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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
少年騎士、生誕
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レクリエーション

 家に帰ると自分より小さな、でも自分と同じ新品の革靴が玄関にあった。


 「ただいまー」


 この時間帯で返事が返ってくるとすればただ一人。


 「お帰りーお兄ちゃん、学校楽しかったの?今日帰り遅いよ~」


 パタパタという可愛らしい足音とエプロン姿で出迎えてくれた女の子は、妹のアイリス・セーブだ。


 鳶色のショートヘアーが兄妹としての共通点でもあり、実際は二卵性でもあることから目鼻立ちが似ている?と疑問符を付ける程でしか似ていない。


 ちなみに小柄な背丈に違わず顔も幼い。


 「あぁ、初日から仲の良い友達が出来てな、模擬戦までやったもんだからその後話していたんだ」




 よしよし、と頭を撫でてやると妹は嬉しそうに微笑む。


 背は小柄な方で170cmちょっとのフェイトからでも、手を伸ばせば丁度頭が撫でられる高さでもあり、自然と頭を撫でてしまう。


 妹のせいだとは思うが、妹が小さい時から撫でているのが癖で自分より小さく可愛いと(猫とか犬とか子供とか)ついつい手を伸ばして撫でたくなってしまうのだ。


 ……癖とは恐ろしい。


 ただ、撫でられている途中で気づいたのか、妹はこちらに質問を投げかけてくる。


 「お兄ちゃん、なんでイキナリ模擬戦なんかやってるの?うちの学校そんな血気盛んな人、一人もいなかったよ」


 妹とは双子であり、フェイトは騎士学校、アイリスは魔法学校とここで初めて進路が分かれたのだ。


 小学校、中学校共に同じ学校、同じ学年で一緒に過ごしてきた2人だからこそ初めての別学は兄であるフェイトですら少し不安になった程だ。


 それでも妹は騎士学校に行く事を嫌った。


 ちなみに理由は、「騎士みたいにバカげた体力なんかないから」だった。


 学力はそこそこ、幸いにも魔法の才能もあったみたいで入学試験は中の上程の成績で入学できたそうだ。


 得意魔法は四大属性の内の水魔法と炎魔法。本来逆の属性のものは苦手なハズなのだが、両方とも得意という珍しい型でもある。


 強いていうならば、血液型がAB型のRh-、そして利き腕が両利きという所だろうか?

ただし珍しい型でもあり、実践も出来ている方だが学力が及ばなかったため成績は中の上ということだ。


 本人曰く、「理論じゃなくて、感じるの!」だそうだ。




 「こっちだってトラブルに巻き込まれたからだ、他のクラス、他のクラスメイトは断じてやっていない」


 「それ自慢にならないよ…」


 大人しく撫でられたままであるが、アイリスは少し呆れているようだ。


 手をどけてやると、こちらを見つめまた話しかけてくる。


 「今日の夕飯当番は私だからね!期待しててね!!」


 ビシッ!という擬音を立てる位の勢いで指をこちらに突きつけるが、特に相手せずスルーして通り過ぎる。


 「さて、コンビニ行って買ってくるよ。父さん達の分も買ってきた方がいいよな?」


 「お兄ちゃん話聞いてた!?」


 憤慨の意を示し、瞳が怒りと涙で染まっている。


 それでもいつものことと、フェイトは全く持って取り合わない。


 「じゃあ三人分だな。金は…げっ無い」


 ポケットから財布を取り出し中を確認すると、お札がなく小銭のジャラジャラした重みだけが財布の大半を占めていた。先ほどのカフェで結構使っていたようだ。


 ……しかし問題だ、自分の部屋にある積立貯金を切り崩すべきか?もしもの時のために貯めてきたお金だが、今日、今この日この時こそ、その迫る時なのかもしれない。




 「はーなーしーをー聞けえー!!」


 と、ここまで大声を出されては無視するわけにもいかない。やや諦めた表情で振り返ると、既に怒りよりも、涙しか見えない苛められた小動物の瞳になっていた。


 「ごめんごめん、意地悪してる訳じゃないんだ。世界一愛している妹を苛めるなんてことはしないよ。でも今のは苛めてるんじゃなくて事実からさりげなく遠ざかり、自身の生命の危機を回避するための…」


