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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
呪われた巫女姫
43/58

不安に怯える少女

 「残す所三日か」


 あれから更に時が流れて、フェイトが立ち向かう決戦の日は三日後に迫っていた。


 「結局誰にも言いだせず、か」


 フェイトの決心もあるが、やはり友達に隠し事をしたままというのは自分の性分としてどうにもスッキリしないものがあった。


 「無事に終わらせて、皆に話さないとな」


 次の満月の夜、八岐大蛇が復活しその脅威と災厄を振りまく。

 しかし、騎士団の大隊が控えているしリードの封印も準備してある。

 手筈は騎士団とも打ち合わせ、何度もシミュレーションしている。

 実際の所、この封印の話を伝えた時には大いに怪訝な顔をされたが、リードの名前を聞いた途端に掌を返したように受け入れが始まった。

 


 ルーファンが独り言と、勝手に呟いて教えてくれたがリードは王宮魔法師の資格を既に持っているらしい。

 ただ、本人の興味のもと世界各地を渡り歩く事を許可されている正式な魔法師ということだった。

 最年少で魔法師の資格を取った上に、同じ研究者や国王からも一目を置かれているとなればさぞかし王宮では有名人なのだろう。

 また知らないリードの一面を知れたのは嬉しかったが、同時に勝手に聞いて良かったのかとも思った。

 しかし、聞いてしまったものは仕方ないしリードはリードだ。


 「まずは自分の集中だな」


 自宅にて今日の夜からの儀式までの時間を使って、訓練をしている最中だったことを思い出し再び剣を振る事にする。





 「シキブ、リラックス、リラ~ックス」


 歩いている途中シキブに声を掛け緊張を解そうと意識してやりだしたのは、一週間前程からだ。

 目に見えてシキブが緊張で今にも潰れそうに見え、フェイトはシキブがせめて少しでも楽になるようにこちらも無理して明るく振舞っていた。

 当初はこちらに反応する気力もあったが、今日は話しかけても無反応だ。

 恐らく声こそ聞こえているのだろうが、全て雑音としてカットされているのだろう。



  ……気持ちはよく分かる。極度の緊張はそれほど心に重責を掛けるのだ。

 むしろ雑音ならまだ良い方で、下手すればその声に苛立ち癇癪をぶつけてくることだってありえる。

 癇癪を起こすのはそれはそれでストレスが一瞬でも飛ぶのだが、シキブは癇癪を起こすことすら出来ない程心が潰れているらしい。


 (……参ったね)



 言葉にこそ出さなかったものの、隣にいるなずなも同じ事を考えていたのか苦い表情だ。

 こうなったなら早く封印を解放してもいいのではないかと思ってしまう。

 フェイトは封印に関しては専門外なのでこんな考えを持ってしまうが、以前リードに相談した時には一刀の下却下された。


 「フェイト、封印を、無理やりは、良くない。一番悪いと、爆発」


 何が爆発するのかは想像だが、封印を無理やりとくのは爆発が起きて封印を解いた側に被害が出ると解釈した。




 ならば封印を無理やり解く八岐大蛇側は?

