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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
呪われた巫女姫
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滅びと騙しの神

 「行くぞ!」


 フェイトが剣を構えてシキブへと高速で迫る。

 魔法で加速した下段からの袈裟斬りに、常人では無くなったシキブは右手で軽々と受け止める。


 「フェイト!侮っては駄目です、八岐大蛇と対峙しているという意識を忘れずに!!」


 シンから忠告され、素早く剣を引き抜き足払いを試してみる。

 しかし、八岐大蛇の一首と化したシキブはその所作を見極めてフェイトの足は空を蹴る事となる。


 「まだまだ!」


 それでもフェイトは攻勢を一切緩めずに、今度は上段からの剣撃を試みる。

 再び右手にて剣を受け止めるシキブに対してシンが予測する。


 「どうやら鱗を纏えたのは右手だけのようです。だからこそ斬撃が絡むものは右手で止めようとするのでしょう」




 もしそうならば、シキブの動きはかなり制限されたものである可能性が高い。

 フェイトは空いた左手から魔法を打ち出し、シキブを吹き飛ばそうとする。


 「エアインパクト!!」


 単純に風を叩きつけただけだが、シキブは後方へ宙返りしつつも距離を飛ばすことに成功する。


 「受け身を取られたためダメージにはなっていませんが、それでもこの攻防ではフェイトが有利と見ます」





 もしそうなら十分だ。

 こっちにはなずなもリードもいるのだから、三人で掛かればもっと容易く切り崩せるだろう。



 ……しかし、何か違和感が残る。

 「先輩!先輩は中衛を崩さずに!!リードは後衛からはみ出るな!俺が前衛で絶対に攻撃を通さない」


 ヒュオン、とフェイトは軽く剣を一回転させると改めてシキブを観察する。


 (やっぱり外見がシキブってのは遣り辛いな。変に鱗が見える分攻撃の際気を使わなくて済むのがむしろありがたい位だ)


