赤魔騎士と騎士姫
「フェイト----」
こちらを見つめるアマリリスの瞳は困った子供を相手するかのように、不安気に揺れていた。
「お、俺何言っちゃってんでしょうね--でもなんか、そう言いたくなっちゃって……」
自分の気持ちなのに上手く整理出来ていない。あー頭がグルグルする。
アマリリスも上気する体を抑えながら、今は必死に言葉を探しているようだ。
「えっと、なんていうか。先輩の事は前から存じ上げていました、それに先輩がとても綺麗なことも」
「あ、ありがとう」
お互いに言葉を探しているみたいだが、言葉を発しているのはフェイトだけだ。
「それで何度も接しているうちにどんどん魅かれた、というか魅力的だと思ってきてて、それでなんか校内大会の間でも、やっぱ会って声を掛けてもらう度嬉しくてドキドキして」
「うん」
「それで、昨日とか今日とか先輩、なんだか女の子って感じがして、その、なんていうか無防備な素顔と言いますか……そんなの見てたら、何か今好きです、って言いたくなっちゃいまして……」
多分これが感情の全てだと思う。整理しきれなかったけど、多分これは好きです、ではあって愛しています、とは違うんだと思う。
でも、好きというのは本当で----アマリリスの返事が来るまで10秒も経っていなかったと思うが、混乱する頭はどんどん思考を転がしていく。
そして、混乱する中、アマリリスが返事を返してくれた。
「……フェイト、えっと、私も上手く言えないんだけど……まず、聞いてもらってもいいかな?」
「は、ハイ!」
「……そうだな、まずはさっきの言葉に対してだな。うん、これは素直にありがとう、と言っておこう」
先ほど?さっきのってどれだっけ?
「好き、と言われたことは今まで生きてきた中で一度も言われた事のない言葉だ。……だから素直に嬉しい、ありがとう」
あ、ああ。それについてだったのか。
「い、いえ!お礼とかいいです」
「そ、それでだな。……えっとこの場合の好きです、というのは勿論、男女として、異性として好きです、ということで間違いないんだよな?」
「え、えーっと、大丈夫です」
「……フェイトが素直に言葉に出してくれたのだから、私もキチンと返事をせねばなるまい」
ドックン、ドックン……
心臓がすごい早鐘を打つ、アマリリスが返事の言葉を口から開くこの間が、一瞬でもあったが、永遠のように長くも感じた。
そして唇が言葉を紡ぐよう、形を取り動かす----
「ごめんなさい、私はそれを受ける訳にはいかない」
…………えっ?
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頭が真っ白だ、ごめんなさい、って言われたということは、勿論。
----振られたのか。
何だか精神すら燃え尽き、世界全てが色を失って白と黒の線の世界に見えてきたが、アマリリスの言葉は続いていた。
「--理由は勿論ある、というよりも、私としてもフェイトの事は嫌でも嫌いでもないんだ」
…………えっ?
------------------
あれ?今度はなんだろう?嫌でも嫌いでもないって言われたけど??
……つまり、どういうこと?
世界が徐々に色を取り戻り、思考も愕然とした虚無から一旦離れることに成功する。
「私はフェイトの事は、好きだ、と思う」
「ア、アリガトウゴザイマス」
片言になってしまったが、アマリリスも気にしていないようだ。
「でも、それは後輩として、仲間として、……友達として、大事な人として好き、何だと思う」
「……」
先輩が言いたい事が何となく分かってきた気がする。
「つまり、まだフェイトを異性として、男性として意識をまだしていないんだ。いや、何度かはあったかもしれないが、男女として付き合うといった意味では意識した事がない」
「……そうですか」
不思議なものだ、あれだけショックを受けて意識も飛びそうだったのに、今はなんだか落ち着いている。
いや、安心していると言った方が正解か。
先輩に嫌われていない事が分かっただけで、こんなにも安心してしまったんだ。
「前にゲイト君からフェイトについて話を聞いたことがある」
「ゲイトから?」
それは初耳だ、いつの間に話していたんだろう?