 そう尋ねると、


 「向こうも、痛い」


 それは何より。ならばやはりこちらからリスクを背負う必要は絶対に考えてはいけない。

 格上の相手とやり合おうと考えているのだ、少しでもこちらに有利なよう運ばないと。

 今日を含めて後二回、儀式を行えば済む。


 最後の日は破られる事が前提なので儀式事態を執り行わず、シキブ及びフェイト達は後方へと避難している予定だ。






 「こんな苦痛の儀式、もう二度とない世界になればいいんですけどね」


 あまりにも痛々しい様に、フェイトはなずなへとふと感想を漏らしていた。


 「……同感だ。人間が暮らしやすい世界、それはなんて身勝手で傲慢な考えなのだと思うが、それでも私達は人間に生まれた以上生きたいという意志がある」


 「その意志の名の下モンスターと札を付けたものを狩り、人間のため住みやすい世界を作る。

 ……悪いのは人間って気がしてしまいますね」


 「悪いと真剣に思うならば、生きる権利と意志を放棄することだ。誰も簡単には捨てられないだろうが」


 「分かってますよ、俺はその中でも自分だけのお姫様を見つけ、その人のためだけに生きたいって言ってますから。業は深いかもですよ」


 「善悪の話しに持って行きたがるのは思春期の考えそのものだけどな。悪いとは言わないが、割り切る事を覚えるのが大人だ」


 なずな自身大人ではないのだが、フェイトよりは年上ということで人生の経験値が違うのだろう。



 「色々、難しいですね」


 フェイトは木々に囲まれる中では星が見えないのを、無性に寂しく思った。





 その日は何事も起こらず終わった。

 とは言っても、シキブの疲労は酷いもので付き添っていたフェイト達は交代で仮眠を取り、ずっと様子を伺っていた。

 普段ならば明け方に起きるはずのシキブは、とうとう目を覚まさずに、目を覚ましたのは再び日の暮れた夜になってからだった。


 「--あれ?今日あんまり眠れてなかった?」




 そうシキブがこちらに尋ねてきた時は、少しだけ背筋が冷え、正直に言うと怖かった。

 あれだけ深い眠りに入っていたにも関わらず、眠っていた自覚もなく疲れが取れている気配もない。

 フェイトが言葉を失っていると、なずなが優しく答える。


 「シキブ、今は午後8時30分。……午前3時に儀式が終わってから半日以上経っている」


 「嘘っ!?」


 驚き、辺りをキョロキョロと見渡すシキブだが何かを探しているようで何も探していない、ショック故の無意識の行動だろう。

 探しているのは失った時間か、それとも普段ある朝の気配か。

 

 それらは無情にも今のシキブの側には存在していない。


 「……シキブ、熱ないか?」


 フェイトは気になって尋ねたと同時にシキブの額に手を押し当ててみると、熱は無かった。


 「ちょ、ちょっとフェイト!?女の子に対してイキナリ何してんのよ!バカッ!デリカシーなさすぎ!!」


 怒られてしまった。というより、最近フェイトに対してデリカシーがないと言う女子が急に増えた気がする。

 一体何故だろう?ピアの影響か?

 等と呑気な事を一瞬考えたが、シキブの表情が優れないことに気付く。




 「シキブ、何かあったのか?」



 そうフェイトが聞くと、シキブは何かを思い出そうとした表情になった。

 何か夢を見たのかもしれないし、意識の底で何か考えていたのを表面に出そうとしていたのかもしれない。

 ……しかし、待ってもシキブからの回答は無かった。


 「分かった、んじゃ飯持ってくるからここで大人しく待ってて。

 あ、御手洗い……じゃなくてお花を摘みにいくなら席を外しても----」


 勿論待っていたのはグーを力一杯握り込んだ、裏拳だった。


 「フェイト絶交!!ほんっとうにあんたデリカシー無さ過ぎ!!」


 そう言ってフンッ、とそっぽを向いたままこちらに一切目を合わせてくれなくなった。


 「ちぇっ、慣れない気遣いはするもんじゃないな。行きましょっか、九行先輩?今日の夕飯の残り持って来るの手伝って下さいよ」


 「分かった」



 ここまで何故かなずなはフォローも口出しもしなかったのが不思議だが、フェイトが話を振るとキチンと応じてくれた。

 立ち上がりつつもシキブを見ると、少しだけ耳が赤くなっている。


 (気遣われたのが恥ずかしかったのかな?)


