好きです
「治癒」魔法によってアマリリスの傷とロアを癒し回復させたフェイトは、その場に残った重症者の手当てに向かった。
クロ先輩にもマキ先輩にも、キャロルル先輩にもそれぞれ「治癒」魔法を掛けて癒し、最後にピアにも「治癒」を掛ける。
「--ほんっと不思議ね、あんたの魔法」
治癒魔法という本来知られざる特性の魔法であるが、便利さだけは保障付きだ。
クロ先輩の重症でも問題なく回復させるそれは、世界中からみても欲しがられる能力の一つと見て間違いない。
ちなみにキャロルル先輩も酷い火傷を負っていたが、回復した直後に
「今度は地上で勝負しろよ」
と脅されている。……まあ実力がついたらその内。
そして、この勝負が終わったことによりチーム戦も準決勝進出の4チームが決定したようだ。
エンドルフィ先輩のチームや、ラインバルト先輩のチームも勝ち上がっており、苦戦は免れそうにない。
長い一日が終わり、ようやくチームで集まれた。
「アマリリス先輩、クロ先輩とマキ先輩相手に勝利したんですね!おめでとうございます!!」
目をキラキラとさせてアマリリスを褒めるフェイトだったが、アマリリスとしては苦渋の表情を隠せない。
「最後のは自爆みたいなものだ、結果は引き分けだよ」
「いえいえ、クロ先輩との1対1では先輩が勝ちましたし、マキ先輩が言った通りチームでは、俺達の勝ちです。こんな後輩でも役に立ったでしょう?」
なんだか犬みたいに褒めて欲しそうなフェイトに、友人達が呆れ声で返す。
「お前はなんでそんなに一直線なんだ」
「フェイト、犬を通り越して変態」
「というより、一番死にかけたのはお前だからな」
ぐぅの音も出ない程完全に論破されてしまい、フェイトが目に見えて落ち込む。
「まあまあ、私も実際フェイトの「治癒」魔法に助けられたんだ。フェイトがチームでいてくれて良かったよ、ありがとう」
優しく微笑みかけるアマリリスの笑顔は、今日最大のご褒美だったに違いない。
「ありがとうございます!!先輩のためならなんでも!」
--そんなフェイトのバカっぷりを目の当たりにし、レイは大きくため息をついた。
しばらくそんなやり取りをしていると、クロ先輩達がこちらに来た。
「アマリリス、それにフェイト君、迷惑を掛けたな」
開口一番謝罪をし、頭も下げるクロ。
「い、いえ!先輩もあれだけの重症でしたので、放っておけるわけがありません」
「そうですよ、それに怪我を負わせたのは私ですし」
「いや、マキとチーム戦をするまでの結果は私の修行不足だ。それにその後なんだかんだで1対1の約束まで破ってしまったんだ。……さらに結果は敗北という恥ずかしい結果だ、どうか許して欲しい」
また謝罪を重ねるクロ先輩相手に、年下のフェイト達は困り果ててしまった。
「私からも謝罪をします。クロをどうしてもアマリリスに勝たせたかったの、色々画策してみたんだけど無駄だったみたいね」
「いえ、自分の未熟さを知りました。……次は御二人を相手にしても<ロア>を使わずに勝ってみせますよ」
「ふふっ、私達だって腕を磨くわ。……それと、キャロルル」
マキ先輩に押されるように前に出されたキャロルル先輩は、ずっと下を向いていた。
「キャロルル?あなたのフェイト君に対して負わせた怪我は、「治癒」魔法でなくては治らない範囲でした。度を超えた殺傷は騎士として恥じるべきものです」
「その通りだ、キャロルル。私達はお前を買っているんだ、これ以降正しくあるよう努めてくれ」
マキ先輩に続けて、クロ先輩にまで言われると後輩であるキャロルルは黙っている訳にもいかず、