 逆に言えばシキブが左手でフェイトの剣を防ごうものなら、悲惨な血飛沫が舞う事になるだろう。

 向こうがガードしてくれるのが右手で良かったと一番強く思っているのは、他ならぬフェイトだった。


 「くはははは」


 と、突然シキブから不気味な笑い声が響いた。


 「……なんのつもりだ?」


 フェイトが問い返すと、意外なことに返答はあった。


 「弱い、弱すぎる。手加減してやっているのがまだ分からんのか?貴様は竜の力を知らんようだな」





 先の<エデン>に対する当て付けだろう、フェイトが知らない情報を出して撹乱させようとする意図が見え見えだ。


 「残念ながら竜と戦った経験はないが、トカゲと戦った経験ならあるもんでね。似たようなものだろう」


 挑発には挑発を、フェイトは軽く返してやった。


 「ふん、つまらん男よ--小娘が泣くわ」


 それ以上語らせるつもりもないので、フェイトは再び剣を構えてシキブを打倒さんと走り出した。






 「放て!!」


 ルーファンの掛け声と同時に魔法師部隊50人からなる上級雷魔法が、全て八岐大蛇に向かって降り注ぐ。

 高威力、広範囲に渡って降り注ぐ魔法から逃れる術はなく再び鳴き声と共に動きが止まる。


 「続けえ!!」


 ルーファンも単独ではもう切り込まない。信頼出来る四人の部下と共に先ほど鼻先を斬りつけた首へと狙いを定めて飛びかかる。


 「ハァァ!!」


 首を一刀で斬り落とさんと気迫を込めた全力の一撃は、鋼よりも固い強固な鱗に阻まれ切断半ばで諦めざるを得なかった。


 「くっ」


 首を蹴りつけて、肉に埋まってしまいそうになる自分の剣を力任せに引き抜く。

 一撃で斬り落とそうとしたにも関わらず、剣が切断出来たのは凡そ三割程。



 自分でこれならば他の隊員では下手したら鱗に弾かれて、剣が通らなかったかもしれない。

 案の定目や鼻先を狙わなかった騎士達の剣や槍は弾かれ、攻撃を仕掛けた側が顔をしかめる。


 「皆無理をするな!必ず勝機が来るのだ、各々ダメージを稼ぐ事に集中しろ!!」


 単純に首を切断出来れば早かったのだが、それが出来るのは自分かアレク位しか咄嗟には浮かばない。

 他の隊員は目を潰したり戦力を削いでもらった方が、勝利へと近づく。


 「魔法師部隊!休む暇はないぞ、畳みかけろ!!」





 先の言はどこへ言ったのやら、雷魔法で怯む八岐大蛇は更にもう一度の速効を掛けた魔法師と騎士の連携を許した。

 通算で三度、騎士大隊総攻撃を受けた八岐大蛇には既に見間違わない傷が刻まれている。



 強いて言うならば、自分とアレクの攻撃に関してのみ他の首が割り込んできて切断には到れなかったのは、相手が対処を覚えつつあるからだと推測される。


 (しかし、伝説の化物、この程度か?)


 ルーファンや他の隊員が過信したくなる気持ちは、瞬く間に伝染した。

 勝てる、勝てるぞ、我らに勝てぬものなどいない、等既にルーファンが鼓舞せずとも士気はウナギ登りだ。


 (もう一度----)




 三度目で対処を覚えてきているのは、やや危険な賭けにも思えたがここで流れを崩すわけにはいかない。

 下手に魔法を変えて今のいい流れが切れた時の事を考え、実行出来る勇気はルーファンにも無かった。


 「魔法師部隊、まだ休むな!!全力で詠唱を続けて撃ち続けろ!!」


 そして騎士団は四度目の攻勢へと移った。








 「喰らえ!」


 フェイトが剣を横薙ぎに振り抜くと、今度はシキブは身軽な動きにて剣の間合いから外れ避ける。

 しかし、今度は後方からの援護が届く。

 <ロア>を圧縮したなずなの矢が僅かに浮いたシキブを的確に捉えて撃ち抜く。


 「ふん、やるではないか」


 そう負け惜しみの口調で呟くシキブは、左手にて矢を受け止めようと左手を差し出した。


 「手が砕ける!?」


 フェイトが嫌な予感を胸に叫ぶが、予感は不発のまま終わる。

 溢れだす、暴流にも似た圧倒的な魔力流が左手に集まり、魔法を発動していないにも関わらず矢が押し負けて消滅する。


 「バカな!」


 その言はなずなから漏れた。

 <ロア>を圧縮して放った矢はなずなの必殺でもあり、細い身の矢でありながらその威力は大木をなぎ倒す程強力なエネルギーの塊だ。

 防御魔法で防がれたのならばともかく、ただの魔力の渦に弾かれる等あってはならない事態だった。





 そして、それはすぐ側で剣を振るっていたフェイトにも悪しき物として襲いかかる。

 シキブが左手をフェイトへ向けると、今度は魔力の渦に指向性が与えられる。


 「魔法--水系統の魔法ですが威力は人間のものと思えません!フェイト回避を」


 シンが魔力の渦を瞬時に解析してくれたため、フェイトも防御よりも回避の行動を先んじて取れる。


 「アクアスクラップ」



 フェイトは咄嗟に飛行魔法を使って上空へと退避したのが功を奏し、まるで水の散弾のような水滴をかろうじて回避することができた。

 なずな達は距離があったし、向きが被っていたわけではないので最小限の回避で避けきれたようだ。


 「飛行魔法か、子供のくせにやるではないか」


 不敵な笑みとともに漏らされる感想に、フェイトは無難に答えておく。


 「そりゃどうも、化物。さっさとシキブの身体から出ていけ!!」



 そうは言ってもフェイトよりも恐らく上の体術、圧倒的な魔力。

 単純に力で負けいるのだ、何か打開策を思案したい所でもある。


 「--空中が安全だとは限らないぞ?」


 そして不敵な笑みのまま再び魔力が左手に集まる。


 「ウォーターブレス!」



 今度は水撃砲のような広範囲かつ、当たれば骨も砕けそうな激流を空へ放ってきた。


 「くそっ」


 飛行魔法の方が早いので早々被弾することはないと思うのだが、


 「ハッ!!」


 やはりというか、連射の効く魔法だったらしい。

 今はいいがいずれ逃げ場がなくなれば被弾は確実、その前にこちらからも反撃に出るしかない。

 

 それは地上にいる二人に掛かっている!!