「ああ、ゲイト君が言うにはフェイトは君だけの姫を探しているみたいだな。それもグランドプリンセスや歌姫とも面識がある上で」
「そうですね、確かにそうです」
「だから、フェイトが私を騎士姫として、姫という女性として見ていてくれたことも、知っている」
「……そうですか」
まさか自分が知らない所で友人が暴露しているとは思わなかった。
「だがフェイト、私はそのゲイト君の話しを聞いてから、その……フェイトを意識できるよう君にはちょっとだけ接し方を変えてみたつもりだ」
……あれかな?俺だけ呼び捨てにしてくれていたことかな?じゃああの日の前日、俺が走っていった後にゲイトが話していたのか。
「親しくはなったかもしれないが、それでも私が恋というものを経験していないからかな、フェイトをある程度特別扱いはしていたんだが、それが恋という本で書かれていた感情とは思えなかった」
「無理もないです、俺と先輩、知りあって一週間位ですから」
--つまる所、フェイトも一目惚れに近い。恋に恋をしていただけなのだ。
「だから、感情の面でもフェイトは大切だとは思うが、恋人という関係ではないと思ったんだ。……許してくれ」
「……いえ、すごく納得出来る理由でしたから」
本当の事を言えば悲しい。その場の勢いだったとはいえ一世一代の告白だったのだから、失敗したとなればほろ苦いものだ。
「それに、フェイトにはもっと相応しい人物が、いや、運命の人がいると思う。--こんな男勝りに剣の腕だけを磨いた私よりも、な」
先輩からの前向きな慰めもありがたかったが、それでも傷心の身としては辛いものだ。
「フェイトが私と並んで立ちたい、と思ってくれた事は本当にありがいと思っている。だが、フェイトの力は私に使うものではない。
フェイトの騎士道はフェイトが巡り合う、今は力無き運命の姫を助け出すために使って欲しい」
もしかしたら、こっちの方が本音なのかもしれない。ふとフェイトは思った。
確かにアマリリスの横に並べるだけの力が付いた時には、アマリリスと一緒に歩んでいけるだろう。
だが、運命の待つ姫は未だ羽ばたく翼もない、雛鳥のようなものかもしれない。
まだ恋と、愛の区別すら出来ていない子供だが、少なくとも運命だけは信じて夢見ている子供だ。
この経験すらその一環なのだとしたら、それを最後の宿命の時に役立てればいい。
「フェイト、重ねていうが私はお前のことは好きだ。だが、私は騎士姫等呼ばれているが姫という器でも立場でもない、ただの男勝りな騎士だ。
フェイトはいつかあのグランドプリンセスにも負けない、素晴らしい姫と共に在るだけの運命があると思っている。……だから、もっと強くなってくれ」
アマリリスとしても苦渋の決断だったのだろう、今はお互い自覚がなくともこの先も大切だと思い続け一緒に歩んで行けたのならば、それが愛になることだって十分あり得る。
だが、フェイトを送り出すため敢えて無難な選択を切り捨て送りだした。
今日、一番後悔しているのはアマリリスだったのかもしれない----
「分かりました、でも俺撤回はしないですよ?アマリリス先輩のこと、異性としてというのを除いても、人間として好きですから」
虚脱も涙も越えて、フェイトは空元気ながらも笑顔を返した。
「ああ、私もだ」
少年は、苦い思い出を胸にしまいつつ、夢のような時間に別れを告げた----
しばらくは、二人とも気まずさから無言でいたが、いつまでもそうしている訳にはいかない。
これからピア達が来るのだ、飾り付けこそ終わっているもののこんな表情で彼女らを出迎える訳にはいかない。
「先輩っ!!」
突如声を大にして呼ぶフェイトに驚き、アマリリスはビクッと跳ねる。
「な、なんだ?」
「あの約束って、……今日ので無効になったりとかはしませんよね?」
何を言うかと思えば、そんな面持ちで苦笑しながらもアマリリスは丁寧に言葉を返す。