「フェイト……君。ゴメンナサイ」
ものすっごく不服そうだが、一応謝罪を受けた。
「……まあいいか、本当にアマリリスとフェイト君には迷惑を掛けた。アマリリスとは明日も当たるだろうが、今日の敗北を活かすつもりだ」
クロ先輩はもう気持ちを切り替えているようだ。
敗北から学ぶ事は多い、その昔からの言葉を忠実に守っているみたいだ。
「では明日のチーム戦、楽しみにしてます。今日はこの辺りで、皆さん身体を休めて下さい」
短く激励を交わし合った中、フェイトは不思議な高揚感に包まれていた。
「でも、明日か。アマリリス先輩?身体の調子はどうですか?」
「ああ、戦闘前と変わらない位だ。これなら明日のチーム戦も個人戦も大丈夫だろう」
「となると、問題は--」
フェイトの視線がゲイトに集まると、皆もそれに倣ってゲイトを見る。
そこには無残にも中央から切り裂かれてしまった、ゲイトの愛武器であるランスの残骸があった。
「……俺は明日は無理だ、予備ので出ても俺の調子が狂っちまう」
無理もない事だった。ずっと、何年も自分が扱い続けてきた武器が破壊された時のショックは、言葉に言い尽くせないものがある。
「……そういえばマキ先輩の大剣も砕いてしまったな」
ふと思い出したかのようにいうアマリリスの言は、聞かなかった事にしておこう。
これ以上背負うのは無理だし。
「……それなら私も見学に回るわ」
そう言いだしたのは、ピアだった。
「ピア?」
疑問に思い妹に尋ねるそれは、姉としての顔のレイだった。
「お姉ちゃん、アマリリス先輩、フェイト、いいかしら」
実際メンバーが何人外れようと、チーム戦では問題がない。戦い途中からメンバーが減っていくことは日常茶飯事なのだ。
「私は構わないが」
「俺も別に」
「……好きにしなさい」
「ありがと。そういう訳でゲイト、あんただけ戦線抜ける訳じゃないから、安心して外れなさい」
晴々とした笑顔でゲイトに告げるピア、なんだかんだで気回しの効く奴だ。
「サンキュな、ピア。お前のおかげで楽になった」
「勘違いしないでよね、アンタのためじゃないし」
じゃあ誰のためだよ、という無粋な突っ込みは棚上げにしておく。
「それじゃ明日は私、フェイト、レイ君の三人で出る事にする。皆、今日はお疲れ様、ゆっくり休んできてね」
アマリリスの言葉で、今日は解散になった。
翌日行われたチーム戦準決勝、相手はノーマークの4年生チームだった。
たまたま、5年生と当たる事無く勝ち上がったらしいが、内容を語るまでもなくアマリリス一人勝ちだった。
対して決勝に上がってきたのは、ラインバルト先輩のチームだった。
この5人はギルド結成を既に掲げていて、卒業と同時に立ちあげるそうだ。
そして5人はバランスがとても良い。
剣に銃のギミックを取り入れたガンブレードを扱うのがリーダーのラインバルト。
そして騎士剣使いと大剣使い、更には双銃使いに紅一点は弓使いだ。
これは戦い辛い、後衛が一人でもいると厄介なのに二人だ。
さらにリーダーも銃器で遠距離可能な事が、このバランス力を上げている。
これに対してはどう作戦を練るか----
「私が後衛二人を無力化する。フェイトはレイを連れて空へ」
既に魔法を使ってしまっているため、アマリリスの作戦はフェイトの魔法込みでの作戦展開だった。
「……了解です」
「あれ?フェイト不満?」
アマリリスが不備でもあったのかフェイトの顔を伺う。
「いや、なんていうかその----いや、何でもないです」
「フェイト、拗ねないの。ここまで来たら優勝したいでしょ?ゲイトもピアも応援してくれてるのよ?」
「う……ーんーー」
