かれた。
「フェイトは!?」
一番先に飛び出したのは、フェイトの両親だった。
レイも、シキブも、アイリスも一番先に駆け寄って声を出し聞きたかったはずなのに、誰よりも先に動いたのはフェイトの親だった。
子を想う親こそが一番心配していたのだろう、そして誰よりもフェイトを愛しているのだろうと誰もが理解出来た。
涙を一滴すら流さなかったこの両親は、泣かなかったのではない、泣けなかったのだと今更に理解した。
周りには子供しかいない中で、親が泣き崩れる訳にはいかない。
不安がる子供しかいない中で、親が不安を見せる訳にはいかない。
親の強さを肌で感じた瞬間だった。
そして医師から回答が寄せられる----
「フェイトさんの容体ですが、通常医療では目を覚ます保障すら出来ません」
それは死刑宣告そのものであった。
夜明けまで待ち続け、祈り続けた結果がこれなんて----
あまりにも、あまりにも救いがないじゃないか…………
誰もがそう思ったのだが、医師は言葉を続けていた。
「落ち着いて下さい、通常医療ならばです。私は研究者ではないので確証を持っては言えませんが、彼に<エデン>が眠っているのならば、全治二ヶ月と言った所です」
…………ハッ?
廊下で待っていた九人が全員で呆気に取られた瞬間であった。
「ですから、<エデン>には無限の生命力が存在している。確かに今は枯渇しているようですが、二ヶ月あれば本人の回復に用いれるだけの<ロア>が復活します。そうなれば治癒魔法を自身に掛ける事により回復出来るでしょう。
--そのため、<エデン>から<ロア>が沸く期間を二ヶ月と考えて、全治二ヶ月と判断しました」
「そ……それじゃあ、先生、フェイトは?」
フェイトの母親が今にも涙を溢しそうになりながらも、聞き直す。
「はい、完治します」
そう、断言してもらって----
『や、やったあああああ!!!!!!!』
九人同時に叫び出し、大層近所迷惑な大歓声を上げて喜んだ。
医師から詳しく話を聞くと、
「どうやらフェイトさんが身につけていたこれが、命を救ったようです」
と、ボロボロになったマントを見せられた。
「あ、これって」
そう反応したのはフェイトの家族、なずな、レイ、リードだった。
「妖精のマント?」
その言葉に頷くと、医師は話を続ける。
「これはフェイトさんの強力な魔法の反動から、紙一重で守ったのでしょう。
……重度の火傷であり、もし、その紙一重がなければ命を落とし、<エデン>の使用すら出来なかったのです。
……本当に、奇跡と呼ぶべきものですよ」
そうしてボロボロになったマントを受け取ったのはアイリスだった。
ギュッと力強く抱きしめると、ポウっと少しだけ淡い輝きを放った気がした。
気になったので聞こうとも思ったが、また涙を流しているアイリスを見て、レイは言葉を押し込めた。
それからしばらくした後、アマリリスが来院し、更にはディーバまでもが飛んできた。
アイリスが連絡を取ったらしく、アマリリスはすぐに駆けつけたが、まさかディーバまで来るとは誰が予想しただろう。
たまたま近くの国での公演だったため、急遽キャンセル、このままではバックレ姫と揶揄されそうな気もするがそれほど心配だったのだろう。
アマリリスは大人しく説明を聞いていたのだが、ディーバはそんな事はなかった。
なずなが説明し、シキブが謝るという一連の流れが済むとディーバはツカツカとシキブに歩み寄った。
パアン!!!
いっそ小気味良い程痛烈で甲高い音を病室に響かせ、誰もを唖然とさせた。
これだけ力を込めて相手の頬を張れば、自分だって痛いはずなのにディーバはシキブから一切目を逸らさずに言った。
「謝ったって許されないことだってあるのよ、貴女自分が何をしたのか分かっているの?貴女のせいでフェイトは生死の境を後半歩で超える所だったし、貴女のせいで国の騎士団は壊滅した。
それはあなたが歴史を伝える事を怠ったために生まれた必然なのよ! 甘えた事ばかり抜かさないで、責任を放棄しないで!!」
痛烈な言葉だった。シキブも心の底から悪いとは思っているし、反省だってしている。
けれど、誰にも責められないままだった。両親ですら許したのに、誰が責められるだろう?
そんな常識はディーバの手によってアッサリと覆された。
けれどシキブだって負けてはいない、言い訳もしないし目も絶対に逸らさなかった。
「私はね、フェイトが大好き。本当に好き、愛しているわ。
でもね、だからこそ身を引いたのよ。彼の初めての約束を、彼の初めての姫が後一歩間違っていたら、一生消えない傷をフェイトに負わせたって考えたら身を引くしかなかったのよ!!」
この発言に一番驚いていたのは、フェイトの家族であった。
世界の歌姫が自分の子供、兄を好きだ、愛しているだなんて聞いた日には、シラフではいられない程に、現実を疑ってしまう。
殆ど絶句に近い形で大きく口をポカンと空けている外野に構わず、ディーバは言葉を続ける。
「けれど貴女は何?話さないで、大事にしないで、騎士団がたった一隊だったっていうのに伝承を守る貴女が警鐘を鳴らさず、必死に叫ばなかったせいでどれだけの人が傷ついたと思っているの?」
ディーバは心の底から怒ってはいるが、決して正論以外言わない辺り冷静で、逆上している。
「ごめんなさい」
再び謝るシキブだが、ディーバはまた一喝する。
「謝ったって許される訳じゃないって言ったでしょ?この際騎士団なんかどうでもいいわ。
私が一番頭に来ているのはフェイトを都合がいいように利用したっていう事実なのよ」
(ディーバ、どれだけ爆弾発言するのよ)
そうレイが心配するほど、キレたディーバは恐かった。
「封印を貴女のために使ったせいで、本来フェイトが戦わなくて済んだ蛇を相手にしなくちゃならなかった、そしてフェイトが死に掛けた。
その原因を作った貴女を私は一生許さない!!」
それだけ全部言いきると、
バタンッ!!
と勢いを付けてドアを閉めて出て行ってしまった。
誰もが呆気に取られる中、レイが落ち着いて話始める。
「シキブさん、私も概ねディーバに賛成です。……私達が落ち着くまでもう病院に来ないで下さい。
あなたを見る度に思い出して、----憎んでしまうから」
それは最後通帳であった。
この場でこのレイの言葉をひっくり返せる者は存在せず、シキブは部屋を出て行かざるを得なかった。
なずなも共に病室から出ていこうとした時、レイは最後に一声だけ掛ける。
「フェイトが治ったら、連絡はします。----そうしたら、また来て下さい。
……きっと、フェイトは喜ぶから」
誰よりも、フェイトを理解した落ち着いた声は、まるで逃げ帰るようだったシキブに最後にすがれる折れ無い柱を与えた。
「……夏休みが終わっても、私は、フェイトの側にいるから----」
レイはその言葉通りフェイトの病室へと通い続けた。
夏が過ぎ、新学期が始まっても------