 珍しく的を射ていたフェイトの感想だったが、長居する訳でもなかったのでなずなと一緒に席を外した。






 「九行先輩、話があります」


 そう、廊下を進んでしばらくしてフェイトは切りだした。


 「どうした?」


 フェイトの真剣な声音になずなもすぐに意識を切り替えて応じる。


 「シキブの事ですが……あいつ、変化しています」


 「?どういうことだ?」


 なずなが分からないとすぐに答えたが、さすがに説明していないのに分かったらエスパーだろう。


 「あいつの額に手を当てたとき、熱が無いっていいましたよね。……その言葉通りです。あいつ、冷たかったんです」


 あまりのことに、なずなは息が止まった。

 呼吸する事を忘れる程の驚き、そして信じたくないからこそ考える力を放棄させるために酸素を吸わない。


 そんな状況に陥っていそうななずなに気付き、フェイトは言葉を続ける。




 「起きた時から変でした、まるで意識が無かったかのように。……逆に言えば意識が乗っ取られていたならば、説明が付きます」


 以前シキブから聞かされた話しの中にあった言葉。



 『特徴としては、傷の治りが早い、やたらと高い魔力を保有している、運動能力も向上した。等とメリットも認められる。

 反対にデメリットとしては、極稀に強い殺意の波動に思考が焼かれる時がある、血が冷たくなる、身体がアレルギーを起こしてたまに皮膚が千切れる』




 そう、シキブは八岐大蛇の九つ目の首として覚醒し掛けている。






 「…………嘘だ」


 なずなから漏れたのは否定の言葉だった。

 現実を受け入れたくないのだろう、フェイトだって気持ちは痛いほどよく分かる。


 「何かあったか、と聞いて思い出そうとしていましたがシキブは何も覚えていなかったんでしょう。儀式直後から今までポッカリ空いた空白、深い眠りなら覚えていないのは当たり前ですがシキブは眠った感覚すらなかった。

 それなのに記憶がないのは……どれだけ不安になるんでしょう」


 記憶というものは曖昧でありつつも、無いと安心出来ないものだ。

 五分前の記憶がないという位では、勝手に補完して辻褄を合わせ祖語を起きないよう脳が防衛する。



 しかし、半日以上記憶が突然飛んだ場合、その時の反応は端的に言えばパニックだ。

 シキブは自分の部屋にいたからこそ落ち着いていられたものの、場所も時間も変わっていたならば支障を来す程にパニックになったことだろう。



 もし、自分が家にいたのに突然道路の真ん中にいたら?もし自分が朝に散歩していたのに夜になっていたら?

 想像するだけで恐ろしい。……シキブは今そんな状況に放り出されたのだ。






 「--先輩、九行先輩!しっかりして下さい!!」


 ハッ、と視界の焦点が定まるとそこには見慣れた後輩の男の子が前にいた。


 「先輩、先輩がショックなのも分かります。でも一番辛いのは本人のシキブなんです。

 ……今日もまた儀式がありますし、シキブは絶対に休んだりしません。これだけ不安なのにも関わらずです!

 その時また支えてあげられるのは俺と、九行先輩しかいないんです!!」




 --自分は今までどこかこの少年を見くびっていたのかもしれない。

 いや、最初は憧れていたのかもしれない。自分に持っていないたくさんのキラキラしたものを持っていたこの後輩に。

 でも、知り合って話す内に身近になり過ぎていたのかもしれない。

 慣れは人間関係を円滑にすると共に、見落としがちになる。

 自分はそれを知らず知らず踏んでしまっていた。--本当、自分が嫌になるな。



 「すまない、……大丈夫だ、まずはシキブに食事、だろう?」


 空元気だと分かっているが、それでも気丈に笑ってみせる。

 そんな表情に応えてくれるように、フェイトも笑顔を返してくれた。


 「ええ、お腹は空いてると思いますからね。早く運んであげましょう」


 フェイト達は話込んで遅くなった分を取り戻すように、足を急がせた。



■■■■■■




 (私、何も覚えてない)


 部屋で待っている間もシキブが考えていたのは、昨日のことだ。


 (いつも通りあの苦しい、熱くて痛くて苦しい儀式を終わらせて、気絶した)


 それは今までと同じだ。意識が墜ちる瞬間ももうお馴染の感覚だった。


 (でも、その後起きたら夜になっていた。……そして普段目を覚ました時にある眠ったという感覚が無かった)


