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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
呪われた巫女姫
41/58

封印、封爆、封滅

 翌日、フェイトは激しい筋肉痛にうなされながらも登校した。


 「おはよーゲイト、ピア」


 既に教室についていたゲイトとピアに挨拶をするや、二人に問い詰められる。


 「フェイト、最近なんかあった?」


 一瞬ドキリとしつつも、平静を装って返す。


 「どうしたピア、朝からやぶからぼうに?なんかってーとむしろ昨日の鬼のような訓練が--」


 「違うだろフェイト?お前の事だから誤魔化しが上手くないんだよ。正直に吐いちまえ」


 相談、とも違うだろう単純な興味や親切心からの申し出だったのだろうが、正直に言えない理由がフェイトにはある。


 「まあ強くなりたいってのはあるよ。校内大会で俺キャロルル先輩に魔法なしじゃボロボロだったし……」




 あれは苦い記憶だ。自分の治癒がなければ入院してもおかしくない重症だった。


 「そりゃそうか、あれは危なかったもんな」


 同じ双剣部の先輩の事なのでピアに取っては肩身が狭い話しだったのだろう。

 最初の勢いが若干消えている。


 「そんな訳で今はまたアマリリス先輩に訓練を付けてもらってる、なんなら二人も参加するか?あの内容が目茶苦茶厳しいけど」


 パス、と二人して言うものだからこの会話については終わりということだろう。

 --正直、学校の皆を巻き込みたくない。





 昨日ルーファンと対峙してよく分かった。

 やっぱり自分は子供であり、騎士見習いなのだと。

 あれだけの実力差でありながら、ルーファンは全力とは到底思えない。

 そうなればアマリリスですらまだ到達していない域とも言える。


 (伊達に隊長は張ってないってか)


