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騎士学校の俺と俺だけの姫様  作者: スピキュール
校内大会 騎士姫参上
33/58

一心表裏

 「私は構いませんがマキ先輩、今日はどちらでお相手するんですか?」


 アマリリスの問いは、彼女をよく知るものでなければ発せられない問いだった。

 そして長身の彼女は妖艶な、とでもいうべく艶めかしいものだった。


 「今日は……両方、で」


 「両方……ですか」


 アマリリスが聞き返したくなるのは当然のことだった。





 『マキ・アドバンス・ローレライ』

 

 クロの親友である彼女は快活な成熟を見せる彼女とは逆に、妖艶とでも言うべき大人の女性としての成長をしていた。

 栗色にウェーブさせた髪は深く成熟した大人の色香を醸し出し、艶やかなリップは視線を集める膨らみを持つ。

 何よりグラマラスと表現する体型はまさに男子どころか、成人男性ですら惑わせる甘い蜜のような女性だ。

 そんな彼女の別名が、「ゼロシナジーナイト」。

 


 その名称のの由来は、彼女が操る武器に由来する。大剣と細剣という真逆の性質、真逆の形状を持つ剣を操ることからだった。

 彼女は自分を双剣士だとはいうが、実際の所彼女がこの2本で戦った所を見たことがある人は口を揃えてこういう。


 「片方だけなら恐れる程強いのに、と」


 そう、彼女は単体で大剣や細剣を扱えばそれこそ無双を誇る強さであるにも関わらず、クロの側にいたい、という理由だけでどちらも扱う双剣士となり結果才能を殺している。

 最も、彼女がこんな二極端の武器を使う理由ですらクロに起因している。






 幼い頃、二人共が同じ双剣使いであったのだが、ある時マキもクロも敗北した相手がいた。

 マキは自分が負けるのはともかく、クロが負けるのが許せなかったのだ。

 その相手を憎むようになり、双剣使いとして相性が悪かった重槍士を憎んだ。

 結果として、マキは双剣を捨て大剣を持つようになった。


 「クロの敵は、私が潰す----」


 そして大剣の腕を磨き再戦を図った所、以前の敗北はどこへいったやら。重槍士相手に勝利を、圧勝を収めていたのだ。


 「--ああ、私はこれからもクロのために生きていこう、クロが苦手な敵は私が全て倒す」


 この悲壮な決意こそが、クロの双剣に相性の悪い相手を倒すためだけに特化した、ゼロシナジーナイトの誕生の瞬間だった。






 彼女はそれからも剣技を磨き続け、更には細剣まで学んだ。

 どちらも恵まれた才があったため、みるみる上達をしていったが、反面双剣士としての才能はクロに遠く及ばなかった。

 不格好な大剣と細剣を用いての二刀流は相性が悪くとても扱えるものではない。大剣使い、細剣使いとしては一流と認められようが、決して双剣使いとしては認められる事は無かった。

 それでも、クロの側にいたいがために剣士としての才能を破棄し、不格好な双剣使いとしてずっとクロの側にいた。





 その彼女が今日口にした言葉「両方で」というのでは、恐らくアマリリスに勝つ事は不可能だろう。

 けれどマキはそう口にした、親友と双剣でアマリリスに勝つために。

 そんな覚悟を悟り、アマリリスは改めて相手を見る。

 クロも起き上がり双剣を構える。マキは左右からアンバランスな大剣と細剣の二刀を構える。


 「では、再び相手を努めさせていただきます。……よろしいですね?」

 