 「先輩!!リード!!」


 フェイトは地上にいる二人へと呼びかけた。





 「了解」


 シキブが意識を外しているという甘い予想はしないが、それでもこちらに攻撃が向いていないのならばチャンスだ。


 「----全力でいくよ」


 なずなが弓を引き絞ると、そこに体から流れる<ロア>を集中させ矢を造る。


 (さっきの糸位細い矢で駄目ならもっと太く、紐のように絡ませて太く)


 なずなは糸を絡め、より太く、より威力が出るように高めていく。



 (……やっぱり時間掛かっちゃうな、これだから実戦向きって才能が欲しかったのに)


 それは後悔でもあった。


 先天的に強力な<ロア>を持つなずなは攻撃力だけで言えば脅威とみなされる。

 しかし、実際には編みあげるまでの時間、近接戦闘では御世辞にも強いと言えない実力、何よりモンスターと戦う経験が少なすぎた。

 騎士同士の模擬戦では想定すらしない事象がモンスター相手では、日常的にあり得てくる。




 だが、人間との試合ばかりだったなずなには応用力、いうなれば実戦で生き抜く経験値が圧倒的に不足していた。

 その人間との試合においても、<ロア>を封印して戦うのだからいつも『劣等生』というレッテルが付いて回った。


 「でも--今はやらなきゃ、なによりシキブのために!!」


 編み上げた矢が先より強い光を放ち、出番が今かと待ち侘びているようだ。

 なずなもそれに応えるように表情を引き締める。


 「いっけえーー!!」



 なずな渾身の<ロア>の矢がシキブへと放たれた。



■■■■■■




 上級雷魔法が四度八岐大蛇を襲い、悲鳴がつんざめく。


 「切り込め!!」


 ルーファンは流れを決して崩さないよう、少ない時間で最良の結果を得られるよう戦闘の流れをコントロールしてきたつもりだ。

 少なくとも首の四つには三割以上の切断跡が残っているし、その首や残った首に対しても他の隊員が斬りつけたダメージが目に見える程蓄積されているので確実なダメージ源となっている。