 それが一番怖かったのだ。今までは目が覚めると同時に気だるさや寝不足、痛み等が揺れ動くようにぶり返す。

 しかしそれはとても人間っぽい反応だ。




 けれど今日のは、本当に突然目が覚めた、といった感覚だ。

 まるで誰かに操られた体から、突然解放されたような----


 そこまで考えついて、シキブは恐怖で体を竦めた。


 「嘘……」



 今まで何回か血が混じったような、覚醒したような感覚はあった。

 その度に自分の意識と祖語があったし、だからこそ違和感として覚えていられた。

 それが今回のは違和感がなく、本当に融けてしまったような、飲み込まれてしまったような酷いものだった。

 あまりの恐怖で身が竦み、両腕で自分の身体をきつく抱きしめる。



 「嫌……嫌っ!!!」



 救われることは望んでいなかったと言えば嘘になる、いやむしろ常に望んでいた。

 助かりたいと思ったし、なずなと一緒に居続けたいと思った。

 それに、最近知り合えたフェイトと、もっと一緒に遊んでみたいと思った。

 それがこんなにも、こんなにもアッサリと刈り取られていくなんて……



 「……助けて…………助けて、フェイト」



 涙を流し、声は恐怖で震える姿は、かよわい少女そのものだった。






 フェイト達が戻ると、布団の中で自分を抱え震え続けるシキブの姿があった。


 『シキブ!!』


 思わず手に乗るお盆を放り出して駆け寄りたくなるが、ギリギリ踏み留まり手が空いていたなずなが先に駆け寄り、シキブを懸命に抱きしめる。


 「シキブっ----!!」


 「なずなぁ」


 フェイトは床にそっとお盆を置くと、シキブに駆け寄る。

 シキブはなずながギュッと抱きしめているので、フェイトはシキブをあやすよう、心配や優しさ、そして大切にし守りたいと思う気持ちを全て込めて頭を撫でる。


 「シキブ」


 「フェイトぉ」




 シキブがこんなに泣きじゃくるなんて、初めてだった。

 ずっと感情を押し殺してきたし、知り合ってからは軽口で言い合いばかりしてきたし。

 でも、シキブだって年頃の女の子なのだ。

 こんなにも不安な事が重なって平常心でいられるような人間ではなかった。



 「シキブっ--!!絶対、俺達が絶対に守ってやる。絶対に、絶対にだ!」



 気持ちが強く入り過ぎて撫でる手も強くなってしまっているが、それでも触れられているという感覚の方がシキブには欲しかったのだろう。

 自分の存在が消えてしまわないよう、二人にギュッと絶対に離さないよう抱きしめていて欲しかった。


 (守るから----絶対、守るから)


 フェイトはこの戦いに後が無い事を、今日改めて確認させられたのだ。





 しばらくして、ようやく落ち着いた頃にはまた儀式に向かわねばならない時間になっていた。

 正確に言えばシキブがその時間には間に合うよう、無理やり心を持ち直した、と言った所だろうが。

 ちなみに、折角死守した夕飯は手を付けられることもなく下げられた。



 まぁ後片付けをしなくて済んだのだから、やっぱり結果オーライだと思う。……情緒から言えば、放り投げた方が大事にしてると思うけどさ、食器割れたりしたら嫌じゃん?