 「だから聞いてってば!!」


 言い訳(?)もそこそこに話を切られたので、アイリスの話を素直に聞く。


 「今日は確かに当番だけど、入学式で疲れてるだろうからってお父さんがシチュー作ってくれて、タコのサラダももう出来上がってるの。だから当番っていっても温めるだけだから大丈夫!」


 そこまで聞いて、ようやくフェイトは息をつくことができた。




 ここまでの流れから分かるように、妹は超絶的な料理オンチである。


 カーボンを作るのは当たり前、ゲル化したものや虹色に輝く料理を食卓に出された時は顔が恐怖で引きつった。


 普通そこまでいけば才能が欠如というより凹んでいると諦めるものだが、意外な所で負けず嫌いを発揮し、その結果料理の挑戦を続けるという最悪なパターンに陥った。


 既に2年、週に1回だけ当番として料理を作っているのだが、一向に上手くならない。いや、それどころかドンドン独創的になってきている。


 塩化ナトリウムとクエン酸のコラーゲン煮込みは名前こそ直訳すれば塩レモンの豚肉煮込みという平和(?)な名前だが、実際は水酸化ナトリウムと硫黄の豚足煮込みであったため、食べずに廃棄した。--豚さんごめんなさい。


 臭いを通り越して異臭、異臭を通り越して激臭を放ち、意識を保てたのが不思議な位だ。


 ……ちなみにどこで調味料が化学薬品に変わったのかは、追跡調査を試みても判明しなかった。





 「じゃ温めるだけだし、俺がやるよ」


 「なんで!?聞いてなかったの!?当番は私だよ!」


 涙目ながらに訴えてくる妹、既にこのやり取りは何度目だろうか?


 「アイリスはお皿を出して盛り付けて。それだけでいいから、というよりそれ以外やらないで」


 兄の懇願についに根負けしたアイリスは、不承不承ながらも承諾し、


 「じゃあお皿並べてるから、早く着替えてきてね」


 そう言ってようやく今日の夕飯の安全は守られたのだった。





 両親がまだ帰ってきていないため、二人きりでの夕食だったが共働きが珍しくない現代では特に寂しがることもなく、チャキチャキと後片付けまで済ませ2階の自室へと戻る。


 部屋で特にやることもなくノンビリしていたが、トントン、という規則正しいノックにより静寂とだらけが適度に散らされていく。


 「お兄ちゃん?ちょっと練習に付き合ってくれない?」


 魔法学校に入る時からおなじみとなっている魔法のトレーニングには、いつもフェイトが付き添っていた。


 可愛い妹が事故に遭うのが怖くて付き添ったのが最初で、それ以来アイリスは一人では瞑想以外やらなくなっていた。


 もう十分に一人立ちも出来るのだが、結局はその奥にあるコミュニケーションの機会と、兄に甘えたいという心が見えているので、フェイトは付き添いを辞めることはなかった。


 「分かった、先に庭に出ていてくれ」


 ハーイ、という可愛らしい声と共に階下へ降りていく足音が伝わってくる。


 フェイトは雑多な気持ちを切り替え、ジャージを羽織ると甘えたがりな妹が首を長くして待っているだろう庭へと向かった。




 「今日はどうする?」


 「あのね、今日は飛行魔法をやってみたいなって」


 これにはフェイトも面を喰らってしまった。


 確かに練習自体は誰もが通る道だが、それでも通常はもっと経験を積んでからである。


 厳密に言えば魔法学校の最上級生である、5年生になってからだ。


 いくら魔法学校に入学したからとはいえそう簡単に許可は出せない。


 「だめだ、お前にはまだ早い。他にも色々あるだろう、例えば炎と水の出力調整とか、土、風魔法の練習とか」


 「だって魔法学校に入学したんだよ?それに実技だったら私結構自信あるもん」


 いつもにはない珍しさで食い下がってくるが、断じて認められない。


 「だめだ、そもそもアレは実技もそうだが理論を理解していないとなおさら難しい。俺だって最初から空が飛べた訳じゃないんだぞ?空気中の元素の理解、風の機嫌、何より高い魔法出力と精密なコントロールが求められるんだ。お前には出力以外足りているとは思えん」