「しょうがないな、なら私が前衛三人を引き付けるからフェイトとレイ君で後衛を撃破」
それなら魔法なしでもいけるか?--いや、相手は5年生、接近戦に何も用意していない訳がない。
「やっぱり最初の案で」
「OK、それで。始まるよ」
時間ぎりぎりだったらしく、アマリリスの了解とともに決勝戦が始まってしまった。
「いけー!!フェイトー!!!」
「頑張れ姉さんー!!」
外野に混じって、チームメイトが応援をする。二人とも声を張り上げているのだが、
『アマリリス様ぁーー!!!!お美しいですーー!!!!』
……と、昨日の一件でボルテージが振りきれたのか、外野がただのファン集団と化していた。
一番哀れなのは、対戦相手か。有名なのに、実力もあるのに、応援してもらえないなんて……
「なんつーか、あれだよな」
「みんなミーハーねえ」
張り上げる声もそこそこに、二人は雑談も時々交わしていた。
「レイ、飛ぶぞ!リリアウト!!」
素早くレイを抱きかかえ、飛行魔法で空に飛ぶフェイト。
だが、後衛部隊が双銃と弓で空への逃亡を許さない。
大して地上の接近戦三人は素早くアマリリスを取り囲み、後衛に近づけさせない。
「昨日の内から作戦が練られてるわね……動きが訓練されたソレよ」
アマリリスと付かず離れずの距離をとり、決して撃破されないよう囲い後衛に近づけさせないラインバルトのチーム戦術は確かに軍隊としても通じるものだ。
「--仕方ない、屋上って枠内だっけ?」
飛来する銃弾や、矢を交わしながらレイに相談すると。
「一応大丈夫、かな?今まで乗ったことない場所だから前例がないけど、決勝は枠の線引きをしてないはず」
「よし、それなら上級魔法で一気に片付けてやる」
「あ、フェイト。上級魔法でも幾つか難しくない手順のものなら、発動できますよ」
と、言ったのはシンだった。
「なんで?」
「えっへん、それはですね、私がなんと飛行魔法を疑似的にコピーして数秒なら浮かせられるからですよ」
胸を張って答えるシン、いや、宝玉だから点滅してるだけだけど。
「なるほどな、……しかしプログラムなのにすごいな、シンは」
「いえいえ、日々マスターに合わせて進化しているんですよ。自力でプログラムを更新させるAI「シン」。格好よくないですか?」
「すごいねー」
「全然褒めてませんよね!?」
シンとのふざけ合いはそこまでにして、上級魔法での殲滅に移る。
「じゃ、シン頼んだぜ」
「……拒否しちゃいましょっか」
「シン、フェイトの頼みでしょ」
「レイに言われるならしょうがないですね、フェイトいつでもどうぞ」
「ムカツキ。それじゃ、いくぞ!」
展開していた飛行魔法を解除、一瞬バランスが崩れるがシンがコピーしたのか持ち直す。
「ホントにコピーした……」
「褒めてくれて恐縮ですが、数秒だけです。もう落ちますよ?」
「十分だ、タイダルプレッシャー!!」
風の魔法により、空気を圧縮。その圧縮された空気砲は広範囲を殲滅するように上空より、降り注ぐ。
「怯むな、撃て!!」
後衛の二人は銃口をこちらに向けて連射するが、まったく問題にならない。
むしろ、防御姿勢を取らなかったことが致命傷であった。
銃弾も矢も圧縮された空気砲に触れる度に簡単に宙から落ちていき、フェイト達に掠ることもない。
「リョーマ、避けなきゃ--」
紅一点の女性が叫ぶが時既に遅し、二人は広範囲に渡る空気砲を避ける術を持たずに潰されて戦闘不能に陥った。
「くっ!」
そして、流れ弾的にラインバルト達にも空気砲が降り注ぐのは必然だった。
当然、アマリリスも影響を受けるが問題ない。