 クロのダメージは既に相当なものだった、戦闘不能こそ免れたが剣を握る手には既に握力がほとんどない程削がれ、地に立つ足ですらブルブルと震えている。

 そんな彼女に優しく言葉を掛けるのは、親友であるマキだった。


 「クロ、あなたは止めの瞬間に力を注いでくれればいい。私が、道を切り拓くから」


 その言葉に、再び燃えるような闘志を込めた瞳が甦りクロはこちらをキッと見据える。


 「そしてアマリリス、あなたには誤解を解かなくてはね」


 「誤解とは、マキ先輩?」


 不可思議な問いを受け、アマリリスの表情は疑問のそれとなった。そんな表情を満足げに眺めると、種明かしのようにマキは薄く笑う。



 「この1年間隠してきたこと、全部今日のためだったんだから。チーム戦にあなたを参加させること、それが一つ、もう一つはすぐに実戦で教えてあげる!!」



 その言葉を皮切りに、頂上決戦は再び業火の渦へと流れこんだ----







 「嬉しいよ、フェイト・セーブ!ついに骨のある奴とやれるんだからな!!」


 キャロルルは魔法を受けたにも関わらず、ダメージすら気にしないでこちらに歓喜と恍惚の表情で叫ぶ。


 「……レイ、下がっててくれ。あの人は危険だ、中途半端に手を出したら噛み付かれるだけじゃ済まないかもしれない」


 その言葉に不満を抱くレイだったが、状況判断が出来ない程子供ではない。

 まだ手に痺れが残るレイは退くことにする。


 「フェイト、実戦といえば実戦だけどこれはあくまで試合。殺し合いじゃないんだから、無理する必要は1%もないんだからね」


 そのクギだけ残していくと、レイは後ろに下がった。


 「……分かってるよ、でも男にはどうしても引けない時もあるんだ。ピアを傷つけられ、ゲイトの愛武器を切られ、レイを危険に晒した。--俺はそれを許さない!!」


 「さあ、フェイト・セーブ、楽しもうか?先輩方も盛り上がっているみたいだし、こちらも全力のクライマックスを楽しもうじゃないか!!」


 パワータイプとは思えない程俊敏な速度でこちらに間合いを詰めてくるキャロルルに、ブレイヴフェニックスで迎撃を合わせることから、ついに魔法を解き放った全力のフェイトと狂犬キャロルルの試合が始まった。





 「……へぇ、剣が重いね。早速魔法を使ったかい?」


 鍔迫り合いで凌ぎを削る両者だが、キャロルルにはまだ余裕が見れる。


 「自己加速魔法の一種ですよ、先輩の相手をするにはせめて三倍は欲しいですからね」


 この自己加速魔法では筋力や反射速度を強化しているのではない。

 単純に、魔法で身体を強制的に動かしているのだ。肉体に負荷は掛かるが、それは魔法によって生じる魔力が身体に与える影響というもののため、熟練した魔法師であるならば魔力を別途使うことにより相殺出来る。



 この加速魔法の唯一の懸念は、肉体の負荷ではなく魔力の消費量だ。

 動かすのも魔力、肉体の負荷を守るのも魔力。それも三倍速という魔力の流れは常に中級魔法を使用しているような消費量のため、ひどく燃費が悪い。

 フェイトが扱える最高の五倍では、常に上級魔法以上の魔力を削られるため1分も持たない。

三倍速ならばまだ余裕はあるが、それでも早めに決着をつけたい所である。


 「中々重い、こりゃ鍔迫り合いは避けようかな」


 ふわりと剣を引くのは相手の方だった。単純に力を増しただけで押し切らせる程経験が未熟には見えない。


 「だが、力を活かすのは体裁きと技だ、お前についてこれるかな?」






 そして再び加速するキャロルル。地を這うよう地面スレスレにこちらに急接近する戦法はピアの時に体験済みだ。


 「!?いけない、フェイト横に飛んで!」


 サポートデバイスのシンがそう告げるや、キャロルルは地面スレスレに構えていた剣を振り払い砂埃を巻き上げる。


 「あっぶな」


 警告に間一髪救われたフェイトは、すぐに魔法を組み上げる。


 「ロックガーター」


 初級魔法だが、地面に所々盛り上げることにより地面スレスレを這うように近づくキャロルルへの有効な牽制となる。

 

 ……はずだったのだが、


 「甘い!」



 目の前の砂埃から飛び出してきたのは、キャロルルだった。

 地面の膨らみによる足払いや、足掛けが優れた移動術により無力化され、逆に接近を許してしまった。


 「微量な<ロア>で来ます、爆発を以って迎撃」


 「なら、ニトロボム!」


 フェイトは火力の塊を目の前に出現させると同時に、キャロルルの地ギリギリから払われる斬撃がそれに触れた。

 

 ----瞬間


 ドゴォォオ!!!