 妹の場合火属性と水属性が得意なため、魔法出力において飛行すること自体は難しくないだろう。




 だが普段の練習を見る限り、コントロールはまだ荒いし学力も乏しい。


 飛行魔法の練習は魔法師の資格を持つ者が指導に当たるのが本来望ましい程のレベルなのだ。それは妹だって理解しているはずなのに--


 「もういい!勝手にやっちゃうから!……エイッ!!」


 そう掛け声を発すると共にアイリスの体が地面から浮きあがり、フェイトが手を伸ばした瞬間には目の前にいたはずの、小さい妹は加速して宙へと上昇してしまったのだ。


 「アイリス、バカ!やっぱり制御できてないじゃないか!」


 本来最初からあんなに加速する訳がない。それは想像力と精神の未熟さ故出力だけが先走ったせいで、加速に比重が大きく乗ってしまっているのだろう。


 「…くそっ!飛べっリリアウト!!」


 自分も最大加速で飛ぶが、思ったより妹の加速が早い--距離が一向に縮まらないのだ。それに焦っているせいでアイリスは風のバリアも張っていない。夜になって昼よりも寒い上空では体温が急激に冷え、何より急激な気圧差で体組織に影響が出てしまう。


 何より酸素も薄いためいつ意識を無くしてしまうか……


 「アイリーース!!!」


 まだ自分より上にいるアイリスだが、飛行魔法による加速が落ちてきたため上空で捉えられると確信した。


 しかし、それは同時にアイリスの意識が混迷してきてしまっている証拠だろう。


 「アイリス!意識はあるか!?あるならまず呼吸を整えろ!」

 