 この世界にはアルト王の他にもこんなに強い騎士がいるのだと、フェイトは改めて確認できて良かったと思えた。





 カリキュラムのトレーニング中も、相変わらずレイは聡くフェイトに探りを入れてきていたが、なんとか誤魔化しきった。

 いや、正直誤魔化せてはいないのかもしれない。

 だが、フェイトが頑なに話したがらないものだからレイが諦めただけなのだと思う。

 このことでギクシャクするのも嫌だな、と思いつつもレイは特に態度を変えなかったのでフェイトとしては助かるばかりだ。

 そして放課後にはアマリリスに訓練を付き合ってもらい、フェイトもレイも確実に実力を付けていった。





 その間九行なずなも平常通り学校に来てはいたが、フェイトと話をする機会は一度もなかった。

 もともと学年も部活においても接点のない二人では、どちらかが会う意志を持たない限り会う事がなかったのである。



 月日が流れるのは早く、一月が経過した所で1年生が更に100人辞めていった中、フェイト達は鋼の意志により騎士学校に残り、騎士への道を歩き続けていた。





 鬱陶しい梅雨の季節に通学が困難になるかと思うだろうが、フェイトとしては魔法で雨を弾く膜を張って登校していたためそんなに苦痛でもなかった。

 寮組のゲイト達はそもそも濡れること自体がなかったため、6月も表面上は平和に流れていった。

 水面下ではフェイトは血のにじむ努力を重ねており、優秀な先輩であるアマリリスの協力もありたった二ヶ月の割には先生も目を瞠る程の成長を重ねていた。



 そんなフェイトにいつも張り合っていたのは、仲間でありライバルでもあるレイだった。

 一緒にアマリリスの訓練に耐え抜き、1年生最優秀の名は今やより強固に補強されるばかりであった。

 ゲイトとピアもそれぞれの訓練内容が実を結び始めたようで、苦手分野においても成績を見せ始めるようになっていた。





 そして7月。


 初夏の頃フェイトは約束を果たすため、今ローウェン国王都を訪ねていた。

 夏休みにはまだはやいが、土日の連休を使ってここまできたのには相応の理由がある。

たった二ヶ月、されど二ヶ月。



 男子三日会わずば刮目して見よとの言葉通り、フェイトはルーファンに今の力を見せにきたのだった。

 事前の連絡により、五分だけ時間をもらえることになっていたフェイトは約束の時間に遅れることなく、王城前の広場に参じていた。





 「久しぶりだな、フェイト君。君から連絡をもらった時はビックリしたよ。まさかこの王都までわざわざ来て実力を見て欲しいとは」


 王都までの距離はかなり離れており、飛行魔法を持つフェイトだからこその荒技とも言える。

 普通は航空便を使って行くものだが、そんな手間もお金も掛けられないフェイトとしては自分の魔法で飛んだ方が気楽なものだった。


 「ルーファン隊長、あの時も今も俺は子供だと自覚しています。

 --でも俺だって騎士です、守りたい人がいるのに黙っているわけにはいきません。今日はどんなに最低でもシキブの側にいる許可だけはもらって帰ります」


 「威勢がいいものだ、さて時間もないことだし早速始めるとしよう。たった二ヶ月だがその二ヶ月でどこまで伸ばせたのか教えてもらおう」





 ルーファンは話終わるや否やその姿がまるで蜃気楼かの如くぶれる。


 (残像、速さと巧さがなければ消えたように見えるけれど、あえて像を残して視覚的油断を誘う)


 フェイトは真正面へと揺るぎなく剣を突き出した----



ギィン----



 「ほう」


 残像と分かっても直感に頼るならば、背後へと剣を防御に回す者が多いと思う。


 だが、それは見切ったわけではない。あくまで直感頼みだ。

 ルーファンはそんな直感を見たかったわけではなく、本当に対応出来る力を持ってきたのかを計りにきたのだ。

 故に背後には回らず敢えて正面から剣を交錯させた、それが残像のメリットを潰すことと知りつつも。



 「なるほど、よほどいい師匠に師事したようだ。学生レベルでこの動きについてこれるとは正直見直したよ」


 アマリリスには本当に感謝である。彼女の超高速の剣技を毎日のように受け続けたからこそ、フェイトもこの極致まで辿りつけたのだ。

 もっとも、アマリリスに勝てる等と無謀なことはこの二ヶ月間一回も思えなかったが。



 「もう少しだけ試させてもらおう、最後まで付いてこれるか?」



 ギィン!



 鍔迫り合いが一瞬で外され剣が空中で泳ぎそうになる。


 「フェイト!右!!」


 シンの警鐘によりフェイトは剣を構え直すよりも、右への攻撃を優先する。


 ギン!


 重い一撃に右手が痺れるが、剣を落とす程ではない。

 視線をそちらに向けるとルーファンは右手だけで騎士剣を振るっている。

 試験のつもりか本気ではないようだ、しかしそれは同じ騎士として油断としか言えない。


 「ハッ!!」




 フェイトは左手を添えて魔力をブーストさせて強烈な返しを展開する。

 ルーファンの予想を遥かに超えていたためか、ルーファンの攻勢が一瞬でひっくり返され今度はフェイトから連撃を仕掛ける番だった。


 「オオオオ!!!」


 フェイトの怒涛の気迫と共に、一撃毎に魔力で加速し重さを乗せた一撃でルーファンの体力を削る。


 (いけるか?)





 しかし、相手の方が歴戦の強者であるため反撃の手は早かった。

 右手だけでは支えきれないと即座に判断したルーファンは、初撃こそ大きく態勢を崩したものの二合、三合と剣を交える度に態勢を整える。

 そして僅か四度目の剣撃の交差で押していたはずの攻勢はキッチリ引き分けた。

 態勢を戻しきったルーファンが繰り出す剣撃により、二人共に弾かれ仕切り直しとなったのだ。



 「……驚いた、これが魔法の力を持つ騎士か。……確かに予想もしなかった、将来君はこの国の誰よりも強くなるかもしれない」


 ほ、褒められた?