 目の前に紅蓮の爆発が広がり、視界一杯を赤と熱で覆う。

 その隙にフェイトは後方へと退避すると、態勢を戻す。


 「左方より敵来ます」


 シンの警告通り、左方より爆発すら足止めにならなかったキャロルルは疾走を通常の走りに戻し、こちらに再度接近する。





 いくら自己加速しようが、魔法の有効射程や汎用性を活かしたいフェイトは必然間合いを取る。

 騎士としては本当は違うのだろうが、今は修行中の身、割り切って魔法師の戦法を取るのも無理はない。

 だが、相手のキャロルルは魔法師と戦った経験があるのか、フェイトが間合いを離すことを決して許さない。

 追撃を執拗に行うことで、常にプレッシャーを与える。そのプレッシャーがいつか致命的な失敗へと繋がるよう、誘導することで。

 


 ここまでで分かったことといえば、初級魔法程度では話にならないという事だけだった。

 最低でも中級、もしくは複合魔法でないと迎撃すら出来ないという事実だった。

 相手を低く見積もってしまい、結果後になって焦るのはフェイトに取っての悪癖の一つだ、そしてついに追いつかれたフェイトは双剣のメリットだけが露出する、絶好の間合いを取られてしまう。


 「ハッハァ!!楽しいね、楽しいよ、フェイト・セーブ!!」


 剛剣の乱舞がフェイトを襲いかかり、フェイトも何とか応戦する。





 速度、力ともに互角を誇るが手数は違う。

 キャロルルは双剣なのだ、フェイトの剣一つとは手数で差が出るため防御に回った時の恐ろしさは二倍では効かないだろう。

 右の剣を払った隙に、差しこまれる左の剣をギリギリで回避。そのまま横腹を横切ろうとする剣をこちらも剣を戻してガード。

 しかし、右の剣はまた正面からフェイトを切り裂かんと襲いかかる。

 右の肩口に裂傷とともに浅くない傷が刻まれ、僅かに剣を握る手から力が抜け落ちる。

 「痛い」、と口にする暇もなく今度は抑え込んでいた左の剣すら暴れ始め、機動力の要たる足を狙われる。

 



 これを許すわけにはいかず、フェイトはたまらず後方へと跳躍するがそれこそキャロルルの狙いだった。

 剣を投擲し下がる間ですら安全を取らせない、フェイトは勿論弾くが弾かれた剣を詰めよってくるキャロルルは空中でキャッチし、更に投擲を仕掛ける。

 あまりの早業にフェイトは今度は弾くのが遅れる。ギリギリ間に合うか否かの刹那だが、フェイトは何とか振り払った剣を戻し今度は剣を地に叩き落とすよう、迎撃する。


 「フェイト、ダメ----」


 シンの声はフェイトの動作に一歩届かず、支援は届かなかった。






 そして、キャロルルはフェイトの目前まで迫り、投擲して空いている拳を強く握るとフェイトの顔面に容赦のない一撃を見舞った。


 「かっ--!?は!?」


 あまりの一撃に意識が飛びかけるが、ここで意識が飛んでは死んでしまう。

 無理やり飛ぶ意識を抑えつけ目前に迫る敵を目視するが、それが無駄だったのかもしれない。

 すでに振りかぶった剣はこちらを切り裂く準備が出来ているようで、フェイトに出来るのはその軌跡を眼で追う事だけだった----


 ザンッ----


 無情に肩から腹部まで斜めに切り裂かれ、フェイトは大量の血を吹き出しながら地に膝を屈する。


 (死……ぬ……)


 下手したら内臓に届くような容赦ない斬撃によって、フェイトは戦闘不能に陥る。

 

 「この程度か、フェイトセーブ」


 こちらを見下すキャロルルの冷酷な瞳は、壊れた玩具を見るように冷え切っていた。

 止めを刺そうものなら、さすがに教師が止めるためこれ以上の追撃はしてこない。

 だが、それがとても悔しかった。あんなに見下されたことが----

 あまりの痛みに意識が飛びそうになり、視界もだんだんと暗闇と同化する中……




 「フェイトーーー!!!!!」




 誰かが、呼ぶ声が聞こえた。


■■■■■■




 (…………、レ……い?)