それどころか、空中に目をやった隙に騎士剣使いを一人戦闘不能にし、人数を減らしてさえいた。
「くるぞ!」
一斉に地上組は回避を取るが、アマリリスはそれに限らない。
聖なる盾により魔法すら防御してみせると、今度は大剣使いを沈める。
--これで残るはラインバルト唯一人。
「こうなれば、いざ尋常に参らん!」
ラインバルトはダッシュにガンブレードに蓄えた弾薬を破裂させることにより、爆発の推進力を得てスピードを増していた。
「はぁっ!!」
そして、爆発の推進力を力に変えた一撃とアマリリスのクレイモアが交差する。
「せあっ!!」
勝負あり、盾でガンブレードの勢い全てを殺しきったアマリリスは、悠々とラインバルトへ勝敗を決める一撃を叩き込んだのだった。
■■■■■■
「フェイト達やったぜ!」
「やった!!私達、優勝じゃない!!」
手を取り合って喜びを分かち合う二人。
本当にピアがいてくれて良かった。こんな喜びの瞬間に一人だったら、素直に喜べなかったかもしれないのだから。
「このまま祝勝会をやりたいけれど、先輩は次に個人戦だもんね。……そっちも応援しなきゃ」
「勿論だぜ!」
ふと意識を戻した時、ピアはゲイトと手を繋いだままだった事を思い出した。
……握った指をそっと解こうと思ったが、繋いだ手から伝わってくる喜びや熱気がなんだか心地よく、ピアは指を解くのを止め、心のままちょっとだけ強く握り返した。
「先輩優勝ですよ!」
地上に降りてきたフェイトは、真っ先にアマリリスに祝声を掛けた。
「ああ、皆の力の勝利だ」
「やったですね!とはいえアマリリス先輩がいなかったら優勝所か1回戦すら勝ち抜けていません、本当にありがとうございます」
ペコリと頭を下げるレイに、アマリリスは困った風になる。
「よしてくれ、レイ君。君の才能だって本物だ、君も訓練を積めば必ず騎士になれるだけの素養がある、これからも宜しく頼むよ」
「ハイッ!!」
「レイ、良かったな。ってか放課後一緒に先輩の訓練を受けるか?」
「うーん……」
レイとしては本当は一にも二も無く飛び付きたいのだが、フェイトとしては、アマリリスとしては、どうなのか?
そう考えてしまうとたたらを踏んでしまう。
「私の都合は気にしなくていい、むしろフェイト一人鍛えるよりも二人いた方が都合がいいだろう。私からお願いしたい」
「え!ほ、本当ですか!!なら、……お願いします!!」
「よし、レイ!ゲイトとピアにさらに差をつけようぜ」
「あの二人もいい師匠をみつけないとね」
これから先、二人はかなりの成長を見せるだろう。頂点と呼ばれる騎士姫相手に稽古をつけてもらえるのだから。
そしてアマリリスもまだ知らない。
二人を育てていくうちに、自分でも気付かなかった新たな強さに目覚める時を。--それはまだ、先のお話し。
その後、アマリリスは個人戦に午後から出場し、こちらでも優勝を飾った。
準優勝は勿論クロ先輩で、妥当な所だった。
決勝戦は、前日のリターンマッチとなり誰もが燃える展開を期待していた。
だが今度はアマリリスが先手、先手を取り続けクロ先輩の長所を上手く抑え込んだ戦いを展開し、終始翻弄されるクロ先輩が見れただけだった。
前日あった猛攻は、あくまでも奇襲によって得た隙から生まれたもので、あれ以上の不意打ちをクロ先輩が用意出来ていない以上、地力の差は埋まらなかった。
こうして、5月最大のイベントである校内大会は幕を閉じ、各自に色々な課題を残して無事終了した----
そしてフェイトとアマリリスは、今一緒に部屋の中で二人きりでいる。
(えーっと、なんでこうなったんだっけ?)