「当たり前だろう?むしろここまで私がフェイトの運命があると信じて、発破を掛けたのだ。いざその時に力が足りない等という事態は許せないからな」
「なら、特訓してくれるっていうのは?」
伺いながら、アマリリスの顔より下から覗き込むよう伺いをたてるフェイト。
そんなビクビクした様子は、拾われたばかりの子犬のようだ。
「もちろんだ、ちゃんと明後日からレイ君と一緒に来い。まあ、用事がある際は先に言っておいてくれれば構わない。……いつでも来てくれ」
最後にアマリリスが優しく笑むと、フェイトもパァッと顔を明るくし元気よく叫んだ。
「ハイ!ありがとうございます!!」
こうして、多少の間は気持ちを引きずりギクシャクするかもしれないが、約束は守られフェイトとアマリリスはこれからも絆を深める。
先輩と後輩として、仲間として、友人として、そして大切な人として----
その後しばらくは雑談によって気を紛らわしていたが、その内に夕方近くとなり予定より少し早目だったが皆集まったため祝勝会の準備に、皆で取りかかった。
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「それでは、今日は騎士学校ナイツォブラウンド、校内大会チーム戦メシアの優勝を祝って祝賀会を執り行う。皆杯を持ったか?では、これより開催する、皆楽しく騒いでくれ!乾杯!!」
『乾杯!!!!』
準備をしている間に妹のアイリスも帰ってきており、まだ時間があったためしばらくは二人で自己紹介を兼ねて話をさせていた。
やっぱりアイリスは緊張していたようだが、アマリリスがとても大人だったため会話を上手く誘導し緊張を解していたようだ。
席に関しては、以前ディーバの送別会を行った時と大差なく、ディーバの代わりにアマリリスが座り、リードはいない分下座の席が一つ空いている。
アマリリスも無論それを気にしており、「こっちに座った方がバランスがいいぞ?」と何度も言ったが、主役は上座(お誕生日席)、と押し切った。
ちなみに本日のメニューは、
アボガドのサラダ、スープはインスタントのコンソメ、つまむものとしてポテトにチキン、肉じゃが、ナポリタンのスパゲッティに、パエリアを用意している。
デザートは勿論ゲイト特製のケーキだ。今回は生クリームをふんだんに使ったケーキだそうだ。
……異彩を放つ肉じゃがだが、これはアマリリスの手によるものだ。
何故か和食に関して知識が偏っており、ゲイトが一品お任せします、と言って任せたらまさかの和洋折衷となった。
とはいえ、アマリリスお手製の料理等校内で食べた事がある奴は一人もいないだろう。
早速一番乗りで食べる。
「いただきます!!」
どうせ一番乗りを取られたくないだろう、と空気を読む仲間達は肉じゃがを取り分けただけでまだ食していない。
なので、必然アマリリスが味を確認する相手はフェイト一人になる。
「フェイト、どう?」
心配そうに見つめるアマリリスだが、まるで恋人が初めて彼氏に手料理を振舞った時のように不安げな瞳で感想を待っている。
フェイトが肉じゃがを租借し、飲み込む間ずっと変な緊張感が食卓を包み、未だ他の誰も何も食べていない。
「……美味しいです!!いや、絶対家の肉じゃがより美味しいですよ!!先輩さすがです!!」
御世辞も誇張もなしに、本当に美味しかった。
丁寧に作り上げた一品は、真心込めたもので愛情が隠し味というのはその料理に込める愛情そのものだ。
丁寧な灰汁取りや、火加減の注意、さらには下ごしらえの段階から気を配っていなければこんな上品な肉じゃがにはならないだろう。
高級な食材を使っているでもないのに、味を上げているのは一重に食べてもらう側に配慮した心そのものだった。
「良かった、喜んでもらえたみたいだね」
ホッコリと顔を綻ばせるアマリリス、自分達よりも年上な癖にこれだけ無邪気な笑顔が出来るというのも反則だろう。