 その泣きそうな声に覚えがあったフェイトは、重くなった瞼を開け再び現実を見る。

 そこには案の定、泣きそうな声で叫びこちらに駆け寄ってくるレイの姿が見えた。


 (ち……俺、何やってんだよ--シン、任せた)


 マスターの言葉に反応するシン


 「ブレイヴフェニックスを用い、フェイトの魔力を用いて魔法を起動。『治癒』発動!!」




 シンのサポートとして最大の特徴の1つ、オートメディスンが発動した。



 マスターであるフェイトが危機に陥ったとき、ブレイヴフェニックスがフェイトの手にある時限定でシンが魔力をコントロールし、フェイトの根源である生命<エデン>より「治癒魔法」を使用。

 これによって、フェイトは再び生命活動を再開出来る----





 突如白き光がフェイトを包み込んだと、誰もが目を見張った瞬間フェイトは復活を遂げていた。


 「なん……だと?」


 あまりの出来事に驚愕に染まるキャロルル。

 今の今戦闘不能にしたと確信した彼女からすれば、これは現実の理解を遥かに超える出来事だった。

 目の前に立つフェイトには、出血した様子こそあったものの傷口は完全に塞がり、血の気が引いた青い顔すらしていない。

 血色よく、普段通りのフェイトがそこに立っていたのだ。



 「てめえ……何をした?」



 警戒レベルを最大まで引き上げるキャロルルに、フェイトはこう言い放った。



 「俺は騎士ですから、姫を守るまでは死ねないんですよ」



 笑顔で言い切るフェイトに、ついにキレてしまったのかキャロルルが咆哮を上げる。


 「ざっけんじゃねええええーーーーー!!!!!」


 そして再び突進をして、フェイトを切り刻もうとする。


 「もう、通じませんよ」


 フェイトは自己加速魔法ではなく、飛行魔法によって空中へと飛び去った。






 「なっ!!」


 高度でいえば20m弱、人の身では決して届かぬ中空にはキャロルルと言えど対処の仕様がなかった。


 「これからは俺の反撃の時間です、……油断なく、いきます」

 

 そしてフェイトは中級魔法、複合魔法を次々と撃ち放ち校庭にいくつもの穴をあけつつキャロルルを追い詰める。


 「ふ……ざっけんじゃねええ!!」


 反撃することが決してゆるされず、ただ空中に言を投げつけることしか出来ないキャロルルは、哀れでもあった。

 実力で言えば4年生にも匹敵する、双剣使いの2年生。

 脅威の実力も、空に浮かぶ魔法使いの前では無力な少女となんら変わりはない。

 度重なる魔法の連打によって既に逃げ道を塞がれたキャロルルに、止めとなる魔法を宣告する。


 「先輩、終わりですよ----エンジェルリング」


 キャロルルの周囲にプロペラの如き切り裂かんばかりに高速で回転をする、風のボールをリング状に配置。

 退路全てを絶った上で止めを放つ。



 「フレアボム!!」



 特大の火球を投げつけ、逃げ場のないキャロルルはそれを受けるしかなかった。


 「くっおおお!!」


 必死で双剣を前に構え、切り裂かんと最大の一撃で火球に切りかかってみるが、勝敗は誰がみても必定だった。


 ゴオオオオオオ!!!!!


 火柱を上げ校庭に燃え盛る炎を前に、狂犬キャロルルは戦闘不能に陥った。







 フェイトの決着がついた頃、アマリリスは


 「ハァ、ハァ」


 すでに荒い息をなんとか整えながら、前を間違えないように見据える。

 双剣使いの二人組、長年付き合ってきただけあってコンビネーションは抜群でこちらに息を付かせぬ見事な攻防を見せるが、何よりもマキが----


 「アマリリス、全てはあなたに勝つため。クロがあなたのスピードに追いついたように、私も1年間で腕を極限まで磨いたのよ」


 切っ先が微動だにしない大剣、突き刺す鋭い光を見せる細剣。

 この両極端な性能を持つ二種は今や凶悪な力を、アマリリスに示していた。






 --少し時は遡り

 先に仕掛けてきたのは、マキだった。

 二刀で挑むマキは脅威にはなりえない、強いていうならば細剣の動きに気を付けていればダメージは抑えられる。

 