 そう、その全てがコントロールされていたと知ったのは四度目、良く言えば勇猛、悪く言えば臆病という感情を律せなかったルーファンのミスであった。

 今まで通り悲鳴を上げ硬直している首に向かって、ルーファンもアレクも剣や斧を振り下ろす。

 再び割り込まれることも織り込み済みで、それでも確実に首を切り落とす準備が整ってきている、勝利は近い。



 それら全てが八岐大蛇の掌の上だった。






 ルーファンもアレクも渾身の一撃を放ち、それぞれ狙った首を六割、八割程斬り落とすことに成功する。

 もう一度の攻撃で首が八つから六つに減るのであれば、相手の攻撃力、防御力共にガタ減りになる作戦通りだった。



 しかし四度目、三度目は首を割りこませてガードしてきたものを今度はしてこなかった。

 雷魔法で痺れていたわけではない。

 ルーファンとアレクが狙った首以外の六つは全て攻撃に移っていたのだ。

 狙いは飛び上がっている他の騎士達。空中で身動きを変えることの出来ないただの的と化した棒人形達を。




 ずっと、最初から狙っていた。


 三度も攻撃を許し、誰もが意識を防御面に気を配った慎重から、積極的な攻撃に移った時を----






 八岐大蛇は今までに見せた動きとは断然違う程、圧倒的な速度で六つの首をしならせ、まるでハエでも叩くかのように飛び上がった騎士達を次々と地面へと撃ち落とす。

 戦車の砲弾よりも重く、鋼よりも固い鱗の首で、機関銃さながらの如く勢いを増して騎士達を地面へと撃ち落とす様は、誰の意識をも刈り取った。



 剣を引き抜き、着地するまでにルーファンはついぞ何も考えられなかった。

 ただただ、目の前の光景が嘘であって欲しい。

 誰か夢だと言って欲しい。

 自分の選んだ、ずっと共に戦い抜いてきた精鋭達が為す術なく撃ち落とされ、誰一人として立ち上がれない等と悪夢であってもふざけている。




 ルーファンは着地しても声を発することさえ出来なかった。

 こういった時こそ率先して声を出して、パニックを集束するのが隊長の役目だというにも関わらずルーファンはまだ悪夢から抜け出せずにいた。

 だが、ルーファンばかりを責めても酷というものだ。

 副隊長のアレクも、後方にいて攻撃をもらっていない魔法師達でさえ誰もが声を失い、次を考えることができない。

 打開策を考えることも、時間を稼ぐことも、逃げることも考えられず、体は現実を認めたくなくて硬直している。




 そこに八岐大蛇の身体を芯から震えあがらせる咆哮が加わった。

 誰もが恐怖に耐えきれずに、ついにローウェン騎士団は、終わりなきパニックへと迷走し始めた。






 「いっけえーー!!」


 なずな渾身の矢は現在フェイトへと左手を向けているシキブに取って、必殺の一撃となるはずだった。



 だが、現実はあまりにも無情で誰もが目を疑う光景しか用意されていなかった。


 ピキッ


 始めは気付かない程の地面のヒビが急速に拡大し、ついには


 ドパァーーーン!!


 と凄まじい音と衝撃を持って大量の水が地面から噴き出した。


 「水の--壁!?」


 山の地下にある水脈から水を吸い上げたのだろう。

 あまりにも圧倒的な水量は山に流れる水のほとんどを吸い上げたかのように、噴き上がる。

 その光景は間欠泉にも似ているが、一番近いのは水の噴火といった表現だろう。

 その極大の水の壁に阻まれ、再びなずなの<ロア>の矢は防がれた。


 「そんな、片手間にフェイトを攻撃しつつこれだけの水流を呼び寄せるなんて……」



 化物



 その一言が全てを表していた。





 その光景は空中にいたフェイトも確認していた。


 「嘘だろ?あれだけの水を噴き上げるなんて--バカげてる」


 それも自分に攻撃しながらの片手間だ。いや、どちらかと言えばこちらへの攻撃こそ片手間で済ませているのかもしれない。


 「水害の竜、八岐大蛇か----」


 シキブが以前言っていたが、水の魔法が得意というのはこれだけ圧倒的な水の魔法を見せられれば納得してしまう。

 どうすれば倒せる?いや、そもそも倒してどうにかなるのか?



 ふと自分が考え違いをしていることに気付いた。

 倒してシキブが戻ってくる保証何かどこにもない。それどころかシキブもろとも死んでしまうかもしれない、と。

 フェイトの脳裏に冷や汗が浮かぶ。


 (もし、もしもだ。倒したとしてシキブも死んでしまったのならば……八岐大蛇を倒す意味すらなくなる)


 フェイトの騎士としての誓いはシキブを守ることだ。八岐大蛇を倒すの手段であって目的ではない。

 これでは手段と目的が入れ替わっていて、このままではフェイトは騎士の誓いを守れなくなってしまう。


 「どうすりゃいいんだよ!?」


 未だに噴き上がり続ける水を尻目に、自分への水の攻撃は続いている。






 「どうすれば……」


 編み込んだ<ロア>ですら圧倒的な魔法の前に破れた。

 少なくとも魔法を使わねばガード出来なかった、と思わせるだけまだ良かったものだが攻撃が届かないのならば一ミリも意味がない。


 「なずな」


 なずなのすぐ後ろにはひょこんとリードが立っていた。


 「リード、危ないじゃないか!リードは後衛だろう?ここでは巻き込まれて--」


 「なずな、無理。あの水、逃げ切れない」


 リードに指摘されてようやく思い至った。

 これだけ噴き上がった水は既に川のように水が流れ始めている。


 もし、もしもだ。シキブがこの水全てを操れたとすれば?