 内心嬉しくて、思わず敬礼して言葉を受け取りたい所だが今日の目的はそこが終着点ではない。

 改めて剣を構え直すと、どうしたことかルーファンは剣を鞘へと収めた。




 「合格だ、これならばよもや足を引っ張ることはないと判断する。--巫女姫シキブの護衛の任を君に与えよう」


 「は、ハイッッ!!!!」


 フェイトはこの日、ルーファンに評価を覆してもらいシキブの護衛の権利を手に入れたのだった。



■■■■■■




 フェイトはその足で早速九頭竜神社へ向かうこととした。

 飛行魔法の連続使用で疲れは多少あるが、今の気分なら地平線の彼方まで飛んで行ける気がする程絶好調だった。


 「待ってろよ、シキブ。約束果たすから」


 フェイトはまるでブーメランのように王都に留まることなく、急ぎ帰っていった。





 「隊長、いいんですか?あんな子供を参戦させて?」


 そう広場の影から声を掛けてきたの、体格のいいまるで熊のような男だった。


 「問題ない、それに問題があれば私が責任を取る。問題ないだろう、副隊長?」


 そう言われ肩を竦めた男は、風体に似合わず軽そうな動作だった。


 「正直な話二ヶ月で隊長の残像を見切れたのは見事だと思いましたが、戦闘に関しちゃまだまだ経験が足りない。筋力も体力もスピードも組みたても判断力も。

 でも評価する所があったと?」


 その指摘にルーファンは頷く。



 「成長速度は認めざるを得ない、しかしお遊びではない戦場に連れていくとすればそれだけだったら連れていく気は無かった。

 ……彼は自分に足りないものを長所を持って補ってきた。それはセンスという他ない」


 誰もが同じように欠点を克服し、バランスのよい騎士になればいい訳ではない。

 副隊長のように怪力を持つ騎士がいた方がいい場合もあるし、実力が足りなくてもムードメーカーとして空気を作れる騎士がいた方がいい場合もある。


 それぞれの長所を合わせた結果、隊の能力が向上するのがベストなのだ。

 平均的な者だけで組めば無難だが、いざという時の突破口が見つからずジリ貧ということもありえる。

 なるべく長所は偏らない方がいい。




 「さて、我々も訓練に戻ろう。敵は八岐大蛇だけではない、それに彼の敵の力も未知数だ」


 ヘイヘイ、と部下らしからぬ軽薄な態度で答える副隊長だがルーファンはいつものことと気にせずに、王城へと踵を返した。






 「シキブ!シキブ、いるか!!」


 九頭竜神社へと戻ったフェイトは境内にて大声叫んでシキブを探していると、驚くほど笑顔のシキブがお守り売り場から現れた。


 「フェイト?ちょーーーっと、いい?」


 ことここに来てフェイトは自分が何かとてつもないことを間違えたことを気付いた。

 シキブの笑顔は張り付いているだけだ、その裏にはハッキリと怒りのマークが見える。


 「あ、あーうん」


 さてさて、どんな展開になるかなと思っていたら以前通されたシキブの自室へと案内された。

 扉をゆっくりと閉め、まるでこれから恋人同士の語らいが始まるかのようにゆっくりとした所作は、僅か一瞬の間だけだった。

 もう笑顔を張り付ける必要がないからか、シキブの表情は笑顔ではなく暗い顔だった。

 ただし、精神的に落ち込んでいるのではなく明らかに怒りが沸点を超えた時の顔だったが。





 「こんのバカ!!!!恥ずかしいったらありゃしないでしょーーが!!!!」


 怒号と共に飛んできた拳骨は女の子として相応しいものではない気がしたが、甘んじて受けることにする。


 「いったぁ!?シキブ今全力で殴っただろ?!」


 「全力にもなるわよ!私接客中よ!?お客さんがいるのに大声で私を呼ぶとか何様?私が巫女姫とか呼ばれてどれだけ売り上げに貢献してると思ってるのよ」


 なんだか根は巫女というよりも商売人という気がしなくもないが、やっぱり謝るべきがフェイトだった。


 「ゴメン、無神経だった」


 シュンと反省した様子も見せると、シキブもようやく怒りの矛を収めてくれることとなった。





「で、二ヶ月振りに再会したってことはあの時の約束の話?」


 コクンとフェイトが頷くとシキブは居住まいをやや正す。


 「--聞くわ、話して」


 その様子にフェイトは少し嬉しさを感じながらも、いまさっきルーファンの下を訪ねてシキブの護衛の許可と取ってきたことを伝えた。


 「----驚いた、本当に。い、いや当然よね!私があれだけ譲歩したんだから!」


 シキブさん、何故に貴女は素直になれないのであられますか。

 今素直に言ってくれたって良かったのに。



 「シキブの提案のおかげで無茶が間に合ったよ。やっぱり二ヶ月じゃ間に合わなかったかもだからね」


 そんな無邪気に微笑むフェイトの笑顔の裏にはどれだけの努力があったのだろう?