 そう、思っていた。

 

 だが、大剣を左手の盾でガードしこちらもクレイモアの一撃を叩き込まんと振りかぶると----

 銃弾のように速い、細剣の突がアマリリスの頬を抉った。


 「っ----」


 あまりのことに攻撃を一時中止、見極めようと防御に入るが、


 「チェストー!」


 今度は機関銃さながらに、高速の突きが幾多にも襲いかかり、そのどれもが必殺の威力を持っていた。


 「くっ」


 あまりに巧みな剣捌き、だが先の大剣も文句無しの一撃だった。

 これでは本当に今まで対峙したことのない新しい双剣ではないか----

 そこまで思考した瞬間、アマリリスは戦慄に慄いた。



 そう、本当にマキは双剣使いとして成長したのだ。それも大剣と細剣という史上誰も類を見ない双剣士として。

 それぞれで達人級の実力を誇るマキが、二刀で襲いかかってくるというならば----危険はクロ先輩以上かもしれない。





 機関銃さながらの打突を回避と防御しながら距離を開けると、待ち構えているのは大剣の追撃だ。

 予想はしていたのでなんとか盾にて防御しきるが、その重みは本物で片手で扱っている癖に、両手で持ち全力で解き放ったかのような威力で左腕の痺れを実感する。

 一旦息を吐き出し、改めて思考を開始する。


 (大剣には大剣、細剣には盾を合わせるしかない)


 こちらのクレイモアで細剣のように精密で、線の細い剣を捉えるのは非常に難しい。

 また、速度の関係で防御の相性も非常に悪いのだ。

 逆に大剣にこちらも大剣であるクレイモアを合わせれば、単純な力比べとなる。

 細剣の侵入を許さなければ、こちらが勝てる勝負だ。

 組み合わせ自体は確かに異色で類をみないが、落ち着けば対処できない程でもない。

 むしろクロのようにこちらを研究しつくして、圧倒的火力で攻めてくる方が対処し辛かったものだ。






 アマリリスは今度はこちらから神速を以って、間合いを詰める。

 マキの1年間は、恐らく両剣を活かすためだけに注がれたものだと思われる。

 ならば、この速度に対応出来るのはクロ先輩だけ--

 予想通り適切な間合いから抜き放つクレイモアのスピードを乗せた渾身の一撃。

 マキ先輩も大剣で応戦するが、元々の膂力と今乗ったスピードの威力は埋め難い力の差となって襲う。

 迎撃に用いられた大剣は無様に地に落とされ、威力の象徴たる暴君はしばらく用いれない。




 だがマキも歴戦の戦士である。

 右手の大剣による攻撃が望めなくとも、左手の細剣にてこちらを研ぎ澄まして狙い撃つ。

 線の細い、いや点とでも呼ぶべき細剣の一撃一撃は同じ剣同士では防御が困難だが、盾とは防御に特化した装具に他ならない。

 面を広く持つ盾の前では、点といえど簡単に捉えられる。

 いくら高速で襲いかかる機関銃さながらの打突でも、盾の防御を持つアマリリスの前では敵ではなかった。

 


 右の大剣は今は使用不可、細剣では防御に切り替えてもクレイモアの一撃を防ぎきることは出来ない。

 必殺を予感しつつ、アマリリスは素早く手首の返しだけでマキを倒さんと一閃を放つが----



 キィン!!



 金属同士の衝突音が聞こえ、アマリリスは必殺の一撃が防がれたと理解する。


 「……クロ先輩」


 立っているのも辛いはずなのに、今双剣によってアマリリスのクレイモアを抑えているのは、彼女の双剣。

 ひいては、彼女の折れない意志そのものだった。


 「マキ、二人でやるんでしょ?……なら、勝つのは私達二人よ」


 「勿論、クロ行くわ」



 そして、アマリリスとて逆転の目が見えない勝負へともつれ込んだのだった----

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