狭い自室の中、騎士姫と呼ばれる憧れの美女の先輩と二人きり。
聞くものからすればなんとも羨ましい状況だが、フェイトは今のこの状況に激しく戸惑っていた。
始まりはこうだ----
「祝勝会をします!!」
元気よく声を張り上げるピアが提案したのは、祝勝会だった。
「そう、またフェイト家使わせてもらえないかな?」
ゲイトがそうピアの後を引き継ぐと、どうやら読めた。
二人で応援していた時に、打ち合わせをしていたのだろう。
……それにしてもピア、前のパーティーがそんなに楽しかったのだろうか?すっかり味を締めているな。
「そうか、祝勝会をするのか--私も、参加していいのかな?」
普段の凛々しい姿とは違い、何だか少女のように恥じらうアマリリスの姿に、フェイトは一瞬で骨抜きにされてしまった。
出来る女の人が極たまに見せる弱みとは、どうしてこんなにグッとくるのか----
その命題はともかく、思考がショートしストップしたフェイトに変わってレイが取り仕切る。
「勿論です、というよりアマリリス先輩がいらっしゃらない場合祝勝会は中止ですよ」
「う、うむ?そうか。……ならば参加させてもらおう」
「やったです!それでフェイト?また家を貸してもらいたいんだけど、大丈夫?」
ピアが不安げな瞳でこちらを見つめてくるが、まあ大丈夫だろう。
両親もパーティー好きだし。……でも今仕事一段落したから家にいるかも。
「大丈夫ですよ、ピア。既に私がフェイトの両親とアイリスにメールを送信しました。「一生のお願いです、愛しいアマリリス先輩を交えて祝勝会をしたいんだ!だから家を貸して」と」
「何を勝手にやってくれたのかな?シン----?」
ミシミシミシミシ----嫌な音がもの凄くするが、皆見なかったことにする。
「そっか、それじゃ大丈夫だね」
待て、それじゃってなんだ。
「よし、また俺コックだな」
うん、普通に話し進行してるよね?……まあいっか。
「それじゃまた私とピアで買い出し?」
「ふむ、私はどうすればいい?」
「先輩はですねー。挨拶を考えて下さるだけで大丈夫ですよ。開始の音頭と締めをそれぞれやっていただければ」
「しかしそれでは負担が大きいだろう。フェイト?何か手伝えるものはないか?」
ピアの提案では自分が楽過ぎると思い、こっちに聞いてきた。
いや、本当に先輩いなかったら優勝してないんで、と言いたいが妥当な仕事を適当に割り振る事にする。
「じゃ、飾り付けを手伝って下さい。前使った飾りが残ってるんで、それを使ってやりましょう」
「それもそうね、それじゃ私達の買い出しの量も減るし助かるわ」
レイもこの提案には賛成らしく、迷いなく押してくれる。
「それじゃこれで決定ね。明日明後日は振り替え休日だし、やるならちょっと急だけど明日ね」
「OK、腕によりを掛けるぜ!」
「それじゃ、ゲイト買い物リスト宜しく……ちゃんと材料、指定してね?」
レイもレイで相変わらず料理が苦手なようだ。女子なのに男子に良い所を取られてしまい、恥ずかしそうにしているが、こうしてみるとレイも可愛いもんだ。
……っていうか、ピアもレイも普通に美少女だし、アマリリス先輩は間違いなく校内一の美女だ。
なんだろう、この今気付いた時の恵まれた気持ち。
「フェイト、何にやけてんのよ」
レイが自分が笑われたと思い、こちらに詰め寄ってくるがそれすらも照れ隠しで可愛いと思ってしまう。
「いやーレイのそういう所可愛いなって思っただけ」
……あ、しまった。つい、本音を言ってしまった。
やっぱり、レイの顔が見る見る赤くなって、耳も首筋まで真っ赤に染まって。
「フェイトのバカッ!!」
強烈なボディーブローをもらいました。……痛いです、「治癒」魔法使って治していいですか?