 シキブとて血を流す忌まわしい呪いの儀式は二ヶ月間ずっと行っている。

 だが、フェイトの努力もそれとは違った辛さがあったのだろう。


 「それにしてもよく許可がもらえたわね。二ヶ月前じゃけんもほろろに拒絶されたのに」


 「……詳しい理由は分からないけどさ、認めてもらえた。これで俺は国からも正式なシキブの騎士だ、もう文句はないよね?」




 約束を果たし、最初の契約の時からもずっと向き合ってくれた少年騎士フェイト。

 その真っ直ぐさには、その純粋な心にはもうシキブも抗えない優しい暖かさが確かに伝わっていた。

 

 「----よろしく、私の騎士さん」


 こうして二ヶ月も待たせてしまったが、フェイトとシキブは握手を交わし互いをパートナーとして認めることとなった。







 「それで、後一ヶ月しかないんだけどそれについてリードが話したいことがあるってずっと言ってたわ」


 「リードが?」


 そういえばそもそも何故リードがここにいるのだろう?

 それにリードが作戦を練っていたということは、何か知っているのかもしれない。

 そう思うとフェイトは自然と足を動かしたくなった。


 「シキブ、リードに会わせてくれ。話を聞きたい」


 「そうこなくっちゃ」


 もう随分と砕けて会話してくれるようになったシキブは、リードの寝室へとフェイトを案内した。




 「リード?いる?」


 ノックをして中の様子を伺うが、リードは部屋の中には滞在していないようだった。


 「困ったわ、野良猫みたいな娘なんだから……一箇所に落ち着いていてくれないのよね」


 そんなシキブの感想にはフェイトも苦笑して肯定をしておく。

 野良猫みたいというのはフェイト達もずっと思っていたことだ。


 「それならまたあそこかしら?最近よく封印の場所に行ってるのよ」


 「あそこの儀式の?」


 そうフェイトが尋ねるとシキブはコクンと頷いた。


 「あの娘何やってるかだけは教えてくれないのよね、「シキブ、安心、して。」位しか教えてくれないから」


 ふむ、とフェイトは少し考え込む。

 リードは天才魔法師だし、もしかしたら封印について何か知っているから調査とかをしているのかも。そう考えるのが一番しっくりくる考えのように思えた。


 「それじゃあっちに行ってみましょうか、歩くわよ」







 言葉通りシキブとフェイトは封印の場所へと向かって歩いていた。


 「そういえばシキブ」


 とフェイトが切り出すと、何よ?とシキブが返してくる。


 「お守り売り場はいいの?」


 ハッ、と明らかに硬直した気配が伝わってきたのでフェイトは気付かなかったことにする。


 「シキブ」


 「な、なに?」


 明らかに固くなった言葉や態度に笑いを噛み殺しながらフェイトは言葉を続ける。


 「破魔矢とかってさ、本当に魔力込めてたりするの?」


 話題を選んでいるようで内心からかい混じりのフェイトは、適度にからかえる話題をシキブに振る。




 「そうね、魔力を込めているわ。とはいっても本当に微弱、一般の人が持って影響を受けたら大変でしょ?だから本当にちょこっとだけ」


 「そんなもんなのか、でもお守りとかに魔力込めるわけにはいかないよなー」


 話題は絶対にお守り売り場の物から離れないフェイトに、ようやくシキブも気付いたようだ。


 「フェイトー?あんまり度が過ぎるようだとこの場でお仕置きしなきゃなんだけど?」


 ごめんなさい、とフェイトは素直に謝ることで矛をさっさと引っ込め決して空気を悪くはしないようにする。


 「まったく……」


 そんなお姉さんぶったシキブの態度が妙に可笑しくて、ついつい忍び笑いをしてしまったのがバレて結局道中はお説教になってしまった。






 現場に着くとそこには果たして目的の人物がいた。


 「リード」