 シキブの食器だし、小さい頃から使ってた茶碗とかだったらそれこそ洒落にならないし。

 そんな無駄な心配は本当に無駄な心配だったが、何はともあれシキブはまた巫女装束を身に纏い暗がりの林の中を進む。





 現在、シキブを傍目にみる分には異常はない。

 最初熱が無かった体温も、どうしたことか時間が経つにつれ戻り始めており、言葉に出さないだけでなずなもホッとしている所だろう。


 しかし、今回何もないとは思えない。


 いよいよ明日になれば八岐大蛇が復活するのだ。昨日の様子を見る限り今日で完全に飲まれてしまうことも考えなくてはいけないだろう。

 念のため、リードにも連絡を入れておいたが返事はなかった。

 一体どこに行っているのだろう?少なくとも明日は居てくれなければ困るのだが……





 フェイトも、なずなも、シキブもそれぞれ極大の不安を背負い解決しないままだったが、儀式は執り行われた。

 また長い儀式が始まり、見ているだけとなってしまったフェイト達は一寸も見逃さないようシキブに意識を集中させている。

 儀式の最中でも何か不審な点があればすぐにでも飛びだす準備はしていた。

 既に騎士団にも連絡はしてあるので、一報入れればすぐさま駆けつけてくれる。


 前夜とはいえ、全く気を抜く事が出来ず今夜もヤマと言っても過言ではなかった。





 しかし、予想に反して儀式は滞りなく進み最後の最後まで何も起きなかった。

 それに少しだけ安心したフェイトとなずなだが、油断は出来ない。

 なにせ昨日はこの気絶している間が乗っ取られていたと、仮定しているからだ。

 もしかしたら、意識がなくなることがトリガーなのかもしれないし、慎重に近寄る。

 万一体が乗っ取られていた場合は戦闘も覚悟しながらの、慎重な歩みでシキブに近寄る。

 なずながシキブの身体に触れる寸前でフェイトに目で合図をする。



 フェイトがコクンと頷き、いつ何がきても対応出来るよう緊張の糸を渡るほど集中していた。

 なずなの手がシキブに触れる------





 何も起こらなかった。


 ホッとするなずなを尻目に、フェイトは気を抜かなかった。

 不意打ちとは気の緩みを刺すのが定石、それならば今以上に緊張が緩む瞬間はない。

 自分が敵ならばここを逃さない--


 そんな絶対の予測と覚悟の下、緊張を崩さないままフェイトはなずなに声を出す。


 「先輩、それではシキブを運んでくれるようお願いします。……俺が常に見張っていますすでの、御心配なく」



 フェイトとしては気の休まる所が無かった。

 シキブが意識を完全に取り戻す時まで、この緊張の糸は絶対に切らさない。

 フェイトが目を話した隙に、いつ噛みつくか分からないのだ。

 夜半過ぎから、再び日が沈むまで不眠不休で緊張の糸を切らさないとてつもなく負担の掛かる持久戦を覚悟し、フェイト達は神社へと戻った。





 戻ってなずながシキブを着替えさせたい、と言った時にはどうしようか一瞬迷ったが、着替えさせない事にした。

 着替えさせればなずなが無防備になる、かと言って自分が見張っていたら見せたくもない(フェイトが勝手にそう思っている)相手に裸を見せるという女子としては、比肩出来ない程の恥辱になるため、この判断に落ち着いた。



 他にはなずなに騎士団とリード、そして両親への連絡をお願いしフェイトはじっとシキブを油断無く見つめる。

 考え事すら許されない、乗っ取られた体がどれだけ強いかも不確定なこの状況では本当に一瞬すら惜しかった。

 静かに布団で眠っている巫女姫シキブ、そしてその傍らでブレイヴフェニックスを抜き今にも切りかからんと闘気を高めるフェイトは、まるで対照的だった。


 しかし、部屋の空気はまるで殺し合いの最中の如く鋭く冷え切り、無関係の人間がこの部屋に入ったならば空気だけで気を失いそうな程ビリビリと高まっていた。





 なずなが様々な連絡を終え戻ってきたのは4時少し前、1時間経っていない頃だった。

 普段シキブは目を覚ますとしたら、後1時間か2時間程経ってから。

 もっとも普段、という訳で昨日の前例があるから分からない所だが。

 なずなと話をする機会もなく、そのまま時間が過ぎることだけをただ待っていた。




 そして6時少し前になり、布団の方からシキブが少しだけ声を上げたのが聞こえた。

 フェイトが警戒から厳戒に切り替えると、シキブが起き上がり目を擦る。


 「う~ん、……おはよ、なずな、フェイト」



 その少し間延びした寝ぼすけな声は、ここ一ヶ月の間ずっと聞いてきたシキブのものだった。


 「おはよ、シキブ早いじゃない。昨日良く寝たから?」


 なんてなずなは順応しているが、まだフェイトは警戒レベルを落とさない。


 「シキブ、起きて早々悪いがシキブは自分がシキブだと自覚出来るか?」




 フェイトの鋭い声は、シキブに何か違和感がないか探るのを隠そうともしていない声だった。

 シキブもそれに不満は言わない、誰よりも真剣に心配しているのがその裏に読み取れるからだ。


 「私は私よ、シキブ。フェイトもしかしてずっとそんな疲れることしてたの?」


 それとは、剣を抜き放ちシキブを睨みつけていることだろう。

 不満はないが不快ではある。誰だって睨みつけられて嬉しいとは思えない。


 「……そうだな、でも良かった。何ともないみたいだ」


 「……本当、昨日の今日で私……私、本当はさ、……消え……ちゃうかと……」


 言葉途中からシキブは泣きだしてしまった。


 --しまった、思い出させて不安にさせてしまったか。



 「ごめん、でも乗りきれたみたいで何よりだ。……シキブは絶対に守る。

 ----今日で、シキブの呪われた運命の全てを断ち切ってみせるよ」



 今度は抱きしめる役をなずなより早く奪えた。頭を撫でるよりも抱きしめた方が気持ちが伝わりやすいしね。

 シキブもセクハラだ!とも言いださず、ただただフェイトの胸に涙を零し続けていた。


 (早く、いつものシキブがみたいな)


 あのツンツンのたまにデレるシキブ。



 そんな強気でありつつ繊細な彼女を救うため、フェイト達は今夜決戦へと臨む----

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