 まだアイリスと距離があるため手が届かない。それまでに0.1秒でも早く苦しみから解放してやりたいため、言葉だけでもアイリスへ届ける。





 ……と、言葉が届いたのかアイリスの不安定だった姿勢も戻りつつあり、風のバリアも未熟ながら形成されてきている。


 態勢さえ整えてバリアにより外気を遮断できれば、ひとまずは安心だ。


 すぐに追いつき、妹を抱きかかえる。


 そして急ぎ妹の表情を確認すると


 「えへへ、お兄ちゃん私飛べたよ」


 そう満面の笑顔でこちらに答えたのであった。


 一瞬、ほんの一瞬だけ褒めてやろうかと思った。


 だが、フェイトは容赦ない拳骨を妹の頭へと躊躇なく振り下ろした。


 「い……いっったーーーい!!!お兄ちゃんヒドイ!!」


 なんと言われようが、妹が悪い。確かに最後自力で僅かだがコントロールできたのは褒めてもいい。


 だけどその前から見ていれば命を落とす寸前でもあったのだ。むしろ拳骨で済ませたのはまだ穏便だと誇ってもいい。


 「無茶ばっかりだ、お前はここ一週間の魔法訓練を禁止する!」


 何とか無事に妹の救出にも間に合い、フェイトは地上へとゆっくりと高度を下ろしていく。


 だが、腕の内に収まった妹からは文句が嵐のようにとんでくる。


 それは全て風の鳴き声のように耳からすり抜け、フェイトには届かなかった。




 「うぅ、ごめんなさい」


 結局地上に無事戻った後もフェイトによる説教が20分程続き、アイリスの方から折れた。


 「分かったか?飛行魔法はとても難しい上に俺はお前が心配なんだ。だからこその厳罰なんだ、ちゃんと理解したか?」


 同じようなことを既に10回以上も聞けばそんな念押しが無くてもアイリスには分かる。


 「ごめんなさい、お兄ちゃん。ちゃんと約束は守って一週間訓練しないから…一週間経ったらまた訓練に付き合ってくれる?」


 寂しげに、そして不安が入り混じった瞳でフェイトを見上げるアイリスに、フェイトは優しく微笑みかける。


 「当たり前だ、お前は俺の大切な妹なんだから。お前が望むんなら多少の無茶以外は聞いてやるさ」


 多少の無茶に飛行魔法が含まれない事は重々分かったので、アイリスも素直に兄に甘えなおした。


 「ありがと!あと、さっき助けてくれたのもありがとう」


 入学式という大変有意義な1日は、家に帰ってからもイベントを巻き起こしたようだが、ようやくその長い1日にも夜闇と星屑が回り、終わりを迎えたようだった。




■■■■■■




 翌日新入生である自分達は学校へと向かっている。上級生はまだ春休みのため学校に顔を出している者は極僅かであろうが、新入生である自分達には通称洗礼と呼ばれる程のしごきが待っている。


 まずそこで先生方は生徒の実力を測り、個人個人に合わせたトレーニングやカウンセリングにのったりして実力を伸ばしていくのだ。


 基礎体力が欠けているようであれば、素振りの時間等を大幅に減らされひたすら走り込みをやらされたりする。


 反射神経が劣るならば近距離ノックを受けたり、電流を流されたり等理に適ったトレーニングが選択されるが、稀にどれもが平均的であったり全てが突出しているような生徒がいるとそれは教師陣から注目の的となる。


 将来的にどれだけの大輪を咲かせられるかが教師に問われるからだ。


 平均的であればどれもが伸びる可能性があるので、これからの成長幅次第で優秀な騎士を排出することも、そして突出した天才や秀才がいるならばその才能と努力を殺さずに伸ばさなくてはならない。


 これこそが教師の質が問われる物で、この洗礼と呼ばれるデータ測定の全データは教師陣ならば誰でも閲覧できるし、その成長が悪いようならば教師人生が絶たれてしまうことだってある。




 ナイツォブラウンドは私立であるからこそ、生徒にも教師にも結果が求められる。


 だからこそ、この後者の部類に属してしまうと、普段鍛錬の質が厳しくなりがちである。

 

 もっとも厳しくして辞めたとなった場合は教師の責任ではない、という暗黙のルールが占めているのでスパルタの温床になりやすい。




 話を戻すと、フェイトは魔法こそ使え剣技も抜群だが他の体術や体力、敏捷性に反射神経に動体視力等は良くも悪くも平均的である。


 目立ちたくないので剣技をやや控えめにしていた所、この洗礼による計測データは平均値に近い値を示してしまったのだ。


 例えではなく、丸1日がかりで計測という名のしごきを受けた1年生全員は、明日の登校を拒否したがるものが全体の9割を占めていると言ってもいい。


 何故なら教室に置いてある荷物を取りに行こうと考えても体が動かないのだ、疲労過多で。それもクラス全員というより今いる1年生ほぼ全員が校庭で倒れたまま動けなかった。


 かろうじて側にいたゲイトにフェイトが話しかけてみる。

 

 「なあ、これ知ってたか?……洗礼」


 ゲイトは体力には自信があるらしく全体から数えても優秀な位の人数の割合で倒れてはいない。だが、そんな彼でも立つことは出来なかったようだ。座ったまま目を虚空にさまよわせて答える。


 「……ああ、噂でな。初日の洗礼が終わって家もしくは寮に帰れた人物は学年で1人いればいい方だってな。そして立つことが出来た生徒もそりゃすばらしい努力か才能を持っているとか」


 ゲイトとしては悔しい所だろう。体力に自信があったため最低でも洗礼終了時に立っていたい、そう思っているハズだが足は石がコンクリートにセメントでガチガチに固定されたかの如く張り付き、例え今この場で暗殺者にナイフを振り下ろされようと、決して回避できない位精神力を振り絞っても無理だった。


 「足に50kgの重しを片方ずつ、計100kg。それで砂丘ゾーンの制覇が第一課題。その後に同じ条件で水泳を10km。それが準備運動だっけか?」




 思い出すだけでも恐怖で意識が遠のきそうだ。何せ小型だがサラマンダーが後ろから追っかけてきたり、獰猛なホオジロザメが解き放たれる等下手したら命にかかわる所業である。