「さ、みんなも食べて。私はゲイト君の料理をいただくね」
「勿論です、どれも自信作ですよ」
こうして祝勝会は和やかに進んだ。
「先輩、お注ぎします」
そうとてとてとアマリリスに近寄るのは、アイリスだった。
すっかり打ち解けたようで、今はアマリリスを慕っている妹みたいなものになっていた。
「ありがとう、--フェイトはアイリスとあまり似ていないと言うが、私はそう思わないな。こういった時の表情なんかはそっくりだ」
「こういう時ってなんですか?」
疑問を発するのはアイリスだが、答えは別の所から帰ってきた。
「子犬みたいな所じゃないかしら?」
レイが断言すると、兄妹は断固抗議に入る。
「待て!俺がいつ犬みたいに尻尾を振った!?」
「そうです!お兄ちゃんは犬っぽくても私は違います!」
あれ?一緒の話題に抗議しているはずなのになんか孤立している気がする……
更に嫌な所から追撃があった。
「いや、妹さんは分からんがフェイトは犬だろ。さっき肉じゃが食べる時とか」
「っていうか学校にいるときいつもでしょ?先輩をチームに誘う時だって似た表情してたし」
「そうなのか?」
アマリリスがピアの言葉に喰いつくが、そこは流したい。
「いや、そのですね?俺は単純にアマリリス先輩と御一緒できたら、って話ただけですよ。断じてそんな表情ではなかったハズです!」
「お兄ちゃんの事だから、多分そんな表情してたよ」
「アイリス!?」
まさかの身内からの裏切りだった。……汚いぞ、俺を出汁にして自分は安全圏に逃げたな。
「ええ、フェイトのその時の表情録画してますよー」
何故か部屋の端に置いておいたブレイヴフェニックスからシンの声まで飛び出す。
「嘘つけっ!?お前あの時いなかったじゃねえか!?」
「フェイト、とりあえず落ち着け。これでも食べてろ」
むごっ!?……モグモグ。
レイによって口に詰め込まれたのは、アボガドのサラダをパンに乗せたものだったが、美味しい。
(やれやれ、皆大はしゃぎだな)
ピアがパーティーをやりたがっているのも、分かる気がする。
こうして皆で集まって、楽しく過ごすというのは何にも代えて楽しいからだ。
……またディーバも誘いたいな。それにリードだって今日はいないし。
次がいつになるか分からないが、フェイトは次を思い馳せて楽しみに待つようにした。
その後も時間は緩やかに流れ、料理を食べきるとゲイト特製のケーキが配られた。
本当、料理の才能には心底驚かされる。またまたとても美味しいものだった。
そんな和やかな時間も過ぎ去り、気付けば日はとうの昔に暮れて夜は深まるばかりだった。
「……そろそろ片づけて、お開きにするか」
レイがそう促した所で、アマリリスが言葉を引き継ぐ。
「……それじゃ、今日は皆疲れが残る中準備お疲れ様。皆が企画し動いてくれたから今日はとても楽しい時間になりました」
アマリリスが皆を見渡し、満足げな表情で頷く。
「ちょっと私の事を話させてもらうと、私こんなに騒いだことや楽しい事って経験した事なかったんだ。親が厳しくて幼少の頃から文武両道を徹底的に叩き込まれてね、そのせいかこういった集まりは殆ど経験出来なかった」
皆察しはついていたのだろうが、そこは誰も指摘しなかった。触れて欲しくない過去は誰しも必ずあるからだ。
「でも、今日は本っ当に楽しかった。皆の事とても大切に思っている、後輩として、仲間として、……友人として。
だから私も騎士姫なんていう名称じゃなくて、アマリリスとしてここにいたいの。これからも」
「当然ですよ!」
「当然です!」
「ずっと思ってましたよ!」
「これからもお願いします!」
「私もです!」
なんかアイリスまで入ってきたけど、まあいいか。
「ありがとう、特にアイリス君は今日会ったばかりなのにこんなにも暖かくて、私の方が癒されているよ」
アマリリスの言葉に照れて、顔を綻ばせるアイリス。そういえば学校で上手くやれてるのか?