 フェイトが声を掛けると、リードはぴょこんと地面から跳ねるように立ち上がり、こちらにトテトテと小走りで走り寄ってくる。


 「フェイト、久しぶり。なずなから、話し、聞いてた」


 リードも待たせてしまったな、と思いフェイトは先に謝ることにする。


 「ごめんなリード、一緒にシキブを助けようっていったのにこんなに待たせて」


 そう謝ると、リードは首を横に振る。


 「気にして、ない。フェイト、話、聞いて」


 こうしてフェイトとシキブは初めてリードの目的を聞く事となった。




 「私、魔法を、研究してる。それで、ここを知って、研究」


 「リードは何の魔法を研究しているんだ?」


 「何でも、でも、今日は、封印」


 「封印の魔法……もしかして八岐大蛇を復活させずに封印出来るの?」


 シキブの声は僅かに上擦っており、万一のことでも期待をしたかったのだろう。

 しかし、現実は無情にも首を横に振るだけだった。


 「私の、復活しないと、封印、できない」




 その時のシキブの落胆は目に余るものだった。

 親友だと思っていた友達がずっと研究してくれていたのに、どうしても復活が前提では救われない。


 「……それで、具体的にはどうなんだ。効果とか有効範囲とか」


 フェイトとしてはそちらの方を気にする必要があった。

 確かにシキブの心のケアも確かに必要だが、まずはリードの対策からだ。


 「一回きり、効果は絶対、一生」


 「本当か!?」



 それならば望みはある。復活に関しては騎士団が喰いとめてくれるし、その間にリードの魔法が完成さえすればもうシキブは呪われた運命を背負わなくて済むのだ。

 そしてその解釈は、騎士団では叶わないと暗に思う所があるからでもある。


 「条件、弱る、封印、封爆、封滅。……終わり」


 封爆と封滅の意味はよく分からないが、一生続くのならば問題ないと思う。


 「じゃあ準備しよう、絶対に失敗出来ないな」


 「うん」


 盛り上がるこちらとは対照的に、シキブの表情は沈んだままだった。





 準備としては魔力を込めた魔法陣を描くということで、実際の所手伝うことはほとんどなかった。

 魔法陣を知っているのはリードだし、フェイトに出来るのはそれこそリードにご飯を出したり、飲み物を渡したりする位だった。

 けれど、その間気になってリードを見守りつつもずっとシキブと話していた。


 「シキブ、後一ヶ月あの儀式が続くこと、すごく辛いと思う。それに、復活するって分かるプレッシャーはきっともの凄く重いと思う。

 ……僅かだけど俺もプレッシャー感じてるからな」



 あの時はこの場所が嫌な感じがする、位にしか思っていなかったが今は違う。

 明らかに異様なプレッシャーを感じるのだ。

 まるで、今まさに見下ろされ、舌舐めずりするようにこちらを見定め、喰らおうとする絶対的強者のプレッシャーが。


 「シキブ、今度からは俺も付き添う。こんな場所に付き合うなら大勢の方がいいだろ?一人じゃ耐えられない」


 フェイトですらそうなのだ。

 それが今まで封印していたとはいえ、まだ成人もしていない少女が耐えるには辛いものがある。

 しばらくすると、シキブは少し迷いながらも頷いた。


 「……お願い」




 いつもの快活さはどこにいったのだろう、思えばここに来た時からずっとこの様子だったのかもしれない。


 (既にトラウマレベルのプレッシャーだよな。……守らないと)



 リードが魔法陣を描き終わるのを待ち、三人は早々にこの場を離れた。

 後一ヶ月、それまではシキブは封印を継続させるためにあの場所に通い続けなくてはならない。

 封印の儀をしたわけでもないのに、唇を真っ青にしていたシキブの心理的ストレスはいつまで持つのだろうか?



 不安なことは数多あるが、時間だけは刻々と流れていく----

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