 現に今日で病院送りになったものが100人は超えたはずだ。他には騎士を廃業せざるを得ない怪我を負った者も数名でたとか。


 教師もフォローに入るが(当然だろう)カバーしきれずやむを得ない状況で後ろから追いつかれ、食われたり焼かれたり。


 もっともそういう危険を本当に解き放ったからこそ、走破しなくては自分がそちら側になったかもしれないのだ。


 だからこそ本当はフォローが間に合ったのかもしれないが、わざと犠牲者を出した、とも考えられる。


 勿論推測だが、そういった下の下を切り捨ててでも上を目指さなければならないのが騎士でもあるからだ。


 みんな仲良くゴールは出来ない、持って生まれた才能と環境、そして決意をした時からのたゆまざる努力こそ今日この日の準備運動の結果であろう。




 「んで、準備運動が終わったら闘魂注入だっけ」


 教師によるストレートパンチである。避けれるならば避ければよし。避けられないノロマはそれこそ喝をいただけるのである。


 ……ちなみにこれもきちんとした計測の一部に含まれているのである。


 「次は植物モンスター園か」


 もうそろそろ思い出したくなくなってきた。


 恐らく数百体はいるであろう食人植物の中からターゲットの植物モンスターを見つけ、ペイントしてくるのである。


 鬼門だ、何が難しいかと言えば回りがモンスターだらけ、それも同種族だから見分けがつきにくいから判断力と集中力、それに記憶力や仲間との連携等が試される。


 「次はアースクエイクか」


 端的に言えば力試し、だが基準値に満たないものは何度でもやり直させられるので地獄だ。最初に決めないと体力を使うし力も落ちてくる。


 ただし何でもありなので屋上からダイブして力を底上げしたバカもいたらしい。


 これだけの苦行でもまだ午前中だから驚きだ。


 ゲイト、ピア共に午前中のうちは言葉少なになりながらも一緒に回る元気もあったが、午後からは既に亡者だかゾンビだか分からないような状態で這いまわらされた。


 ピアともゲイトともその内にはぐれて、今終わって教師陣に放り出された所偶然ゲイトが傍にいたのだ。




 「……とりあえずお疲れ、よく生き残ったなお互い」


 「……あぁ、ピアも最後の方に1回見かけたから、多分今この校庭のどっかにはいると思うが」


 首を動かして辺りを伺うゲイトだが、ピアらしき人影は見当たらなかったようだ。


 「俺もう寝るわ」


 そういい残しフェイトは眠りに落ちた。


 気絶に近かったのかもしれないが、ここが校庭でシーツ一枚ないことも地面が砂地であろうと構わなかった。とにかく疲れた、その一言に尽きる。


 「そうだな、俺も……起き上がれねーし、寝るわ。おやすみよ」


 仲のよい2人はそう言い残して、深い深い眠りについた。




 「これは驚いた」


 そう言った教師の1人が見ているデータは、とある1年生のものだ。


 「ほうほう、自力で歩いて寮にまで帰れたのか、いや大したものだ。前年も前々年も出なったのだが」


 こちらの少ししわがれた声の教師はいつになく面白いものを見つけたように、ひょうきんな声でこたえる。


 「ああ、何故私のクラスじゃないのかしら。私とならきっと息がピッタリでしょうに」


 妖しく唇を舌で舐める女性教師に、少し震えながらも男性教師が答える。


 「い、いえ、規則ですのでどうか落ち着いて」


 そんな気弱な男性教師を横目に、黒衣の教師が言を発す。


 「俺のクラスとは運がいい。……飛び級させてやるさ」


 妖しさを超えた闇に近いような声音はその場にいた教師陣の1人を除いて、戦慄におののかせていた。


 「分かっちゃいねえな、本当の有望株は……」


 筋肉質の男性教師は今年1番の成績の生徒には全く興味を介さず、ある1人の生徒だけを見つめていた。


 「フェイト・セーブ、お前は何物だ?」

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