そんな訳で、翌日学校で待ち合わせたアマリリスを飛行魔法で家まで案内する。
「へえーこれがフェイトの実家なんだね」
「普通の家ですよ、両親共に働いてますし、妹のアイリスも今は学校なんで帰り次第紹介しますね」
「妹さんもいるんだね。楽しみだな、フェイトに似ているのかな?」
「似てませんよー。兄妹だってのに」
「ふふ、仲がいいんだね」
「ま、悪くはないですよ。--さてどうぞ、先輩」
こうして、アマリリスを初めて我が家に出迎えた。
「こっちが広間です、ここで祝勝会をしますんで飾り付けはここです。そこのダンボール箱に入っているのがそうですよ」
フェイトが部屋の端っこにあるダンボール箱を指すと、アマリリスは早速興味深気に近寄る。
「これがそうなんだな、では早速始めよう」
「焦らなくても開始は夕方からですよ」
なんとなく、子供のようにはしゃぐアマリリスを見て微笑ましい気持ちになった。
昼前から飾り付けをしていたが、お昼を挟んでしばらくしたら飾り付けは終わりだ。
「フェイトは料理が出来るんだな、偉いぞ」
なんとなく褒められたが、褒められるのは悪い気がしない。
「両親が共働きですから、自然と覚えたんですよ。先輩って料理は作れるんですか?」
「ああ、私も文武両道を両親から教え込まれたからな。これでも料理には自信がある」
「楽しみです、そうだ、ゲイトの手伝ってあげたら喜びますよ」
「そうか?それなら私も手伝いに回ろう、手持無沙汰というのはどうにも落ち着かないからな」
確かに、アマリリスはさっきから頻りにあちこちを気にしている。
昼前からでは早かったかもしれない、夕方から皆の到着と同時でも良かったかも。
そんな事を思っていると、不意にアマリリスの声が遠くなった気がした。
「フェイト、良ければフェイトの部屋も見せてくれないか?」
………………えっ?
あれ?聞き間違いじゃないよね?今、先輩俺の部屋を見たいって言ったよね?
「……だめか?」
うわ、先輩のシュンとした顔メッチャ可愛い!!
って違う!先輩にそんな顔させたらダメじゃん。
「い、いえいえいえいえいえい、びびびびっくりしただけですよ?ぜ、ぜぜん大丈夫です」
「……大丈夫というのは、もうちょっと落ち着いてから話せ」
思わず苦笑されてしまう。……恥ずかしいな
「そ、それじゃ、あ、あないしますね?」
「ああ、何も取って食おうって訳じゃないんだ、そんなに緊張するな」
ああ、先輩。それは健全な男子には無理ですよ。
今家にいるのって俺と先輩だけなんですから----邪念は無いですけど、つい妄想しちゃうのは悲しい男の性なんですーー。
そんなフェイトの内心の葛藤を知らずに、2階のフェイトの部屋で二人きりになる。
そして現在----
「ふむ、男の子の部屋、という感じだな。いや、実際フェイト以外の男子の部屋に入ったことはないので、あくまで想像で話しているだけなんだが」
なんかサラッと貴重な情報が開示されましたが、ほんと落ち着け、俺。
部屋を一周グルリと眺めるように見て回ると、今度は窓際に落ち着き外を眺めている。
「この辺りは住宅街か、私の方とあまり変わらないな」
少しだけ寂しそうな笑顔で微笑むアマリリスに、フェイトはつい質問をしていた。
「先輩は、町が嫌いですか?」
その問いに、アマリリスはこちらを見ずに答えた。
「……嫌いではないが、いい思い出もないからな。なんとも言えない所だ」
外の風景も見終わったのか、アマリリスはフェイトのベッドに腰を下ろす。
「やはり部屋というものはこうでなくてはな。……生活感があり、何より部屋の主の臭いがある。部屋も生きているという事なのかな」
……なんでだろう?俺はこの時本当になんで言ったのか、どれだけ過去を振り返ってもこの時の気持ちを見つける事が出来ない。
いや、思い出せない。
だが、言った言葉と先輩の表情だけはずっと覚えている。
「……先輩、俺先輩の事が好きです」
とても驚き、綺麗な白く整った顔や陶磁のように繊細なうなじも、全てが彼女の髪のような燃える緋色に染まっていたことを----