「でも私達は騎士見習い、皆との絆やこういった催しは将来掛け替えのない宝物になるが、まずは鍛錬だ。死地にて身を守れるものは培った経験だけ、生き残るのは絆を持つものだけ。
どちらも大事だが、まだ皆1年生だ、まずは自分を守れるだけの経験を積もう。私も協力は惜しまない」
パチパチパチパチ----
アマリリスからはとても良い言葉をもらえた、まず俺達はもっともっと強くならなくちゃ。
だけど、ほんのちょっとだけ今日のようにわき道に逸れて、絆を深められればいい。
まだ5月で1年生なんだ。まだまだこれからだ!!
「それじゃ今日は時間も遅くなってきているし、これにて解散!」
こうして第二回フェイト家のパーティーは終了した。
まだ二回だけどこれから卒業するまでに後何か増えるだろうか?
そしてその時、呼ぶ人は果たしてこの家に収まりきるのだろうか?
そんな事を考えながら、今日という楽しい日は終わりを告げた。
片づけは皆そこそこにして、皆を帰らせることにした。
アイリスは家に残って洗い物を引き受けてくれているので、俺は飛行魔法で皆を学校まで送っていくことにする。
アマリリス先輩は寮ではないので、皆を降ろした後別口で送る予定だ。
「それじゃアイリス、洗い物は頼んだぞー」
玄関で靴を履きながら、見送るアイリスに挨拶を告げる。
「今日は遅くまで済まない、それにアイリス君にも会えて良かった。また近いうちに会えて話を出来たらと思う」
「こちらこそ、なんだかお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しかったです」
「アイリスは妹よねー。ピアと似てるわ」
「お姉ちゃん、私そんなに甘えてないよ」
「レイ、ピアが甘えるようだったら録画でもしておいてくれや、そんな珍し----」
「そいや!!」
ゴフッ!といううめき声と共にゲイトが崩れ落ちたが、誰も気に止めないのは慣れだろうか?
「それじゃ、また」
「うん、皆さんさようならー!またねー!!」
「よし、早速行くか!リリアウト!!」
フェイトは四人にしがみついてもらい、夜空へと羽ばたいた。
学校前でゲイト達を降ろした後、そのまま飛行魔法でアマリリスを送って行こうと思っていたが、歩いて行きたいとの事で今は夜道を二人きりで歩いている。
「楽しかったね、でもフェイト前にもこんなパーティーをやったんでしょ?羨ましいな」
今日のパーティーをよほど気にいってくれたのか、アマリリスからは羨ましいとの言葉をもらった。
「その時はディーバとリードもいたんですよ。ディーバはまた秋に来る予定ですし、リードも魔法学校エンシェントスペルに通っているんでいつでも会えますよ」
「楽しみだね、是非二人にも会ってみたいな」
「また企画しますよ。--いや、今度は先輩が企画してみますか?」
ふと思いつき悪戯心で聞いてみるが、意外にアマリリスは乗り気で、
「いいかもね。私幹事とかやった事無いし、その時は補佐でフェイトに支えてもらってやってみよっかな」
試すようにこちらを覗き込むアマリリスに、フェイトはこう答える他ない。
「勿論、支えますよ。騎士姫を支える赤魔騎士、最強タッグですね」
「だね。もし私が独立したらフェイトを引き抜こうかな?」
「それも楽しいかもしれないですね」
「冗談、でも来年までは私もいるし来年の校内大会もまたチームは組めるかな」
「そうですね、来年まで……ってのは悲しいですけど、また組みますよ」
「そうだね」
極上のディナーを食べた時のよう、とても満ち足りた回答に満足するアマリリス。
「君がもしも私と同じ年に入学していたなら」
「何か言いましたか?先輩?」
アマリリスがふと漏らした呟きはフェイトには聞こえず、尋ね返してみるが、アマリリスは快活な笑顔でこちらに微笑むだけだった。
「なんでもないっ」
それは騎士姫でもアマリリスでもない、単純に19歳の少女と大人の間にある女性が見せる恋する乙女の表情だった。
それきり二人は言葉を交わす事無く家まで辿り着いたが、その沈黙は決して嫌なものではなく、心地良い時間だった。
星空が夏へと向けて忙しく動くなか、二人の出逢いもまた忙しなく動いていくのであった----