 それは津波にも等しい、誰も逃げ切れない最強の魔法となるだろう。

 ことここに到って、既に逃げ道すら塞がれていることに気付かされた。



 「私、攻撃苦手、だから、ずっと、何も、出来なかった」


 リードが悔しそうに歯噛みしている。……この子がこんな表情を見せるなんて初めてだ。

 最初の雷撃魔法こそ放ったものの、リードは一切魔法を使っていない。

 それは上級攻撃魔法が苦手で時間がかかるから、そして放ってもこの三人の中で一番弱いから。

 それを理解しているからこそ、リードは発動準備だけしてずっと待機し、無駄な魔力を使わずに温存していたのだろう。

 しかし、それも無駄になった。





 「私、シキブ、助けたい」


 リードが強く宣誓するように、なずなへと口調を強めて言う。


 「私だってそうだ、シキブを助けたい。だからこそシキブを倒そうと----」


 「倒して、シキブ、戻るの?」




 それはなずなに取ってハンマーで頭を殴られたような衝撃の言葉だった。

 闇雲に突っ込み、倒せばシキブが助かるかと信じ切っていた少し前までの自分を恥じたい。

 そんな保障、どこにもないじゃないか!


 「--封印、シキブに使えば」


 だが、リードの言葉はまさに天の救いに他ならなかった。

 封印魔法を八岐大蛇からシキブに対象を変えて、封じればいい。

 リードの言によれば八岐大蛇を封印する魔法なのだから、シキブに取りついた八岐大蛇を封印するにも有効であるはずだ。



 問題は----



 「シキブを助けたら、八岐大蛇、封印、できない」


 究極の二者択一だった。

 一方を選べば一方を切り捨てねばならない、この世の最も不条理である二択。

 それをリードは呈示した。



 「……フェイトなら?」


 なずなが即答出来ないのを知ると、リードはフェイトに効いてみたいと言っている。


 「聞きたいが、とても聞ける状況じゃないな」




 フェイトは忙しく空を飛びまわり水のブレスを避け続けている。

 こちらには相も変わらず目もくれない八岐大蛇だが、先の防御で実証された。

 

 お前達程度、相手にもしていない、と。


 悔しいが八岐大蛇に取って、この三人は暇つぶしの相手みたいなものなのだ。

 圧倒的な魔力にものを言わせて津波でも引き起こせば、それこそ一瞬で勝敗が決するのにそれをしない。

 必死に足掻くこちらを見て、楽しんでいるのだ。



 ……許せない。


 「--リード、一度だけ援護して。私がシキブを引き付けるからその間にフェイトを呼んで。

 ……そして、フェイトが…………決めて」



 なずなは、悔しくて、悔しくてたまらなかった。

 詰まる所、自分ではこの重たい、世界が滅亡するような責任を背負いきれなかったのだ。

 そして、それを後輩であるフェイトに押し付けることも。



 可能ならば直ぐにでもシキブを助けて、と叫びたい。

 しかしそう言ってしまえば、八岐大蛇の本体を封じる事もできず誰かが倒すしかない。

 だが、自分では天地が引っくり返ろうが、100人いようが決して勝てない相手だと理解している。

 自分の発言に責任を背負いきれない、どうやっても背負い切れなかった。

 世界の命運を自分が背負うなんて……想像もしていなかったし、なずなには無理だった。






 だからこそ、自分はフェイトにその重たい責任を押し付ける罪を滅ぼすために自分の命を賭ける。

 命を持って引き付けて、フェイトのための舞台を整える。




 ----それが、騎士学校ナイツォブラウンド4年生『九行なずな』の覚悟だった。


 「リード、お願いね。----あなたと過ごした日々、楽しかった。シキブも一緒で、本当に、……楽しかった。

 ----じゃあね、元気で」


 悲壮な決意に頷き、リードは魔法を詠唱した。



 「ライトロード」


 リードが生み出した光の道は立ち塞がる水流の壁をすり抜けるよう透過し、なずなは何も聞かずその光の道を駆けだした。

 立ち塞がっていたはずの水流の壁をそのままアッサリと通貨したなずなは、シキブが見える場所まで来て叫んだ。



 「シキブ!!あなたを止める、私の命に代えても!!!!」



 シキブは面白そうにこちらを見つめ、ようやくフェイトから視線を外した。

 その動作に満足したなずなは、弓を構え引き絞る。


 「さあ、死合いましょうか。八岐大蛇!!」



 なずなの命を賭けた死闘が、運命を揺らす----

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